軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先行隊

鴉は先行している巡視船から手紙を運んで来た。

クロードが当たりをつけた島のひとつ。その近くに、商船らしき船が停泊しているとの知らせが入った。

無人島とされる島である。

勿論どこかの商会の不届きものが、丁度良いとばかりに勝手に島を使っている可能性もあるが……

「確認した時点では、ボートで上陸する様子もなく、どことなくバタバタしている様子だと言う事です」

「…………」

話を聞いていた全員が、同じ事を思ったのだろう。

セルヴェスがある種確信を持って呟く。

「……マグノリアだな。多分」

一体、何をやらかしてるのかと考えると胃と頭が痛い。

まあ、危険な場合は逃げて貰わないといけないはいけないのだが……思いっきりが良すぎる為、周りの人間からするとひやひやするのだ。

ゴロツキ相手に啖呵を切る。

抜け出す、そして隠れる……のみならず暴れている。

船をブッ壊す。

海に飛び込むぞと脅す。もしくは既に飛び込んでいる……

どれもありそうである。

全員が早く回収に向かわねばと、決意を新たにしたのは言うまでもない。

現実には比較的ソフトな対応――抜け出して隠れて、海に飛び込んで泳いでいるのだが(一部破損――通気口もあり)。

「……目を覚ました事は喜ばしいが、起きると別の懸念が倍増する。危険度が増すので急ごう」

クロードの言葉に全員が力強く頷いた。

*******

先行隊は、巡視船の中から揺れるランプの光を見て首を傾げた。

本来なら目立たずに行動するだろう奴らが、そんな事も吹っ飛ばして何やら右往左往している。

「ボートは降りてるが、乗る気配が無いな?」

「何やら船上が騒がしいぞ」

夜目の利く騎士達は、船の様子をまじまじと見ては感想を言い合う。

バタバタと走り回る様子や、何かを叫んでいる様子。

身体の大きな動きから、本当に血相を変えて何かを探しているようだ。

「…………」

騎士団の面々は無言で顔を見合わせた。

これは、早々に対応をした方が良さそうだと判断をする。

外から見るに、無人島はそこまで大きな島ではないだろう。船で普通に一周すれば、五時間前後というところだろうか。

砂浜を少し行けば、うっそうと茂った森が見える。

更には比較的高低差のある、起伏に富んだ島である事も伺えた。

外から解る範囲の内容を確認すると、鴉に現状を書いた手紙をつけ夜の空に放った。

マグノリアを拉致したとみられる船にみつからないよう、また向こうの船から見えないよう、島の裏側へと回り込む。

帆も張っているが騎士全員でフルパワーで漕ぐので、凄まじい勢いで進んで行く。

「お嬢様を探す二名。建物や施設を確認する二名。島の様子を確認する二名」

上陸して確認をするのだ。

そして船での見張り二名。

割り振りを決めると、武器を手に出来る限り船を島に近づけた。

海水を搔きわける様に進みながら、無事上陸をした。

「うん、じゃあ」

「何があるかわからん、相方と離れるな」

六名が顔を見合わせ頷く。

「……それと。一番危険なのはお嬢さまだ。俺達が来ている事を解ってないから、敵だと思って容赦なく武器をぶん投げて来る可能性が高い」

「……おう」

マグノリア確認・回収係がジト目で遠い目をすると、解ったといわんばかりに頷いた。

「一時間後、巡視船に集合だ」

一時間後には、セルヴェス達を乗せた船も着く頃だろう。

手早く必要な情報を入手する必要がある。

各人が自分の仕事を遂行するように、注意深く且つ突っ早で行動する。

【斥候A】

「……攫って来た人間を何人も連れて歩くなら、建物は平地だな」

「ああ。罠が仕掛けられているかもしれん。足元に気をつけろ」

そう言い合うとふたりは、森の獣のように走る。

ある意味森での斥候は慣れている。獰猛な獣にさえ気をつければ、身を隠す場所に事欠かない森はありがたい。

そして先程の船が停まっていた場所。

普段からあの場所に停めて出入りしているのだろう。

余程注意深くない限り、基本は慣れた場所に停める事が殆どである。

幸いな事に罠らしい罠は無かった。そして所々に見受けられる靴底の跡。

完全に無人島と、はたまた誰にも見つからないとタカを括っているのかは解らないが。

暫く行くと、そこまで大きくない建物が見えて来た。

ふたりは足音を消し気配を消し、建物の周りを伺い危険が無いか確認。窓から注意深く中を覗き込んだ。

【斥候B】

「あちこちに足跡があるな……」

呟くような言葉に、相方が頷き返す。

多数の人間が出入りしている証拠だ。

「……他に船が無いか確認だな」

「そこまで大きくない。高いところから確認しておくか」

いうや否や、ふたりは崖を登り出す。

時間が惜しいと最短ルートの険しい道を、敢えて選ぶようだ。

まるでロッククライミングをするように、あっという間に登り終えると四方を見渡す。

……見える範囲に船は無いようだ。

「そうすると、都度出入りしているか、定期的に来ているのか……?」

「上から見る限り、仕掛け罠も無さそうだな」

注意深く藪の間や物陰、樹々の隙間を見遣る。

「お、建物だ。あそこだけか? 取り敢えず書いておくか」

「……Aの奴らも見つけたみたいだな」

簡易的な地図を作る為に、サラサラとペンを動かしつつ、仲間が建物の中を確認する様子をみてそう言うと、少し先の方向を見て、注意深く瞳を凝らした。

「遠くに船の灯りが見えるな……」

「漁船の漁火か?」

「それにしては暗い。こっちへ向かっているのか?」

望遠鏡を片手に、遥か向こうに見える船を確認する。二艘あるように見える。

「……追加の輩たちか?」

「そうだとすると厄介だな」

「取り敢えず、怪しい場所に仕込みがあるかを確認するか」

「オーケー!」

筋肉の塊に見えるふたりだが、まるで重さを感じさせず大きく跳躍すると、木や岩を蹴り足場にしては、空を駆けだす。

月の光を遮るように、騎士団の黒い制服がたなびいた。

【斥候C】

「普通、隠れるなら洞窟とかだがなぁ」

「普通に行き来出来るところだとすぐ見つかるだろうから、そうじゃないところに隠れるんじゃないか?」

マグノリア確認・回収係が顔を突き合わせながら、探す場所を確認している。

「……大体、お嬢様は泳げるのか?」

この世界、貴族は水泳などしない。

川や湖がある領地の人間が、遊び半分で水に浸かる事はあるが……少なくとも『お嬢様』にカテゴライズされる人間は泳いだりはしないだろうと思う。

捕らえられていたと思しき船からは十数メートル。

着衣で、それも波と海水を泳ぎ切れるものだろうか……?

勿論、騎士団では救助などに備え訓練をしているが……

「……うちのお嬢様を常識で測っちゃ駄目だぞ?」

「だな。きっと泳げるに違いない。もしくはイルカにでもサメにでも乗るかもしれない」

船の中に隠れているという可能性もあれば、そもそもが未だ捕らえられたままと考える方が自然なのであるが。

騎士達は全くそんな事はある筈が無いとばかりに、マグノリアが島に上陸していると考えているようだ。

「なるべく見つからない様に、容易につかまらない様にと思うだろうから……」

そびえたつ小山を見遣る。

「てっぺんに寝っ転がって隠れてる?」

「絶壁に張り付いて隠れてる?」

「高い木の上に隠れてる?」

「そもそもが隠れてない?」

どれもありそうである。

……海岸で小さなつま先立ちの様な足跡を見つけ、砂浜の上に転がる木蓋をみつける。

船と木蓋、足跡を交互に見る。

「……あれか?」

「……あれだな」

船から、木蓋に掴まりながら陸地まで泳ぎ切ったのだろうと推測された。

流石は長年マグノリアに振り回されて来た騎士達である。

自らの護るべきお嬢様の事をよくご存じだ。

先には道のように慣らされた平らな獣道。きっと奥に立っている建物に続く道であろう。

手前には鬱蒼と茂る木立。

「……獣とか虫とかいそうだがな」

「……蛇とか虫とかいそうだがな」

こっちだろう。

そう言うとふたりは良く解らない木や植物が乱立している茂みを分け入る事にした。

グッジョブである。

その頃マグノリアは腹が減っては戦が出来ぬと、非常食用に忍ばせてあった、すっかり海水に濡れた塩分増し増しの干し肉を、むしゃむしゃと豪快に木の上で齧っているのだが。

(……あ、そうだ! おーい、ラドリ!)

そして思い出したように、ラドリに向かって念話を飛ばしたのであった。