軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いきなりですが、誘拐されました

「……っ」

マグノリアは横たえられた床の冷たさを感じて目を覚ました。

声にならない小さなうめき声が、自分の耳にだけ届く。

(……痛ぇ。頭がガンガンする……)

気分も寝起きも最悪だ。

何か薬を嗅がされたのだろう、酷い頭痛がしていた。鼻の奥も何だか変なにおいがする。きっと嗅がされた薬の匂いだろう。

そればかりか気持ちも悪いと来た。

(良くドラマで気絶するヤツ、こんな風になんのか。……ヤベェな)

変な副作用を心配するが、取り敢えずはここを出る事を考えないといけないであろう。

顔を顰めながらも周囲の様子を窺い、人がいない事を確認する。

両手は後ろ手に、両足は逃走させない為か、靴を脱がされて足首を縛られていた。

(何処かの部屋に監禁されているっぽいな……)

頭痛と吐き気以外に痛みや違和感はない。

着衣の乱れなどもない事から、傷つけられる様な乱暴は今のところされていないようだ。

……あくまでも『今のところ』だが。

本当にGPSを使う事になろうとは、贈られた六歳の自分は思わなかったであろう。

六歳の誕生日にセルヴェスから贈られた花のブローチ。持ち主の居場所を確認・追跡出来る魔道具である。

胸元のそれに目をやると、元々はマグノリアの瞳の色と同じ朱鷺色だった魔石が、薄灰色に変色しているのが目視できた。

「……うっそ……」

思わず絶句する。

マグノリアには魔力もなければ、詳しい魔術のうんちくがある訳ではない。

しかし、変色した石の様子を見れば、力を使い切ったのか壊れたのか……とにかく使い物にならないであろう事は推測できるというものだ。

――たまたまなのか、調べての事なのか。マグノリアは自分の現状に至った経緯について考える。

マグノリアを狙った犯人は、腕ずく力ずくで事を成す事は考えていなかったのだろう。敢えて一人になったところを狙ったのは、護衛たちと戦闘にはなりたくないからだ。

いきなり入って来た空き巣などが、たまたま踊り場に立っている人間を拉致するのはあまりにも不自然だし、無謀過ぎるだろう。家に侵入する前なのだ。自分なら素直に別の家を物色する事にする。

それならば、間違いなくマグノリアを狙ったのだ。

きっとマグノリアの事を良く調べていて、リリーの家に出入りしている事も知っているのだ。敢えてあの場所で、ひとりになるタイミングを狙ったと考えた方が自然だ。

(だけど、仮にそうだとして、私を抱えてどうやって移動したの……?)

抱えて階段を降りたら、ガイと鉢合わせするだろう。

運良く奇跡的に、ガイが馬車の中の荷物を見ている時に通り過ぎたとしても、離れた場所から護衛している騎士達にみつかってしまう筈だ。

あの建物の何処かへ隠れていて、ガイたちがいなくなってから逃走?

――ガイの事だ。無事ならすぐさま建物中を探しただろう。仮にみつからず一度離れるにしても、誰か見張りをたてる事だろう。

窓や屋上から空へ逃げる?

――この世界は飛行機が無い。飛ぶのは鳥や虫、ドラゴン位である。それらに乗って逃走は考えられない。

そして何より、ドラゴンが領都の上空を飛んでいたら大パニックだ。すぐさま騎士団と冒険者ギルドが討伐に動くであろう。

マグノリアは眉間に皺を寄せた。

「え。なくない? どうやってここまで運んで来たの? 消えた?」

考える事を一旦放棄し、ゴソゴソと手首を動かす。

革の擦れる感触に、手甲は取られなかった事が確認できる。手甲は腕を守る為に本人と登録者以外、外せない魔術が施されている。

GPSブローチを無効化出来た輩だとすれば、こっちも外されているかと思ったが。面倒だったのか仕様が違って出来なかったのか、とにかく首の皮一枚繫がった。

ほんのちょっと緩んだ縄と手首の間に指を曲げ入れ、手甲に仕込んである糸ノコを引き出す。そしてゆっくり、手を傷つけない様に伸び縮みさせて縄を切って行く。

セルヴェスとクロードは手甲を魔改造していくマグノリアを微妙そうに見ていたが、備えあれば患いなし。転ばぬ先の杖である。

換気の為に付けられている窓を見れば、空が茜色に染まっているのが見えた。

リリーの家に出掛けたのが一時過ぎ。丸一日気絶していたので無いのならば、拉致されて数時間が経っている事になる。

(リリーやエリカ、ガイは大丈夫だったかな……)

ガイが離れているあの僅かな時間に拉致を成功させたと言う事は、多分、マグノリアだけが連れ去られた可能性が強いであろう。

普通に考えて、数人がかりでもガイを倒すのは難しい筈だ。戦闘になれば音などから、外で見張っている騎士にも知れる所となり、みすみすマグノリアが連れ去られると言う事は考え難い。

拉致される寸前の記憶を浚う。

あの時、マグノリアはリリーの部屋には入らず、ガイが来るのを扉から少し離れ、階段の踊り場で待っていた。

急に背後に人の気配がして急いで振り返ろうとしたが、手巾で鼻と口を押さえつけられすぐさま意識を失ったのだ。

王都に出掛けているラドリに念話でSOSを伝えようとしたが、意識が無くなる方が早く、それも叶わなかったのである。

(あの時感じた気配はひとりだった筈。爺ぃ様でもあるまいし、ひとりで何人も抱える事なんて出来ない。きっと連れ去られたのは私だけだ)

ちょっとホッとして、ため息を漏らした。同時にはらりと縄が落ち、手首が自由になった。

異常や痛みが無いか、手首を回す様に動かして確認する。

――痛みは感じられなかった。

足はいざという時にすぐ解けるように緩く結び直しをする。

(とにかくヤバい。何とかしないと)

居なくなって数時間。セルヴェスとクロード、そしてガイが血眼になって探している筈である。そして間違いなく騎士団も動員されているだろう。きっと大騒ぎになっている筈だ。

(ひ~~~!! 早く戻らないと、めっちゃ怒った三人によって大殺戮が引き起こされてしまう……!)

マグノリアが顔を青くする。

目の前で超トラウマ級の、やっべぇ、大スペクタクル・スプラッター活劇が繰り広げられてしまうではないか!!

そんなんちっとも見たくない。

手足の自由を確保し少し安心出来たところで、部屋が微かに揺れている事が解った。耳をすませば、微かに水音がする。匂いがバカになっているので確証は持てないか……

(もしや船上?)

……海上に出られていたら不味い。非常に不味い。

一度足の縄も解いては勢いをつけて飛び上がり、壁の上側にある窓枠に手をかける。

「ふんっっ!!!!」

懸垂宜しく、腕をプルプルさせながら上半身を持ち上げ、窓の外を見ると。

遥か向こうに島影が見えた。

「…………。って、出港しとるやないか~~いっ!」

キラキラと夕日を反射して光る水面を確認して、心の中で罵る。

脱力して、床の上にドサリと落っこちた。

万事休す。