軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルイとヒロインのランチタイム

私、マーガレット・ポルタ。

勉強を沢山頑張ったから、上位クラスに入る事になったの。

学院には、上位クラスと普通クラスがあるらしくって。上位クラスは各学年に一クラス、普通クラスはその年によってまちまちだけど十クラス位ある。爵位の家の数に比例するらしいから、まあそんな感じだよね。

高位貴族の人達専用のクラスらしくって、低位貴族が混ざる事は殆ど無いんですって。

前期課程の三年生に、男爵家の人が一名いる位らしい。

でも。なんていうか、上位クラスって何か嫌な感じなの。

男の子は優しいんだけど、女の子がみんなよそよそしいんだもん。

低位貴族だからって、あからさまに嫌味を言ったり見下したりするし……社交界とか外なら別だけど、学院内は平等なのにおかしいわよね?

……いつか女の子たちも解ってくれたらいいんだけど。

ううん、解って貰えるように頑張らなくっちゃ!

人見知りの子とかもいるかもしれないもんね。仲良くなれるように、もっといっぱい話し掛けちゃおっと♪

*****

マーガレットは、家から持参したお弁当を中庭のベンチに座り膝の上で開いた。

この世界はマグノリア達がかつて居た世界、居た時代とは違う為、歴然とした身分差が付きまとう世界なのである。

平等というのはあくまで『学生としての姿勢や学ぶ機会・評価の公正性』においての事。

社会……社交界に出る為の準備期間でもある学院時代に、きちんとした対応を学ぶ必要があるのだ。

どちらかといえば相手を敬い、同じ階級や下の階級へもきちんとした対応を身につける場なのである。

かなりフランクで気安い対応をして来るマーガレットに、上位クラスの面々は面食らった。

……表立ってそこを揶揄する人間はいないが、市井で暮らしていた時期が長いというのと、嫡出子ではない事は暗黙の了解であり周知の事実である。

例のお披露目会も、極々身内でこっそりと済ませた。この辺は男爵家であり、更には男爵家でも目立たない家である事が功を奏した。

普通、養子に迎える気があるのなら、離れなどを与えて貴族に準じた生活をさせる事が多い。マーガレットの様に市井で暮らしていた者を養子に迎える事は少ないが、私生児うんぬんは貴族社会で良くある話なのだ。

もしかしたら、そんな生い立ちもあり折り合いの関係で、きちんとした貴族の常識やしきたり、考え方などを教えて貰う機会がなかったのかもしれないと考えた同級生たちは、おかしな行動をする度に訂正をし、正しい在り方を伝えていた。

上級生には王太子妃候補のガーディニア、そのひとつ上には王子がいるのである。そんなふたりに、今のような態度で接してしまったら……と考えたのだ。

……実際は既にアーノルド王子と遭遇済みであり、すっかりやらかしているのだが誰も知る筈もなく。

女生徒達も今のマナーでは良くないからと説明し、正しい礼儀作法を伝授するのであるが……マーガレットにしてみれば、なんだか重箱の隅をつついてイチャモンをつけている様に感じてしまう事も多々ある訳で。

更には、一向に直らない様子についつい、ご令嬢方の言葉がきつくなってしまう事もある訳で。

相手を思っている筈なのに、空回りな事である。

なまじ、低位貴族ながら上級クラスに配される程優秀だったことが、ここに来てマイナスに作用したのであろう。

勉強の成績は良く、そちらの理解力はあるのである。能力がある筈なのに、何故自分達の話は全く理解されないのか?

マナーや礼儀は小さい時からの積み重ねが大きい。後から習得するには、かなりの努力が必要になるのだ。

だが彼女たちは高位貴族。それこそ生まれた時からその環境に身を浸し、物心つく前から当たり前の様に身につけさせられているのである。

……優秀である筈なのに、出来ないのかするつもりがないのか、幾ら説明してもヘラヘラ笑うだけのマーガレット。

――言われている本人は嫌な顔をする訳にも行かないので、一生懸命、話に相槌を打ちながらニコニコしている振りをしているのだが――そして強く言えば瞳をウルウルしてしまう(無自覚)。

そんな訳で。親切を装うように説明をしているが、全くもって拘る理由が解らないような事を細かく揚げ足を取られているとしか思えないマーガレットなのであった。

そして、悲し気な様子を見るに見かねて男子生徒たちが間に入る……と言う訳だ。

『まだ貴族社会にも慣れていないのだろうし、少し大目にみてあげたら?』

『高位貴族に強く言われたら、きっと緊張して辛いんじゃないかな……?』

萌黄色した瞳を潤ませ、家名ではなくファーストネームで親し気に自分達を呼ぶ少女。

ついつい甘い顔をしてしまう男子たちに、小さな淑女である女生徒たちが反発するのに時間は掛からなかった。

極めつけは、同じクラスに在籍する、とある婚約者同士の事である。

女生徒たちに注意されしょんぼりしているマーガレットに、とある侯爵令息が声を掛けた。

いつもの如く瞳を潤ませて、言われた事をマーガレットの主観まじりに話す。

令息的には女生徒達の言い分も解るし、かといって可愛らしい女の子が今にも泣きそうなのに強い事も言い辛い。

ついつい慰めの言葉をかけたら、嬉しそうに笑って、甘えるように(無自覚)、侯爵令息の腕に絡まったのである。

クラスのみんなの――侯爵令息の婚約者の目の前で(無自覚)。

マーガレットはその生い立ちからか育成歴からか、はたまた地の性質なのか。とにかく人懐っこいというか人淋しいというか、甘えたというか……距離感とスキンシップが他の人達とは違う人間である。

悲しい事を言われた後についつい優しい事を言って慰めて貰うと、庇ってくれた男子に嬉しくって蕩けるような顔でお礼を言うのだ。

そして時に、手を握ったり腕を組んだりもする。

本人的には小さい子どもが親や仲良しのお友達にハグするような感覚である。そこに深い意味や疚しい気持ちはない。

流石に抱きつく訳にも行かないのは理解しているので、握手の延長で、お礼と共に小さな手でぎゅっとして嬉しい気持ちを目一杯伝えているだけなのである。

だって、みんなと仲良くなりたいから。

『こんなにみんなの事が大好きなんだよ~』って伝えたいから。

たまたま男の子ばかりが優しい言葉をかけてくれるから、男の子の腕を取る事になるだけで。女の子が優しくしてくれたなら、同性で問題はないであろうから、きっと嬉しくってハグするのではないかと思うマーガレットなのである。

可愛らしい女の子に抱きつかれ、一瞬デレっとしてしまった侯爵子息。

だって、物凄く可愛いのである。

顔もさることながら小柄な姿も愛らしいし、貴族社会に塗れていない様子も、またそれに苦慮している様子も……そう、男たちの庇護欲をそそるのだ。

その様子を見て、婚約者である伯爵令嬢は一瞬にして顔の表情を失くした。

音にするなら、スン、である。

しかし、彼女は少女ながらも淑女である。

婚約者である令息とその腕に絡みつくマーガレットに、能面のような表情のまま、お見本のような淑女の礼をしてみせた。

「出過ぎた真似を致しまして失礼致しました。レイズ侯爵令息様。ご容赦いただければと存じます」

意を汲んだ友人達もご令嬢の後ろに立ち、一様に淑女の礼をしてみせる。

そして、不味いとは思ったが腕にぶら下がるマーガレットを振り払う訳にも行かず、どうする事も出来ない令息と、腕を組みながら不思議そうに小首を傾げるマーガレットに、何も言わず黙って背中を向けたのであった。

そうして。

今現在、侯爵令息と伯爵令嬢の婚約破棄の話が進められている。

……貴族の婚姻は契約の様なものであるが、全く見直しが無いかといえばそうでもない。

大陸では不都合が起こった場合や、より良い契約があれば変わる事もままある。

年若くあるなら尚更。

学院であった事が両家に伝えられ、伯爵令嬢側が『自分よりも素晴らしいご令嬢がいるかもしれないし、格下の伯爵家よりも家格が同じ方をお選びになった方が侯爵家にとっても宜しいのでは』と引く形で破棄が提言されたのであった。

……現実には度々マーガレットを庇う令息に、我慢の限界を迎えたご令嬢が親に直談判をしたのであったが。

そんなこんなで、女生徒たちはマーガレットに関わる事を止めた。

何かマーガレットが高位貴族にやらかしてお咎めを受けたとしても、元々彼女自身やポルタ家の責任なのである。

入学してそれ程かからず、マーガレットは微妙に浮いた存在になった。

最初は口うるさく文句を言って来た同級生たちが、何も言わなくなったのだ。

やっと受け入れて貰えたのだと思ってみたが、どうも壁があるような気がする。

女生徒たちが表立って悪口を言ったり意地悪をする事は無い。だが、どこかよそよそしい。マーガレットは首を捻るばかりだ。

せっかくなのでざっくばらんに対応して貰う為、愛嬌たっぷりで気安く話しかけてみるが、とても丁寧な対応で躱されてしまうのだ。

しょんぼりとひとり膝の上でお弁当を拡げていると、足音がしたので顔をあげる。

「あれ? 今日は先客がいたんだね」

生徒会の仕事でお昼をだいぶ過ぎたルイは、購入したランチボックスを片手に、はにかんだ様な笑顔を浮かべた。

今日の様に雑用があった時や、アーノルドの無茶振りに疲れた時、側近同士のいざこざがあって気が重い時など、ゆっくりひとりで過ごしたい時に利用する場所なのだった。

「もしよかったらどうぞ?」

そう言ってマーガレットはベンチの端に移動する。

ちょっと躊躇するが、ルイは優し気なアクアマリンの瞳を細めると、お礼を言ってやはり端に座る。

「見た事ないけど、新入生?」

「はい。マーガレット・ポルタです」

「僕はルイ・ホラントだよ。前期課程の三年生なんだ。よろしくね?」

そう穏やかに自己紹介すると、ニッコリと笑った。

男の子にしては線の細いやや小柄なルイと、小動物のようなマーガレットが並ぶと可愛らしいカップルのようである。

「いつもここで食べてるの?」

「はい……」

しょんぼりした、例のウルウル瞳でじっとルイを見る。

そして入学してからのあれやこれやを話すと、ルイは何かを吟味するように考え、口を開いた。

「……どうしても低位貴族が上位クラスに入ると大変だよね? でも色々頑張っているんだね」

エライね、と言って微笑む。

ルイの家は伯爵家だが、その中でもかなり上位の家柄である。

伯爵夫人が現王子の乳母を務めたことから、ルイは王子と乳兄弟であるし、自ずと上流の更に上流と付き合う事が多く、雑多な噂話や情報があがってくるまでに時間が掛かるのである。

なのでこの時、マーガレット・ポルタの噂と、結果彼女によって引き起こされた婚約破棄の噂は、彼の耳にも両親の耳にも入って来ていなかったのである。

それどころかルイはこの時、自分の同じクラスのディーン・パルモアを思い出していた。

彼の優秀さは今や折り紙付きである。

それでもやはり最初は揶揄われたではないか。取り成したユリウス皇子の存在と、ディーン自身の努力があって、今ではすっかり違和感なく馴染んでいるが。

だから、同じように低位貴族ながら上位クラスに入学したマーガレットも同じだと考えたのである。

だが、ディーンは小さい頃――僅か六歳から、家令より従僕としての教育を受けているのである。更に祖母は侍女頭で。

それらは、小さい時から侯爵家で通用する身のこなしとマナーを身につける事でもあり、立場柄、上位者に対して素直に対応する事も叩きこまれているのである。

更に付け加えるのならば、学問はマグノリアとクロードに無理矢理詰め込まれたのである……

一緒にする方がどうかしていると言われてしまうのだが、生粋の上位貴族であり、普段王族と関わる事が多いルイは、ディーンのそれを然程おかしいとも思わなかったのである。

「もし良かったら、一緒に食べる?」

ルイは小さく首を傾けた。

「食堂に僕の友人たちがいるから、嫌じゃ無ければ今度一緒に食べよう?」

半べそをかいている女の子を放って置けないではないか。

同じクラスに取り成す人間がいないなら、自分達がなれば良い。

王子とその側近と仲が良い事を示せば、きっと同じクラスの者達も一目置くに違いない。

そう、かつてユリウス皇子がディーンにした事を、自分達も同じ様に目の前の少女――マーガレットにしてあげれば良いのである。

「……いいんですか?」

上目遣いで、優しそうな上級生には見えないルイの顔をじっとみつめる。

普通なら上級生の、ましてや男子生徒の申し出など断るのが普通である。

だが、マーガレットは人懐っこいというか人淋しいというか、甘えたというか……である。

「もちろん。明日から食堂へみんなで食べよう。みんなに紹介するよ」

「ありがとう! 凄く嬉しい♡」

マーガレットのキラキラした笑顔に、ルイは頬が赤くなるのを感じたのであった。

******

「……ねぇ、一体俺達は何をしてるのかな?」

「『わんこ系男子とまったりランチタイム♡』の鑑賞よ!」

「わんこ? 鑑賞?」

木の陰で、右手に枝を持ち左手にパンを持ち。

それを齧りながらステルスモードで木に擬態するディーンとヴァイオレット。

すっかり打ち解けたのか、楽しそうに話をしながらお弁当を食べ進めるふたりを横目に、立ったままパンを齧るふたりである。

まるで一昔前の刑事ドラマの張り込みのようだ。

今回、食事位ゆったり食べたいと言われてユリウスに断られたヴァイオレットであったが。

ゲーム通りの穏やかな雰囲気に大満足である。

(あ、でも今回キラキラも花もなかったな? あれってメインヒーローのみのレア演出なのかな??)

それとも、アーノルド王子ルートに入ったとかなんだろうか?

首を傾げるヴァイオレットであった。

「……ちょっと、ヴァイオレット!」

「ふぇ!?」

すっかり自分の世界に入り込んでいたヴァイオレットに、呆れたようなディーンの声がやっと届いた。

「ふたりとも、もう行っちゃったよ。俺達も早く行かないと午後の授業遅刻するぞ!」

「おっと、すんまそん」

まるでご令嬢とは思えぬ言葉遣いで謝ると、ふたりして早歩きで校舎に向かう。

「そう言えばさ、ディーンもおっきくなったね」

タケノコのように見る度に大きくなる少年に、小さい頃から知ってる近所のお姉さんの心理であるヴァイオレットはしみじみと言ってみる。

こう見るとなかなかどうして。攻略対象者に負けず劣らずの見た目とスペックである。家柄以外は。

「……そりゃあ、成長期だからね」

無愛想に言う声も、だいぶ低くなって大人っぽい声になった。

「子どもが大きくなるのは早いもんだねぇ」

まるで親戚のおばさんのような言葉に、ディーンは苦笑いしてため息をつく。

「変な事ばっかりしてないで、ちゃんと教室帰れよ?」

近所のお姉さんなのか親戚のおばさんなのかは、小さい頃から知る少年に睨まれながら念を押されたのだった。