軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

講演会

やっぱりそうなのか。

マグノリアは会場――大会議場一杯に並ぶお歴々の顔を眺めながら、乾いた笑いを浮かべた。

目の前には熱気がムンムン、老若男女の数百名がひしめいていた。

本当に椅子が足りない様で、後ろの方には立ったままの人達が数十名はいる。

――え、これってマホロバ国中の医師とかじゃないよね?

「…………えっと。『知り合いの医師や商会頭』って仰ってませんでしたっけ?」

「はい。声掛けしましたら自分もと手を挙げる方が多くて……離れた場所から駆けつけた方も多いので。日数に余裕があって本当に良かったです。皆喜んでいると思います」

ギルド長は全然悪びれず、お伝えした通りですけど? と言わんばかりの口振りだ。

「マグノリア、大丈夫か?」

セルヴェスが心配そうに顔を覗き込む。

つい先ほど、王太子が部屋を出た後に、とうとう我慢出来なくなったらしいセルヴェスは、獣のような声で悶えながら『孫娘可愛い過ぎる!』と絨毯の上をローリングしていたのだが。

その姿からはとても想像出来ない、孫を心配する祖父らしい姿である。

……マホロバ国の人達とアーネストは非常にびっくりしたようで、固まりドン引きしながら、セルヴェスの発作が収まるのを待っていた。

勿論ガイもコレットも慣れたもので、遠くで他人のフリをしていた。ヒドい。

出来る事ならマグノリアも他人のふりをしたいものだが、当事者である為、きっと難しいであろう。

更には面白がったラドリもセルヴェスと一緒に床を転がり、危うく潰されそうになって、周囲を余計にひやひやさせていた。

(本当に講演会じゃん……)

マグノリア的には両手にも満たない位の人に、ちょっと話をして質問に答える位の心積もりでいたのだが。

(つーか、普通、いきなり子どもをこんな人数の大人の前に立たせたらガチガチやぞ)

マグノリアは普段からここまで大人数ではないものの、会議に出席して話慣れてもいるし、前世は大人だったので泣き出しも取り乱しもしないが……

とはいえ、こんなに人を集めてしまった以上、中止にするなんて言える訳は無いのである。そんな事が聞くまでも無く容易に察せられてしまう事に哀しくなりながら、ため息をついた。

『マグノリア、女は度胸!』

「……おうよ!」

肩の上、羽先を二度小さな鳩胸に叩きつけるラドリ。

『どうしても嫌なら、髪飾り落として来る?』

「いや、それ駄目!」

混乱どころか捕まるからな、と念話で念押ししながら、心配そうに見守るセルヴェスとアーネストに小さく頷き、演壇へと向かったのである。

やっつけで習得した言葉が、比較的他国と関わりがあるような、カタコトでも察せる職種以外の人にもちゃんと通じるのか心配したが……元々が大陸からの移民であり、多くはモンテリオーナ聖国、アゼンダ公国(アスカルド王国)、マリナーゼ帝国の民である。

その三国は立地というか国土というか、とにかく近い為、言語に共通点も多く比較的習得しやすい。よって必然的に、マホロバ国の言葉もそれらが交じり合っており、単語にも文法にも共通点が多い為、日常会話であるならばそこまで苦労せずに習得する事が出来た。

だけれども長い年月を経て変化した違いもある訳で。

……万一の場合に備え、アーネストが通訳を買って出てくれた為、後方で待機してくれる事になったのである。

******

部屋の端、衝立の後ろから出て来たのは本当に少女であった。

会議場にいる者達の声が、一瞬、ピタリと止まった。だがその姿を見て再びざわめきが広がる。

航海病の治療法を確立した者は、かの大陸の大国の貴族の娘との事であった。

――長年沢山の医師が研究して来たものの、解決に至らなかった病に終止符が打たれたとあり、特に長期の航海をする国々では大いに歓迎された。

そしてその人物はどんな者なのかという話になった時に、聞こえて来た伝聞はとても信じられないものだったのである。

それが現在、船乗りの間で知らない人はいないと言われるマグノリア・ギルモアその人だ。

それが女性だろうが少女だろうが、本当に治癒していく過程を見ていれば認めざるを得ない訳であるが……再び信じられない思いを抱くのは、その絵姿を目にした時だ。

そこには少女というのも憚られる様な、小さい小さい女の子が描かれており。

更には、まるで人形の様に可愛らしい姿であるのだ。

――まるでおとぎ話。

狐につままれたような、何かに化かされたようなそんな気分である。

「いや、いくら何でも嘘でしょう!?」

そう叫ぶまでがお約束である。

目の前にはマホロバ国の民族衣装を着て花冠をかぶった、見目麗しい少女が歩いている。

治療法と効果的と言われる食品が市場に出回って数年。確かに絵姿の幼女が成長したのなら、この位の年齢になっているであろう。

もっとも絵姿は毎年バージョンアップされており、最新のものは歩いている少女に良く似た姿であった。

少女は何故か小鳥を肩に乗せており……演壇に上がり正面を向いた姿は、想像以上に美少女で、再び会場がざわついたのである。

「……か、可愛過ぎないか!?」

「年は本当だったのか? 誇張じゃなく?」

「ヤバいヤバいヤバい!!」

色々な言葉が飛び交っている。

少女は小さく咳をすると、良く通る声で話し始めた。

「皆様。本日はお忙しい中、沢山の方々にご臨席賜りまして誠にありがとうございます。私は西の大陸のアスカルド王国にございます、アゼンダ辺境伯領のマグノリア・ギルモアと申します」

可愛らしい声ではあるものの、凛とした語り口で始まったそれ。

愛らしい見目と年齢に似合わない、硬く真面目で、流暢なものであった。

******

取り敢えずマグノリアは、航海病に携わった経緯と書物で得た知識から推測し、治療に取り入れた事を説明する。

医師の中からそんな書物は見た事が無いとツッコミが入るのではないかと危惧したが、鎖国状態であった為、大陸にはあるのだろうと特に引っ掛かる事も無く流されたようで、ホッと胸を撫で下ろした。

そして治療に有効な食品と方法を大きく拡げる為、生活困窮者の仕事として商会を立ち上げて、製造から販売に至った内容をかい摘んで説明する。こちらは商会頭の方々へのネタである。

そして、上下水道を整えると病気が格段に減る事。手洗いなど、衛生に気をつけると病気の予防になる事。

化粧品の中には有害なものがある為(鉛おしろいなど)、安全なものにした方が良い事。

もしも医療行為として 瀉血(しゃけつ) をしているのならば、効果はごく一部の症状にあるだけなので、特に身体が弱っている場合には命に関わる為、避けた方が良い事を説明した。

過去の地球で行われていたあれこれの、言っても差し支え無さそうなところである。

この辺はアゼンダ辺境伯領でも医師たちに話しており、アスカルド王国にもコレットを通じ、安全な化粧品の普及をお願いしているのである。

取り敢えずひと通り話し終わり、アーネストを振り返ると、大きく頷き返された。

何とか通じたらしい。

マグノリアは大きく息を吐いて見渡し、挨拶の言葉と共に頭を下げると。

会場中、割れんばかりの拍手が響き渡った。

質疑応答も混乱なく終わり、最後になぜか握手会が行われた。

殆ど全員が並び、マグノリアは延々とマホロバ国の医師達と商会頭達と握手をしている。

万一の危険に備え、後方にセルヴェスとガイが加わった。

(……何でこうなった?)

ニコニコ握手をしたり、何故か涙ながらに感激されたり……マグノリアは遠い目をしてそれらをこなしている。

数名終わった所で、とある医師がおずおずと鞄から何かを出し、マグノリアの前に差し出した。

葉書位の大きさの、小さな姿絵であった。

マグノリアは愕然とそれを見る。……実際に目にするとショック以外の何ものでもない。

(誰だよ、こんなもん描きやがった奴は!)

「船乗り達はマグノリア様に感謝の祈りを捧げる為に絵姿を飾り、毎日毎晩感謝の祈りを捧げていると言います。私達医師の中にも、話を聞き、素晴らしい偉業に敬意を表し治療室に飾りマグノリア様を称えている者がおります! どうか、どうかこちらに署名を頂けないでしょうか!!」

ギュッと目をつむり、精一杯腕を伸ばして絵を差し出され、お願いされる。

「…………」

(ええ~……超怖ぇんですけど!?)

毎日祈り!?

ドン引きしていると、サッとガイにインク壺とペンを差し出される。

思わずガイを睨むが、インク壺とペンを見た、目の前の期待に満ち満ちた医師の穢れなき眼がツラい。

……仕方なく押し負け、サインをすると。ザッという音と共に、後ろに並ぶ人達が鞄や懐から揃って姿絵を出したのであった。

そして。先程握手が終わった筈の人達も姿絵を取り出し、列に再度並ぶのが見える。

「……ええぇ~……?」

マグノリアの口から、力ない疑問の声が零れた瞬間。

『マグノリア~、ファイト☆』

――ラドリが演壇の机の上で、両羽を拡げガッツポーズをする。

ガイも横で、ニヤニヤしながらガッツポーズをしたのであった。