軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

その頃……そして到着まで

『クロード~! ニュース、ニュース~♪』

ラドリが呑気な声を出しながらパタパタと飛んで来た。

不可思議な存在の小鳥がいつ飛んで来ても良いように、人が居る間、執務室の窓は開け放たれている。

そしてその執務室では、セルヴェスもマグノリアもいない為、クロードがひとりせっせと仕事を熟していたところである。

「航海の途中に抜け出して、どんなニュースなんだ?」

頭の上をはしゃぎながら飛び回るラドリに顔を向けると、ホバリングしながらクロードの目の前まで下りて来る。

『あのねー、海賊が出たの!』

「……海賊?」

ラドリの言葉に、これ幸いと若い主人に休憩させる為にお茶を淹れていたセバスチャンも動きを止めた。

『キャプテン・マンティスだよう。早朝、船がドーン☆』

「…………」

『やっちゃうか? やっちゃいます? って。そんで、セルヴェスがバチーン!』

いつの間にか執務机の上に降り立ち、熱弁をふるっている小鳥。

羽の先を器用に丸めて、拳のつもりなのだろう、パンチを振るう真似をする。

『コレットがトゲトゲでグサグサ、ギー!』

クルクル回りながら、誰かを羽(鉄扇のつもり)で刺して引っ掻く真似をした。

相手は小さき小鳥である。

擬音ばかりの説明に、頬杖を突いたクロードがため息をつく。

『マグノリアが、ぽい、ドカーン・ピカーッ☆』

「……魔道具でまた爆破したのか」

正確には爆破という程の爆発ではなく、どちらかと言えば目くらましで捕縛したのであるが。とはいえ多少海賊船が焦げたことは否めないので、爆破でも合ってはいる。

「キャプテン・マンティス……おりますね。小者の賞金首です」

セバスチャンが何処からか引っ張り出して来た手配者リストの束を手渡すと、そこには今日誰よりも怖い思いをしたであろう海賊が人相悪く描かれていた。

クロードとセバスチャンがまじまじと手配書をみつめる。そして思う。

――多分この変な小鳥は、今朝シャンメリー商会の商船が海賊に襲撃を受け、義父と義姪、もしかしたら護衛までもが『やっちまおうぜ!』といいながらぶっ飛ばしたり(物理)、爆発させたり(物理)して捕まえた……と言っているのであろうと。

「……あの辺の海域はマリナーゼ帝国の船も頻繁に行き来しているから、あまり海賊は出ないと思っていたが」

「たまたまでしょうか?」

お互い複雑な顔で言い合うと、ラドリを見る。

「それで、大丈夫だったのか?」

『マンティス、髭、ジョッキン! だよう♪』

……大丈夫そうだな。ふたりして再び思う。

何やら、キャプテン・マンティスとやらは、自慢の髭を切り落されたらしい。

まあ、陸地とは多少勝手が違うものの、セルヴェスとガイがいるのだし。

シャンメリー商会の船にはアーネストことエルネストゥス王子の護衛もいる事だろう。

『マンティス、ぐるぐる~♪』

相手は小さき小鳥である。

楽しそうに書類の上を回るラドリに、セバスチャンがお菓子を勧めるとすぐさま飛んで、応接テーブルの上に置かれた皿からケーキを啄んでいる。

これでクロードが仕事に戻る事が出来るだろうとホッとしたのもつかの間、更なる爆弾発言が飛び出した。

『少ししたら、クラーケンが出たよう!』

ラドリの相変わらず呑気な口調と、まるで似合わない単語が飛び出す。

「クラーケン?」

クロードとセバスチャンがハモる。

『そう、クラーケン! すっごい大きいタコ♪』

ラドリは羽を目いっぱい拡げてそう言った。

クラーケン……伝説級の海洋生物である。

まるで魔獣の様な見目であるが、れっきとした生物に分類されている。

体長数十メートルとも数キロにも及ぶとも言われているが、殆ど目にした者などいない為、色々脚色されている感が否めない。普通のタコよりは大きいのである事だけは確かである。

普段はかなり沖合の深海にいると言われているが……

流石にふたりは顔を引き締めた。

もし本当に噂程大きいのであれば、ある種天災に遇う様なものであろう。

いきなり触手……腕なのか脚なのかで叩き潰されたり握り潰されたりしたら、大きいとはいえ帆船などひとたまりもない筈。

「ラドリ、船は大丈夫なのか?」

『多分?』

再び皿の上のケーキと格闘を始めたラドリは、うわの空で返事をしている。

『マグノリアがやれって言って、セルヴェスがぐるぐる・ぽーん!、ガイがザクーッてしたから、多分大丈夫?』

「…………」

何でそこで疑問形なのか解らないが……のんびりケーキを食べているという事は、少なくとも名づけをした契約者(の筈)であるマグノリアは大丈夫なのだろうと結論付ける。

……詳細が解らない為、物凄くやきもきするが。

相手は小さき小鳥である。

何故家の者達は、滅多にいる筈のない海賊とやり合ったり、伝説級の不思議生物なクラーケンと格闘したりするのだろうか。

……小言は全く利いていなかったことに、ため息を禁じ得ない。

『船、クラーケンでびちゃびちゃだけど。多分大丈夫、大丈夫☆』

ラドリ的には、飛散したクラーケンで汚れてはいるが大丈夫と言っているのだが……実際に目にしていない人間にとっては疑問符だらけである。

すっかりケーキを平らげたラドリは、ぱたたと羽ばたいた。

クロードの所まで再び飛んでくると、パカリと黒いポシェットを開く。

『で。クロードにお土産! 変わったもの好きだからね!』

「……別に変わったものが好きな訳ではない。珍しい素材や新しい物で研究と開発をしているだけだ」

エッヘン! と小さな鳩胸を張る。全くもってクロードの話など聞いてはいない。

そして黒い小さなポシェットから、バラバラになったクラーケンの欠片を引き出した。

勿論、羽や手羽先で重いものが持てる筈はなく……

いきなりで受け止め損ねたクラーケン『だった』ドロドロが、ビシャリと音を立てて完成間際の書類の上に落ちた。

「…………」

クロードとセバスチャンが静かに、完成間近だった書類とクラーケンだったものとを見つめる。

相手は小さき小鳥である。

(……『びちゃびちゃ』か。粉々に飛散したのだな……)

クロードとセバスチャンは、粘液に塗れた何かを見て悟った。

『あと、これね~♪』

今度は受け止め損ねない様に素早く手を出すと、ヌルン! と大きな丸いものがクロードの手に乗せられる。

……目の前にどんどん引き出されて行く『黄色い大きな大きなヌルヌルした何か』は、どうやってあの小さなポシェットに入っていたのかと思うような大きさである。

いつも不思議なのだが、あの中はマグノリア曰く、亜空間にでもなっているのだろうという事だ。

亜空間とは何なのか説明をさせようと思ったら、嫌そうな顔で逃げられた。

直径が――クロードの身長よりも大きいであろう物――が全てポシェットから出ると、横に長いクラーケンの虹彩と言って良いのか瞳と言って良いのか……取り敢えずはクラーケンの奇妙な目と、クロードの青紫色の目が合う。

ラドリに怒ったところで、より面倒になるだけなので……無の境地でクラーケンの瞳と見つめ合う。

『それ、あげるね~! んじゃね、バイバーイ☆』

「…………」

そう言うと、ラドリは物凄いスピードで消えた。

……相手は小さき小鳥である。

「…………。大丈夫でございますか?」

「…………。そう、見えるか?」

生臭い。

――あの小鳥め、狙ってやってるんじゃないだろうな?

そう思いながら。クロードとセバスチャンは、燦燦と陽の当たる執務室で暫し途方に暮れたのであった。

『マグノリア、何してるの~?』

凄い速さで飛んで来たラドリは、船中を掃除をする人の群れの中で、クラーケンの脚を眺めていたマグノリアに声を掛ける。

「あれ? ラドリってば何処に行ってたのよ?」

『ちょっとね~。お裾分けにね♪』

「?」

神鳥の力でほぼワープしたに等しいラドリは、百キロ以上の距離を数分の不在で戻って来ては、自分の相棒であるマグノリアの肩にとまった。

「……これって食べられるのかな?」

聞こえた人間が全員、えっ!? という驚愕の顔でマグノリアを見る。

「……お嬢、ついにクラーケンまで食べるっすか?」

「えー、毒が無くて美味しいならいいじゃん。これってもしや不味いの? これだけあればたこ焼きいっぱい出来るんだけどねぇ」

「どうだろう。食べたことは無いな……」

マグノリアの言葉に、ガイとセルヴェスがしょぼしょぼした瞳でクラーケンの脚を眺める。

「大きいから大味かな?」

地球でクラーケンの正体ではないかと思われていた『ダイオウイカ』は物凄く不味いんだっけかな、と思いながら、どうしたものかと首を捻る。

「……もう少しでマホロバ国に着きますので、取り敢えず落ち着いたら、毒素の試薬を試しますか? それまで氷室に入れておきますよ」

紳士なアーネストが、若干引きつりながらも苦笑いで提案してくれた。

マグノリアはかなり大きいので場所をとって悪いなと思ったが、素直にお願いしておく。

「美味しいと良いですね!」

輝くようなマグノリアの笑顔に、全員が微妙な表情で頷く。

今の今までベトベトを掃除していた訳で、かなりキモチ悪いのだが……そう、心の中で呟く。

「嫌だー! ギルモア家、怖いっっ!!」

未だ粘液に濡れながら、キャプテン・マンティスとその一味は、顔を青くして叫んだ。

――解る。

そう思ったものが味方……シャンメリー商会の人間にもいるのは、セルヴェスとマグノリアには内緒である。

そうして予定通り、茜色に空が染まり始めた頃。

シャンメリー商会とキャンベル商会、そしてギルモア家の面々が、無事(?)マホロバ国に到着した。

そして同じ頃。王都からアゼンダに王子御一行が到着し、げんなりしていたクロードを更にげんなりさせたのであった。