軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ディーンの説得、そして気づき

さてどうしたものなのか、頭を悩ませているとクロードがマグノリアに向き直る。

長い沈黙の後、口を開いた。

「…………暫く放っておいてやりなさい。賢いディーンならその内理解するだろう」

「最悪は無理に行かんでもな」

セルヴェスが髭を捩じりながら呟く。

「…………」

そうは言っても、とマグノリアは思う。

ディーンのご両親やプラムの事を思えば『入学取りやめ』というのはどうなのだろうか。

下級貴族の場合は全員が全員、学院に入学しない家も多いそうだ。

子どもの適性や跡目など、色々な状況を鑑みて入学させるらしい。

跡は長男が継ぐことが多い。嫌な言い方だが、次にスペアとされる次男。三男ともなると、婿入りでもしない限りはほぼ爵位はないであろうからして。

ディーンのご両親はそれでも頑張って、三人とも入学させるつもりなのだ。

……子どもを公平に育てたいという、ある意味プラムの家族らしい考え方だ。

それに爵位は無くとも、ほぼほぼ辺境伯家に仕えるだろう事が確定している為、貴族の様々な事を学んでおくのは為になると考えてもいるのだろう。

勿論ディーンが辺境伯家ではない、他の屋敷で働く事を希望する場合にも役に立つ筈なのだ。

(……責任を感じるなぁ)

お金と学力は腐るものでもない。

それに囚われすぎるのはナンセンスだが、真っ当に身につけられるなら身につけておいた方が良いのだが。

******

ディーンは何処か上の空で授業を受けていた。

少し前までは、春から入学する事を楽しみにしていた筈なのに。

二歳違いのマグノリアと二年間離れるのは淋しかったけど、新しい友人との出会いや王都での生活に心躍らせていたのだった。

兄たちから聞いた王都や学院のあれこれを、自分でも確かめてみたいと思っていた。

二年間で沢山色々覚えて、マグノリアが入学した時には一杯案内してあげよう。

そう思っていたのに。

来年度からはプレクラスという、年下の子どもも通えるクラスが出来る事になったと言う事だった。

将来の側近や王太子妃さまを選ぶ為に、より優秀な人材を育成する為と、殿下との交流を持つ為に作られた制度だそうで、余り小さすぎない二歳下位の子どもから入る事が出来るらしいのだ。

(じゃあ、マグノリアも対象者だ!)

離れなくて済むという気持ちと、一緒に通えるという喜びで一杯になった。

なのに、マグノリアは当たり前のように『行かない』といった。

ディーンは聞き間違いかと思った。

……びっくりして聞き直すと、元々既に学院で習得する範囲の勉強は学んでしまっている為に入学するつもりが無い事と、王家に輿入れしたくない為に距離を置きたい事。入学してしまうとお誘いなどを断れないだろうから物理的に距離を置きたいのだと説明してくれた。

そして、万が一また襲撃事件のような事が起きてしまい、マグノリアだけでなく周囲の生徒まで巻き込んでしまうといけないからと言っていた。

確かに、辺境伯領にいるよりも手薄になるだろう護衛の事を考えれば、同じような事が起こった場合は対応が出来ないだろう。

以前の襲撃だって、ほんの一瞬マグノリアをみた人形師が企てた事だという。

護衛騎士がいない中、同じ事が起きてしまったら。

同じ事が本当に起きかねない。

……その位、マグノリアは可愛い。

更には。

(……王家にお輿入れ……)

同じ貴族とはいえ、その身分差に改めて気づかされる。

辺境伯家は大貴族だ。

三人とも身分を笠にきないのでついつい忘れがちだが、本来なら話す事も躊躇われる程の違いがある。

ましてやディーンは嫡男でもない。

貴族の息子ではあるけれど、跡目ではない自身の身分は将来、平民になるのだろう。

(全然違う世界の人なんだ……)

だけど……

ディーンは言えない、言ってはいけない言葉を強く閉じ込めるように、拳を握りしめた。

******

クロードが言うように、放っておいた方が良いのだろうか。

反面、対応しないと良くない方向へ転がって行ってしまう事もあるし、入学の用意や手続きだってあるだろう。

なかなか難しい問題だ。

(うーん……荒ぶる思春期の男の子の対応って、難しいよなぁ)

「……どうしたらいいのかなぁ」

『ディーンのこと?』

何気なく呟くと、頭の上のラドリが聞いて来る。

「うん……」

『不安。多分』

「不安?」

『そう。不安』

「…………」

そう言うと、ぴちゅ、と鳴いた。

食堂からマグノリアの部屋へ戻ると、ややあってディーンがノックした。

「どうぞ」

「……失礼します。午後からの予定は?」

気まずそうに目を逸らしながら、ディーンが入って来る。

「とくに無いよ。ディーンも用事がないならお菓子でも食べようよ」

「ん……」

マグノリアの提案に視線を彷徨わせながら返事をすると、静かに扉を閉めて、お茶のセットが乗るワゴンを押して来る。

「遠回しに言うのもなんだから単刀直入に言うけど、プラムさんが心配してたよ」

お茶を淹れる手が一瞬止まったが、ああ、と無愛想に返事をした。

「行くの止めるんだって?」

「そのつもり」

……頑なな感じらしい。非常に硬い声だ。

マグノリアはため息を飲み込んでディーンの顔を見上げた。

「うん。何て言うか、勉強って自分の為にするものだからさ、ある程度の年が来たら自分で決めたらいいと思うよ。学院入学は必ず必要な訳じゃ無いから、行く気が無いなら行かなくていいと思う」

「え……?」

てっきり行けと言われるとばかり思っていたディーンは面食らったようにマグノリアを見た。

「リリーは、当時お家の為に後期課程に進めなかったんだって。そういう風に、経済的な事情や、看病とか自分が病気とか……身体や家の都合で入学出来ない人もいると思う」

ディーンはむっすりとしたままで話を聞いている。

結局説教するんだろう的な感じなのだろう。

「ディーンが実際に通う訳だから、自分が必要ないと思うなら行かなければいい。ただ、後で後悔しても王立学院は特別な理由がない限りは決まった年齢でしか通えないから、そこは良く考えた方がいいよ」

「…………」

「あと、ご両親の気持ちとか。親の為に自分の希望を曲げる必要は無いけど、気持ちはちゃんと考えてから答えを出して。

将来仕事をする上でも知識は身につけておいても邪魔にはならないと思う。友人も出来るかもしれないし、恩師に出会えるかもしれない。可能性が広がるだろうし、色々見て考えて、本当の目標とかが明確になるかもしれない。

……今は六年って長く感じるだろうけど、振り返ったらあっという間だよ?

行く・行かないの両方のメリットとデメリットを、良く考えて答えを出した方がいいよ」

ディーンは唇を強く噛み締めた。

マグノリアは静かに続ける。

「あと。私が行かないから行かない、ではなくて。自分がこう思うから行かないっていう答えをちゃんと出して。ディーンは将来騎士になるとしても、私の従者を続けるにしても、違う何かになるとしても。決めるのは自分自身だよ。

私の仕事とかサポートしてくれるのは凄く助かるし、友人でいてくれるのも嬉しい。

……初めは頼まれたからだったんだろうけど、今は違うでしょう?」

ディーンは小さく頷いた。

「自分の人生は、自分で決めて。それしか選べない時もあるだろうけど……そうじゃなく選べるのなら、人任せや人に委ねるのではなく、自分で決めて」

小さく息を飲んでマグノリアをみつめる。

「宿題ね。それを決めるまで従僕の仕事はお休みして。ご両親にとってもディーンにとっても、大切な事だから……ちゃんと考えた上で決めたなら、行くでも行かないでもいいと思う」

*******

ディーンは解った、と言ってマグノリアの部屋を出た。

……滅茶苦茶恥ずかしい。

両親の言葉も、素直に聞いてなかった。

どうせ学院に通わせたいから言い聞かせようとしているんだろうと思ってた。

通えない人がいるってマグノリアに言われた瞬間も、説教かよと思った。

すぐそういう『出来なかった人』を持ち出して説得しようとするって。

(……だけど、違うんだ)

マグノリアは説得をする為ではなく、きちんと考える為の物差しの一つとして提示したんだ。

勉強なんて嫌だって思うけど……出来るのは幸せだと言う事も知っている。

嬉しそうに勉強するアゼンダ学校に通う人達を見て来たのに。そして、したくても許されない環境にいる人達も見て来たのに。

(確かに……教育は力になる……)

身につけたおかげで買取など誤魔化しをされなくなる人達や、新しい仕事につく事が出来た人。より重要な仕事を任される人。

――自分は出来る事が少ない。

少ないなら、それをきちんと認めて考えなくてはいけなかったのに。悔しがっている場合じゃないんだ、と気づく。

(卑屈になったり、誰かのせいにしてる場合じゃないんだ……)

可能性を広げる。

小さい頃、騎士になりたいと言った時、マグノリアが言ってくれたじゃないか。

――『本当にやりたいにゃら、頑張って自分がやりゃなきゃいけない事をきちんとやりゅ。それから、騎士になりゅ為の練習や勉強もすりゅ』――

あの時の、小さいマグノリアの言葉。

……今回またしても、年下のマグノリアに気づかされた。

静かに強く考えを伝えようとするマグノリアは、大切な事を伝えようとする時だ。

自分がやらなくてはならない事。やりたい事。

(ちゃんと考えなくちゃ駄目だ)