作品タイトル不明
あんなこんながありまして
『マグノリア~、僕にも頂戴!』
動いている間は危ないからか、頭の上でずっと静かに鎮座していたカラドリウスこと『ラドリ』が肩から腕を伝って、すいーっとテーブルの上に降りて来る。
「……え、この子イカ食べれるの?」
怪訝そうにヴィクターが言った。
――UMAである小鳥は雑食性である。総菜からお菓子まで何でも食べるし、何だったら物凄く食いしん坊の部類に入ると思う。
どこかからペットは飼い主に似るんだ、という声が聞こえて来るのは気のせいだろうか?
『食べれる! 僕、シンチョウだからね☆』
敬え! とばかりに鳩胸を張ってアピールする。
神鳥。
……初めて聞く事実に、辺境伯一家だけでなくガイとダンとパウル。そしてユーゴと、イカが打ちあがった際には『忙しいので留守番をしている』といって部隊長を行かせた副官のくせに、ちゃっかり食事時には執務室から出て来ては料理を咀嚼しているイーサンが時を止めた。
おい。確か千鳥の類いと言っていなかったか?
「そりゃあ、そんなちっこい口で慎重に食べなきゃ、喉につっかえちゃうよ」
何を言ってるんだと言わんばかりの態度で、ヴィクターは自分の皿からイカの切れ端を幾つか、ラドリの前に置いてやる。
置いて貰ったら、もうヴィクターの話など聞かずに懸命に啄んでいるが。
……いやいやいや。違うだろう。
「なんだ、シンチョウってそっちかぁ。びっくりした!」
ディーンが、だよねーと言わんばかりの態度でにこにこしながらイカフライを頬張った。
いやいやいやいや。
えっ、そっち? シンチョウ違いだよね?
余計な事を言うと面倒が降りかかる事は身に染みているので、全員がイカと共に何かを飲み込んだ。
この可愛チャラい小鳥と出会ったのは二年ほど前の事。
二年前アスカルド王国の王都で国中を震撼させた、爆破襲撃事件があったのだ。
……正確に言うと襲撃事件があり、襲撃者達を爆破したのはマグノリアの方であるのだが。
マグノリアが異世界の知識を使って、危ない武器を製造・販売している訳ではない。
実は彼女、こう見えて物凄く美しい顔をしている上に高貴な御身という奴なので、その安全を危惧した保護者から護身用の魔道具を渡されているのである。
具体的に言うと、ただボーッとしているだけ(?)なのにも拘らず、ありとあらゆる国の王族に愛されてしまった挙句、彼女を手に入れんと美人過ぎて故郷を滅ぼされてしまった、今は無き小国の王女様であった曾祖母とそっくりな見目を持っている。
王女はすったもんだの末、さる大国の騎士侯爵(セルヴェスの父)に降嫁したのであるが。
その王女の産んだ息子(セルヴェス)が戦争で大活躍した上、長年にわたる戦争に終止符を打った。
……功績が認められて陞爵されるが断り、元の領地から遠い領地(アゼンダ領)を引き受けたので家を分家し、現在辺境伯をしているのである。
で、その孫娘として産まれたのがマグノリアなのであるが。
現在、公爵家に未婚の令嬢はいない。
よって、侯爵家(と辺境伯家)のテイでいるけれども、事実上公爵家扱いされる家のご令嬢であり、めっちゃ美少女で、更には小国とは言え王家の血筋でもある、婚姻を結べる女性としては最高位に君臨しているのである。
公然の秘密として、今は亡きその小国は魔法に匹敵する不思議な力を持っていると言われている……更には彼女は先祖返りと言われ強い力を持つとされる、ピンク色の髪と瞳を持っているのだ。
その上、事業を立ち上げては次々に成功させている、良く解らない凄い少女なのである。
経歴だけは。
……実際はとある事情から存在を無いものとされ、侯爵家の嫡出子であるにもかかわらずミドルネームを持たない(この国ではありえない瑕疵)、六歳でお披露目をした(この国ではありえない瑕疵)――全てマグノリア本人を守る為の事なのだが――、不思議な力なんて何もない、朝起きたら知らない世界に転生していた人間(中身おっさんめいたアラサー女子)なのだけれども。
こうやって、うちあげられたイカ(無料)をむしゃむしゃと食べる節約少女なのだけれども。
うちの子可愛過ぎる……! と戦慄した祖父のセルヴェスからは、安全の為にGPS(魔道具のブローチ)を、義叔父のクロードからは暴漢にぶん投げる爆弾(魔道具の髪飾り)を誕生日に貰って装着しているのである。
そして再三断っているにも拘らず、王室もとい王妃様からお茶会に出席するように言われ一年半ほど。
遂に召喚状っぽいものが届いたので嫌々出向いて行ったら、本人も未だに解らない一瞬の内に猟奇的人形師に見初められてしまい、薬物中毒のならず者を大勢使って誘拐されそうになったのである。
……誘拐されたら、危うく剥製にされる所だったらしい。ガクブルである。
なんなら誕生日にGPSと爆弾を貰うのもガクブルであるが。
目の前で護衛のガイも、何故かそこに居た上に既に戦っていたジェラルドも。様子を見たらまさにふたり合わせてピンチに陥っていた為、髪飾り――爆弾を投げたのである。三個程。
まぁ、大騒ぎになるよね?
(私、悪くない)
その爆破襲撃事件の最中に、ジェラルドがマグノリア達を庇い斬られてしまう。それはもうザックリと。
最後は子ども達を護る為に自ら刺さりに行っていたのである……その根性と事実にこちらもガクブルである。
当然傷は深い。
死にそうになっているので誰か助けてくれと祈ったら、件の曾祖母から託された石――石みたいなたまごから、カラドリウスと名乗る鳥が孵ったのである。
そして不思議なポシェットに、悪いもの……この場合は『死に至る原因の傷』を吸い取ってくれたのであった。
産まれたばかりの時はもっと神々しい雰囲気だったのだけど、産まれたばかりで力を使い過ぎてしまったために、ひよこのようなモフモフに縮んでしまったのである。
出会いはそういう感じなのであるが。
……その後にもひと騒動あって。
そう、名づけ問題である。
カラドリウスと、セルヴェスが無理くり口に突っ込んだポーションのお陰で見事回復したジェラルド。
その後も捕物やら家宅捜索やら被疑者死亡やらと色々あったのだが、ちょっと割愛して……帰領の為の別れ際、マグノリアの実兄であるブライアンとカラドリウスとの会話で、『カラドリウス』が名前ではないと判明したのである。
なら、長いし少し略して呼んでも良いかな? と確認したら……どうも名づけ判定されてしまったらしく、光と風が巻き起こって、めっちゃジェラルドとクロードに叱られた。
迂闊っぷりもさる事ながら、良く解らない状態で危ない事になったらどうするという心配からなのだけども……まさか、名づけるつもりもなくあんな事になるとはマグノリアも思わなかった訳で、平謝りしたのである。
魔物とか精霊とか人ならざる物にとって、名づけは強い意味があるらしくって……
名づけ相手と従属契約であったり、人ならざる物の能力が爆上がりしたり。
ヤバい状態になってないのか確認したものの、カラドリウスも解らないと言う事で。
マズい事にはならないと思う☆ という、何とも信用できない答えが返って来た。
そしてマグノリアは、ふたりに睨まれながら暫しお説教を聞く羽目になったのである。
ついでにどうせつけるなら、もっとちゃんとした名前にしなさいとも注意もされた。
(……だって、名づけのつもりなかったんだもん)
で、実際何かどうなったのかと言えば。
……良く解らないのが実情なのであるが。
取り敢えずふたつ変わった事がある。
身体の大きさと羽のバランスが悪い為か飛べなくなった筈が、再び飛べるようになったのである。
……飛べるのに乗っかって移動するし、マグノリアの腕を滑り台代わりに使うのは変わらないのだけど……
マグノリアが以前から欲しかった伝書鳩を、遂にゲット出来たのである。
更に、流暢に言葉を話す事が出来る小鳥なのだけど、ラドリが頑張ればと言う但し書きで、マグノリアとラドリ間で念話する事が可能なのである。
……使い道が良く解らないのだけど……
一応、繋がりが強くなった上に能力がアップしたと言う事なのだろうか。
クロード曰く、普通は変化がわかるものらしい。
……元々マグノリアの強い思い(願い)を聞いて誕生した為、既に結びつきはあったのだろう――だから些細な変化が解り難いのではないか、と言う事であった。
マグノリアはテーブルの上を転がる小鳥を見てため息をつく。
(コイツ、本当は全部知ってておちょくってるんじゃねぇだろうな?)
人を食った所があるので充分あり得そうで、じっとりとラドリを睨む。
奴はうつ伏せになり、小さな尻尾をぴるぴると動かしている。
「常々気になってるんだけど、そのちっこい鞄は何なの?」
ヴィクターが何気なくラドリに確認する。
あの、殻の中に入っていた小さいポシェットの様なものだ。
今も幼稚園児よろしく斜め掛けされている。
『吸い取った厄災が入ってるよ♪』
「え……っ」
ラドリの言葉に、再び全員が凍り付いた。
すっかりてっきり、ラドリが治してくれたか、消してくれたのだと思っていたのである。
(――何それ、怖い)