作品タイトル不明
王都見物
「へぇ、そんな事があったんだ」
マグノリアがいつ帰領してしまうか解らないからとご両親を説得して、ヴァイオレットが王都見物に行かないかと誘ってくれた。
意外にもヴァイオレットを気に入ったらしいマグノリアの様子に、クロードは交流を止めはしなかった。
あわよくばヴァイオレットが何か未来の手がかりを思い出し、その情報を得られればという目論見も勿論ある。
だが、同年代の友人が極端に少ないマグノリアにとって、気を許せる友人が居れば良いとは常々思っていた事。
まして元同郷である。
自分達にはわかり合えない色々も、彼女とならば分かち合えるだろうと思っての事だ。
まあ、中身の年齢は同じではないのだろうが、なんて思いながら。
シュタイゼン侯爵家の来訪もあり、ガイが王宮から引き戻された。
王家とその周辺の色々を探ってくれたらしく、聞きます?と聞かれ、要らないと答えておく。
……大体、ロクでも無いだろう事は想像に難くない。
そんなこんなで週が明け、兄の休暇が終わった為に任務に戻ったディーンと、ヴァイオレットとマグノリアを乗せ、ガイの繰る馬車が王都をゆっくりと走って行く。
「俺、その場にいなくて良かったよ……」
「私は見たかったなぁ!」
まるで正反対の表情と感想を漏らすふたりに、マグノリアは苦笑した。
ディーンが何やら出掛ける用意をしている隙を見計らって、ヴァイオレットに悪役令嬢同士の邂逅について確認したが、そういった出来事はかつての話には無かったそうである。
ジェラルドの行動と立場が変わっただけでなく、マグノリアの性格と行動も変わったせいで、従来の話の流れとは変わって来ていると考えた方が良いのであろうか。
もしくは、実際の世界として動く中で、当然、ゲーム等には描かれていない出来事が沢山存在すると言う事なのか。
人物と大きな骨組に注意をしながら、回避したいものを確実に回避して行く行動を取るしかないのであろうとマグノリアは思った。
王宮はひとつの街かと思う位、広大な敷地を誇っていた。
やや小高い場所にある城の後ろには、様々な建物や後宮が控えており、更にその奥には広大な森が茂っている。
王宮の正門の周りを半円状に貴族街がある。
王宮に近い程高位貴族のタウンハウスが立ち並んでおり、低位になればなる程、円の外側に屋敷が位置する事になる。
貴族街の外側に、平民街と分けるように樹々と花々に彩られた遊歩道が円に沿って作られ、その外側に市庁舎や学院、病院などの公的施設が立ち並び、その外側に店舗街、工房・職人街、そして平民街と半円状に街が拡がっていくのだ。
王都は王宮を起点に、広大な半円状の街となっている。
王都のメインストリートとも言える店舗街の様子は、アゼンダの領都とそう大きな違いは無かった。
ただ、街の規模に合わせて建物が大きく高くなり、道の幅も広くなっている。
石畳の道。ロマネスク様式の建物。合間を縫うようにゴシック建築とルネッサンス様式の建物も見える。それぞれの時代に作られた様々な建物が混在している空間。
そして至る所に零れるように咲き乱れる花々。
広場で開かれるマルシェ。沢山の人々の往来。
平民街から真っ直ぐに、放射状に王宮へ向かうようにひかれる道を、黒塗りの馬車が走って行く。
「マグノリアは行ってみたい所はあるの?」
「どうせだから、学院に行ってみたいな」
思っても見ない意見に、ヴァイオレットとディーンは顔を見合わせた。
学院へ進学しない事を、まだ彼等には言っていない。
ディーンも行かないと言い出し兼ねないし、ヴァイオレットはキャラ達のイベントが半減する事に、さぞガッカリする事だろう。
本来は学生生活を送る筈だった場所を、瞳に焼き付けておきたいと思ったのであった。
「……中には入れないだろうけど、外側だけ見てみる?」
公共施設が多いだけあって荘厳な佇まいの建物が多い中、緑に囲まれた美しい建物が見えて来る。
道を彩るように植えられている街路樹と花々の道を進みながら、マグノリアは、確かに美しく創られた世界なんだなと納得した。
(……おおぅ、まるで迎賓館みたいだ)
複雑な細工で飾られた大きな門の奥に、シンメトリーに建てられた白壁の豪華な学院が見えた。
制服らしいお揃いの服を着た少年や少女達が門の中を行きかっている。
「ここが舞台なんだね……」
「うん」
「?」
三者三様の反応をして、暫し周りを走って貰う。
離れていく豪奢な門を見ながら、マグノリアは記憶を浚っていた。
(でも、何だろう。ここ、見た事ある気がするな……?)
マグノリアは時折感じる既視感をここでも感じながら、内心で首を捻る。
「マーガレットの様子は見た事あるの?」
ヴァイオレットは首を振る。
「ううん。流石に平民街には行けないから……」
確かに。平民街に黒塗りの馬車を乗りつけたら目立つ事この上ないだろう。
(見ておきたいけど、ガイとディーンにどう説明すれば良いのかだよな)
ただ適当に走って貰うならまだしも、住所を言って走って貰うのには理由が要りそうだ。
ましてや店などがない、家しかない地域である。
後ろ髪を引かれつつも諦めて、店舗街を走って貰う。
「どうせだからお茶でもする?」
「そうだね。王都のカフェがどんなかんじかも見ておきたいし」
そうして、お茶をしたり、色々な店を冷やかしたりして王都の街を満喫して行く。
確かに食べ物の多くはアゼンダよりも安く手に入るようだ。
これも花の女神の加護があるからなのであろう。
洋服や小物も、都会らしく華やかなものが多い印象である。
ドレスポーチやパッチワーク等、真似をされているかと思っていたが、意外にも模造品は目立って販売はされていなかった。
地球だったらあっという間にコピー品だらけであろう。殊勝な事だと思う。
街でポーチを持って歩いている人を見ると、むず痒いような気分になるが……
ふらついているのを目ざとく見つけられるといけないので、キャンベル商会の周辺は外しておく。
もっと色々みたい所はあるが、ヴァイオレットと話をしたいのでタウンハウスに帰る事にする。
軽食を取った後にディーンはハウス内の手伝いに回るであろうから、馬車やカフェよりも話し易いであろう。
多分、ヴァイオレットもガーディニアとのあれこれを詳しく知りたい筈だ。
軽食には、焼きうどんとお好み焼きをしようと思い材料も用意しておいた。
流石にたこ焼きの型は間に合わないが、仕方ない。
中庭で、BBQならぬ鉄板粉ものだ! と意気込んでいたのだが、それ所ではなくなったのである。