軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ガーディニア様がやって来た・前編

そんなこんなで、全くもってご令嬢らしくない姿で長考していると、トマスが部屋へとやって来た。

「お嬢様、お客様がいらっしゃいまして……」

「お客様? 私にですか?」

デジャヴである。

だが今日のトマスは昨日とは違い、どことなく困り顔で返事をした。

「……お約束を頂いていないので、後日正式にお手続きをとお伝えしたのですが」

「難しかったのですね」

一瞬、王妃様かと思ったが。

もしそんな無謀な行動をしようとしたら、すぐさまガイから連絡があるであろう。

クロードは本日は王宮に出掛けている。

……そうかからずに帰って来る筈だが、いつ帰って来るかはわからない。

少し考えて、侍女さんに髪だけ整えて貰う。

「解りました。お客様は女性ですか? 護衛騎士を一名つけます」

タウンハウスにも数名護衛騎士が駐屯している。

辺境伯領の騎士団から数名、三か月交替で勤務しているのだ。

まさか悪魔将軍の家で狼藉を働く命知らずがいるとは思わないが、クロードもガイも居ない今、気をつけておくに越したことはないだろう。

「そう仰ると思い、連れて参りました」

「ありがとう」

そう返事をし、入室して来た騎士の顔を見ると。

見慣れた顔が、なんとも困ったような表情で立っていた。

「……あら。こっちに出張中だったの?」

「……お久しぶりでございます、お嬢様」

不憫護衛騎士。

マッチョ騎士集団において、極々普通な感じの真面目で地味そうな見た目の彼は、他者に威圧感を与えないであろう。

穏便に済ませたい時の護衛としては、見た目ぴったりである。

トマスと侍女さん、不憫護衛騎士を引きつれて廊下を歩く。

扉の少し前で、トマスがマグノリアに聞こえるよう腰をかがめた。

「お客様はシュタイゼン家のガーディニア様でございます」

出て来た名前は意外な人物であった。

「ひとりでいらしたの?」

「いえ、侍女とおふたりでした」

「……それでは、シュタイゼン家に確認の早馬を出して下さい。来訪の連絡が来ていないと言う事は、黙って出て来たのかもしれません。お家の方が心配されているかもしれませんので」

「畏まりました」

トマスはマグノリアの言葉を受け護衛騎士に小さく頷くと、急ぎ足で踵を返した。

Miss・パーフェクトと呼ばれる、淑女中の淑女がするとは思えない行動。

まだ小さい子どもだとは言え、自分の立場もしてはいけない行動も理解している筈だ。

難癖をつけられないよう、常識にはとても気を使ってもいる筈。

(まぁ、場合によっては礼儀など通す必要も無いと思われている可能性もあるけどね)

先日のお茶会は、ある意味屈辱的でもあった筈だ。

誰よりも王太子妃に近いと言われ続け、努力もして来ただろうに。ぽっと出のご令嬢の方が王妃の興味を引いたのだ。

そのご令嬢は良くない噂で語られていると言うのに、なぜ、と思った事だろう。

悪役令嬢に祀り上げられる位だ。誇りも自負も、矜持も。自尊心も高いであろうと思う。

いきなり言い募られるのか、嫌味の応酬をされるのか。気が重い事である。

(何だろうなあ……)

ヴァイオレットのノートには、こんな出来事の記載はなかったが。

これもズレなのか、悪役令嬢同士の事なので省かれた描写なのか。

取り敢えずノックをし、扉を開けた。

「大変お待たせを致しました。マグノリア・ギルモアでございます」

顔を上げた少女は、確かにお茶会で上座に座っていた女の子であった。

紅の髪に深い海のような切れ長の蒼い瞳。引き締まった唇は、意志の強さが見て取れる。

やや深みのある緑色のドレスは、彼女の見事な赤毛をとても良く引き立てていた。

筆頭侯爵家のガーディニア・マリ・シュタイゼンその人だ。

座ったまま会釈をする姿は、自分が上位であるという意思表示であろう。

アポイントメントも取らずに押しかけた上で、なかなか肝が据わっている事だが。

味方になるやもしれない人間の神経を、わざわざ逆撫でする行動を取る必要も無いだろうに。虚勢という奴なのだろうか。

「お約束は伺っていないかと思いますが、どちらかのお屋敷とお間違えですか?」

ピリッと部屋の空気が引き締まる。

マグノリアとしては、王太子妃レースに参加するつもりは無いのだ。

頑張ってくれるのは有難いが、こちらに難癖付けられるのは心外というもの。

ガーディニアはじっとマグノリアを見ると、小さく小首を傾げた。

「いいえ。ご無礼はお詫びいたしますわ。

……お茶会を中座されていましたが、お加減は宜しいの?」

「先ほどまで横になっておりましたの」

いや、さっきまでお好み焼きかたこ焼きか、それとも焼きそばかを考えていたのだが。

噓八百という奴である。

侍女から差し出されたお茶をひと口飲む。

微妙な顔をした護衛騎士が扉の前で護衛に立とうとした所で、マグノリアは視線を合わせて後ろへ目を遣った。

小さくため息を呑んだような顔をして、すごすごとマグノリアの後ろへと立つ。

「そうですか。お休みの所失礼いたしましたわ。それでは単刀直入に伺いますが、どうして王太子妃になりませんの?」

……おやおや。

彼女も未来のお姑さん宜しく、ぶっ込んで来たらしい。

王太子妃。それは鬼門である。

更にはあのポンコツ王子のお嫁さんである……なりたい訳ないよね?

とかく人間は地位や名誉に弱いものである。それらをとても良いものに感じてしまうのだ。

確かに、得する面もあれば良い目を見る事もあるだろう。

自尊心も満たされるかもしれない。

人によっては民衆や国を考えて、崇高な意志の下に目指すのかもしれない。

「先日お茶会で申し上げた通りですが」

今度はマグノリアが不思議そうに首を傾げる。

「悔しくはありませんの? なりたくはありませんの?」

「いえ、特には」

マグノリアの即答に、信じられないという顔をした。

「なりたくないって……高位貴族の矜持として、民草の事は考えませんの?」

「はぁ。色々な考え方があるかと思いますが、私の中で人民の事を考える事と王太子妃になる事は、必ずしも一致しないですから……ただ、人民の事を考え、力を尽くす為に王太子妃を目指されるのは宜しいのではないですか? そういう気概がある方がなるべきかと思いますけど」

ガーディニアはマグノリアの言葉を聞いて、釣りあがった大きな瞳を瞬かせる。

「では、先日の通り 私(わたくし) を後押しし、配下に下るという事で宜しいのですね?」

(配下に下る????)

今度はマグノリアが垂れ目の丸い瞳を瞬かせた。