軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

整理をすると

アゼンダの館で爺様は寂しく食事をしているのだろうか。それとも、騎士団の人達と賑やかにしているだろうか?

夕食のメインの皿に載る、鴨のコンフィをみてふと思う。

鴨のコンフィはセルヴェスの好物のひとつだ。

定期的に王都とアゼンダ辺境伯領を行き来しているセルヴェスとクロードにとっては、ひとりで食事を摂る事など慣れているであろう。まして大人である。

場合によっては会食に次ぐ会食で、ひとりの方がホッとするかも知れないのだが、マグノリアはどうも淋しく思ってしまう。

「どうした?」

微かに気落ちした様子の見えるマグノリアに、クロードが声を掛ける。

「おじい様……ひとりで淋しいかなと思って」

出て来た、思ってもみない言葉にクロードは思わず口元を緩ませた。

……確かに、マグノリアの居ない食卓は味気なく淋しい事だろう。

「食事が終わったら手紙を書くといい。鴉に運んで貰おう」

食事の後に執務室に顔を出すと、窓辺に鴉がいた。

マグノリアの顔を見ると小さくひと鳴きするので、近くによって撫でて葡萄を一粒あげると、不服そうに鳴いた。

「肉の方が良かったみたいだな」

「えー、もうお肉食べたんでしょ? デザートだよ」

「……カー」

文句を言いながらも食べるらしい。

通信筒に手紙を入れると、ベランダから飛び立ち、上空で大きく旋回すると真っ直ぐに飛んで行く。

ふたりで並んで鴉を見送ると、トマスさんがテーブルにお茶の用意をして下がって行った。

「もうガイは帰って来たのですか?」

「いや。ちょっと重点的に確認して来るらしい」

窓の鍵を閉めながらクロードが言う。

ガイは王宮に潜り込んでいるようで、この隙にいろいろと探っているらしかった。

「何か気になる事があるんですか?」

「いや……直接どうこうというのは無いな。数名宜しくない奴等がいる位だろう」

――この辺は触らない方が自分の為だろう。

余り関わらない方が、色々と安全だ。

「それで、リシュア家のご令嬢はどうだった?」

異世界の転生者だという少女。

本当は気になっているので一緒に様子を見たかったのであろうが……叔父が一緒にお茶会というのもどうなのだと思うのと、子爵家の令嬢が辺境伯家の大人と一緒では緊張するだろうという配慮から同席はしなかったのである。

ヴァイオレットならば、嬉々として同席を喜んだであろうが……

そう思いながらマグノリアは何から話せば良いか思案した。

「そうですね。人柄は気さくで、とても良い子でしたよ……」

クロードは流麗な字で書かれた書類をもう一度確認する。

マグノリアが聞き取りをし、譲り受けた資料を抜粋したものらしい。

この世界は、彼女たちが且つて暮らしていた『チキュウのニホン』で作られた『ゲーム』……遊戯板のような娯楽であり、それが絵として浮かび上がるもの……で、小説のような芝居のような創作物と同じ世界であるらしかった。

……言葉は解るが、内容が全く理解出来ない。

ゲームは解る。チェスやカードゲームなど娯楽や勝負の為の遊戯であろう。

それが、絵の様に人物が浮かび上がり、動くらしい。カードや駒でなく、人が。景色や建物まで。

更にその動く人々が、芝居をするらしいのだが。

……その芝居の内容を選択しながら脚本が進んで行くのを楽しむものだという説明は、字面だけは理解した。

その脚本というか話というかが、この世界とほぼ同じらしいものが存在するらしいのだ。

「……それは、こちらから『チキュウ』に『テンセイ』した者が作ったのだろうか?」

そうでないと、こちらの国も制度も人間の名前すらも同じと言うのがどうして解るのだろうか……?

「いや、多分違うと思いますよ。うーん、全く可能性が無い訳ではないですけど……そういう『設定』があるというか。

……向こうで作られているのと同じ世界に、『ある人』――私やリシュア子爵令嬢ですね、が、転生してしまうと言う設定のお話の分野があるんです」

「…………」

クロードは微妙な顔をしていたが、いつまでもここで足踏みしていても仕方がないと悟ったらしく、全て呑み込むことにしたらしい。

「……それで、市井で育った男爵令嬢が王子とルイ殿、兄上とブライアンと恋愛関係になるのか? それで彼女が全員に気に入られると、俺までその幼女と恋愛関係になると?」

あ り え ん

眉間の渓谷がとんでもない事になっている。

……きっと頭の中で、多情でふしだらな、とんでもない幼女が出来上がっている臭い。

「あー、うーん……現実世界だと、どうなんだろう……無自覚に相手が気に入るような行動とか仕草とかをしてしまうのかもしれないですね? それに今は幼女でも、学院に入学する頃は少女に成長しているかと」

「第一、その娘は男爵令嬢なのだろう? 幾ら学園では平等にとは言え、全く平等に行動する馬鹿は居ないぞ? ……ある種学院は社会の縮図だ。社会に出て間違わない為の行動を学ぶための場所だ」

ごもっともである。

多少の間違いはお目こぼしされるだろうが、学生とは言え、決定的なやらかしは許される筈が無い。

「まあ、難しいですよね……モテる人はいる訳じゃないですか。本人は普通にしててもモテちゃってしょうがないんでしょうねぇ」

ヒロインとはそういうものである。

思い当たる節があるのか、クロードは小さくため息をついて、それでもと続けた。

「普通の精神を持っているなら、王子とそう勘違いされる様な行動は慎むのが礼儀であろう。まして王子には婚約者がいるのだろう? その相手は侯爵家の人間なのだろう?」

もう一度青紫色の瞳を落として、まるで常識を逸脱しているそれらを再確認している。

「こんなおかしな行動をするご令嬢を、注意するのは当たり前ではないか? 周りの大人が放置して置くのも解らないし、挙句婚約を破棄して王太子妃にそのご令嬢を据えるのか……? 一体、ガーディニア嬢が幾つから教育を受けていると思う?」

……ごもっともですね。

小さい時から訓練を受けていなければ、男爵令嬢としての立ち居振る舞いだけでも怪しいだろうに、その上王太子妃とは。

並の神経ならば恐怖でしかないだろうと思う。

「ヒロインって凄いですね。タフ」

「そういう問題でもあるまい」

素直に感心するマグノリアに、クロードは渋い顔をした。

「まあ、私の周辺はだいぶ変わると思うのですよ。私自身の考え方が違うので、このような行動を取るつもりもありませんし。お父様も役職が違う上に王家に警戒心を持ってますからね」

「……幽閉にはならないと?」

「はい。婚約も王太子妃候補にもなるつもりもないですし。第一、不敬と言われようとも王子はご遠慮したいですからねぇ……ヒロインに意地悪するつもりも関わるつもりもないですもん」

クロードは吟味するようにもう片方を見た。

「問題はこっちだな……」

頭が痛そうに、そして苦々しい声である。

そう、『プレ恋』だ。

「この、ユリウス皇子だが、実際に同じ名前・年齢の皇子がマリナーゼ帝国にいらっしゃる」

エロゲーのヒーローは実在するらしい。

「貞操の危機ですね……」

「低層?」

「違いますよ……貞操です。この皇子、エロゲー……破廉恥なゲームの主人公なんですよ」

クロードは切れ長の瞳を瞬かせながら、微かに首を傾げた。

「破廉恥なゲーム?」

「本来は別の『ゲーム』の主人公なんですが、こっちの『ゲーム』にも出張して登場してるんです」

「……何故?」

「さあ?」

マグノリアは肩を竦めた。

何故って、きっと大人の事情というやつで企画を通したのであろう。

「リシュア子爵令嬢もまだ知らない事が多かったらしく、不明点も多いそうなのです……ただ、そういう特性もあって、破廉恥なイベ……出来事が起こって、私の貞操が危ないって話ですよ。まして平和も危機ですし」

「しかし、幽閉ありきの話であろう? 幽閉されないのなら、開戦はしないのではないか」

「そうですね。そう願いたいです」

「それに、俺はこっちでは今度はマグノリアに恋愛感情をいだくのか? 挙句助ける為に公国を再興して挙兵? 色々ありえんのだが」

クロードの正体は記載しなかった。

クロード自身が知っているのかどうかは別にして、知らない筈のヴァイオレットが秘密を知っていると解ったら、口封じのためにサックリと暗殺されかねないからだ。

「それも、実際はもう出会っている上に一緒に暮らしていますからね……起こらないとは思いますけど。どういう強制力が働くか解らないので、念のために知っている情報は伝えておこうかと」

それと、コレットとアイリスの件も伏せておく事にする。

……余計な混乱を招くだけだからだ。

「この第三の男というのは誰なんだ?」

「さあ。普通、攻略対象者……相手役の人は数人いるものですから、新しい相手役でしょうね」

「不明な事が多いな……」

大きな、とても大きなため息をついた。

気持ちは解る。

「まあ、結局、学院で諸々に出会うと引き起こされますからね。なので学院へ入学しない予定でいるのです」

「それは……決めてしまうのは性急ではないのか?」

「学院に在籍する大切さも意味も解りますけど。ものがものですから、避けれるなら確実に避けたいのです。関わって強制力が発揮されると面倒ですし、王妃様の様子も、こう……なるべく関わらない方が面倒が少ないと思うのです」

お茶会の様子を、やはり何処かで見ていたガイに事細かに報告を受けたらしい。

その上、早速今日も体調が良くなったら登城するようにと手紙が来たそうなのだ。

「まあ、案のひとつだな。まだ時間はある」

納得出来なそうな表情をしながら、クロードはもう一度、信じられない内容の羅列を読み返す事にしたらしかった。