軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友人が出来ました

それにしても、何だろう。どうして微妙に現実とズレているのか?

「ズレた? ズレてる?」

現実と虚構の差なのか。いつかどこかで強制力が働くのか。

ひとつのズレが、現時点では大きく乖離し始めているように思う。

一番最初の一手は、ジェラルドが未来を垣間視て下した選択だ。――変化はバタフライエフェクトってやつなのか。

それなら、もう現実はどう動いていくのか解らないのか?

マグノリアは視線を左右に動かしながら整理する。

……そもそも、ゲームの中のジェラルドも未来を視る力があったんだろうか?

視てそれでも、ゲームでは宰相になる事を選んだのか?

「……ヴァイオレット様、『みん恋』は魔法が使えない世界なんだよね?」

「ヴァイオレットでいいよ。――魔法は、基本はモンテリオーナ聖国でしか使えないよ」

その設定は現実と一緒らしい。

実際は使えないのではなく、極々弱い魔力になってしまい、使い物にならないという事らしいが。

「じゃあ、魔法に代わるような不思議な力みたいなのは?」

妖精や精霊の力。妖精国ハルティアに伝わる力だ。

「不思議な力……? 聞いたことが無いなぁ。裏設定メモとかでも読んだことないかも……」

「…………」

と、すると。ただ公表されていない設定なのか。

それとも何かが要因で、当初とは違う動き……誤作動を起こしているのか。

「……バグ?」

「え? 何?」

呟くようなマグノリアの声にヴァイオレットは首を傾げた。

――転生もそのせい? それとも転生したからバグが起こってる?

「『みん恋』は、原作がゲームで、コミカライズとノベライズがされているんだっけ?」

「あとアニメもあったよ」

「……すげぇな、みん恋」

なにげに一大プロジェクトだ。

どことなくダサいのに、本当に人気があったんだと不思議な感じがする。

「中身に差違みたいなのって無い? 出る人・出ない人とか、設定とか」

「特になかったと思うけど……初代……『みん恋』の事ファンはそう呼ぶんだけど。初代は無いと思うけど、『プレ恋』はわからないかも」

「続編だから? まだ出始めだった?」

「それもあるけど……」

言いながら視線を泳がせた。

暫くして、ああ、と思い至る。

「年齢制限か」

春日すみれは十四歳だ。コクンと頷く。

「看護師さんに何回もお願いして内容を教えてもらったり、ネットとかで情報を探したんだ。だから、『みん恋』に比べてよくは解らないの」

「本当に大好きだったんだね……」

誰かにとってはたかだかゲーム。

しかし彼女にとっては、大きな拠り所のひとつだったのだろう。

そんな大切なものが見つかって良かったというべきなのか。それとも彼女自身が自分だけの何かを作る体力も時間も無かった事に悲しめばいいのか。

マグノリアには正解が解らなかった。

「まあ、解らないものをうだうだ考えても仕方ない。これだけ情報を貰えたら、万々歳だよね!」

そう言ってニヤリと笑って、二冊のノートを掲げてみせる。

ヴァイオレットはクスクスと笑った。

「本当に、全然別人だ! そこ、マグたんなら『何で知らないの、使えないわね』って、キーキー怒る所だよ」

「……ごめんね、大好きな『みん恋』のマグたんじゃなくて」

マグノリアは罪悪感を覚えながら、肩を竦めた。

大好きな世界観を変えてしまって申し訳ないと思う。

登場人物ひとりひとり、設定ひとつひとつに思い入れがある事だろう。

「ううん! 今のマグノリア様の方がずっと良いよ!」

気遣いや忖度ではない様子に、マグノリアはほっとした。

「……このノート、少しの間借りてもイイ? 重要そうな所写したいんだけど」

問いかけにヴァイオレットは首を横に振ると、ノートをマグノリアに押し付けた。

「ううん、それあげる!」

「え……大切なものでしょ、悪いよ!」

「大丈夫。幾らでも書けるし。元々そのつもりで持ってきたんだ」

ヴァイオレットは少しだけ真面目な顔で言った。

「だから、望まない未来は絶対回避して」

マグノリアは一瞬目を瞠って、笑いながらサムズアップした。

「おう! ありがとう」

それからは、暫くの時間たわいもない話をした。

なぜ王宮のお茶会を知っていたのかとか――過去回想シーンで出てきたらしいのだが。何やらよく解らない計算と様々なキャラの記憶を網羅して日時を特定したらしい。凄いけどもガチのヤバい人やった。

美味しいお菓子が食べたいとか。ネットがないのがツラいとか。

電気が無いのが不便だとか。

せっかく異世界に来たのだから、いつかモンテリオーナ聖国に行って魔法を見てみたいとか。

ゲームでは余り出てこない『アゼンダ辺境伯』ことセルヴェスの肖像画を見て、予想以上に筋骨隆々で慄いたりした。

ヴァイオレットの推しがジェラルドである事にドン引いていたら、いかにジェラルドが格好良いかを熱く語られて余計にドン引いた。

ヴァイオレットフィルターを通すと、胡散臭い笑顔はキラキラ笑顔になるらしい。

人の好みは千差万別なんだなぁと思いながら、温くなったお茶を飲む。

「……っていうか、ジェラルド・ルートを攻略した場合、この『〇〇と婚約した』ってやつはどうなるの?」

まさかのウィステリアさんと離婚なんだろうか? もしくは重婚!?

苦い顔をするマグノリアをよそに、うっとりした瞳で滔々と語り始める。

「ううん。その場合だけ婚約はしなくて、マーガレットは文官を目指して、部下になって一緒により良い国を目指して頑張るんだよ。ふたりは心は固く結ばれるけど、家族を思い遣ってプラトニックな清い関係なんだよ!」

「ええ~~~……?」

こんだけ派手にブチかましておいて? 妻じゃなくて部下なの?

挙句、清い? 腹黒なのに?

こんだけ気持ちをオープンにしちゃって、ずっと一緒に働いてるとかウィステリアさんも気が気じゃないね……ちょっと同情する。

心は結ばれるって、浮気というか本気でしょ。それもどうなの?

「……全年齢対象の罠なのか?」

マグノリアは自分のターンのやりたい放題(製作の)を思い、しょっぱい顔をした。

しおしおと戻って来たディーンをまじまじと見てヴァイオレットは首を捻り、ディーンをビビらせたり、辺境伯家のタウンハウスはゲームでは出て来ないので、と言って新しいノートに何やらメモしたりと元気に動き回っては、迎えの馬車が来るまで活発に活動していた。

……ああやって資料が作られていくのであろうと思う。

「また、是非遊びに来てね」

「帰るまでに時間があったら、今度王都見学に行こう!」

すっかり打ち解けて、元気に手を振って帰っていった。

ディーンとマグノリア、侍女で馬車を見送りながら。まるで小さな嵐が去ったようにしんとした静けさに苦笑いをする。

「……変な子だね」

ディーンが、ヴァイオレットの圧にドン引きながら丸い瞳を瞬かせていた。

侍女にタウンハウスの中に入るよう促される。

「確かにね」

マグノリアは今ほど別れたばかりの。

だいぶ年下で、だけども同い年の友人を思い浮かべて笑った。