軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68、学園祭準備②

ラゼはチーズケーキは常温でも問題ないようなので、とりあえず寮の自室に飛ばしておく。

言わずもがな、アディスからその話題を避けるためだ。

ユーグは「ラゼに」と言ってくれたのだから、自分のものは自分の好きなようにさせていただくことにする。

ケチだって? いや。女神と天使にお裾分けできれば、その他は知らない。うん。

彼女はそうと決めて、アディスに掴まれた腕に視線を落とす。

「あのー。アディス様〜」

はたと。彼のことを呼んでから、そういえば「ザース様」から「アディス様」呼びに変えたのはいつだっただろうと疑問がわいた。まあ、前々から死神閣下と同じ氏を呼ぶというのにも違和感があったので、不自由はしていない。二年生にもなれば、気軽に食事をしようと誘われるくらいには仲良くなれるものなんだなぁ、なんて考えながらラゼはアディスの顔を見た。

「何?」

「歩き辛いのと、転移で移動したほうが早いです」

彼女がそう言った次の瞬間には、パッと視界が切り替わり。

いつの間にか食堂前に到着していたアディスは、とても驚いた表情でラゼを振り返る。

「……転移するなら前もって言ってくれないかな?」

「言いましたよ?」

「確認はしてない……」

アディスは本日二度目となるため息を吐いた。

「君って、魔石起動回数の上限はどうなってるの? こんなことにいちいち魔法を使ってて、疲れないわけ?」

魔石を使用することは、前世でいうパソコンに近いところがある。立ち上げるまで時間がかかったり、次の操作にすぐ移れなかったり。使い過ぎれば熱を持ってしまうことも同じで、無理をすると、魔石を使おうと指示を出す人間本体の脳の回路が疲弊。最悪のところ、あの世行きとなる。

「これくらいじゃ疲れませんよ。それより早くご飯食べましょう。指摘されたら、すごくお腹が空いて来ました」

ラゼはどうってことないと、さらりと話を流した。

彼女からすればお散歩くらい気軽な魔法の使い方であって、疲れを感じるようなことはない。

今日は何を食べようかな、と呟きながらショーウィンドウのメニューを見つめる。

「よし。今日はカレーで決まり! アディス様は決まりました?」

「俺はラーメン」

(ラーメン……。本当、訳わからん文化してるなと思ってたけど、乙女ゲームの世界なら納得だよね)

ラゼはショーケースにならんだ洋食、和食、中華料理たちを横目に食堂の中へと進んだ。

時間が外れているため、食事をしている生徒たちは少ないのだが、思いの外席は埋まっている。学園祭の打ち合わせをする生徒たちが使っているのだ。

ふたりは料理を持って空いている席につくと食事を始める。

綺麗な箸捌きで、豚骨ラーメンを啜る乙女ゲームキャスト。

感慨深いものがあるな、とラゼは思わず目の前の彼を凝視した。

相変わらず、ため息がでるほど整った顔をしている。初めて見たときは死神閣下とそっくり過ぎて、全く近付きたくない存在だった。

しかし、よーく見てみれば、口もとはお 母様(バネッサ) に似ていて、全てが死神閣下と一緒では無いとわかる。

「……そんな見られると、食べ辛いんだけど……」

「あ、すみません。やっぱりお母様とも似ていらっしゃるなと思って」

アディスは意外そうに目を見開いた。

「父さんには似てるって言われるけど、母さんに似てるって言われたのは初めてだ」

「まあ、だいたいの顔つきは宰相閣下とそっくりですけど。パーツでみると難攻不落の戦乙女様と同じですね」

「……君、俺の親のファンか何か?」

よくそこまで見てるな、と暗に言われていることに気がつき、ラゼは内心ハッとしながら、やんわりかわす。

「ファン? この国を支えてくれてる偉い人にファンと言うのも、なんか違う気がしますけど……そんなところですかね? おふたりとも尊敬してますよ」

彼女はそう答えてパクリとカレーを乗せたスプーンを咥えた。

(ま。本当はどちらとも面識があるし、お父上は私直属の上司なんですけどねぇ)

もし知り合いだと言ったら、一体どんな反応をされるものなのだろうかと思いつつ、ラゼはカレーを食べ進める。

「……そういえば。母さんに君と会って話してみたいから冬休み、家に誘えって言われてたな」

「ゴホッ?!」

不意を突かれて、彼女は咳き込んだ。

それを身分の差を気にしての驚きと捉えたアディスは話を続ける。

「俺の友人だって言ってある。人を見下すようなことはしない人たちだと思うし、嫌な思いはさせないから来れば? 勿論カーナ嬢たちも誘っていいし。まあ、無理にとは言わないけど」

(え。バネッサ様の誘いを断るとか、やっていいことですか? 駄目ですよね?!)

わざとだ。アディスを通してバネッサから会おうなんて言われるとは、絶対、何らかの思惑があって誘われていることは確実である。

彼女は水を飲んで気を落ち着かせた。

「その。ご迷惑でなければ、是非……」

「迷惑じゃないよ。こっちが誘ってるんだし。じゃあ、そう伝えとくから。また近くなったら言うよ」

「わかりました」

ラゼはこくりと頷く。

「学園祭が終わったら、もう冬休みですか……。早いですね」

「そうだな」

夏の総当たり戦と同じく、冬の学年別トーナメント戦の前にも休みが設けられている。時が経つのはあっという間だ。もう、カーナの運命を左右する冬の季節がすぐそこに迫っている。

(冬の大会でカーナ様が怪物とやらになって暴走するっていうのが、乙女ゲームのシナリオなんだよな)

ラゼは最後の一大イベントを振り返った。

「……いつまで、こうしていられるんだろ……」

避けられないイベントの発生。内容が内容のため、それなりの覚悟で任務を全うしなければならない。もしかすると、自分の正体がバレるどころか、命が危ぶまれる可能性もある。

「どういうこと?」

ラゼの口から出た本音を拾ったアディスは、怪訝な表情だ。彼女の声色が、珍しく悲しみを帯びていたために見過ごせなかった。

「いえ。何でもないんです。……ただ、まあ。これから進路のこととか、皆それぞれ忙しくなるんだろうなと思っただけで」

本当は、冬の大会を迎えればもう自分はこの学園を去るのではないかという予感がしていた。

「別に三年になったって、大きく今と変わるようなことはないでしょ。君は特待生なわけだし、これからもカーナ嬢たちに頼りにされるんじゃない?」

アディスから思わぬ言葉がかけられ、ラゼは彼の顔に視線を移す。

アディスはすました顔で、ラーメンを食べていた。

これからも頼りにされる……。彼にはそう見えているのか。第三者からそう言われると、何だかこそばゆい感覚だ。

「そうだといいな」

彼女は照れ隠しで、はにかんだ笑みをアディスに向ける。

それを目の前に見たアディスは、ぴたりと箸を止めるのだった。