作品タイトル不明
44、後夜祭について
宮の中に入ると泊まる部屋の案内を受ける。
それぞれ個室が用意され、庶民のラゼにも立派な部屋が与えられた。
カーナがルベンの隣の部屋になっていたのは想定内である。
その後、客室で旅の疲れを癒すためにお茶を。
(なんて優雅な!)
移動のために休憩するなど軍生活からすると考えられない出来事に、ラゼは内心驚きながらも小腹を満たすようにお菓子へ食指が動く。
「御学友さまもご到着したようです」
少しするとフォリアが客室に顔を出し、ラゼは彼女の元気そうな様子に安心して笑みを溢した。
「ラゼちゃん! 元気にしてた?!」
抱きつかれながらカーナと同じことを聞かれて、ラゼはうんと頷く。
天使は今日も天使で尊い。
「あ。そうだ。これ、ゼール様がラゼちゃんにって」
「え?」
体を離したフォリアから渡されたのは何かが入った紙袋。
彼から物をもらうような事などしていないはず。
不審に思いながら中を確認すると、手紙が見える。
それを開いてみると『フォリアのことを頼んだ。いざとなったらこれを使え』との文字が。
恐る恐る袋の中身を見てみると、相手に触れて魔法を発動すると電撃が流れる、いわばスタンガンのような代物が鎮座していた。
「うわぁ」
思わず頬が引きつる。
一体これを誰に向かって使わせるつもりなのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。
ラゼはすぐに自分の部屋へその袋を転移させた。
「何だった? ゼール様、答えてくれなくて」
「……お菓子だったよ」
「そっか!」
「……」
フォリアが全く疑うことをしないことに、ちょっぴり心が痛んだ。
「全員集まったな。そろそろ本題に移ろう」
客室から移動した場所は、どうやらこの集まりのために準備したらしい大部屋。そこには話し合いができるスペースと作業ができるスペースが。
「お城ってすごいね! まるでお伽話の世界みたい」
「それ、私も思った」
「やっぱり?」
フォリアに同意すると、彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
(ああ、これだよ。これ……)
自分の求めていた反応が得られて、とても安心できる。
狼牙の称号が授与された時など、皇城にも足を運ぶことがあるラゼだが、前世から庶民である彼女には貴族の気品というものにどうしても目眩を覚えるのだ。
「では、始めましょうか」
席についたのを見計らい、委員長であるカーナが司会を務める。
第一回セントリオール学園祭の全体テーマは「ミルキーウェイ」。
カーナ様の提案で付けられたこのテーマには、星のように個々人が輝いて活躍できる舞台になって欲しいという思いが込められている。
運営委員会ではこのテーマに沿った装飾を作ることになっており、ラゼはこの三日で軍の仕事に戻るが、他の運営メンバーが準備を進めてくれていた。
財も魔法もございますから、思うほど時間はかからずに完成する予定なのである。
今回の集まりでは、学園祭最終日の夜に行われるイベントの用意をすることになっている。
彼らはまず、イベントの内容について持ち寄ったアイデアを発表することに。
前世の記憶があるカーナは、後夜祭といえばということでキャンプファイアを提案。
他の皆さまは、内容はそれぞれだがひとくくりにするとパーティーだった。
「ラゼは?」
最後にラゼの番が回ってくる。
討伐、研究、開発とあれだけ忙しい日々だったが、ラゼも勿論、この日のために案をこさえて来た。
「私が提案するのは、キャンドルナイトです」
「キャンドルナイト?」
イアンが聴き慣れない言葉を繰り返す。
「はい。ひとりひとりがキャンドルに火を灯して、訓練場にそれを並べるんです。テーマのミルキーウェイにも見えるんじゃないかと。
あ! 今思いつきましたが、透かしの紙をかぶせれば、願い事なんかもかけていいかもしれません」
「それ、素敵!」
カーナがラゼの提案に食いつく。
「最後は、魔法で空に飛ばしたらどうかしら?」
「いいと思います。あれ、やってみたかったんですよね」
前世の記憶がチラリと覗いたラゼは、きっとカーナも同じことを思い浮かべているのだろうと思う。
「お願い事を書いて空に飛ばす……。すっごくいいと思う!」
フォリアも目をキラキラさせて頷く。
「ミルキーウェイっていうテーマにも一番合っているな」
ルベンの言葉が決定打となり、ラゼの案が採用されることになった。
燈篭をイメージして話し合いを進め、具体的な方法について決めていく。
「雨の日にも、星が見えないからこそやりたいイベントだね」
「……それなら、僕の知ってる魔法で防水できると思う」
「本当?! そんなことまで知ってるなんてルカ様、すごい!」
「これくらい、別に……」
(ああ、ホントにフォリアが居てくれて良かったわ)
彼女がいるから、どんなところでもアットホームに温かい雰囲気が生まれる。
イケメンたちの意外な一面も拝めて大変満足である。
ラゼはスタンガンを思い出しながら、よくぞあの男の元からこちらへ来てくれたと感謝した。
「天燈篭をあげたあとに外でダンスをするのはどうかしら?」
「それなら、ダンスの間はランダムの高さで天燈篭を空に浮かべておいたほうがいいかもしれません。ダンスが終わったら、空に放つ。どうでしょうか」
「それがいいわ!」
クロードは頷いて手元の紙に考えをまとめていく。
「綺麗に透ける紙を探したいね」
アディスの呟きにラゼがピンとする。
「それなら、ビーハムにいいお店があります」
彼女は自宅から紙を転移させ手に紙を持つ。
諜報活動中に見つけた工房で、主に包装紙を手掛けている。部下からもらったお菓子の包装紙が綺麗だったのを覚えていたのだ。
「〈ハピリフ〉というお店で、包装紙を主に作っていらっしゃいます。これは便箋ですが、よろしければご覧ください」
ラゼはサンプルを渡す。
「透かしが入っていて素敵。この便箋、わたくしも欲しくなっちゃうわ」
「気に入って頂けたなら、差し上げますよ。私は持っていても使う機会があまり無くて。カーナ様に使って頂いた方が、仕舞っておくよりいいですから」
「いいの? ありがとう」
カーナの美しい笑みに、ラゼはキュンとする。
(ビクターくん、お土産ありがとう!! とっても役に立ってるよ!!)
この紙に出会うきっかけをくれた部下に、心の中で頭を下げた。
「私、明日そのお店に行って頼んでみましょうか」
「そうね! 紙にこだわるなら、キャンドルにもこだわりたいわ。明日は紙、キャンドル、防水対策などの魔法開発の三つのチームに分かれて行動しましょう」
そうして別れた班は、
紙—ラゼ、クロード、アディス
キャンドル—カーナ、ルベン
魔法開発—ルカ、フォリア、イアン
となった。
キャンドルの班については、もう何も触れないでおこう。
強いて言うなら、カーナ様頑張れ——。
魔法開発に治癒魔法以外苦手なフォリアがいるのは、万が一失敗して怪我をしたときに対応できるようにだ。
(まあ、納得の班編成かな)
紙を手配するのに、クロードが居てくれるのはとても頼りになる。
アディスについては、出先での行動に不安はあるが、やることはやってくれるだろうから、目を瞑ることにする。
「ビーハムはここからだとかなりかかるわね……」
「それなら大丈夫です。ふたりくらいなら(余裕で)飛べますから」
「えっ、あれだけの距離を?!」
魔法がお得意のルカが驚きの声を上げた。
(あれ? これって難しいことだっけ?)
転移装置並に、五百人くらい一気に移動させることができるシアンのエース。
感覚が麻痺しているが、例え得意型でも国を横断するような距離を飛ぶのは至難の技である。
「え。近くにマーキングは済ませてあるので、問題ありませんが……」
「本当に言ってるの、君?」
ルカは席を立つとラゼのチャーム(ピアス)に手を伸ばす。
魔石に触れると、彼は石を鑑定する魔法を起動する。
バチッ
「なっ、弾かれた?」
魔石に累積した情報を探ろうとしたところ、魔法が弾かれてルカが唖然とした。
それが意味するところは、彼女の魔石起動能力が自分より高いということ。
「だ、大丈夫ですか、ルカ様」
驚いたフォリアが慌てて駆けつける。
ルカの魔法は学園でも一位二位を争う腕だ。
それを弾いたラゼに視線が集まる。
「え、えっと……」
ラゼは何と説明したものかと、冷や汗が止まらない。
「さすが理事長が見つけて来た特待生。気になってたんだけど、君、学園に入る前は何やってたの?」
アディスに尋ねられ、ラゼは目を伏せる。
(や、やらかしたぁ……)
まさか庶民嫌いのルカから自分に手を伸ばしてくるとは思わなかった。
完全に油断をしていた……。
三連休に気が緩んでいたのかもしれない。
「アディス様、それは……。ラゼ、無理して言わなくていいわ」
カーナがフォローに回ってくれるが、本当は彼女も知りたがっているだろう。
ラゼは能力がバレた時の言い訳を発動する。
「いいんです。隠すつもりはありませんでしたから。私は各地を転々としながら、冒険者をやっていました」
ラゼ・グラノーリの経歴にも、ちゃんと冒険者としての活動が偽装されている。
能力が隠しきれなかった時に、冒険者という職はいい隠れ蓑になるのだ。
「場数だけは踏んでいるので、少しは戦えます」
優秀な金の卵たちに囲まれながら、学園生活二年目までこの言い訳を使わなかったことを寧ろ評価するべきだと思いたい。
「やっぱり、大会では手を抜いてたんだ」
アディスの確信的な言葉にラゼは少しムッとして答える。
「……ザース様には言われたくありません。平民が出しゃばって良いことは無いですし、私は学園で勉強ができればそれでいいんです」
だいたいこれで自分の身分は確定した。
ここから軍人だと疑われる可能性はかなり低いだろう。
「冒険者……。いつからやってたの?」
フォリアが心配そうに訊く。
彼女はもう治ったことになっている、ラゼが幻術で隠し続けている腹の黒い傷のことを思い出していた。
「ひとりになってからだから、五歳の時からかな」
「そっか……。危ないことは無かったの?」
「それはまあ、冒険者だから色々と。でも、助けてくれる人もいたし、この魔石も貰えたから。気にすることないよ。おかげで今はこうやってすごく充実してるし」
天使の悲しそうな顔など見たく無かったラゼは、そう微笑んで彼女の頭を撫でる。
すると、ちょうどそこで扉を叩く音が。
「失礼いたします。お食事の用意が整いました」
「わかった」
ルベンが執事に返事をする。
「切りもいいから、ここまでにしよう」
「はい。食事の後、明日の時間だけ決めて、あとはみんなでゆっくり過ごしましょう。せっかくのお休みですし」
「そうだな」
そういうことで、一同は夕食を摂ることになった。