軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32、ヒロインの戦法と昼食

「丁度始まるところですわ」

フィールドの中央にフォリアが緊張した面持ちで立っている。

相手は同じ一年生。

治癒魔法以外苦手なフォリアだが、一体どうやって対抗するだろうか。

「フォリア、頑張れー!!」

ラゼは大きな声援を送る。

それに気がついたフォリアは、こくんとひとつ頷いた。

(……よし)

合図が鳴ると、彼女はすぐに魔法を起動。

「あれって、治癒魔法よね?」

「なんで?」

「見てれば分かる」

ルカに言われて、カーナとラゼはじっとフォリアを見つめる。

怪我もしていないのに治癒魔法を発動させるとは、どういうことなのだろうか?

「あ」

治癒魔法にかけられた相手が、満たされた表情に変わったかと思えば、そのまま眠りについてしまう。

戦闘不能。フォリアの勝ちだ。

「まさかあんな使い方をするなんてね。やっぱり彼女、面白いや」

アディスの呟きが聞こえる。

フォリアはゲームで浄化の魔法を習得することになっており、ラゼはその片鱗を見た気がした。

戦わずして勝つとは、流石ヒロインクオリティ。

「ねぇ」

「ハイ」

アディスに呼ばれ、ラゼはそちらを伺う。

「さっき言ってた強制力って、本当に無いと思ってるの?」

意外に真剣な表情でそう尋ねられ、彼女は目を丸くした。

「無いと思いますよ。あれ見てください」

保護者側の観客席に誰かを見つけて、パアアッと顔を輝かせるフォリアを指す。

言わずもがな、そのお相手はゼール・イレ・モルディール。

客席で異彩を放っていらっしゃるので直ぐにわかった。

女の子をたくさん相手してきたアディスなら、フォリアの表情を読み取るくらい造作もないだろう。

「……怖くない訳? 君が死ぬ可能性だって否定できないんだろう?」

「前にも言いましたが、私が怖いのは飢えることくらいですよ。誰だって今日死ぬかもしれないんですから、そう深く考えたって仕方ないです」

前を見つめたままそう言ったラゼに、アディスは怪訝な顔に変わった。

彼女は達観しているというよりも、自分の身を何とも思っていないような節がちょくちょく見受けられる。

人の行動に敏感なアディスは、そのことに気がついていた。

(自分には、何も守ってくれるものが無いくせに)

最初は特待生だから、自分が騎士団に入るべくラゼ・グラノーリを気にかけていたのだが、彼女を観察して知ることが増えるほど、どこか危うさを感じる。

「お疲れ〜!」と呑気に手を振るラゼを見て、アディスはため息を吐いた。

彼女ならばバトルフェスタも余裕で勝ち上がってくると思って、あの母親から指導も受けてきたというのにとんだ誤算だ。

(腹立つ……)

誰かにこんな感情を抱くのは久々だった。

禁術の一件以来、何事もなく大会は進んだ。

攻略対象者の皆さまは当たり前のように先輩たちを倒して、一年生としては大変優秀なところまで進んでいた。

この大会には、スカウトに来るお偉い様がいらっしゃるのだが、皆さんの目は早く彼らが三年生になって欲しいと言っていた。

カーナもかなりお強く、ラゼとフォリアが驚いていると、「殿下のお側にいるためには、このくらいできて当然よ」だそうだ。

前に聞いたときより、自信がついているように見えたのは、きっと心の痞えが軽くなったからに違いない。

殿下とも心が通じ合えて、イチャイチャ度が急激に増したのには、相変わらず砂糖を吐きそうだが、ふたりが幸せそうで何よりだ。

フォリアのイベントについては細心の注意を払っていたが、それらしきものは起こらなかった。おかしいなと感じたラゼは、自分が負傷したことが代わりのイベントだったのかもしれないと気がつく。

ゲームの強制力について否定はしたものの、身代わりイベントの発生がどうにもならない。

(……最悪、私が身代わりになればいいか?)

それか何処からか代わりにイベントを被る人を探して来ようかなと彼女は真剣に検討し始めた。

ラゼはひとりで昼食をとりながら、うーんと唸る。

なぜひとりかって?

他のみんなは保護者の方々と家族団欒でお食事中なので、ラゼはボッチ弁当である。

今日は丁度、みなさんご家族が観戦にいらっしゃっており、自然とひとりになってしまった。

一緒に食べようと誘ってくれたのだが、家族水入らずで話したいこともあるだろうし、遠慮しておいたのだ。

「ラゼーー!!!!!」

「へっ?!」

「きゃあ! 可愛い!! 制服じゃない!! なんなの? 天使? マイ・スウィート・エンジェル!!」

何とかお弁当は死守したが、突っ込んできたカノジョを受け止めきれず、ラゼは顔を青くする。

「ジュリアさん、な、何でここに?」

「何でって。わたしの癒しを探しに来たに決まってるじゃない? 制服とか最高過ぎるわっ」

はぁはぁして詰め寄られ、ラゼは頬を引きつらせた。

ジュリアス・ハーレイ。今年で二十八歳。

身体は男性、心は乙女。のラゼと同じくシアン皇国軍討伐部に所属するオネェさんである。

「で、本当は?」

「本当は?って酷いわね。勿論あなたに会いに来たのが一番の理由よ? そのついでに、陛下たちの護衛。それより、ちゃんとご飯食べてるわよね? あの子たちには厳しく言うくせに、自分は忙しいとご飯食べるの忘れちゃうから心配してたのよ?」

陛下の護衛をついでとは……。

まあ、陛下には騎士の皆さんがぴったりくっついていらっしゃる。ジュリアスは広範囲の探知に長けているので、念のために会場に配置されたのだろう。

「ちゃんと食べてるよ。ここにいると規則正しい生活をせざるを得ないから」

「そう? それは良かったわ。あ、これ差し入れよ」

抜かりなく差し入れを持ってきてくれるジュリアスは女子力がかなり高い。

「中は?」

「ゼリーよ。沢山持ってきたからお友達とでも食べて」

「ありがとう」

紙袋を受け取って、ラゼは笑顔で礼を言う。

ジュリアスとは同じ部に居ても、あまり一緒に仕事をすることが無いのだが、カノジョの方から話しかけてくれたことがあり、それ以来仲良くさせてもらっている。

料理は上手だし、美容にも気を使っていて、顔を合わせる度に色々してくれるので、姉のような存在なのだ。

「そういえば、ヨル教授があなたに会いたくて暴れてるわよ」

「うぇっ。やっぱり?」

ゾーン15の新種は、今までとはまた違う個体だったので、ヨル教授が食いつくとは思っていた。奴らには人に近い理知的な行動が見られるのだ。

ラゼがしかめっ面になりながら、食堂でテイクアウトしておいたお弁当を食べようとすると、ヒョイとそれをジュリアスに奪われる。

カノジョはその代わりに、自分で作ってきたお弁当をラゼに持たせた。

「わたしの手作り。あなたの為に作ったから、そっちを食べて」

「嫁に欲しいっ!」

思わずラゼは叫ぶ。

カノジョ以上に、出来た嫁になりそうな人をラゼは知らない。

恋愛対象が男性なのが惜しかった。

「教授は、まあ、フレイくんが何とか頑張ってくれるでしょう」

彩り豊かなジュリアスのお弁当を頬張りながら、ラゼは答える。

フレイくんとは、ヨル教授の助手のことだ。

いつもオカン並みにヨル教授の世話を焼いてくれているので、今回も彼に任せたいと思う。

「どうだった? 新境地は?」

「それなりに手強いよ。長い年月をかけて進化したのか、今までの奴より知能がある」

「そうなの。それは倒しがいがあるわね」

「うん。魔石のレベルも見直す必要がありそう。このままだとSを何個も重ねることになるからね」

ラゼは自分の耳についたピアスを触る。

ジュリアスはラゼから取ったお弁当を代わりに食べながら、その様子を伺っていた。

「学校はつまらない?」

「え、何で? 楽しいに決まってるよ」

ジュリアスの問いにラゼは目を丸くする。

「そう。それなら良いの。次の休みにはわたしのところにもちゃんと顔を出しなさいよ?」

「うん。この前はごめんね。忙しくて」

「分かってるわ。クロスくんがあなたが働き過ぎで心配してたもの。無理はしないようにね。お肌に悪いんだから!」

「はーい」

ジュリアスらしい怒り文句だ。

カノジョが仕事に移るまで、ラゼは楽しくジュリアスとご飯を食べた。

「じゃあ、またね。ラゼ」

「うん。お弁当と差し入れ、ありがとね」

「いいーえ。お勉強は程々にね?」

「ハハ。わかったよ」

そんなアドバイスをしてくる人は滅多にいないだろう。

ラゼは笑いながらジュリアスに手を振った。

「あれ、ラゼちゃん。今の人は?」

ジュリアスとは反対側から何かを抱えて戻ってきたフォリアが不思議そうに彼女を尋ねる。

「知り合い。いつもよくしてくれて、私がここに入学したの知っててお弁当くれたの」

「そうなの! よかったね!」

「うん」

ラゼをひとりにさせてしまうと分かっていたフォリアは、ご飯を食べ終えてすぐに戻って来てくれたみたいだ。

「これね、ゼール様が友達と食べろってくれたの!」

「私もゼリーもらっちゃった。一緒に食べよ」

「うん!」

それぞれもらったものを広げていると、ラゼはフォリアが持ってきたお菓子を見て固まる。

シアンの西部で有名な伝統菓子「レレブ・ストリース」。

身分の差に愛を阻まれた男が、魔女に自らの声を捧げて愛する者には効かない毒をもらい、それが盛られたお菓子を食べさせて晴れて結ばれるという逸話から来るお菓子である。勿論、本当に毒など入っていない。

(ロマンチストというより執着質というか……。フォリア大好きだな、モルディール卿……)

ラゼは毒に当たらないことを祈りながら、レレブ・ストリースをかじったのだった。