軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33*青い魔石

「――お話があります」

「いいぞ。好きにしろ」

「…………」

父親がほとんどの時間を過ごしている参謀本部の執務室に乗り込むと、なんの説明もしないうちに言われたのがそれだった。

ババロアと同じく先を読んでの発言らしいが、彼女が言うのとこの男に言われるのとでは、まったく違う。

「その代わり、必ず狼牙を生還させなさい」

長机に座ったままのウェルラインから、書類を差し出される。

「……これは?」

「勅許だ」

「…………皇上陛下が許しを……?」

「大婆様の進言とはそれだけの力を持つ。覚えておけ。必要なモノコトは全てそろえよう。――ただし、おまえがこの件におけるすべての指揮をとりなさい」

「……承知しました」

アディスは机の上に滑らされた書類を手に取った。

癪だが、こちらの欲していることは見透かされている。

正直、自分が見たものを確認するためのことに、ここまでお膳立てしてもらえるとは思っていなかった。

まだ文官として働き出してから、そう年月の経っていない自分にこの役目を一任されたことに猜疑はある。

しかし、それでも、他の誰かに任せるくらいなら。

彼女を生かして国に返すという意志だけは、誰にも劣らない自信があった。

国の英雄だろうと、彼女のことを駒としてしか見ていない人間たちに負けられない。

「今回、公に狼牙の擁護はできない。表立って動けば、それだけ予言にもズレが生じるからだ」

思考するアディスに、ウェルラインが告げる。

「大婆様が、おまえに任せるのが吉だと言った。――が、おまえひとりに全ての命運が任されたと勘違いするなよ。こちらはこちらで準備を進める」

(……準備……)

それは、一体何に対する準備なのか。

話の流れからするに、自分が動くのに必要なものは全て揃えると言っていたのとは、別件だろう。

となると、その準備というのは、ラゼが無事に帰ってこなかった場合に対する対処の準備のことだと予想がつく。

(この人も、結局は国の僕だ)

なかなか家に帰って来ない父親の生き方は、嫌というほど知っている。

国を守ることが、この男にとっての最優先事項。

築き上げた自分の立場を危険にさらしてまで、一兵士を守ることはしない。できない。

「はい。胸に刻んでおきます」

アディスは同じ色の瞳とまっすぐ向き合った。

「すぐに予算をまとめてきます。仕事の方ですが――」

「おまえの上司には連絡している。しばらく借りていいかと聞いたら、二つ返事で問題ないと快諾をもらった」

「……そうですか……」

上司の顔が目に浮かんだ。

もともと騎士団にいた変わり者の文官の彼は、面倒ごとが嫌いだ。自分たちに不利益はないと判断すれば、長いものには清く巻かれる。

「では、今日中には具体案を提出します」

「あまり遅くなるなよ」

「わかりました」

とにかく集めなくてはいけないのは、協力してくれる人員だ。

さほど人数はいらないが、信頼できる人を揃えたい。

浮かんだ顔を頭の端に追いやり、何が必要かを考え始める。

「……アディス」

「…………? なんですか……?」

すると、急に名前を呼ばれるから、アディスは怪訝な瞳をウェルラインに向けた。

「今着けている、そのチャームは四年ほど前に水の都でもらったと言っていたな」

「……はい。そうですが……」

何の話をしているのか、脈絡のない話題に小首をかしげる。

「その石は、おそらく彼女の父親を摂取した魔物から採れたものだろう」

「……………………え」

そして、言われたことに絶句した。

「魔石は、魔物が摂取したもので生成される。まだ不明な部分も多いが、食われた人の記憶らしきものが石の所持者に影響を与える事例が、わずかにだが存在している」

「……………………」

初めて聞く話に、アディスは愕然とする。

共和国にレグスの身体はあったが、言われてみれば顔から下はほぼ異形の形をしていた気がする。

身につけている石が、ラゼの父親の仇の石?

それも、記憶に間違いがなければ、この石を採取したのはラゼ本人だ。

どうして自分がラゼの未来を知って、回帰したのか。

その理由が分かったような気はするが、衝撃的な内容で飲み込むのに時間がかかった。

が、この石がレグスと関係があるという仮説は、不思議とすんなり腑に落ちた。

「この石は、初めて使った時から、彼女のために力を貸してくれました」

どうして、あの時、使用登録をしていないのに石が光って発動したのか、やっと分かった。

「レグス大佐が、おまえに彼女を任せたんだ。その期待、裏切るなよ」

そのひと言は、宰相ではなく父親としての言葉だった。

「言われるまでもありません。絶対に、彼女を生還させます」

改めて覚悟の決まったアディスは、ウェルラインの知らない男の顔をしていた。