軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13、彼女について

「――聖女様の力は本物だった!!」

最初の街に着いたその日。

フォリアは到着早々自分の使命を全うし、夜には宴が開かれていた。

星が見守る夜空の下で、広場に置かれたテーブルには街中から集まった人たちが用意した料理が並べられている。

「さあさあ。大したものは用意できませんが、好きなだけ召し上がってください!」

「……あ、ありがとうございます……」

まだ復興中の地では食糧だって制限されるだろうに、恩人に何も返さず送り出すほど共和国も腐ってはいまいと。

そう街の人々に言われてはフォリアも断る訳にはいかなかったから、勧められた料理を頬張る。

目の前では、この街の伝統ある演舞が披露され、リズミカルな音楽も一緒に奏でられていた。

広場の中心で遠慮がちに笑っている彼女を横目に、シュカ・ヘインズは度数のキツイ酒をあおる。

(…………やらぬ善より、やる偽善か)

彼には分からない。

何故、この皇国の娘は自分の身を危険に晒してまで、元敵国の人間を助けようとするのか。

聖女だなんてたいそうな名で呼ばれているが、やっていることは人の姿を失った化け物を治すという、決して楽ではない仕事だ。肩書き欲しさに引き受けられるようなものじゃない。

浄化魔法が使える人間が共和国に来たがっていると聞いた時には、一体どんな物好きがくるのかと思っていたが、実際に現れたのはまだ成人したばかりのあどけなさの残る少女だ。

――もしかすると、無理矢理聖女としての責務を彼の国から負わされたのではないかと。

あの国の事情までは計り知れないシュカは、彼女は本当はこの視察参加を望んでいなかったのではないかと疑っていた。

だが、仮にそうだとしたら、彼女の馬鹿みたいに愚直な献身は一体なんなのか?

策略や裏切りに囲まれて、他人を見る目はそれなりに養ってきたつもりだ。

だからこそ、見返りのない献身なんて存在しないとシュカは確信している。それなのに彼女の場合、自分の善行に酔っているようには見えず、かと言って見返りを求めているようには見えないのが不思議で仕方なかった。

「考え事か! シュカ」

「……別に」

どこか浮かない顔をしていた彼に声をかけるのは、長年共にダンジョンに潜っていた仲間のひとり。

「何の用だ。サリード」

「何の用って……。暇そーにしてるお前に付き合ってやろうと思ったんだよ。ありがたく思いやがれ。――あ、綺麗なおねーさんじゃないことに不満なんて言ってくれるなよ?」

酒気を帯びた赤い頬をしたサリードは、シュカの隣に腰掛ける。

「いやぁ〜。最初は、頭がお花畑な乙女が来ちゃったと思ってヒヤヒヤしてたけど、よかったよっかた。タダ酒サイコー!」

彼はシュカの肩に腕を回したまま、ぐびぐびと酒を飲んで楽しそうだ。

薄い唇の間からは、尖った八重歯がのぞいていて、とても機嫌がいいのが伝わってくる。

「これからどんどん、山脈に沿って北に進むんだろ? 最後まで辿り着けるか、賭けねぇ?」

「……相変わらず悪趣味だな」

「えー。いいじゃん。せっかく旅するなら、なんでも楽しまなきゃ損だぜ?」

この男は自分の生死すら賭けて遊ぶ男だ。

死に場所がダンジョンの外だったらシュカの勝ち。このまま永遠と国に睨まれて冒険者として生きて死んだら、サリードの勝ち。

もし、生きて帝国の終わりを見られたら、引き分け。

つい先日までは、そんなくだらない賭けをするくらいしか、やることがなかった。

「対処しきれなかった奴ら、ぜーんぶまとめて北に閉じ込めてるんだもんな。今頃魔窟になってるぜ?」

ケハケハと特徴的な笑い方をした後、一瞬だけ真顔に戻ったサリードの目は暗かった。

「来たからにはやってもらう。……なんとしてもな」

「お前がそーいうなら、賭けにはならなそうだ!」

シュカの言葉にサリードは残念そうに肩をすくめた。

ほとんど追いやられるように座った末席にて、リッカとハルルは宴に参加していた。

ちゃっかり食べたいものは食べて、飲みたいものも飲みながら、ふたりはふたりで夕食を嗜む。

「なんか、スミマセン。リッカさんまで孤立してしちゃいましたね」

「別にハルルさんがいるから大丈夫ですよ。それに、あたしはあたしの仕事ができれば、それで」

「そう言ってもらえると心強いっす」

適当に上辺だけの会話をしつつ、ハルルは初めて訪れる旧帝国の街に視線を奪われていた。

魔法と共に発展してきたシアンの街並みとは、がらりと違う。

金属や鉄の板を貼ってできた家の壁や、分厚いガラスの窓。

「まるで、大型船みたいな家屋なんっすね」

「確か、害獣から身を守るために頑丈な家の作りになったって聞いたことがあります」

「へぇ〜。物知りっすね?」

「たまたま知ってただけですよ」

少し考えれば誰でも辿り着けそうな答えだ。

リッカは苦笑いして、こちらで主食として食べられているパン生地より少し硬い生地を薄く伸ばして焼いたものを手で千切って、出されたソースに浸して食べる。

肉や魚、ジャムを塗っても美味しくいただける。

家庭によって、少し甘めの生地だったりするのも楽しみ方のひとつだ。

もぐもぐ小さな口でそれを頬張り、彼女は遠くの席に座ってもてなしを受ける聖女を見る。

あっという間に好かれるてしまうのは、彼女の才能と言ってもいいだろう。

流石、乙女ゲームの主役に抜擢されるだけの人柄だ。

(……これもフォリアが主人公のせいだっていうのかな……)

確認されている浄化魔法の使い手は、彼女だけ。

それも乙女ゲームの設定のせいだとしたら、この世界を作った人間を恨むしかない。

そこで――ばちん、と。

不意に彼女と目が合った。

こちらに気が付いたフォリアは、その緑色の瞳を困ったように細めて笑いかけてくれるから。

リッカも軽く頭を縦に振って相槌を返す。

旅はまだ始まったばかりだ。

これからの道のりの方が険しくなるだろう。

(はやく、モルディール卿のところに帰れればいいんだけど……)

彼女のことを待っている人に、リッカは思いを馳せる。

フォリアは知らないのだ。

自分のためにわざわざ参謀本部まできて、視察に狼牙も同行してほしいと頼み込んできたあの男の必死な姿を。

(今頃、気が気じゃないだろうな。あの人)

フォリアのことが気になりすぎて、学園の礼拝堂に勤務する力技に出た人だ。

きっと今頃、フォリアのことを思って夜も眠れずにいるのではないだろうか。

リッカは少しだけ彼のことを同情し、再び料理に手を伸ばす――。