軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10、新入生歓迎会

「うーん。どうしよう。こんなドレス、着たことないよ」

さっそくフォリアは、例のドレスたちの前で頭を悩ませている。十着もあるとどれを着るか迷うのも仕方ない。

「好きなやつを選べばいいんだよ。私が着せてあげるし」

ラゼはその隣で、さっさと部下たちにもらった水色のドレスを着ながらそう言った。

「わぁ! ラゼちゃん、すごく似合ってる!」

フォリアがそれを見て、すぐに褒めてくれた。

クローゼットの内側についた鏡を確認して、ラゼは「ありがとう」と笑った。

彼女も滅多にドレスを着ることはないので、それを褒めて貰えるのは純粋に嬉しい。

「ほら。フォリアも決めないと。時間になっちゃうよ」

「うん!」

彼女が選んだのは、瞳の色に合わせた緑のドレス。

袖が広がった優雅なデザインで、それを着たフォリアは森の妖精と見違えるほど素敵だ。

諜報部にいたラゼは変装もできるので、そのスキルを生かしてフォリアの髪を編み込んでハーフアップにし、化粧も施す。

花のコサージュは丁度良いので、髪につけておいた。

「完璧。可愛すぎ」

「うわぁ〜! ラゼちゃんすごい!! ありがとう!」

(諜報部に居て良かったかも)

仕上がった彼女を見て、ラゼは初めて諜報部にいた自分を褒めてあげたいと思う。

自分を着飾るのは得意ではないので、適当に身支度を整えると出発の時間だ。

***

「うわぁ〜」

先程まで椅子がずらりと並んでいたはずの大ホールは、パーティー会場へと姿を変えて、おめかしした生徒たちが思い思いに散らばって会話を楽しんでいる。

全てが新鮮に見えるのか、フォリアはキラキラと目を輝かせている。

ラゼはそれを見て、少し肩を竦めた。

(何というか、こういう子を無防備って言うのかな?)

ここに来るまで、フォリアのことをチラチラ見ている男子が多くて、視線が煩い。

軍生活で五感どころか六感も優れているラゼからすると、あからさま過ぎて見るに耐えない。

今はどこぞの御令嬢かと思って距離を保っているようだが、彼女が庶民だと知ったら、彼らは一体どんな反応をするのだか。

フォリアはフォリアで、聖女の若くピュアなので断ることを知らなそうでラゼは不安になった。

「あ、カーナ様!」

フォリアはカーナの姿を見つけて、元気よく手を振った。

カーナはそれを見て目を丸くし、慌ててこちらに寄ってくる。

「フォリアさん。女性がそんなにブンブン手を振ってはいけません。はしたないでしょう?」

「ご、ごめんなさい。カーナ様を見つけたから、つい……」

しょんぼりする彼女に、カーナはフウとため息を吐く。

「それにしてもそのドレス、すごく似合ってるわ。髪型も。驚いたわ」

その言葉にフォリアがパッと顔を上げた。

本当に、表情が豊かな子だ。

隣で見ていて飽きない。

「ラゼちゃんがやってくれたんです! すごいですよね!」

「ラゼさんが?」

カーナは大きな目をさらに開き、ラゼを見つめる。

「……そう、また貴女が」

「え?」

カーナの小さな呟きを拾ったラゼは続きが気になったが、「「きゃあ〜」」という黄色い歓声のせいで、それを尋ねることは出来なかった。

「な、なんだろう?」

「イケメン貴族サマのご登場だよ」

「そうでしょうね」

人だかりでよく見えないが、見るまでもないとラゼはそう断言した。

実際に彼女の言う通り、女子をかき分けて会場入りを果たしたのは殿下とそのお付き(クロード)、閣下の息子。それに続いて前騎士団長の孫と、同じA組である財務大臣のご子息ルカ・フェン・ストレインジが姿を現した。

とりあえず、ラゼは彼らに加えて、カーナとフォリアを抑えておけば最低限の役目はクリアできると踏んでいる。

前世の記憶もあってか、生徒たちをランク付けしたくは無かったのだが、ここは階級社会なので優先順位を設けるのは必要なことだ。

閣下曰く、明瞭な大人たちの介入は彼らの成長にならないそうなので、ラゼも何でも手を貸すばかりではいけないだろうと考える。

同じ歳のくせに何様だと思われるかもしれないが、彼女はバルーダの未開の地を進み、凶暴かつ未知の魔物を相手していた化け物レベルの実力者なので調子に乗っている訳ではない。

「きゃっ、照明が」

「大丈夫よ」

まるで皇子たちの登場を待っていましたと言わんばかりのタイミングで、カッと照明が一気に暗くなり、舞台上だけに光が集まる。

歓迎会が始まる合図だ。

「こんばんは。わたしは生徒会長ビル・メス・ゴードンです。

まず始めに、新入生の諸君、入学おめでとう!

今年は倍率も高く、例年以上に優秀な後輩たちが入学するということで、わたしたちも君たちが来ることをドキドキしながら楽しみにしていました。

今日は記念すべき、学園生活一日目。

セントリオールの学生としての自覚を持ち、これからの日々を是非充実させてください。

わたしたちは君たちを歓迎します。さぁ、今夜は思いっきり、楽しんでくれ!」

ビルの声かけに合わせて、先輩たちが近くにいる一年生にゴブレットを持たせる。

銀色に輝くスリムなゴブレットは、見るからに値が高そうだ。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

フォリアが小さくなりながら銀に輝くゴブレットを受け取る中、ラゼはひとりだけ違う方向へと静かに目を光らせていた。

そこには白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルと長方形のテーブルがずらりと料理を乗せている。

この部屋に入ってから、いい匂いがずっとラゼの食欲を刺激していた。

「私、どうしてもお腹が空いてるからこの後すぐにビュッフェの方に行くね……」

「え?」

ポロリと本音が漏れる。

ラゼはすっかりテーブルに並んだ食事に目と心を奪われていた。

彼女、そこそこエリートの軍人で稼ぎもあるのだが、その容姿でひとりで店に入ることは流石に気まずいし、たまに要請がある諜報活動のせいで、目立った行動が取れない。

その為、格式の高いレストランには滅多に入らないので、料理に釘付けなのである。

親睦を深める会のはずなのだが、この時のラゼはそんなことを気にしている余裕はなかった。

——目の前には、S級の魔物よりもレアなご 馳走(えもの) 。

これを食さず、軍人を語れるだろうか。いや、語れない。(?)

戦友たちよ。君たちの 好物(えもの) は私が責任を持って、食らおう……。

右手にはゴブレットを。

左手にはいつの間にか取ってきたフォークと皿を。

一瞥して、おおよそ獲物の位置は把握している。

狙いは定めた。

もしもの時のため、ルートはABCの三つを用意している。

準備は整った。

あとは戦闘開始の合図を待つのみ……。

「「天の導きに乾杯!!」」

カチン。

銀の上品なゴブレットたちがぶつかる小さな音が、鮮明にラゼの脳裏に響く。

「また後で会おう!」

「ラ、ラゼちゃん?!」

あたふたするフォリアはカーナ様にお任せして、ラゼは引き寄せられるように料理たちのもとへ。

どうせ貴族サマの足元にも及ばない平民だということは、すぐにバレることだろう。

それならばもういっそのこと開き直って、周囲の反応は覚悟し前進あるのみ。

彼女は諜報のプロ。

何食わぬ顔で、適当に愛想を振りまき、優雅に料理を皿に盛っていく。

これから、彼女は一生徒として自由で安全なこの学園を満喫する所存なのだ。

最初から遠慮していては、この先が思いやられる。

この学園に入ってまで学びを貪ろうとする庶民として、図々しくやらせてもらおうではないか——。

まあ、だからといって、別に無礼極まりない態度で彼らに接するつもりはないし、あくまでも軍人としての忠義を忘れる予定もラゼにはない。

無論、自分の将来のために。

「素敵過ぎる……」

人さまの邪魔にならないよう壁際に寄り、無事に回収した料理を眺めてラゼはうっとりする。

フォークで柔らかい肉を刺し、それをパクリ。

「うまぁ〜〜」

——ここに居られれば、こんなに柔らかいお肉にパン、新鮮な野菜、それにデザートも食べれるのか……。

問題を起こして退学になることだけは、避けなくてはならない。

ラゼはそれは幸せそうに料理を食べる。

社交界で壁側でひとりとは、誰からも相手をされない可哀想な人ポジションのはずなのだが、幸福オーラが全開だ。

「あ、ラゼちゃん。こんなところにいたの?」

だいぶ皿の料理を食べたところで、フォリアとカーナに再会する。

この短時間で疲労が見えるフォリアに、ラゼは目を丸くした。

「どうしたの? 人に酔った?」

「ううん。その、治癒魔法が使えるって言ったからか沢山の人に話しかけられて……。ちょっとびっくりしちゃった」

「最初のうちは仕方ないわ。そのうち慣れていくけれど、無理しない程度に切り上げることを学ばないと駄目よ?」

「はい……。カーナ様がいてくれて本当に助かりました」

フォリアは可愛いし、得意型も珍しいため注目されるのは当然のことだろう。

カーナは見たところこういう場には慣れていらっしゃるみたいだが、彼女は彼女で外務大臣のご息女。人より倍の相手と交流しなければいけないのは、大変そうだ。

貴族って大変だな、とラゼはポテトを頬張る。

フォリアとカーナもひと休憩で、ラゼと一緒に壁際で食事を取ることに。

「それだけで足りるの?」

ふたりが皿に盛ってくる料理が少なくて、ラゼは目を丸くした。彼女が食べた量の半分以下だ。

「わたくし、食べ過ぎてしまうとすぐに顔が太くなってしまうから、控えているの」

「教会ではいつもこれくらいだったよ?」

「そ、そうなんだ……」

ラゼに頭を殴られるような衝撃が走る。

——自分は贅沢を求め過ぎていたのかもしれない……。

ここで食べ過ぎて豚にでもなったら、任務に支障が出る可能性も。

(うぅ。尋問訓練並みに、酷な選択っ)

苦悩の結果、彼女は追加のデザートを取りに行くのを辞めるのだった。