軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19:導師たちと会食

ガマガエル王子の呪いを解いて魔導島に帰国し、ルルディは平和な普通の生活を送っていた。

そんな日々の中、テオドルスからルストラレ王子のその後を教えてもらった。

人間の姿に戻った王太子は「身も心も美しいルルディと結婚したい!」と騒いで王と王妃を驚かせる。しかも求婚して即行断られたと言うのに「彼女は魔導士だから私と結ばれないと嘆いている!」と悲恋に仕立て上げていた。

困惑した国王たちがルストラレに付き添っていた従者や〈聖人〉を見ると、彼らは大きく首を横に振って、事実と異なると示した。

「王太子としての自覚をなくしたのか!?」と父王に叱咤され、やがてしょんぼりと大人しくなる。

「許せルルディ……。君とは結婚できない」

そして唇を噛み締め、王太子は苦渋の決断でそう宣った……。

以上が諜報員の報告だ。

一連の流れを聞いたルルディに、鳥肌が立ったのは仕方ない。

「助けてくれた人に恋愛感情を抱くのは、割とある事らしい」

その心理状態は分からないでもない。ルルディも観劇でそんな物語を鑑賞した。

「ずっと嫌っていたのに豹変なんて気持ち悪いだけですよ! 大体どうして相思相愛を引き裂かれた前提なんですかね!?〈聖女〉を辞める時に“殿下を好きじゃない”ってはっきり言ったのに!」

「きっとロマンチストなんだろう」

テオドルスはルルディの愚痴に、対応もおざなりだ。

「頭がお花畑じゃなくて、頭に 綿(わた) が詰まってんですよ!」

故郷の王太子相手にルルディは辛辣である。

「確かにあまりお利口さんじゃないよね。そうそう、それで友好国の〈聖女〉の王女との縁は破談になったよ」

やはりルストラレが呪いでカエルになった醜聞を隠し通せるはずもなく、友好国に「いくらアドール教総本山の国でも、王女を嫁がせたくない」と、きっぱりお断りされた。

これでルストラレはアリアンとの婚姻が、ほぼ確定してしまった。

アリアンは最終的に選ばれるのは自分だと自信があったので、ルストラレの女性関係に目を瞑っていたが、今回の呪い事件で二人の間に亀裂が入った。

しかしそれまで彼らが、仲睦まじく過ごしていたのは衆目の一致するところで、今更互いに他の相手が見つかりそうもない。政略結婚だと納得するしかないだろう。

アリアンはルストラレに侍って、いつもルルディを煽っていた勝ち気な女だ。念願叶って王太子妃になるのだから、せいぜい国のために頑張ればいい。

「上手くいくといいですねー」

ルルディの言葉は棒読みだった。

「テオドルス魔導士、あ、ルルディ魔導士もいらっしゃいましたか」

ルルディがクダを巻いていたのはテオドルスの執務室だ。彼が書類を捌いている隣で、休憩と称して菓子を頬張っていたルルディは慌てて立ち上がる。やって来たのはブロウの秘書官の一人だ。急いで口の中のものを飲み込むとルルディは「お疲れ様です」と礼をする。

「お二人とも、今日の夕方、ブロウ導師と会食をお願いします。七の刻に八階の第二応接室にお越しください」

急な話だ。当日に捻じ込まれるのは珍しい。八階の第二応接室は、ブロウが格式張らない会食に使用する少人数向けの部屋だ。

「何かあったのですか?」

テオドルスがペンを持った手を止める。

「……ノエル・ヒーグス関連です。カロスイッチ魔導士も招かれています」

ああ、と納得して二人は頷く。

「承知しました」

テオドルスが了承の意を示し、ルルディも「お伺いします」と秘書官に再度頭を下げた。

マルジャラン王国の王太子が呪われていた話は、国内外に知られてしまったため、魔導国に秘密の義務がなくなった。だから業務連絡の一環で、〈呪術士〉カロスイッチには詳細が説明されている。

ルルディがディナーを共にするのは、塔主ブロウ、テオドルス、カロスイッチ。

食事マナーもすっかり板につき、もうオドオドしたりしない。

「それでノエルなんだがなー、北の大陸に渡っているかもしれん。北行きの流罪船がある港で、それらしい姿が目撃された」

最初は他愛もない日常会話だったが、口直しのソルベが出された時にブロウが本件に入った。

「き、北の大陸って……魔人国ばっかりじゃないですか」

ルルディのスプーンの手が止まる。

「王族相手にやらかしたから、さすがに国際指名手配されていると考えて、高跳びしたんじゃないかな」

テオドルスが見解を述べると、「あいつは短気で、考えるより先に行動するとこがあるからなあ」と、ブロウは溜息をつく。

カロスイッチは僅かに首を振る。

「彼女は強かです。魔人族の大陸でも人間が住む地もある。そこを目指したとも」

「そういや大陸の端を流刑地にしている人間国も多いですね」

テオドルスが思い出したように口にする。

「うわあ、それ、魔人国にすれば迷惑なのでは? 罪人ばっか送られてくるんでしょ?」

「だが、遠慮なく捕獲できるだろ?」

「捕獲?」

ブロウの言葉にルルディは戸惑う。

「その罪人たちを捕まえて奴隷にできる」

「……従属の首輪……!」

「そうだ。魔導士は流刑されない。魔人が嫌がるからな。女神の魔導力を彼らはよく理解できていない。魔導具を嵌めても、本当に従属しているかどうかも分からない。危険だろう?」

「業火の神の方が魔導力は上じゃなかったですか?」

「……ああ、ルルディにはそう教えていたな」

テオドルスは一瞬考えたあと、隣に座るルルディに顔を向ける。

「師匠! 嘘なんですか!?」

「いや、概ね合ってるが……。神聖力と魔導力が異なるように、同じ“魔導力”でも質が違う。本来はどれも優劣はないんだよ。神の恩恵だからね。ただ、魔人族は生まれつき業火の神の力を身に宿している。自分自身の力と借り物とでは素養が違いすぎる。魔人の方が能力が上なのはそういう事なんだよ」

「魔人族自体は自分たちの力を“魔導力”とは呼んでいない。“魔力”だそうだ」

カロスイッチが言葉を挟む。

「あいつなら魔人族に自ら接触しかねん。魔導士ノエルは魔人族にとってどんな存在になるやら」

ブロウは苦虫を噛み潰したような顔を崩さない。破門して魔導協会と無関係でも無視は出来ないのだろう。むしろ彼にとっては因縁の相手とも言える。

「それと魔導国関連でもうひとつ……。セイランの親父について分かったんだが、獣人との子供をつくるためにわざわざ一国の王女を攫ったのは、それまでの獣人の女性相手では思う子が出来なくて、尊い血筋の者を狙ったらしい」

「え? 何人も実験台にしたんですか!?」

ルルディの声も大きくなる。そんな事が許されるものか。

「妊娠しづらい上に流産も多かったらしい。やっと産まれても病弱だったりした。セイランは獣人の特色が強い分、頑丈なんだ。母親の遺伝子が強かった」

「それでも、お母様は出産時に亡くなってるじゃないですか……」

「やはり魔人族は獣人族や人間族なんか、動物くらいに思ってるんでしょう。女性は道具扱いか。命をかけて産むのは女性だと言うのに!」

セイランを思い嘆くルルディと異なり、カロスイッチは憤慨している。

彼の息子は魔導力は無かったが、魔導士の女性と恋に落ちて結婚し、今はカロスイッチと同居している。

ルルディが家にお邪魔した時、カロスイッチがお爺ちゃんの顔で孫たちと遊んでいて微笑ましかった。妻と息子夫婦と孫と。そんな家庭を築いている彼には、人権を無視する行いが我慢できないのだろう。

「カロスイッチ殿。セイランの親父は特殊例だ。ローエンサガは古い国で、同じ魔人国の中でも優越意識を持っている。高位貴族は特にそれが強い。セイランの父親は王位継承権のある公爵でな。“子”だけでなく、魔導具の開発にも精通している。

何らかの野心があるのだろう」

ブロウの唇は歪んでいる。血統による権力を廃止している魔導国の盟主だ。思うところがある。しかし、ここにラフィタル帝国皇位継承権第二位のテオドルスが同席している。王位争いについての言及は避けた。

そんな導師の思惑など知らぬといった顔で、「セイランの父親が魔導島を狙った理由が判ったのですね?」と、テオドルスは話を促した。