軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8.5話 帰り道《エルウィン視点》

「んじゃっ、学校に戻りますので!」

「慌ただしいねえ、何しに帰ってきたんだか」

「メリンダさんに会いに来たに決まっているじゃないですか。父様、いい人見つけたんですから、ちゃんと捕まえておいてくださいよ」

「エ、エルウィン様…!」

「俺、嫌ですからね。メリンダさん以外の新しい『お義母さん』なんて」

俺はメリンダさんに向かってウィンクをして、家を出ようとした。

そしたら、まあ、父様の情けない睨みが返ってきて、吹き出すのを必死で我慢する羽目になった。

はははっ、本当に俺の心配することなかったんだなぁ。

「また長期休暇になったら帰ってきまーす!」

そう言って、馬車に乗り込んだ。

俺は、エルウィン・ルース。

見ての通り、ただ親の世話焼きに来た可愛い息子である。

父様が再婚すると手紙を寄越してきて、寮で弟のアレンと叫んだのは、ついこの前のこと。

家に帰ってどういうことか訊きに行こうと騒ぐアレンに、「父様がヘマするわけがないだろう。きっと考えがあってのことだよ」と宥めて、突撃訪問をやめさせたが、俺だって内心ドキドキだった。

なんなら反対だった。

だから、アレンに行くなと言いながら、俺が突撃帰省を決行したわけなんだけど…。

心配していたのが馬鹿みたいに、家の中は平和だった。

フランクやマーサたちも、メリンダさんのことが気に入っているみたいだし、フェル兄様も意外とメリンダさんと仲良くしていた。

あのお堅いフェル兄様と普通に話していたから、メリンダさんは人との距離を測るのが上手い人なのかもしれない。

何より、父様がもう以前とは違っていた。

あんなに女性に対して、執着する人だったのか。

親子でも、わからないもんだねえ〜。

父様とメリンダさんが並んでいたところを思い出す。

メリンダさんは父様を慕っていてくれているようだったけど、不用意に近づこうとはしていなかった。

適切な距離から、時々父様の顔を盗み見していて、これはもしや…?と思ったら、案の定、父様のことは悪く思っていないみたいだった。

よかった、よかった!

父様は、女性相手だと全然頼りにならないから、絶対ダメだと思っていたのに。

この結婚は、家同士の繋がりがゆえの政略結婚かと思っていたら違ったし、じゃあ俺と4つしか変わらない娘さんならさぞ苦労しているんじゃないかと思ったけど…。

メリンダさん、本当に父様でいいのかな。

いや、良いというなら、ぜひうちの父をお願いしますなんだけど。

…というか、むしろ、父様の方がメリンダさんに近づきたそうにしていたよな?

ぷぷぷ、父様が女性のことを気にしているのかと思うと、笑えてくる。

こんなに言っているが、俺は父様のことを尊敬している。

母様が亡くなってから、たしかに使用人に助けてもらっていたけれど、育ててくれたのは間違いなく父様だ。

今日まで何不自由なく、伯爵家の次男として、たまーにちゃらんぽらんしていても許されていて、それなりの貴族として楽しく過ごしているのは、父様が俺たち兄弟を守ってきてくれたからだ。

母様が亡くなってからの父様は、より一層俺たちに気にかけてくれた。

仕事も忙しかったろうに、どんな時でも夜寝る前は俺たちの話を聞いてくれた。

それがどれだけ嬉しかったか、父様は知らないと思う。

フェル兄様は強がりだし、嫡男だし、背負っているものがあったから弱音は吐かなかったんだと思う。

でも、まだ8歳だった俺と、6歳だったアレンはそうはいかなかった。

貴族の親が自らの手で子どもを育ててくれることは、あまりないことも知っている。

それなのに、父様はそんな時こそ俺たちと一緒にいてくれた。

俺とアレンがグレずに学校でそれなりの成績を出しているのだって、父様があの時、俺やアレンを放っておかなかったからだ。

仕事のない日は、街に連れ出してくれて、よく本を買ってくれた。

俺もアレンも別に本は好きじゃなかったけど、父様が買ってくれることが嬉しかったんだ。

今は司書長だけど、当時はまだ司書だった父様が直々に勉強を見てくれた。

うちは騎士の一家だから、父様もあれで剣の腕は人並みだ。

剣の稽古をしてくれて、俺とアレンは全然勝てなかった。

それでも、楽しくて、いつからか母様が亡くなってからも笑っていられるようになっていた。

俺は、父様みたいな父親になりたいと、思っている。

だけど、女性に対してはからきしダメなのも、よ〜〜〜〜くわかっている。

そこに関しては、本当に頼りないのだ。

いや、そりゃ遊び歩いたり、あちこちに愛人がいるとかじゃないからいいよ?

父様にそんなこと無理だし。

再婚にどうですか、という話は昔からあった。

父様はのらりくらり躱していたと思われているが、実はそんなことない。

父様は本気で困っていたし、俺が女の子とデートする年頃になった時に、相談してきたことがある。

「断り文句が思いつかないから、一緒に考えてくれないか」って!

フェル兄様に言いづらかっただろうことはわかる。

でも俺に相談してくるのは、ちと情けなくないか!?

それから、こんなこともあった。

たまたま父様の忘れ物を届けに王宮に行った時に、未亡人で俺ら子どもたちでも知っている有名な色香なご婦人がいたんだけど、その人にちょうど父様が迫られているところに遭遇した。

「やもめ同士、私たちわかり合えると思いませんか?」とまあ、わかりやすい求婚という名のお誘いだったんだけど、父様は曖昧に笑うだけで、すごい目を泳がせていた。

いや、あの人が義母になったら嫌だったけど、そこは男として頑張ってくれよ…!と思った14歳の春…。

結局、俺が知らずに飛び出てきちゃったみたいなフリして、うまいこと剥がしたっけ…。

頭を掻いて苦笑いしながら、「エルウィンは人を嫌にさせないところが本当に凄いなぁ、助かったよありがとう」と言っていて、役に立てたのは嬉しかったけどさあ!

男としては、ちょっと、いや結構ガッカリだったよ、父様?

アレンはもちろん、フェル兄様も、こういう面の父様はあんまり知らないだろうな。

フランクやマーサは、知っているかもね。

だ・か・らっ、心の底から心配だったわけ!

そりゃあ、帰省してくるでしょ!?

いや、ああいうタイプが好きな女性がいるのもわかっているけど、メリンダさんがそのタイプかはわからなかったし!

あの父様が、若い子との結婚うまくいくと思う!?

んなわけないでしょ!と思っていたのに、あーあ、あんなに慕ってもらっちゃってさぁ。

相変わらず自分の気持ちを伝えるのは苦手みたいだったけど、そこは知ったこっちゃないね〜。

今回は、自分で頑張ってもらわなくちゃ!

だって、父様もメリンダさんのこと相当気に入っているでしょ?

断るんじゃなくて、口説くんだとしたら、そこは自分の力でね!

若い女の子が好きそうなデートスポットはどこかくらいなら、聞いてあげてもいっか。

メリンダさんは、そういうのあんまり好むかは知らないけど!

あーあ、よかった、メリンダさん、いい人そうだったなぁ。

次帰った時は、もっと俺とも喋ってもーらお!

それまでに、父様たちが進展しているといいけどねっ!