軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 雑用令嬢、見つかってしまう②

スキンヘッドの騎士に先導され、《金の盾》の三人は森を抜けた。

道中、騎士たちは妙に慣れた足取りで進んでいく。重い甲冑を着ているはずなのに動きは軽く、周囲への警戒にもまるで隙がない。

それらの所作だけでも、彼らの実力が並でないことは充分に見て取れた。

「着いたぜ、ここがギルドだ」

やがて町へ戻ると、騎士は大きな建物の前で足を止め、当たり前のように客人を招き入れるかのように扉を開けて三人を中へ通した。

ディックは相変わらず礼を言うこともなく、そのままギルドへ足を踏み入れる。

道中で聞いた話によれば、騎士たちはやはりアルグレイン領の騎士団らしい。そして彼らがギルドに向かっていたのも偶然ではなかった。

帝国では、騎士団と冒険者ギルドが協力関係にある。主な案件や危険度の高い討伐は騎士団が引き受けるが、それ以外の細かな依頼は民間であるギルドが受け持つ。

さらにそれに伴って騎士団は定期的にギルドを訪れ、依頼の割り振りやモンスターの出没情報などを確認し合っているのだという。

王国では考えられない話だった。

ギルドと騎士団はそれぞれ自分たちの縄張りを持っている。面倒な責任は押しつけ合い、うまみのある依頼は奪い合う。

少なくともディックの知る範囲では、両者の関係はそういうものだった。

だというのに、ここでは騎士団がギルドへ自然に出入りしている。

「ふん……ずいぶん馴れ合ってるんだな」

ディックが小さく皮肉るように呟くと、ムルウジは軽く笑った。

「まあ、同じ領内を守ってる者同士だからな。できることは違うが、目的は同じだろ」

正論めいた言葉が、余計に癪だった。

騎士がカウンターへ向かおうとしたところで、ディックはふと足を止めた。

「なあ、ちょっといいか?」

「ん? なんだ?」

アルグレイン領の騎士団は、領主自らが団長を務めている。その名はリスティン・アルグレイン。帝国でも屈指の実力者だと噂されている人物だ。

先ほどの戦いで見たこの騎士の剣筋は、認めたくはないがディックの目でも追いきれないほど鋭かった。

見た目こそ粗野なスキンヘッドの男だが、あれほどの腕ならば、噂の本人であってもおかしくない。

そう考えて、ディックは探るように尋ねた。

「あんたが噂のリスティン・アルグレインか? 騎士団の団長の」

すると騎士は一瞬きょとんとし、すぐに腹から笑った。

「あ? あはは、いいや違うぜ。俺は団長じゃなくて、“副団長”だ」

「なに!?」

あの強さで……副団長?

ディックは思わず声を上げた。

つまり、団長であるリスティンの実力は、この男のさらに上ということになる。そんなまさか……。

「まあ驚くのも無理はねぇ。団長はともかく、俺がこんなに強くなったのは最近だしな。正直、自分でもビックリしてらぁ」

副団長だと名乗った男はそう言うと、あっさりカウンターの方へ歩いていった。

ディックはその背中を見ながら眉をひそめる。

「……最近だと?」

鍛錬で急に強くなるにも限度がある。

それとも帝国には、短期間で急激に力を伸ばす何かがあるのか。特殊なアイテムか、はたまた独自の訓練法か。

だが、考えたところで答えは出ない。

そしてディックは考えるのが嫌いだった。

しばらくして、ディックたちは受付で堂々と報酬を受け取ると、長居する理由もないのでギルドを出た。

「この後どうする?」

「カネも入ったし、一杯ひっかけに行こうぜ」

「えー、アタシ疲れたし帰りたいんだけど」

アマンダが杖を肩に預けながら言い、ドドリゴは報酬袋を手の上で軽く弾ませている。

ディックとしては早く宿へ戻りたい気持ちもありつつ、一方で派手に飲み明かしたい気分でもあったので迷った。

たしかに疲れてもいるが、あのスキンヘッドの騎士に助けられた直後にすごすご引きこもるのも、なんとなく負けたようで気に入らない。

そんなことを考えながら建物から少し離れたところで、背後のギルド内からどっと歓声が上がった。

「おお! アイカさんだ!」

「お疲れ様です!」

「姉御、今日も来てくれたんすか!」

どうやら誰かがギルドへやってきたらしい。

ただ自分たちが出た入口からは誰の出入りもなかったことから、恐らくは裏口から。ということはギルドの関係者だろうか。

しかも名前からして女で、冒険者たちの反応は異様に熱い。

(なんだ? もしかしてギルドの看板受付嬢でも出勤してきたか?)

少なくとも、これだけ騒がれる女ならよほどの美人なのだろう。どれ、せっかくだから顔のひとつでも拝んでやるか。

ドドリゴも同じことを考えたのか、ニヤニヤしながら前のめりになる。

アマンダも「ふん! なによ、アタシのときは誰も反応しなかったくせに。見る目のないヤツら」と不機嫌そうに言いながらも、結局は興味を隠せず窓のそばへ寄っていた。

さてさて、いったいどんなツラをしているのやら。もし好みのタイプだったら、声をかけて宿へ連れ帰ってやってもいいかもな。

などと下卑た妄想を膨らませつつ、窓に近づいたところで――。

(ん? …… ア(・) イ(・) カ(・) ?)

遅れて、歓声の中で呼ばれていた名前が頭に引っかかる。続けてギルドの中の光景が視界に飛び込んでくる。

ギルドの奥――冒険者たちの輪の中心に、一人の女性がいた。

目立たない髪色。

控えめな立ち姿。

人に囲まれながらも、少し困ったように笑っている。

見覚えがあった。

「な、なんでアイツが……!」

ディックは思わず窓枠に手を突いていた。

そこにいたのは、かつて自分たちのギルドで職員として働いていた下級貴族の令嬢――アイカ・フランベルだった。

(どういうことだ……!? ガルドのおっさんから聞いた話じゃ、たしかあいつは追放先でモンスターに襲われて死んだはず……!)

それなのに、いったいどうしてそんなヤツが帝国のギルドなんかにいるのか。

しかも見たところでは、さっきの騎士団や他の冒険者の連中からもやたらと親しまれているように感じる。

ディックが視線を向けると、アマンダとドドリゴもふるふると首を横に振った。二人とも、やはりどういうことか状況を飲み込めていないらしい。

「……あれ、あの女よね?」

「だ、だよな? いやでも、おっ死んだって聞いたぞ……」

とすると、あれは他人の空似か。

だが、そう考えようにも似すぎている。

というより間違いなく本人としか思えない。

窓の向こうでは、アイカが手に持っていた包みを冒険者たちへ差し出していた。

「これ、みなさんでどうぞ。回復薬代わりに」

その言葉に、周囲の冒険者たちが一斉に沸く。

「うっひょう! やったぜ、姉御お手製のクッキーだ!」

「ほんとすんません。いつも騎士団だけじゃなく、俺らギルドのとこにまで差し入れしてもらって」

「助かったぁ! 俺、ちょうどさっき怪我したばっかだったんすよ!」

「俺も俺も! これがまた下手なポーションより断然効くんだよなぁ!」

「たしかマンドラゴラのエキスを使ってるんでしたっけ?」

(なに? マンドラゴラだと!?)

ディックのこめかみがぴくりと動いた。

マンドラゴラ。植物系モンスターの代表格。

鼓膜を破る叫び声と毒の胞子で知られる、厄介な相手だ。間違っても菓子に入れるようなものではない。

だがアイカは、まるで普通の材料の話をするように答えた。

「はい。マンドラゴラの口に煎じた薬草を詰めて、一晩寝かせるんです。生半可な方法では毒素を排除できませんが、この方法なら純粋なマンドラゴラのエキスが抽出できます」

「へぇ~」

「さすが姉御だぜ」

騎士も冒険者も、彼らは何の疑いもなくクッキーを受け取り、口へ放り込んでいく。

(そんな馬鹿な……)

ディックは窓の外で固まった。

だが、信じがたいのは説明だけではなかった。

疲れた顔をしていた冒険者がクッキーを一枚食べた途端、目に見えて背筋を伸ばす。腕に浅い傷を負っていた男が、包帯の上から軽く押さえ、「お、痛みが引いた」と笑う。別の冒険者も肩を回しながら、満足そうに息を吐いていた。

けれど誰一人として驚いていない。

それが当たり前の効果だと知っている顔だった。

ディックの喉が詰まる。

なぜか浮かんできたのは、このところの自分たちを取り巻く現状だった。

以前よりも力の入らない身体。傷の治りも遅い。

依頼の失敗は増え、ギルド全体も目に見えて落ちぶれている。

――そして、それらが始まったのは“いつから”だったか。

(そうだ。あの女が……アイカがいなくなってからだ)

思い起こされたのは、ギルドの酒場で出されていた料理たち。

妙な肉。見たことのない野菜。

どうせ市場で押し付けられた売れ残りの食材だろうなどと笑いながら、それでも食べていた。

だが今にして思えば、食べたあとは疲れが抜けていた。

翌日の依頼でも身体がよく動いていた気がする。

やがて点と点がつながったとき、ディックの手は強く窓枠を握り締めていた。

「そうか……そういうことだったのかよ!」