軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 雑用令嬢、エルフにお弁当を作る②

「こ、こいつはまさか……!」

「はい。あなた方で言うところの討伐難度“Sランク”の胞子系モンスター……“ 銀星茸(ぎんせいだけ) ”です」

銀星茸。

胞子系モンスターと言えば、基本的にはキノコとかそっち系の類のことを指す。そしてこの銀星茸も例に漏れず、名前のとおり地中に棲む銀色をしたキノコ型のモンスターと言っていい。

ただし銀星茸の場合、地中に棲んでこそいるが、根を張っているわけではない。

どういうことかと言うと、彼らは時折地面に出てきて自由に移動することも可能なのである。

……いえ、可能どころではない。むしろ非常にすばしっこく、その移動速度は並の人間では到底目で追えないほど。

さながら身体が銀色なのも相まって、森を縦横無尽に駆け巡る“弾丸”と言ってもいい。

それでいて表面は硬い表皮で覆われているため、もしぶつかってしまえば決して軽い怪我では済まない。

そしてそれこそが彼らの攻撃方法であり、そうやって彼らは狩りをして獲物をしとめる。

彼らは見た目に反して肉食であり、しかもその捕食対象には人間も含まれる。

かつては山越え中のとある国の軍隊一個師団を体当たりだけで壊滅させたという逸話さえあると聞く。

まさにSランクの評価に相応しい、とてつもなく危険なモンスターなのである。

「……そうか。やはり、これがあの……」

旦那様が箱の中を凝視する。

唸るように呟いた声の低さが、相手の脅威度を物語っていた。

「しかも、これほど大量にとは……」

「フロストーレ様から伺いました。食べた者の能力を向上させるというモンスター料理の特殊効果は、恐らくモンスターの……その生物としての生命力の高さに由来すると。であるならば、より強いモンスターであれば、より強い効果を発揮してくれるのではと私どもは考えました」

レオルーシェ様がチラリと私に視線を向ける。

「そうですね。私も断言はできませんが、そう考えて問題ないと思います」

「……ふむ。たしかにこれまで何度もアイカの料理を食べてきたが、たしかにランクの高いモンスターほど食べた後の強化や回復度合いは高かった。あと旨みも」

私がレオルーシェ様の意見に同意すると、すぐそばで旦那様も頷いた。

銀星茸をこの目で見るのは初めてだ。

それでも箱の中に詰まった銀色の塊には、食材としての強さのようなものがあった。

たぶんだけど、もしこれを調理して食べることができれば、得られる効果は今までの食材の中でも最高レベルかもしれない。

私たちの言葉を受け、周囲のエルフたちの期待が込み上がる気配を感じる。

「エルフは身内を何より大事にし、結束を第一にする種族です。その中でも父王は全ての民に慕われていました。その父を救うため、どうしても望みをつなぎたかった。幸い、我らには森で培った狩りの技があります。……もちろん、それでも簡単な相手ではありませんでしたけどね」

箱いっぱいの銀星茸を見下ろしつつ、レオルーシェ様が苦笑しながら肩をすくめる。

ただ、その笑顔の奥には疲労感のようなものが滲んでいた。よく見れば他のエルフたちもそう。

きっと私たちの知らないところで、彼らも相当な苦労の末にここまでやってきたに違いない。

「もしお引き受けいただけるなら、この箱にある分の銀星茸はすべてお譲りします」

「この量をすべて!?」

旦那様が思わず声を上げる。

無理もない。Sランクモンスターが箱いっぱい。金額に換算したら、いったいどれほどになるのか想像もつかない。

けれど、それを迷わず差し出すくらい、レオルーシェ様たちは本気なのだろう。

旦那様がチラリと確認するように私を見る。

私もそれに対しそっと頷き返した。

正直なところ私も旦那様もお金にそこまで興味がある方ではないけれど、なにより彼らの誠実さに心打たれたというのが大きい。

旦那様は姿勢を正し、レオルーシェ様へ向き直った。

「なるほど、そちらの事情は承知した。たしかに人間とエルフの交流が断たれて久しくはあるが、こうして向かい合って言葉を交わせる相手。なにより王という立場は関係なしに、病人がいると聞いては放っておくわけにもいくまい」

「! では……!」

「ああ。あなた方のお願い、アルグレイン家として謹んでお受けしよう」

「……感謝いたします、アルグレイン卿。そしてフランベル殿」

レオルーシェ様が深々と頭を下げる。続いて、壁際の従者たちも一斉に頭を下げた。

かくして急きょ始まる、エルフのためのお弁当作り。

私は厨房に立つと、エルフのみなさんが運び込んでくれた銀星茸の入った木箱と相対した。

「う~ん、まずはやっぱり瘴気を抜かないとなんだけど……」

改めて向き合うと、銀星茸は見れば見るほど不思議な食材だった。金属と言われた方がしっくりくるほど光沢があり、普通のキノコらしさはあまりない。

なにより初めて扱う食材だけあって、正直なところ見た目だけでは味の想像がつかなかった。

さて、どう対応したものかしら。

「とりあえず、やるだけやってみましょうか」

銀星茸は初めてでも、キノコ系のモンスターを扱った経験ならある。

私は作業台の周りを片づけ、余計なものを遠ざけた。それから湯を沸かし、薬草を加えて薬草水を作る。

それができたら、今度は濡れ布巾で銀星茸をそっと包み、薬草水の湯気を少しずつ当てていく。

胞子系のモンスターに共通する特徴として、彼らは絶命して動かなくなっても内部にまだ胞子を残している。

そのまま切れば粉のように舞い、吸い込めば身体に害をなす。喉を焼いたり、目に入れば痛みや視界のちらつきが出たり、場合によってはそのまま人体に寄生する個体だっている。

この方法は、その問題に対処するために編み出したもの。

乾いたまま刺激を与えれば胞子が舞う。なら、まずは湿らせて動きを抑える。

しばらくすると、布巾がじわじわと黒ずみ始めた。

「うん。ちゃんと抜けてるわね」

布巾を取り替え、同じ作業を繰り返す。焦らず、表面の銀色の粉が落ち着くまで待つ。

何度か繰り返したところで、ようやく銀星茸の表面が静かになった。

ここで包丁を手に取る。

刃を入れた瞬間、ふわりと香りが立った。

「!?」

思わず手が止まる。

「これは…… ト(・) リ(・) ュ(・) フ(・) ?」

そう思わせる懐かしい香りだった。

土や森を思わせる深い香り。けれど嫌な重さはない。むしろ、鼻の奥をくすぐるように食欲を引いてくる。

……ま、と言っても、別に前世でもほとんど食べたことないんですけどね。だって向こうも間違いなく高級食材ですし。

ただ、それでも記憶にある、あの気品あふれる特徴的な香りとよく似ていた。

ただ一つ違いがあるとしたら、銀星茸の方がずっと匂いが濃い。奥行きがあって、少し削っただけでも厨房全体を包み込むかのよう。

「……なるほど。さすがはSランクってところかしら」

こうなると、献立の方向はすぐに決まった。

相手がトリュフと仮定して、これだけの香りがあるのなら、煮込んだり焼いたりしては良さが殺されかねない。むしろこの香りこそを主役にするべきだ。

私は炊き上がったご飯を大きな器に移し、天かすと青のり、さらに昆布で取った出汁と醤油を合わせた“めんつゆ”を少しずつ回しかけていった。

米粒を潰さないように、さっくり混ぜる。

そしてそれぞれがほどよく混ざり合ったところで、満を持してスライサーを用いて銀星茸を薄く削り落としていく。

湯気に乗って、また銀星茸の香りがふわっと広がる。

味見をしつつ、もう少しだけめんつゆを足す。濃すぎるとせっかくの良い香りが負けちゃうし、味が薄いと香りだけの物足りない料理になってしまうので、ちょうどいい加減を探す。

「……うん、このくらいがよさそうね」

味が決まったら、あとは手早く握るだけだった。

ひとつずつ形を整えて、お皿に並べていく。

「できました!」

――《銀星茸のたぬきご飯おにぎり》の完成です!

「お待たせしました」

お盆を持って応接室に帰ると、全員が一斉にこちらへ向いた。

「おぉ……! これが噂のモンスター料理か……!」

「本当にあの銀星茸が食材になっている……!」

「それにしてもなんて良い匂いだ! これがあの超危険種の放つ匂いなのか!?」

「見た目はどこにでもありそうな気取らない料理なのに、香りはまるで王侯貴族だ!」

壁際で控えていた従者の方々が興奮したように沸き立つ。

レオルーシェ様も盆の上のおにぎりを見つめ、ほっとしたように表情を明るくした。

「素晴らしい。まさか、あの銀星茸を本当にここまで見事に調理してしまうとは。もしかしたら自分たちでもできるかも……とここへ来る前に国でも挑戦してみたのですが、多くのシェフが無理だと諦めたのに。期待してやってきたとはいえ、改めて恐れ入りました」

「ありがとうございます。では、お弁当用に他にもいくつかおかずを用意しますので、そちらと一緒にお包みしますね」

メインがトリュフ風味のご飯であることを考えると、どんなおかずが合うだろう。和風?それとも洋風?

などと考えながら答えた私に、レオルーシェ様も頼もしそうに頷く。

「いいですね。はい、ぜひそちらもよろしくお願い――」

と、そのときだった。

「お待ちくださいっ!!」

壁際から鋭い声が室内に響いた。