軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

449 さらさら④

サヤの能力は血筋である。今はサヤしか残っていないが、サヤの一族は皆、大なり小なり異能を使えたらしい。

魔女の一族として恐れられ、ずっと人里離れた場所で暮らしてきた。そんなサヤがハンターになったきっかけが、テラス地方で発生した魔導災害だった。

正体不明の渦――ゲートから湧き出してくる魔物の軍勢。

本来ならば城塞都市テラスを滅ぼすはずだったそれらの群れと七日七晩戦ったあの日、初めてサヤは表に出ることが可能になったのである。

魔女の一族の最後の一人。さしたる理由もなく戦いたった一人で魔物の軍勢を撃退したサヤを、探索者協会テラス支部長、コラリー・クロミズは養子に迎え、その能力に『さらさら』の名を与え、異例とも呼べる措置でレベルを上げた。

それは、テラスに一人でも戦力が必要というのも大きかっただろうが、何よりサヤの事を考えた結果だろう。

名付けられた事で、サヤの能力は少なくとも名前のあるものになった。

そして、レベル8ならば人智を超えた恐ろしい力を持っていても許されるのだ。

クランハウス地下の訓練場はサヤが想像していた以上に大きなスペースだった。

天井も高く広々とした何もない空間。金属製の床と壁には無数の傷跡が残り、この部屋がこれまでどれだけ利用されてきたのか想像できた。

壁際には数十人の《始まりの足跡》のハンター達が集まり、サヤを見ている。

それぞれの眼差しには畏怖のようなものはなかった。サヤのレベルは知っているはずなのに、サヤを恐れていない。

レベル8を間近に見ているからだろうか? 修羅場を潜ってきたもの特有の風格。これだけの人数をここまで鍛え上げるとは、さすが《千変万化》と言うべきだろう。少なくとも、サヤにはできない。

大きく深呼吸をして室内をぐるりと確認する。

室内にいる来訪者の数は外と比べて控えめだった。だが、模擬戦が始まればわらわらと集まってくるだろう。

人と戦ったことなどほとんどない。だが、久々の対人戦に、不思議と胸が踊る。

剣を、弓を、杖を、棍棒を、それぞれ得意とする武器を持つ、サヤを恐れていないハンター達。サヤは身につけていた時空鞄に手を入れ、武器を取り出した。

サヤに武器など必要ないが、無手で挑むのはあまりにも失礼だ。

取り出したのは、一本の銀色の棒だ。長さ十センチ程のそれを持ち上げ振ると、七十センチ程の長さに伸び、かちりと音がして固定される。

その他の武器と比べて余りにも頼りにならないその外見に、リィズが目を丸くする。

「警棒じゃん。めずらしー、それがサヤちゃんの武器ってわけ?」

「世界は広いな。弓よりレアだぞ」

「金属だし、杖でもないわよね。舐められてる?」

合金製の特殊警棒。硬く、軽く、全力を込めて振れば岩くらいならば砕けるが基本的には非殺傷。魔物を相手にするには弱く、人間を相手にするにも弱い。

だが、それでいいのだ。相手を舐めているわけでもない。サヤにはこれくらいでちょうどいい。

トレジャーハンターでは強さはその価値の最たるもの。強者は尊敬され認められる。サヤがその例外だっただけで。

サヤは警棒を握りしめると、その先を《始まりの足跡》のハンター達に向けて言った。

「いつでもかかってきていい。一対一じゃなくても」

サヤは知っていた。自分の言葉に込められたプレッシャーは同レベルのハンターと比べてかなり弱い。

コードの評価システムでもサヤの点数はカイザーよりもずっと低かった。

誰にも見えないさらさらは誰にも伝わらないのだ。

だが、《始まりの足跡》のハンター達の表情には感心してしまうくらい油断がない。きっと、彼らのトップである《千変万化》もまた擬態の達人だからだろう。

果たしてリィズのようにさらさらに干渉できるハンターが他にもいるのだろうか?

見定めようとするサヤの前に、数多いる《始まりの足跡》のハンター達の中から、一人の少女が踏み出した。

黒髪を真っ赤なリボンで止めている少女だ。黒を基調としたシンプルで動きやすそうな装束に、腰に帯びた短剣。

他のハンター達と比べてもまだ若いが、その年齡にしては驚く程の力を感じる。

リィズ程ではないが、意思の強そうな漆黒の瞳で、サヤを見ている。

「お姉さま、一番槍は私にやらせてください! ユグドラでの成果を試したいんです!」

「ティーちゃん、ふふ……張り切っちゃって。世界樹登った時は死にそうになってたのに」

「おう、やれやれ! でも、うちが舐められないようにしっかりやれよ、ティー! サヤちゃん、私の弟子のティー、よろしくね」

リィズの弟子なのか。

少女は大きく深呼吸をすると、踏み込むと同時に叫んだ。

「レベル4ティノ・シェイド。いきますッ!」

「!!」

虚を突かれた。

ティノが一歩で距離を詰めてくる。靭やかな動きに、躊躇いのない攻撃行動。

眼前に迫る鋭い貫手。サヤは息を呑んだ。

疾いッ!

というか、ちょっとずるい。踏み込んだのは完全に名乗りをあげる前だった。

まぁ別に構わないんだけど、どうやらサヤとは違い、かなり対人戦に慣れているようだ。多分師匠とも存分に組み手をしているのだろう。

サヤはその抜手を警棒で撥ね上げた。重い感触が手に返ってくる。すかさず放たれる蹴りを警棒で受ける。ティノは呼吸を全く乱していない。

強い。レベル4とは思えない動きだ。これが帝都のレベルなのか?

サヤが受け止められたのは単純にサヤの方がマナ・マテリアルを吸収していて、身体能力が高かったからである。格闘技術は間違いなくティノの方が上だ。

リィズの弟子みたいだし、武道家だったらまた動きが変わるはずだから多分 盗賊(シーフ) だろう。

息もつかさぬ連撃を警棒で受け止め、弾く。

凄い。強い。激しい連撃を放ったにも拘らず、その表情には疲労がなかった。スタミナも相当鍛えられているに違いない。

「おお、ティノのやつ、また腕をあげたなあ」

「やっぱり修羅場を潜るのが一番効きますよね」

シトリーがのんびりと見物人達と話している。ティノの勢いは留まることがない。

フェイントのほとんどない鋭く真っ直ぐな連撃。まだ対応できているが、反撃する暇はなかった。

もとより、警棒での反撃など、身体能力の差で押し切れるような相手にしか通じない。

ティノの眼差しに一瞬の疑念が過る。防戦一方のサヤに違和感を抱いているのだろう。

普通、レベル8(一応サヤは暫定レベル9だが)とレベル4ではまともな戦闘になんてならないのだ。ティノの実際の能力は平均的な4よりはずっと高いが、それでも高レベルハンターとの間には純然な差が存在する。

疑念は躊躇いに繋がり、躊躇いは隙を生む。

だが、ティノは疑念を一瞬で振り切り――加速した。

「!!」

まさか――あえて速度を落としていたのか!?

自分よりも高レベルを相手にフェイントを仕掛けるなんて凄い度胸だ。鋭い音をあげ急速に伸びた貫手に、完全に警棒を振り遅れる。

視界に迫るその指先。急所を狙った躊躇いのない一撃を、サヤは、抵抗する事なく受け入れた。

初めてティノの表情が驚愕に歪む。見物人達がざわめく。

その唇が震え、白い肌に冷や汗が流れ落ちる。

「ッ!? こ、れは――」

「馬鹿な…………」

ティノの一撃は、サヤの皮一枚傷つける事はなかった。何が起こっているのか全く理解できていないだろう。

サヤの皮膚の前で止まった指先、一センチの意味を、ティノは理解できていない。

間に入った来訪者がその一撃を掌で受け止めたのだ。

「ぐッ…………」

だが、ティノはそれでも考えを、動きを止める事はなかった。すかさず腕を引き流れるように回し蹴りを放つ。

サヤはもう動かなかった。

影人がティノの蹴りを柔らかく受け止める。突きも拳も蹴りも、剣や弓、魔法でさえ、この防御は破れない。

演舞のようにも見える連撃を終え、ティノが初めて後ろに下がる。明らかな動揺。呼吸が乱れている。

「絶対……防御?」

「《千変万化》と、同じ……だと?」

「レベル8はみんな絶対防御を持ってるっていうのか!?」

!? それは…………さすがに違うと思うけど。

サヤは警棒を握りしめると、距離を取り油断なく構えるティノに突きつけた。

これは武器ではない。魔法の杖でもない。これは――影人達を指揮するための指揮具のようなものだ。

サヤの警棒の動きに従うように影人が接近する。だが、ティノには何も見えていない。

その両腕がハンマーのように変形し、ティノの無防備な胴を薙ぎ払う。

「ッ!?」

ティノの小柄な身体が吹き飛ばされる。ティノは空中で体勢を変えると、壁を蹴って綺麗に着地した。

ダメージはそこまで大きくないが、その表情に余裕はない。

正体不明の攻撃は相手の精神も消耗させる。

「何だ今のは!? 何が起こった?」

「手も触れずに吹き飛ばすなんて……まさか、マスターと同じ能力を!?」

「え!?」

さっきから何かを言われるたびにサヤまで驚いてしまう。クライは一体何なのだろうか。

だが、一旦疑問はおいておき、思考を切り替え眼の前の相手と向き合う。

ティノは強い。冷静な状況判断。不可視の能力を前に最善を尽している。

だが、その程度だ。リィズの弟子として期待していた、来訪者への干渉はできていない。

勝負はついた。確かにティノは将来有望だが、この程度ならばテラスにもいる。

動揺こそ隠せていないが、ティノが勢いよく踏み込み距離を詰めてくる。その速度は初速だけならばサヤの動体視力を超えていた。

地面を強く蹴る鈍い音。一瞬その姿が視界から消え、背後からティノが強襲を仕掛けてくる。

だが、サヤの防御に死角はない。ないのだ。

誰にも見えないが、既に五体以上の影人がサヤの周囲に控えている。放たれた蹴りはあっさりと影人に絡め取られた。

足を掴まれたティノが影人に大きく振り回される。殺すつもりも大怪我させるつもりももちろんない。

不意に発生する風を切る音。見物人の一人――クランハウスの入口で会ったスヴェンが矢を放ったのだ。

だが、神速の矢も、サヤに到達することなく、空中で影人に受け止められていた。

干渉できないという事はダメージを与えられないという事。スヴェンが目を見開く。

「ッ…………これが、レベル8か……まいったな。アークのレベルが上がらないわけだ。防御だけならクライより上か?」

「浮い……てる……?」

影人が受け止めた矢の数は十本以上――あの一瞬でこれだけの矢を放つとは凄腕である。

傍目から見ると、矢が宙に浮いているように見えるだろう。

興味を失ったように影人達が矢を放す。矢は重い音を立てて床に転がった。

放り投げられたティノが綺麗に床に着地する。

だが、立ち上がるティノの眼差しには、驚くべきことに、まだ戦意の光が灯っていた。

一体どうやってここまで心を鍛えたのだろうか? 正体不明のサヤの能力は恐れて然るべきものだろうに。

こうしてみると、他のハンター達もまだサヤに恐怖を感じていないようだ。少なくとも、テラスのハンター達程ではない。

とてもいい。だが、果たしてここから先を見ても表情を変えずにいられるだろうか?

ひりつく空気。ティノが構えを取り、じりじりと距離を測っている。攻撃重視から守り重視に切り替えたのだ。

サヤの能力の射程を確認するつもりだろうか……だが、外れだ。

『さらさら』に射程なんてあってないようなもの。指揮だってなくてもいいのだ。

既にティノはサヤの攻撃射程に入っている。見物している他のハンター達も――。

次はサヤが攻める番だろう。警棒を持ち上げるサヤを見て、ティノが慌てて踏み出そうとする。

その時、室内に怒声が響き渡った。

「ティーーーーーッ!! てめえ、何回クライちゃんと一緒に依頼やってんだッ! ブラフに騙されるんじゃねえ! 未知なんて慣れてんだろーがッ! なんでよく見ねーんだッ、ボケッ!! ちゃんと観察しろやッ!」

「ッ!?」

金属製の部屋を揺るがす大声に、ティノがぴくりと身を震わせた。踏み込みに無理やりブレーキをかけ、後ろに下がる。

「?? よく見る……?」

ティノはリィズの言葉に返事をしなかった。師匠の叱責に身体は震えたが、その注意はサヤから外していない。

慎重な足運び。サヤの隙を頻りに探す漆黒の瞳が、師のアドバイスを聞き入れるかのように更に大きく見開かれる。

リィズは何を言っているのだろうか?

来訪者は誰にも見えない。だからこそ、それを見ることができ、力を使えたサヤの一族は魔女として恐れられたのだ。

だが、彼女はこれまでで唯一、来訪者に干渉してみせたハンターだ。

サヤは警棒を向けたまま、来訪者達を視線で一旦止めた。

ティノの視線はティノとサヤとの間にいる来訪者達を完全にスルーしていた。

目と目が合う。利発そうな目つき、少しでも状況を見定めようとする視線。

そして――その時、ティノの表情に困惑が過った。

「!! …………え?」

「!?」

ティノの視線が、サヤとすぐ右前にいた来訪者を交互に動く。

明らかに不自然な視線の動きだった。一体何が起こっているのかわからなかった。

リィズはともかくとして、助言を受けただけでその弟子にまで見えるようになるなんて――。

いや…………見える?

違う。ティノは、来訪者を見えていない。そもそも訓練場にいる来訪者は一体ではないのだ。見えているのならばそちらにも視線を向けるはず――。

サヤの目をしっかりと見据えるティノに向け、試しに影人を走らせる。

「!? くっ……!」

ティノは迫りくる影人に向かって、後ろに下がりながら突きを放った。

突きが影人の身体に突き刺さり、その身体がぐねりと歪む。瞬時に変形させた両手で突きを放った腕に絡みつく影人を、ティノはぶんぶん腕を振って振り払った。

「っ!? な、なにか、いるッ!?」

干渉できている。だが、見えてはいない。ティノの視線は影人を捉えていない。

ティノが見ているのは――サヤだ。

そういえば、リィズが最初に影人に干渉していた時も、彼女は影人ではなくサヤを見ていた。

更に正確に言うのならば――見ているのは、サヤの瞳だ。

「ティーッ! っざけんなッ! さっさと潰せッ! 場所がわかったって、不利なのは間違いないんだからッ!」

リィズが叱責する。これは――。

「まさか……私の瞳に、映ってる……?」

「!? あぁ!? サヤちゃん、まさか気づいてなかったのお!?」

まさか……さらさらにそんな突破方法があったなんて。

瞳に映っているというのも、そして、それを通して来訪者に干渉できるというのも、初めての情報だ。

何より信じがたいのは、サヤ本人ですら気づいていなかった特性に初見で気付いたリィズ・スマートと、少しアドバイスをされただけでその言葉の意味を即座に理解したティノ・シェイドの洞察力。

長年共に戦ったテラスのハンター達が何故気づかなかったのか……と思わなくもないが、仕方のない事かもしれない。

彼らはサヤを恐れていたし、目を見ようとなどしていなかったから――。

小刻みなステップでティノが影人の懐に入り込み、掌底を放つ。サヤは目を大きく開き、その様子を見つめる。

跳ねる影人の身体。サヤは警棒を撫で、感心した。

サヤの瞳に映る姿を元に戦っているのならば、ティノには影人の背中しか見えないはずだ。にも関わらず、間合いは完璧である。これは経験と覚悟がなせる技と呼ぶ他ないだろう。

影人が霧に変わって消える。死んだわけではない。多分少し……驚いたのだろう。

リィズの時にも気づいた事だが、どうやら、彼らは攻撃される事に慣れていないようだ。

「ふっ……!」

障害がなくなったティノが身を低くし、一息でサヤの懐に入る。その一瞬の動きの間も、その視線はサヤの瞳から外れていない。

その握られた拳が振り上げられようとしたその時、ティノの身体が横から放たれた黒い手のひらに弾き飛ばされた。

「ッ!?」

まるで虫でも叩き潰すように、真上から振り下ろされた手のひらが、宙を舞うティノを叩き落としそのまま押しつぶす。金属床に肉が叩きつけられる嫌な音が響き渡る。

それは、表現するのならば蜘蛛だ。芋虫のような楕円の胴体に、数メートルもある細長い腕を無数に生やした来訪者。

その胴体には人間の顔に似た顔が埋め込まれている。

『さらさら』によりやってくる来訪者には強弱がある。影人がレベル1ならば、この『人面蜘蛛』はレベル2だ。

「ッ!? これは――」

「手の……平……?」

床に生じた人面蜘蛛の足跡――血痕のような手の跡。

より深い場所からやってきた彼らは少しだけこの世界に痕跡を残す。それも時間が経てば消えてしまうが――。

見物人達がその異様な光景にザワツイている。だが、誰も床に叩きつけられ押しつぶされているティノを心配していなかった。

もしかして、慣れているのだろうか?

残念ながら、リィズの見つけた糸口では来訪者に対抗する事はできない。何故ならば、彼らはサヤが見ていないところでも行動できるからだ。

だが、探索者協会の抱いていた懸念を払拭する事こそできないが、帝都に来てたった数時間で誰も気づかなかった特性が判明したというのは、かなり希望が持てる。

「はぁ…………ティー、あんたの負けぇ! アンセム兄、回復してあげて」

「うむ」

他の屈強なハンター達と比べても倍近く大きいアンセムが、床に押し付けられているティノに近づく。

雄大な山を前にしたかのような存在感。どれだけの体重があるのか、歩みで部屋が僅かに震える。

何を考えたのか、ティノに近づくアンセムを五人の影人達が取り囲む。影人達は、長く伸ばしたその腕を、アンセムの脚に、腕に、全身に巻き付けた。

「…………?」

「!?」

アンセムが一瞬眉を顰め、そのまま移動を再開する。

そこにはなんのカラクリもなかった。純然たるパワーで全身に絡みつく影人達を意に介さず、ティノに近づいていく。

一体が首に絡みつくが、それすら気にしていない。

影人達は一体一体がそれなりの力を持っている。全身に絡み付ければ剛力無双のハンターでも動けなくなるだろう。

ティノに手を伸ばすアンセムに、人面蜘蛛が上から押しつぶすように襲いかかる。その力は影人よりも遥かに上のはずだが、アンセムの身体は揺るがなかった。真上から降りかかる力を受けても体勢を崩しさえしない。

しかも、アンセムはサヤの目を見ていなかった。妹の言葉を聞いていたのに、まるでそんな事関係ないとでも言うかのように――。

狐のリーダーをも上回る圧倒的な剛力にタフネス。そして、対抗手段を持たない状態で見えない者を相手にしているにも拘らず一切揺るがぬ精神性。

もしかしたら…………一番苦手な相手かもしれない。

この男はサヤに無数の守りがついているなど無関係に正面から襲いかかってくるだろう。もしも彼と戦うのならばサヤも突っ立って来訪者に任せているわけにはいくまい。

「そうだ、次はアンセム兄がやる?」

「うむうむ」

一瞬で傷を治癒したアンセムが、鈍重な所作でサヤの方を見る。

明らかに耐久とパワーにマナ・マテリアルを割り振った巨体。小柄なサヤと比べるとまさしく見上げるようなその巨体は、サヤの瞳を覗くには甚だ不利だろう。

だが、その動きには躊躇いも恐怖もない。今も影人がその首をねじ切ろうとしているのだが、一切気にする様子もない。どれだけ頑丈なのだろうか。

その余りに規格外の姿に思わず頬を引きつらせていると、外野のハンター達が声をあげ始めた。

「ちょっと待った、アンセム。皆、模擬戦の順番待ちをしてるんだ。お前が次に出たら他の奴らの出番がないだろうが!」

「レベル8に――しかもこんなに安全なレベル8に挑めるなんて滅多にないんだぞ!」

「そーだそーだ!」

「うーむ……」

安全!? 今、私の事を安全って言った!?

帝都…………なんと恐ろしい所だ。帝都のレベル8の基準はどうなっているのだろうか。

地元のテラスとの違いに初めて恐怖を感じるサヤの前に、新たなる挑戦者が意気揚々と立ち塞がった。