軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

443 試験結果

「さて、どうしたものか……」

探索者協会本部。そのミーティングルームで、探索者協会の幹部にして、レベル9認定試験の責任者、アイザック・グロウは積み上がった課題にため息をついた。

設立から二千年を超える歴史を誇っているとされる探索者協会は今、前代未聞の混乱の最中にあった。

そもそも、トレジャーハンターというのは現在、最も活発な職の一つだ。所属しているハンターの数も、外部から持ち込まれる依頼の数も右肩上がりに増えている。日頃の業務だけでもそこまで余裕はないというのに、幾つも大きな案件が重なり、もう完全にキャパシティをオーバーしている。各支部から応援は呼んではいるが、職員達の労働時間は伸びるばかりだ。

だが、コード関連の後処理も全く目処が立っていなかったが――とりあえず今回のレベル9試験の結果を出さねばならなかった。

レベル9ハンターというのは英雄の領域である。通常のハンターならばどういう形であれ目標を達成できれば評価されるが、このクラスになってくると、ハンター達には万人を納得させる最良の結果が求められるのだ。

と言っても、通常のレベル9試験の場合は試験を受けるための審査が本番みたいなところがあるので、試験を受けることさえできれば大抵は合格できる。逆に言うのならばそれは、満場一致で試験を受けられるようなハンターは大抵の依頼で最良の結果を叩き出せるくらいの実力は持っているという事だ。

だからこそ、今回の試験結果は探索者協会本部にとって想定外の一言に尽きた。

まさか――コードの王族を保護する任務で、高機動要塞都市コードそのものを空から落としてしまうとは。

確かに危険な任務だった。未知数な任務だった。

そもそも、カイザーがまとめた報告によると、今回探索者協会に持ち込まれた依頼はコードの――ジーン・ゴードンの罠だったのだ。

そんな圧倒的な不利な状況で、一体どうすれば王族達を全員無事保護するばかりか、都市そのものを落とせるというのだろうか。

アイザックも長年探索者協会の運営に携わっているが、今回程、高レベルハンターの力を思い知らされた日はない。

そもそも都市を落とす必要なんて、なかったというのに。

おまけに、依頼が罠だったにも拘わらず、都市を落としたにも拘わらず、保護した王族達(特にアリシャ・コード)からの《千変万化》の評価は悪くないというのだから、もはや意味がわからない。

今回のレベル9認定試験の目標はコード王族の保護だ、コードそのものの撃墜は明らかにやり過ぎである。だが、やり過ぎと断ずるには成果が大きすぎた。

王族の保護はコードという潜在的な敵の排除を意味するが、コードそのものの撃墜は各国や探索者協会の利益に直接繋がるのだ。コード関連の案件に関わっていた諸国が誰もコードという国を弾劾しなかった程度には。

コード跡地に残された数々のアイテムに、コードの住民という人的資源。コードという都市そのものの情報にも大きな価値がある。そう、高度物理文明時代の宝物殿から分離したというその都市には『再現性』があるのだ。

そして、その詳細な情報は恐らく、コードの王族だけが握っていた。

会議の出席者の内の一人が腕を組み、難しい表情で言う。

「大きな利益が見込める以上はレベル9に値せずの判定を出すわけにはいかないでしょうね。そのような事をすれば、所属するハンターや諸国からの信頼を損ないかねない」

「最低でも一人は認定しなければ、辻褄が合いませんな」

その言葉に、他の参加者も同調する。その通りだ。

予期せぬ成果から大きなメリットが見込める以上、レベル9試験に不合格と言う判定を下す事はできない。そんな事をすれば、実態はどうあれ探索者協会の処遇に不満を持つ者が出るだろう。

ましてや今回の案件は探索者協会にとって因縁の案件なのだ。

依頼が罠だった点については、まあいい。優秀なレベル8ハンター達にとって、その可能性があるのは言わずもがな、明白な事だからだ。だが、今回は裏で糸を引いていた相手が悪かった。

前コード攻略作戦の協力者の息子、ジーン・ゴードン。

そのような存在が現れてしまったのは、探索者協会にとって間違いなく大きな失態だ。

コード関連の案件は、長らく探索者協会にとってタブーに近かった。当時の資料も封印されていたし、現在の探索者協会に当時を知る者もいない。

カイザー達からの報告を受けて資料を改めて精査したが、子どもに関する情報は出てこなかった。

恐らく、協力者が意図的に隠したのだろう。そして、探索者協会もそれを知りながら、見て見ぬふりをした。

その協力者に様々な複雑な問題があったが故に――。

「まさか子がいて、生きているとは……しかもあの若さで。さすが『精霊人』の血を引いているだけの事はある」

「自ら望んでの協力だったとはいえ、精霊人の死のきっかけを作ってしまうとは、当時の探索者協会もさぞ焦ったろうな」

そう。当時の協力者は純粋な人族ではなかったのだ。

精霊人。現在も精霊人と人族の間には様々な確執があるが、百年前は現在の比ではなかった。

それは恐らく、その協力者が、初代コード王の死で混沌としていたコードを逃げ出してきた理由であり、探索者協会がその協力者をコード攻略作戦に参加させてしまった理由であり、そしてコードの案件がタブーとなった理由の一つでもある。

「ともかく、この件はセレン皇女には報告が必要でしょう。ジーンが半精霊人となると――今、ユグドラとトラブルを起こすわけにはいきませんからね」

精霊人は人間とは違うのだ。あまねく全ての精霊人は女王にとって愛すべき臣下であり、それはどれだけ距離が離れていても変わらない。半分とはいえ、精霊人の血を引いている以上、他の犯罪者と違って勝手に処理するわけにもいかない。

ジーンが危険ならばともかく、コードがなくなった今、その男の脅威はそこまで大きくないのだ。

アイザックはそこで、手を叩いて話を変える。

「今はレベル9試験の話だ。カイザーとサヤ、コードの王族達から話を聞く限り、三人の内、最も王族の保護に貢献したのはクライ・アンドリヒで間違いない」

本人は自分は何もやっていないと言い張っていたが、他二人の意見が一致している以上は間違いないだろう。

まったく、実績を大きく見せようとするのならばともかく、ないものにしようとするとは、一体何を考えているのか。

「だが、《千変万化》はレベル9認定を辞退している。相違ないな? ガーク支部長」

『…………そうだ。どうやら、あいつは今回の結果に満足していないようだな』

机の上に置かれた共音石が、押し殺したような声で答える。

まったく、本当にレベル8ハンターというのは何を考えているのかわからない。だが、その意見を無下にするわけにもいかなかった。

ハンターもレベル8ともなると、富、名声、力の全てが揃っている。そして、とびきり我も強いものだ。納得がいかない事を強行しようとすれば、探索者協会を脱退しかねない。

となると、消去法でレベル9に上げるのは《破軍天舞》のカイザー・ジグルドか《夜宴祭殿》のサヤ・クロミズという事になる。

そこで、《破軍天舞》のカイザー・ジグルドが所属する探索者協会ガリスタ支部長、ウォーレン・コールが言う。

「あー、カイザーは、消去法でレベル9になるなんてまっぴらだと言っている」

「ッ……」

ああ、そうだろう。そうだろうな! 自らが活躍した結果ならばともかく、レベル9の功績を譲られるなんて、自信に満ちていたあの男にとって我慢ならない事に違いない。

今回の作戦で、二人は罠にかかりコードが墜落するぎりぎりまで動けなかったという報告は受けていた。だが、大量に存在していたジーン配下の傭兵達――賊達を残らず倒したのはカイザーとサヤの二人だ。その倒した者達の中には指名手配されている者も少なからず存在していたし、とびきりの大物も含まれている。

保護されたコードの王族達もカイザー達の力は認めているのだ。墜落寸前まで王族の保護に関与できなかったと彼らは言うが、彼らが賊達を足止めもとい打倒しなければ状況も変わっていたはずだし、一種の役割分担とも考えられる。

だが、カイザーもまた一度出した言葉を撤回したりはしないだろう。

そもそもレベル9に意欲を見せていたカイザーが辞退するという事は、相当な理由があるという事。となると、候補として残るのは一人だが――。

ウォーレンが手を組み、眉を顰めて言う。

「カイザーはサヤ・クロミズこそがレベル9になるべきだと、言っていた。サヤ君の力はレベル9に在るべき、異質なものだった、と」

「…………レベル9に在るべき、か……」

あの自信満々でレベル9への意欲を見せていたカイザーが、己を差し置いてそこまで言うとは。

高レベルハンターを超える力を持つ狐の構成員二名を何もさせず一方的に制圧したという、『さらさら』。確かに、戦闘能力という意味ではレベル9としても申し分ないだろう。幾つかの懸念点はあるが――。

サヤ・クロミズをレベル9に推薦したテラス支部長のコラリーを見る。

もともとサヤは三人の中では最もレベル9から遠かった。ここでレベル9になれば、ハンター達の死傷率が高く、これまで一度もレベル9を出していないテラス支部にとって大きな快挙になるだろう。

だが、コラリーが浮かべた表情は、アイザックが予想したものとは違っていた。額に皺を寄せ、ウォーレンよりも深刻そうな表情で、コラリーが発言する。

「光栄なお話です。ええ、まったく光栄なお話ですわ、サヤがレベル9になるなど、何度夢見たことでしょう」

「…………随分、含みのある言い方だな」

「ええ……そうですね。だって、わたくしは――反対ですから。試験を受ける前のサヤだったら、喜んでお受けした話なのですが――」

「!?」

それは、予想外の言葉だった。部屋の中がその言葉に、ざわつく。

ハンター本人が誇りの問題でレベルアップを拒否するのならばともかく、レベル9に推薦したはずの支部長が反対に回るなど、本来ありえる事ではない。

「…………どういう事だ?」

同時に三人がレベル9認定試験を受けるのもなかなか稀有な事だが、その全員がレベルアップを拒否するなど前代未聞である。

部屋中の視線を受け、コラリーがため息をつき、軽い口調で言う。

「単純な事です。状況が変わった――あの娘の『さらさら』に――弱点がなくなってしまった、からですわ。あの《千変万化》が、あろう事か、唯一存在していた弱点を消してしまった――」

『…………待て。どういう事だ? 弱点はない方がいいだろう?』

ガーク支部長の言う通りである。所属ハンターが高難度の依頼を乗り越え弱点を克服する。それはどちらかというと好ましい事だろう。

それが……弱点がなくなってしまったから、レベル9にするのは反対?

その不穏な言葉に顔を見合わせるアイザック達に、コラリーは小さく咳払いをして、笑みを浮かべる。

だが、その目だけは笑っていなかった。

「わたくしは――ずっと、あの娘の能力が、完成しているのだと、思っていました。いや――信じたかったのです。恐怖を和らげる能力名や二つ名を与え――あの娘の力にはこれ以上の先がない、だからこそ、ただの、一流のハンターとして生きていけるのだ、と。サヤには、弱点があったから良かったんですの。夜にしか『アレら』を呼び出せない――視認できないという致命的な弱点があったからこそ、あの娘はぎりぎり、存在を許容されていた」

《 夜宴祭殿(リトル・ウィッチ) 》。複数種の強力な妖魔による縄張り争いが繰り返される魔境の中心に存在する城塞都市テラス、最強のトレジャーハンター。

かつてテラスは絶え間ない攻撃にさらされている街だった。だが、サヤが活動を始めてから襲撃頻度は大きく減った。

精鋭揃いのテラス支部のトレジャーハンター達や、街を守り続けていた歴戦の兵士達を一切寄せ付けなかったその力を、魔物達もまた恐れたのだ。

そして、その誰にも真似できない功績を以て、サヤはレベル8となった。それからしばらく経つが、未だテラス支部でサヤに匹敵するハンターは現れていない。

コラリーはため息をつくと、白旗をあげるかのように両手を上げて言う。

「わたくしは、さらさらは極めて強い力であると同時に大きな危険性も秘めていると、考えておりますの。正確に言えば、さらさらの呼び出すモノ、ですが、今回の件でわたくしはその危険性を再確認しました。なにしろ、アレらが何なのか、何故サヤを助けてくれるのか――サヤ本人も知らないのですから」

§ § §

狭い護送馬車の中には、緊迫した空気が漂っていた。

耐久、筋力共に優れ、どんな悪路も問題としないアイアン・ホース六頭立ての馬車はお世辞にも乗り心地がいいとは言えなかったが、クール・サイコーにはそんな事を気にしている余裕は一切なかった。

その理由は――眼の前にいる二人の賊だ。

分厚い目隠しをされ、手錠と足枷、鎖で全身の動きを封じられた上で、今尚余裕を崩さない二人の賊。

武帝祭の事件で世界の敵となった、最悪の犯罪組織――『 九尾の影狐(ナインテイル・シャドウフォックス) 』の構成員、ケンビとクウビ。

コードで紆余曲折の末に捕らえられたその二人は、間違いなく高レベルハンターを超える戦闘能力を誇っていた。

武帝祭で、《千変万化》との戦いで消耗しきった状態でも捕らえる事ができなかったクウビは言わずもがな、ケンビだって、クラヒが放った雷による奇襲を容易く迎え撃って見せた。最終的には洗脳の解けたレベル8ハンター、《夜宴祭殿》の力で制圧される事になったが、それだって《千変万化》の奇策により発生した意識の空白をつけなければ、あそこまであっさり捕える事はできなかったはずだ。

そして何より、一番問題なのは、その凶悪極まりない賊達の護送メンバーに、《 嘆きの悪霊(ストレンジ・フリーク) 》が選ばれた事である。

多くの英雄が生まれるこのトレジャーハンター黄金時代、賊のレベルも年々上がっており、それも超高レベルハンター級の賊と来ればまさしく次元が違う。

素手で合金の鎖や手錠を引きちぎるくらいならばまだマシな方で、無詠唱で周辺一帯を焦土にしたとか、視線だけで護送メンバーを洗脳しただとか、とんでもない噂を何度も聞いてきた。

拘束された状態でも危険なそんな賊達を無事監獄まで護送するには最低でも同程度の戦闘能力を持つ者が必要であり、だがそういうメンバーは通常、圧倒的に足りていない。

今回、《嘆きの悪霊》が任務につくことになったのは、リーダーであるクラヒが勝手に仕事を貰ってきたからなのだが、それは同時に、探索者協会がクラヒ以上の戦闘能力の持ち主を連れてくる事ができなかったという事でもある。

護送には他にも数十人のハンターが参加し、馬車の周りを固めているが、実際に二人の戦闘能力を知るクールにはそれがいざという時の助けになるとはとても思えなかった。

もちろん、クラヒは強い。その雷の術はコードでの経験を経て更に洗練され、肉弾戦でも魔術戦でも彼に勝てる者はそうはいないだろう。

だが、それに付き合わされるクール達はクラヒと比べれば数段劣るし、何より今回は相手が相手だ。

二人の賊には可能な限りあらゆる処置が施されていた。

ケンビが所持していた大太刀は護送馬車に放り込む直前に《夜宴祭殿》が回収したし、身につけていた物も全て没収している。それができたのは、《夜宴祭殿》と《破軍天舞》、そして何より《千変万化》がいたからだが、今は誰もいない。

片膝を立て、ほぼ身動ぎ一つできないレベルまで拘束されている賊達を静かに見張るクラヒ。

そこで、目隠しをされたケンビが小さく吐息を漏らすように笑った。

「ふふ……そんなに、緊張しなくても大丈夫よ。さすがにこの状況で暴れる程馬鹿じゃないわ。剣も取り上げられちゃったし」

「殊勝な態度だ。だが、一応、警告しておくよ。君達が何か不審な動きをしたら――《夜宴祭殿》の力を借りるまでもない。その時は、僕の切り札が君達を一秒足らずで粉々にする」

いや、殺したらペナルティなんですけど…………監獄では彼らは厳しい取り調べを受ける事になる。組織の情報を得る千載一遇の好機を潰したとなれば、探索者協会が擁護しても各国が黙っていまい。

だが、このリーダーならばやるだろう。クラヒ・アンドリッヒは有言実行の男であり、その躊躇いのなさは彼の強さの源でもある。

続いて、クラヒがクウビの方を見る。既にクラヒは戦闘モードだ。その静かな戦意を示すかのように、髪に紫電が舞う。

「それとも、僕が切り札を放つ前にその拘束を外せるか、試してみるかい?」

「面白い…………コードではまともに相手をしてやれなかったからな」

あらゆる魔術対策を施され、魔術の発動が封じられているはずのクウビがニヤリと笑みを浮かべる。

その態度はやはり、とても拘束された者のものには見えない。

それもそのはずである。この男は、コードの監獄ですら封じきれなかった男だ。魔術対策だってどこまで通じているかわからない。

唯一、わかっている事実は――これだけの拘束があれば《雷帝》を突破できないという事だけだった。

「僕も残念だよ。君とはもう一度真正面から戦いたかったんだが――まぁ、仕方あるまいよ」

「そんなにやりたいなら好きにしていいけど、私を巻き込まないでちょうだい。さすがの私でも剣もなしの状態で高レベルハンターと戦う気にはなれないわ。私は剣士なんだから。それに――まだ《夜宴祭殿》が見張っているかもしれないでしょう?」

《夜宴祭殿》。サヤ・クロミズの『さらさら』。

あの能力は、それを直接向けられたわけでもないクール達をもぞっとさせる程の力だった。

レベル8ハンターというのが皆あのレベルの力を持つ怪物だとするのならば、才気に溢れるクラヒでもレベル8になるのは難しいだろう。そう確信する程に。

ケンビの言葉に、クウビが浮かべていた笑みを消し、戦意を霧散させる。

「…………ふん。確かにな」

「探索者協会もよくもまあ、あんな危険な能力者を送る気になったものね」

「危険な能力者……?」

物騒な言葉に目を見開くクラヒ。

危険。クールも似たような印象を抱いた。

あの時、どこからともなく聞こえてきたさらさらという音は、未だに耳に残っている。それを思い出すと、今でも恐ろしくて背筋が凍りそうになるのだ。

あの音と、そしていつの間にか現れた気配には、根源的な恐怖を呼び起こすような何かがあった。

命懸けの戦場で圧倒的な不利を強いられている。そんな状況など、どうでも良くなってしまいそうな、恐怖を。

「いや、ただ隠していただけかしら。ふふふ……あれは間違いなく、私達の側の能力よ。呼び出されたものは見えなかったけど、《夜宴祭殿》本人の命令すらきかないんだから」

「!!」

確かに……冷静に考えたらその通りだ。

事件後、解放されたカイザーがサヤの反撃を《千変万化》の策略だと断言していたのであまり気にしていなかったのだが――あの時、サヤは仮面の力で完全に意思を奪われていたのだ。

使役系の能力で使役されるものは通常、術者の命令に絶対服従である。それが能力をコントロールするという事だ。

結果的にそれが功を奏したが、命令が効かないという事は、自由に人を害する可能性を示している。

何より、あの能力で呼び出されたものは雰囲気からして、明らかに人の味方ではなかった。

ハンターが手の内を隠すのはよくある事だが、この事実が明るみになれば、探索者協会の内部で大きな問題になるだろう。

「まさか、あのような異質な能力が存在するとは…………現代文明の終焉も、随分近づいているように見える」

「文明の……終焉?」

クールの反応に、クウビが呆れたように言う。

「無知め。ああいうおかしな能力者があらわれたという事は、この世界に変革期が訪れているという事だ。既に、この世界に巡る力は――マナ・マテリアルは、飽和している。貴様らも、いずれ身を以て知るだろう。この文明の終焉も、近いという事を」

変革期。その単語に、クールは目を見開いた。

これまでこの世界で無数の文明が滅んできた事は知っている。それらの残滓がマナ・マテリアルにより再現されたものが宝物殿や幻影なのだから。

確かに、マナ・マテリアルの濃度が少しずつ上昇しているという噂も聞いた事はあったが、それが文明の終焉に繋がっているなどとは考えたこともなかった。

その言葉を荒唐無稽だと斬って捨てるのは簡単だ。

これがゴシップ誌で語られていた話ならばクールも笑い飛ばしていただろうが、相手が相手だった。

目隠しまでされたクウビとケンビが口を封じられていないのは、道中、可能であれば情報を聞き出すためだ。

脳内にメモをしていると、ケンビが口元だけで妖艶な笑みを浮かべ、クラヒに言う。

「今、私達の拘束を解き協力するのならば、仲間にしてあげてもいいわよ、《雷帝》。どうせ私達二人を繋ぎ留めておける監獄なんて――存在しないのだから」

それは、高レベルハンター級の犯罪者を捕らえる際に発生する大きな問題だった。

今回、彼らを収監するのは最高クラスの監獄である。看守のレベルも他の監獄とは比べ物にならない程高いが、それだって万全の備えとは言えないだろう。武器のないケンビはともかく、武器のいらない魔術師であり、コードの監獄でも手を焼いたクウビをいかにして収監するかについては大きな課題になっているはずだ。

だが、そのあたりについてはクール達が考えるべき事ではない。

クール達の役割はあくまで護送、その後の事はその分野のプロに任せておけばいいのだ。

ケンビの言葉に、クラヒが笑みを浮かべて答える。

「あまり僕達を舐めない事だ。君達をどう封じ込めるかについては、ゼブルディア帝国主導で各国が話し合っている。場合によっては探索者協会から高レベルハンターが派遣されてくるだろうね」

武帝祭の件で一番、怒りを表しているのはゼブルディア帝国だ。国土の広さでも国力の大きさでも、世界屈指と言える大国である。加えて、その帝都はハンターの聖地と呼ばれ、数多くのトレジャーハンターがそこをホームに選んでいた(本物がいるので、《嘆きの悪霊》は行った事はないが)。

帝国が本気を出せば、探索者協会に高額の依頼を出して監獄に高レベルハンターを動員する事も可能だろう。

クラヒの言葉に、クウビは鼻を鳴らして言った。

「ゼブルディア、ゼブルディア……か。くく…………愚かな事だ。我々に構っている暇など、ないだろうに」

「…………」

「ゼブルディアの帝都があるのはかつて神の在った地――いわば、禁足地だ。ロダンは神を撃退し神殿型宝物殿を消滅させたが、神を滅ぼせたわけではない。今代の皇帝は切れ者のようだが――地脈に満ちるエネルギーが高まっている今、奴らは長きに亘る繁栄の代償を払う事になるだろう」

確信しているかのようなクウビの言葉に、昨今ゼブルディアで発生した事件の数々が脳裏に浮かぶ。

最近、騒動が起こりすぎだとは思っていたが――もしかしたら、本当に何かがあるのかもしれない。

クールのような凡百のハンターではとても想像できないような何かが。

「だが、ゼブルディアには君を捕まえた《千変万化》もいるんだよ」

「ッ…………やつの話はするな。聞きたくもない」

クウビは吐き捨てるように言うと、黙り込んだ。