軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

431 モリスの場合

平穏はいつだって唐突に破られる。

都市システムから崩御の連絡が来たのは、モリス・コードが自分の拠点で、久しぶりに死への恐怖とは関係のない悩みに頭を悩ませている時だった。

王の崩御は都市システムを通して一斉に通達された。だが、ついこの間まで悪夢を見る程恐れていたそのメッセージを見ても、モリスは予想していたよりも遥かに落ち着いていた。

誰の味方をするか、自分が王位を取るのか、どうすれば殺されないか。ずっと悩み続けていたそれに結論が出たのだ。

――モリス・コードはアリシャの味方をする。

そう決めたきっかけは言うまでもない、数日前から行われていたアリシャ・コードの観光だ。

ずっと監視していた。仲間達と共に都市を巡るアリシャは本当に楽しそうだった。

己の生い立ちを恨む事もなく、未来に待っているモリスよりも余程悲劇的な運命を呪うでもなく、コードという都市を見て回る事を心の底から喜んでいた。その笑顔を見て、モリスは王位を取るであろう兄に怯え、隠れ生活している自分が恥ずかしくなったのだ。そして、同時に――アリシャの力になりたいと思った。

彼女はこのままでは王位争奪戦が始まった直後に処分される。幽閉が解かれたりイレギュラーは発生しているが、妹には少しでも力が必要なはずだ。そして、モリスにはその力があった。

密かに研究し、既に製造最終段階に入っている決戦兵器。

それは、人が操作できるタイプの巨大な機装兵だ。

全長十メートルオーバー。王族としてのリソースのほとんどを費やし、たった一機だけ生み出したその兵器は破格の性能を誇る。

鉄壁の盾であり、最強の剣であり、最速の翼でもあるこの兵器を使えば、あの用意周到な兄の警備網を蹴散らし真っ先に王塔にたどり着ける可能性すらあった。

モリスは自分が王の器でない事を理解している。だから、これを使うのはモリスではない。

アリシャだ。あの妹が王になれば誰かが処分される事もなく、もっと楽しいコードになる事だろう。

後の問題は、この兵器をどうやってアリシャに持っていくか、だった。モリスはアリシャとは面と向かって顔を合わせた事すらないのだ。

ケンビがアリシャの近衛を追い出したせいで、アリシャはモリスのエリアに観光に来なかった。もっとも来たとしてもモリスのエリアに特に面白いものはないのだが。

地下の秘密工場で完成間近の兵器を見上げ、どう話を持っていくか悩んでいると、ケンビ――現在のモリス唯一の人間の近衛にして凄まじい腕前を持つ女剣士がやってきた。

「モリス王子……とうとうコード王が亡くなったわ」

「……あぁ、もちろん知ってるよ。覚悟も決まったよ」

前回と異なり、今回は王位継承のルールが判明している。

これより王のエリアは閉じられ、崩御から三日の時間を経て再び開かれる。王塔の頂上に存在する杖を手にした王族が、次の王となるのだ。

王塔周辺にエリアを持っているのはアンガス、トニー、ノーラの三人だけだ。

最も優勢なのは言うまでもない、第一王子のアンガス・コードである。アンガスは戦力もさる事ながら、そのエリアは王塔の正面広範囲に接する最も有利な位置に存在している。

恐らく兄は待機期間中に広範囲に自軍を展開し、他の王族が王塔を目指すのを妨害すると同時に塔への進軍の準備をするはずだった。

「僕は……アリシャに味方する事にした。まだ動作確認までは出来てないけど、ちょうど武器も完成したところだよ」

モリスの言葉に、ケンビの眉がぴくりと動き、立ち尽くす巨大機装兵に視線を向ける。

まだやらねばならない事はあるが、戦いが始まるまでには間に合う事だろう。

「ふーん……この巨大な人形があれば、アンガス王子に勝てるわけ?」

「それは……わからない。でも、ないよりはいいはずだ」

モリスは兄の集めた戦力を正確に把握していない。だが、この兵器があれば有象無象を蹴散らす事くらいはできるはず。

それに、この兵器だけで王位を取る事はできなくても、アリシャには《雷帝》がいる。その二つがあれば、もしかしたらアンガスを出し抜く事もできるかもしれない。

ケンビはモリスの表情を確認するかのようにしばらく見ていたが、肩を竦めて言った。

「そっ。決意は硬いみたいね……わかったわ…………つまらない男」

「え!?」

ケンビが凄まじい腕を持っている事は知っていた。何しろ、何十人もいたモリスの近衛達を無傷で膾切りにしたのだ。

だが、今の目の前で起こった事は、モリスの予想を遥かに超えていた。

モリスには、刀を抜いた瞬間すら見えなかった。ぱちんと小さな音が響き、場内が震える。

周囲を警戒していた近衛機装兵が一瞬でばらばらになり、そして――。

「ッ!? な、何をするんだ、ケンビ!? お前は僕の近衛だろ!?」

モリスが全リソースを使って生み出した巨大機装兵が、音を立てて崩れていく。

斬ったのだ。それも、一度ではない。

その場にいながらにして、十メートルはある、特殊合金で造られているはずの決戦兵器をばらばらにした。システムで確認するまでもなく修復不可能だとわかる。

青ざめ唇を戦慄かせるモリスを見て、ケンビがため息をつく、

「ふふ……モリス王子。私は悪いけど、貴方と違って遊びで近衛になったわけじゃないの。まぁ、近づいたのも頼まれたからだけど――貴方が王になる可能性が高いなら本気で付き合ってあげてもよかったけど、そもそも王位を狙わないんじゃ話にならないわ」

「ッ…………近衛が王族に弓引く意味、わ、わかって――」

「ふふ…………貴方こそ、わかっていないわ。私がその気になれば――この国の王族なんて全員、とっくに死んでいるって事。このコードの力は確かに莫大だけど、卓越した個を倒せる程じゃない。私とコードは破壊の質が違うの。だから、欲しいわけ」

モリスの危機を察知し、防衛システムが作動する。だが、生えた砲塔は、現れた小型の警備ロボは、ケンビが刀を抜いただけで尽くばらばらになった。

警備システムは破壊されても即座に次の手を打つが、確かにケンビがその気ならばモリスはとっくに死んでいるだろう。

ケンビはその場で腰を抜かすモリスを見下ろすと、刀を納め、冷ややかな声で言った。

「さよなら。リソースを使った兵器は破壊したし、私の役目は終わり。リソースのない王族なんていないも同然。後はせいぜい、好きにするといいわ。モリス王子」