軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

426 ノーラの場合③

もう勝手知ったるノーラさんの拠点ビル。

その玉座の間で待っていると、ノーラさんがおひいさまと一緒にグチグチいいながら戻ってくる。

「まったくッ……あのタイミングで邪魔が入るとは……」

「クライ、おかえり! 私、勝ったよ!」

おひいさまが先程の疲労も見せることなく、駆け寄ってくる。

シャワーを浴びたのか、その表情には先程までの疲労は見えない。肌もほんのり紅潮している。

「見てたよ、おめでとう! しかしおひいさま、運動神経いいねえ」

僕の言葉に、ノーラさんの騎士達も口々に称賛の声をあげる。

「さすがノーラ様の妹君です。初戦であそこまで動ける人はなかなかいませんよ!」

「素晴らしいレースでした。凄い盛り上がりでしたよ! アリシャ様の名はこのエリアの市民の間に語り継がれる事でしょう!」

「ふん……アクシデントがなければ私の勝ちは確定だったのに」

心底悔しげに言うノーラさんに、側近の人が恐る恐る言う。

「しかしノーラ様、僭越ながら――レースにアクシデントはつきもの。それもレースの妙味かと」

「あーあー、そんな事言われずともわかっているわ! アリシャ!」

ノーラさんが、おひいさまの名を呼ぶ。

その目をしっかり見ると、しかめっ面のまま言った。

「初めてにしては見事な走りであった。さすがはこのノーラ・コードの妹だ。覇王の精神は覇王の肉体に宿る。今後も精進するがよかろう」

「は、はい! ノーラお姉様! ご指導頂き、ありがとうございました!」

花開くような笑みでお礼を言うおひいさまに、ノーラさんがバツが悪そうに言う。

「ふん……よい。手を抜いたと言える程抜いたわけではない。この私に勝利した事を、誇るがいい。それに、私が前を走らねば、道がわからないだろう」

僕がいない間に、おひいさまも随分ノーラさんと打ち解けたらしい。どういう経緯でレースをする事になったのかわからないが、楽しそうでよかったよかった。

無事コードの外に保護できたら顔を合わせる機会も増えるんだし、姉妹仲が良いに越した事はない。

そこで、おひいさまが輝くような笑みを浮かべて言う。

「それで……ノーラお姉様。約束の件なんですが――」

「!! クライ、貴様、《空》の懐柔は成功したんだろうな!? 失敗したらただじゃ済まさんぞ!」

急におひいさまに向いていた顔をこちらに向けて大声で聞いてくるノーラさん。

「あー、ちゃんと解放申請通ったよ。さっきクラヒと走ってたじゃん。名前はクウビだって。変わった名前だよね」

「やはり無理だったか! 困難な依頼だったとは言え、失敗したからにはペナルティは――何?」

ノーラさんが引きつった表情で僕を凝視する。そんなに見つめられた穴が空いてしまいそうだ。

てか、ペナルティあったのか。危ない危ない。何だかわからないが、クウビに感謝だ。クラヒとレースしたままどっか行ったけど。

「……同意、したのか? 協力すると? そもそも、どうやって奴と会話を交わした!?」

そりゃもう……なんか知らないけど声を掛けたら返事があったし、ほとんど交渉しなくても協力してくれると言ったのだ。まぁ、最終的に都市システムの審査に通ったんだし、何も問題ないだろう。

「だから、言ったでしょ。クライならやる、って! クライは、魔法使いなんだから!」

「魔法なんて使えないよ。ただ僕は自分ができる事をやっただけさ」

おひいさまの信頼が厚すぎる!

胸を張ってハードボイルドを気取ってみたはいいものの、何故僕もうまい事なんとかなっているのか全くわからないのであった。

「それで、ノーラお姉様! 先程の約束の件なんですが――」

「約束……?」

状況がわかっていない僕に、ノーラさんの騎士の一人が教えてくれる。

「ノーラ様が、勝負の前に、アリシャ様に宣言したんですよ。自分がレースで負けたらなんでも一つ願いを叶えてやる、と」

………………一体、どうしてそんな約束を。

ノーラさんがさっきから誤魔化そうとしているのはそれか。大方負けてやるつもりなんて全くなかったのだろう。部下にバラされてしまっているし、口は災いの元だな。

「そう言えば僕とも約束していたなあ。クウビを解放できたら、なんだったかなー」

「!! そうでしたね……ノーラ様、約束を違えては沽券にかかわります」

「ッ…………ぐぅッ……むぅッ…………貴様、何が楽しくて、呼び名に拘るッ!?」

いや、別にもういいけどね…………スペア呼びしてないみたいだし。こう見えても僕にも妹がいるわけで、その呼び方には思うところがあっただけだ。

そして、だが、僕がもういいと言っても周りはそう思っていないようだった。

周囲の騎士達の、『可愛いアリシャちゃん』呼びへの熱量にタジタジになるノーラさん。と、そこで行方知らずになっていたクラヒとクウビが戻ってきた。

「参ったよ、この男、負けず嫌いでね……」

「抜かせ。貴様がずっと走り続けるからだろう!」

超級の魔術師が二人、言い争いをしながら入ってくる。クウビの姿に、タジタジだったノーラの顔色が真剣なものに切り替わる。

「クライ、確かに交渉は成功したようだな。クウビ……お前の顔、監獄で見た事があるぞ?」

「ん…………お前が、《千変万化》の『今の飼い主』、か」

クウビが腕を組み、ノーラさんをじろじろと不躾な目で見る。

「まぁ、誰でもいい。あの剣尾を殺せるのならば、な。いくらでも協力してやる」

「剣尾――貴様を連れてきた、あの女か…………いいだろう。あの女はアンガスに取り入っている。我らの目的は同じようだな。あのアンガスも封印指定が私の陣営に来るとは思うまい」

視線と視線をぶつけ合うクウビとノーラさん。もっと気楽に生きればいいのに……。

と、そこで、ぎゅっと目を瞑ったおひいさまが、その間にぐいと割って入った。ぎょっとするノーラさんとクウビを見て、頬を膨らませる。

「ちょっと、待って! クライの飼い主はノーラお姉様じゃない! クライの飼い主は、私! クライに用事があるなら、まず私に言って!」

「!? 何を言っている、アリシャ! 確かに、クライはお前の近衛だが、別に、今はそういう事を言っているわけじゃ――」

僕は誰にも飼われていない野良のクライだよ。強いて飼い主を一人定めるなら……エヴァだろうか。

僕の飼い主になりたくばエヴァくらい僕に尽くしてから言って頂きたいね。

クウビが眉を顰め、おひいさまを見て言う。

「ならばお前に、私が協力するに足る力があるというのか?」

「ッ……ノーラお姉様は、私なら、王になれたかもしれないって、言いました!」

「……アンガスよりマシだと言っただけだ。だがあいにく、お前には力がない。安心しろ、アリシャ。私が王位を手に入れたら、お前は自由にしてやる。いや――我が妹として大貴族の位――クラス7をくれてやろう。どうだ?」

…………いや、僕は君達、コードを動かせる一族を保護して外に脱出させるのが任務なんだけど?

良くわからない話を始めるノーラさん達に戸惑っていると、おひいさまが僕の腕を掴んで叫ぶ。

「クライは、私の近衛! 《雷帝》も、クウビも、クライが見つけてきたの! だから、私の!」

突然、意味不明な我儘を言い出すアリシャに、ノーラさんが困ったように言う。

「わかった、わかった、アリシャ。確かにお前の言う通りだ。では、私が王位を継いだら、クライはお前にくれてやる。それでどうだ? 我儘を言うんじゃない」

「うー、うー……」

まだ納得がいかないのか、唸り声をあげ涙目で僕とノーラさんを見るおひいさま。何だかよくわからないが、とても困る。

そして、おひいさまは目を見開くと、良いことでも思いついたかのように叫んだ。

「そうだ、ノーラお姉様! さっきレースに勝ったお願い! 私に、王位をください!」