軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

377 審査会

まじまじとカイザーを見る。協力とか言われても……僕は審査は受けないと言っているだろ!

サヤも概ね僕と同じ意見なのか、きっぱりとした口調で言う。

「協力できる事なんて何もない。レベル9認定試験で要求されるのは個人の対応力だと聞いている」

「だが、今回は違うかもしれないよ。私は知っている。審査が緩められるという噂が真実ならば――試験内容はかなり危険なはずだ。もしかしたら――現役のレベル9が失敗している可能性だってある。ただ重要な依頼が試験に回されるとは思えないしね。レベル9を報酬にしてでもどうしても成功させたい、そういう依頼が課題になるだろう」

自信たっぷりに言い切るカイザー。どうやら意外と考えているようだ。新たな戦闘スタイルを生み出した点といい、もしかしたら頭脳派なのかもしれない。サヤも目を丸くしている。

しかし、レベル9が失敗し、探索者協会がどうしても成功させたい、そんな依頼か。皆目見当もつかないね。

とりあえず、パフェ注文してもいいかな……。

そこで、カイザーは思案げな表情を作った。

「しかも……サヤ君が審査申請されているのを考えると、どうやら本部は事前に審査が通りやすい事をそれとなく広めているようだな。これでは、まるで多くのレベル8を集めようとしているかのようだ。最初に情報を知った時に僅かな違和感はあったが――やはり己の勘は信じるべきだという事か。まったく、腹立たしいな」

ぶつぶつ呟くカイザー。サヤは立ち上がると、肩を竦めて言う。

「どちらにせよ、私は最善を尽くすだけ。安心して、私の邪魔をしないなら攻撃はしない」

「サヤさん、そろそろ行きますよ。そろそろ審査会が始まります」

カフェテリアの外から、探協の制服を着た恰幅のいい初老の女性が歩いてくる。

口ぶりからすると、サヤの付き添いだろう。サヤは軽くこちらに会釈をすると、女性を見て言った。

「今行く、お義母さん」

初老の女性が僕達の方をちらりと見て、薄い笑みを浮かべる。顔は笑っているのに目が笑っていない。余り友好的な人間には見えなかった。

サヤ達が去っていく。カイザーが面白いものでも見たかのように言う。

「あれが《 夜宴祭殿(リトル・ウィッチ) 》の名付け親――周囲の反対を押し切って孤高の怪物を養女にして、レベル8ハンターにまで持ち上げたという、テラスの支部長か。しかし、まさか、事もあろうにあの《夜宴祭殿》がレベル9候補とはな……この《破軍天舞》の頭脳をもってしても予想外だよ。だが、なるほど……今回のような事情がなければ彼女はレベル9にはなる事はあるまい」

「詳しいねえ。しかしまさかあんな若いレベル8がいるなんて――」

テラスってどこだ……僕は人の顔を覚えるのも苦手だが、地理も弱いんだよ。

僕の言葉に、カイザーが意外そうな表情をする。

「ん? サヤ君はこの《破軍天舞》よりも年上だよ。その身に秘めた能力のせいか、十代半ばから老いが止まってしまったらしい。恐らく今後十年二十年経っても彼女はあのままなんだろう。この私としては羨ましい限りだが――まぁ、悍ましい話でもある」

…………高レベルハンター、怖ッ。能力で老いが止まるってどういう事?

そしてやっぱりこのカイザー、ハンターの情報に詳しすぎる。

「七日七晩戦い、魔法陣から湧き出す邪悪な軍勢を食い止め続けたその当時、彼女はまだたったの――十歳だったと聞く。少なくともこの私ではそんな真似、不可能だ。相手として不足なしだな」

それはそれは……まるで神話に出てくる英雄じゃないか。十歳の頃とか、僕達がまだハンターになろうと言い出した頃だよ。

そしてそんなハンターがライバルなのに、出る言葉が相手にとって不足なしとは、カイザーもどうかしている。今すぐにでも引退したい。

「二人の活躍が見れないなんて残念だなー、試験、頑張ってね! 応援してるよ。それじゃそろそろ僕は注文を――」

そこで、カイザーがカフェテリアに置いてある時計を見て言った。

「いや、注文なんてしている場合じゃないぞ! もうこんな時間だ! さっさと行かなくては」

「…………え?」

「ハンターの中には遅刻常習犯もいるがね、私は待ち合わせの時間は守る主義なのだよ。安心したまえ、この私のテンペスト・ダンシングならすぐにつく。さぁ、我らが次なる戦場へ、いざゆかん!」

目を丸くする僕の腕を掴むと、カイザーは憎たらしくなるくらい自慢げな表情で頷いた。

§

滑らかな白い石で作られた円卓。その奥で、探索者協会の制服を着こなした、偉そうな男性が宣言した。

「――それでは、これよりレベル9認定試験前提審査会議を開始する」

そこは、探索者協会本部の最上階に存在する一室だった。高レベルのトレジャーハンターは探索者協会の柱だ。恐らくそこに出席を許されたメンバーは探索者協会という組織の中でも相当偉い人なのだろう。

円卓の各席のうちの幾つかには人はおらず、石が設置されていた。遠方の音を伝える貴重な宝具――共音石だ。

レベル9審査は投票で行われると聞いた事があるので、もしかしたらそれを使って遠くの国にいる審査員から票を取るのかもしれない。

そして、当たり前だが円卓を囲むメンバーにはガークさんもいた。こちらを見て頬を引きつらせている。ついでに何故かその隣にはセレンまでついている。

そこで、開始を宣言した男が一度咳払いをして、円卓の前に整列させられた僕とカイザー、サヤを見て訝しげな表情をする。

「此度の申請者は二名と聞いていたが――三名いるな。どういう事だ?」

「…………申し訳ない、議長。どうやら、うちのレベル8が紛れ込んでいるようで――申請はしないと言いつけたのだが……何故ここにいる、クライ?」

「不思議だよね…………来るつもりはなかったのに」

隣に立つサヤも何こいつみたいな眼差しをこちらに向けている。

拒否する間もなかった。カイザーのテンペスト・ダンシングを前に、僕は指一本動かす間すらなかった。風のように速く、結界指すら発動しない程、衝撃がなかった。

気がついたら部屋の前にいて、呆然としている間にこの部屋に連れ込まれていた。余りに鮮やかな人攫いである。

僕が本当にレベル8相応の力を持っていたら抵抗できたのだろうか?

逆方向に立ったカイザーが驚いたように目を見開く。

「なんだ、《千変万化》。申請すら出していなかったのか……これは失礼した。それならば言ってくれればいいのに」

「…………うんうん、そうだね」

「だが――レベル8ハンター《千変万化》には此度の審査を受ける権利があるはずだ。この《破軍天舞》や《 夜宴祭殿(リトル・ウィッチ) 》が審査され《千変万化》がされない理由はない。なに、細かい事は気にするな! 早いか遅いかだけだ! ははははははは!」

他人事だと思って――いや、他人事ではないのか。だが、探索者協会がそんなめちゃくちゃな話を受け入れるわけがない。

議長は眉を顰めしばらく考え込んでいたが、小さく首を横に振って言った。

「…………ふむ。まぁ、いいだろう。確かに、《破軍天舞》の言葉ももっともだ、実績から考えれば《千変万化》は頭一つ抜けている。本来ならばレベル9審査には複数支部の推薦と拠点支部長の申請が必要だが――本人が試練を受ける意思があるのならば、特別にその意思を尊重しよう」

「………………ッ…………俺の計画を軽々と無視しやがって――まぁいい。そこまで言うなら、俺にお前を止められるわけがねえ。好きにしろ、《千変万化》」

!? そんな馬鹿な話ある? ありえない。何かがおかしい。

ガーク支部長が身を乗り出し、ぎろりと睨みつけてくる。だが、その口元は笑っていた。

好きにしろ、か……もうハンターやめたい。

セレンは何を勘違いしたのか、手をひらひら振っていた。応援ありがとう……。

今すぐに審査なんて受けたくないと叫びたいところだが、凄い空気だ。さすがの僕でもこの空気をぶち壊す事はできない。

僕は問題を先送りにした。

さすがにレベル9審査に自分が通るとは思えないし、万が一、通りそうになったら断ろう。そうしよう。

カイザーが小さな声で言う。

「あれが、ゼブルディアの支部長か? なかなかの豪傑のようじゃないか……」

「…………あれ? ガークさんは元レベル7ハンターだよ。《戦鬼》って二つ名だったみたいだけど知らないの?」

「あぁ……申し訳ない。私はレベル8以上のハンターは覚えているのだが、レベル7以下の情報はどうしても記憶できなくてね。興味がないせいかな…………だって、下を見ても仕方ないだろう?」

レベル7ハンターも一流ハンターなのにめちゃくちゃな事を言うカイザー。まぁ、レベル8の名前も覚えていない僕には何も言えないけど……。

小声でお喋りしているのに気づいた議長がもう一度大きく咳払いをする。僕は思わず背筋を伸ばした。

「こほん。《破軍天舞》、カイザー・ジグルド。《 夜宴祭殿(リトル・ウィッチ) 》サヤ・クロミズ。そして、《千変万化》のクライ・アンドリヒ。まず、探索者協会を代表して貴殿らのこれまでの貢献に感謝しよう」

貢献に感謝、か。これまでハンター活動で巻き込まれた事件の数々を思い出す。

今振り返っても、僕の運は最悪であった。そして、仲間への足の引っ張りっぷりも酷いものだ。猛省したい。

「審査の結果に拘わらず、貴殿らの実力がこの時代でも突出したものである事に疑いの余地はない」

「だが、これより貴殿らが挑むレベル9とは世界を股にかけ比類なき偉業を成し遂げたトレジャーハンターに与えられる称号を意味する。現在レベル9の称号を持つトレジャーハンターは世界でもたった――十二人しか存在しない」

たった十二人。レベル10は三人存在するので、レベル9になれば数多ハンターの中でトップ20には入るという事である。

カイザーやサヤの眼が静かに輝いていた。きっと今の僕の眼は死んでいる事だろう。まぁ、僕は試験なんて受けるつもりないけど、この空気、居た堪れない。

相変わらずの間の悪さと己の流されやすさに思わずため息をつき呟く。

「…………まったく、茶番だな」

レベル9になんてなるつもりはないのに、この場でこうして何も言えずに佇んでいる。そんな僕を滑稽と言わずに何が滑稽と言えようか。

こんな事なら、エヴァについてくるべきではなかった。エヴァと共にクランレベルアップの説明を聞くでもなく、パフェを注文できるわけでもなく、一体僕は何をしにこんな所まで来たのだろうか?

後悔先に立たずとはまさにこの事。自分のどうしようもなさにうんざりしている僕の横で、カイザーが突然笑い出した。

「はっはっは、その通りだ! この私でもさすがに口に出すのは憚られていたが、まったくもって、君の言う通りだ《千変万化》! 議長、我々にはこのような茶番に付き合うような暇はないぞ!」

「…………どういう意味だね?」

どういう意味だか僕も聞きたいよ。その通りって、何? カイザーも試験を受けるつもりなかったりするわけ?

議長に喧嘩を売るのは構わないが《千変万化》の名を出すのはやめていただきたい!!

「この《破軍天舞》と《千変万化》は、既に看破しているのだよ! 今回の審査、探索者協会が全て通すつもりでいる事を、ね!」

「!? まだ審査は始まってもいないが?」

やめて……僕の名を出すの、やめて。看破していないよ! そんな事一言も言っていないよ!

「さすがの私ももう少し泳がせるつもりだったが、うむ、確かに無駄な時間だ。そもそも、《千変万化》はともかく、この私やサヤ君のようなハンターがレベル9の審査にかけられる時点で不自然なのだよ! 探索者協会は、ほぼ勝ち目のないハンターをまず審査対象にはしたがらないはずだからね」

カイザー、自己評価が高いのか低いのかわからない。勝ち目がないとか言っているし……

「既に審査を通すための見込みはついているのだろう。我々に、試験という名目で高難度の依頼を押し付けるために! レベル9の前提に世界的な偉業が必要だと言うのならば、世界的偉業となる試練を課してその突破をもってレベル9に認定すればいい。順序は逆だし、力技ではあるが、筋は通っている。そして、この私は、既に事前の調査で、把握しているのだ。そういうイレギュラーな例が実際に、過去に存在する、と!」

「…………」

カイザーの支部の支部長が頭を抱えている。ガークさんは何故か腕を組み落ち着いたものだが、その眼は僕に死刑を告げていた。

どうやらカイザーはレベル9を目指すにあたって様々な事前準備をしていたらしい。

「ふははははは、黙り込むとは、図星かね? だが、何よりこの私が腹立たしいのは――君達がこの《破軍天舞》に直接依頼をしなかった事だ。これみよがしと審査が緩くなる噂を流し、我々のような、少々レベル9を目指すのは難しいハンターが引っかかるのを待つ。仮にも英雄と呼ばれる我々を、騙し討ちのような手で招集しようなど、言語道断だ! どうしても依頼を達成したいのならば事情を話し、指名依頼を出すべきだろう! そうすればこの私も気持ち良く動けるというものだ!」

高らかに叫び、糾弾するように人差し指を議長に突きつけるカイザー。恐れを一切知らない。

だが、一番厄介なのは、その言葉が割と真っ当な事だろう。正論が常に通じるとは思わないが、この審査の場で、しかもレベル8であるカイザー・ジグルドが堂々と出した言葉には強い説得力があった。

即座に議長が反論しないのはその言葉にそれなりの理があるからだろうか? カイザーは沈黙する議長にまるでトドメでも刺すように言う。

「おっと、返答には気をつけたまえよ。我々は無辜の民を傷つけたりしないが、誇りを傷つける者を許すこともまた、ありえない。確かに私やサヤ君は少しレベル9からは遠いが、それは弱さを意味しない。この《破軍天舞》のテンペスト・ダンシングや《夜宴祭殿》のさらさらを敵に回したくはないだろう?」

確かに敵に回したくないな。《深淵火滅》と同格という事はガークさんより上だからなあ……数字だけなら。

もう完全にカイザーの独壇場だ。突然名前を出されたサヤも呆れ返っているようだ。ガークさんの隣で何故か楽しそうにしているセレンが大変羨ましい。おうちに帰りたい……。

完全に気力を失っていると、カイザーが僕の背中をばんばん叩いて言った。

「そして何より、先日の武帝祭で白日の下になった《千変万化》の切り札――『 雷槍天滅神来花(らいそうてんめつじんらいか) 』を受ければ、この荘厳な本部も塵すら残るまい」

雷槍…………え……な、何?