軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

346 枯らす者③

「弱点とかあるの?」

「ありません。フィニスは最高クラスの精霊です。ニンゲンは当然ですが、私達精霊人でも正面から戦えばまず勝ち目はないでしょう。残念ですね」

残念ですねじゃない、残念ですねじゃ。

僕の妹はそんな相手と絶賛戦闘中なのだ。

「……なんとかできたりする?」

「………………………………はぁ。試してみます。ミレスのように正気を失ってそうなので、多分無理ですが」

随分長い沈黙だったな。

ともかく、試してくれるらしいのでセレンを背中から下ろす。セレンはふらつきながらも自分の足で立つと、大きくため息をついて戦いが行われている方を見た。

そこで、ふとセレンの表情が目に入り、思わず瞠目する。

セレンの表情からは、朝方あった凛々しさが完全に消え去っていた。目鼻立ちは一緒だと言うのに、表情の違いでこんなにも印象が変わるものなのか。

背負う前も大概だったが、ここまで運ぶまでの間にまた一段と締まりがなくなっている。きっとセレンをよく知るユグドラの民が今の彼女を見たら相当ショックを受けるだろう。

まさか快適になっただけでこんな風になるなんて……なんかごめんなさい。

セレンはしばらく目を閉じて力を溜めると、ゆっくり瞼を開いた。宝具を使う前と変わらない透明感のある瞳で、桜色の唇を開く。

「フィニス、正気に戻りなさい」

こんなに離れているのに叫びすらしないなんてどうなってるんだ!

「もっと大きな声出しなよ。聞こえてないでしょ?」

「…………注文が多いですね。どうせ無駄なのに………………仕方ない、聞こえる距離まで移動します」

この精霊人、いくらなんでもやる気がなさすぎる。反動大きすぎじゃないだろうか?

セレンは何度目になるかわからないため息をつくと、ゆっくりと歩き始めた。

僕のように結界指を持っているわけでもないだろうに、龍と龍とがぶつかり合うあの戦場に躊躇いなく向かっていく。その足取りはひどく億劫そうで、勇気や覚悟のようなものが見られない。ただ見ているだけの僕の方がハラハラしてしまう。

下らないやり取りをしている間に戦いは更に激しさを増していた。飛び交う多様な魔法に、眼も眩むような光と音。振動。もはや誰が何発、何の魔法を使っているのかわからないが、明らかに一対一の戦いで飛び交う数ではない。

だが、僕にできる事はもうない。大きく欠伸をすると、僕はその場に座り込み、せめてセレンの応援をすることにした。

§ § §

終焉のフィニス。それは、長きに亘りユグドラを守ってきた守護精霊の一柱。

力の中心である世界樹で磨かれたその精霊は終わりを司り、ユグドラを守る最上級の守護精霊の中でも特に高い戦闘能力を誇っていた。

ユグドラの戦士がフィニスと共に【源神殿】に挑み、行方知らずになったのはもう何年も前の事だ。

フィニスの持つ力は枯渇。幻影、魔物問わずあらゆる生命を直接的に終わらせるその力はユグドラの民の中でも忌み嫌う者が多かった。

魔導師は本来、精霊の力を借りてより強力な術を使うが、フィニスの場合は例外だ。ユグドラには終焉のフィニスを使役できる者はいない。

だから、ユグドラはフィニスの供として最も優秀な魔導師を送り込んだ。使役する事は難しくても、共に戦う事はできるから――。

すでに生存は諦めていたはずだった。最上級の精霊とは生命を超越した神に限りなく近い存在だ。そう簡単に消滅しないはずだが、何年も帰還しなかった以上、現実を受け入れるしかない。

だが、遠くで暴れる漆黒の龍は間違いなくフィニスの力によるものだった。姿かたちは少し変わっているが、長い間ユグドラを守護してくれた友の事を間違えるわけがない。

そして、フィニスが相手ならばユグドラの結界が発動しなかった事も納得できる。ユグドラの結界は仲間に発動するように作られていないのだから。

もしもセレンが快適じゃなかったら、目の前に立ち塞がるかつての仲間に茫然自失していたはずだ。

だが、今のセレンには現実を受け入れるだけの余裕があった。

ミレスだって我を失い、セレンを呑み込んだのだ。フィニスがユグドラに牙を剥いてもおかしくはない。

クライに言った通り、セレンはフィニスを止められる気が全くしていなかった。力ずくで止めるのは論外だが、セレンの言葉を聞き入れる程度の理性があったらそもそもフィニスは暴れていない。かの精霊の力は森にとっても危険であり、その事を精霊本人も理解している。

歩みを進めながら小さくため息をつく。

「…………はぁ。恐ろしい腕前ですね……ルシア・ロジェは。それに、相手も」

セレンの眼は特別製だ。脈々と受け継がれてきた精霊人の皇族の血筋。マナ・マテリアル関係の資質と引き換えに魔導師としての適性を洗練させていったユグドラの皇族の眼は世界に渦巻くあらゆる力を見通せる。力の流れやその色を見ればその魔導師がどれ程の実力を持ちこれから何の術を使用しようとしているのか全てがわかるのだ。

ルシアの力の流れはさながら大河のように力強く安定していた。詠唱速度も威力も申し分なく、ユグドラの魔導師でも彼女程の実力者は多くないだろう。マナ・マテリアルによる強化の他にも、相当な研鑽を積んでいるはずだ。

だが、それに対峙している相手も只者ではなかった。

フィニスではない。フィニスの巨大な力に隠れるようにして魔術を行使している者が一人。それも並の魔導師ではない。

感情を一切感じさせない冷たく巨大な力。

知性ある生き物が行使する以上、魔術には術式行使時のコンディションや感情が反映される。セレンはそれらを力の乱れから見通す事ができるが、ルシアの相手が行使する魔術にはそれがない。

ルシアの魔力が大河なら、相手の魔力はさながら鋼だ。一切感情を動かすことなく放たれる無数の攻撃魔法は、威力も速度も精密性も、ルシアを超えていた。

恐らく、【源神殿】からやってきた魔導師の幻影だろう。

ルシアの放つ攻撃魔法のほとんどは同じ魔法で相殺され、《星の聖雷》の支援はフィニスに打ち落とされ届かない。

さて、試してみるとは言いましたが……どうしましょうか。

フィニスさえどうにかすれば魔導師の方はなんとかなるだろう。だが、フィニスに勝つのはほぼ不可能だ。

まだフィニスは全力を出していない。終焉のフィニスに勝つにはこちらも守護精霊を出す他ないだろう。ミレス――開闢のミレスならば、全力のフィニスを相手にしてもそれなりに戦えるはずだ。

だが、今のセレンはミレスを出すつもりはなかった。精霊人の皇族として守護精霊同士をぶつけるなど言語道断だし、そもそも戦闘においてフィニスはミレスを超えている。

両者がぶつかればただでは済まないだろう。滅びが必定ならば、せめてミレスだけでも残したかった。

十数メートルの距離まで詰めたので、壮絶な戦いを繰り広げているフィニス達に向けて改めて声をあげる。

「フィニス、正気を取り戻しなさい」

心を込めて言ってみるが、フィニス達は止まる気配がなかった。言って止まるくらいなら戦わないだろうから、当然と言えば当然だ。

そもそも、フィニスと幻影の魔導師が協力して戦っている以上、フィニスはあの幻影の魔導師に使役されているのだろう。それはユグドラの魔導師では不可能だった事だ。

あのニンゲンはセレンにどうなんとかしろと言うのだろうか? 神算鬼謀ならばそこまでちゃんと教えてほしいものだ。

セレンの力はユグドラでもトップクラスだが、それでもフィニスを制圧するのは不可能だ。そもそもどうして自然の流れに沿って生きて死ぬ精霊人が自然そのものであるフィニスに勝てるだろうか?

深々とため息をつき、地面に座り込んで膝を抱える。

自分でもおかしいという自覚はあるが、この期に及んでまだセレンは快適だった。

宝具を着た瞬間に全身を駆け巡った陶酔感はまだ消えていない。きっと今、鏡をみればセレンは穏やかな表情をしている事だろう。

耳を澄ませると、後ろからクライが「頑張れ頑張れ、セレン!」と、応援している声が聞こえた。応援してくれるのは嬉しいが、本当にめちゃくちゃなニンゲンだ。

応援している暇があるならミレスを正気に戻した時のようにフィニスを止めてくれればいいのに――。

と、そこでセレンは気づいた。

「なんとかしろって、フィニスを攻撃して消耗させて正気に戻せって事ですか?」

確かに、正気に戻ればフィニスならばあの幻影の魔導師の使役を撥ね除けられるかもしれない。だが、絶対に無理だ。

今でもミレスを正気に戻したクライの手腕は奇跡のように思える。《星の聖雷》から原理は聞いたし納得もまあできなくはなかったが、条件が厳しすぎるのだ。

魔力やマナ・マテリアルを視認できるセレンでも、後どれくらいフィニスを消耗させれば理性を取り戻すかなんてわからない。どうしてあのニンゲンがそんな事が可能だったのか教えて欲しいくらいだ。

ルシアと幻影の戦いは激しさを増すばかりだった。魔法の攻撃の応酬でユグドラの町並みはもうぼろぼろだ。ユグドラの住民達の大半はもう避難済みなので死傷者が出る心配はないが、修復には時間がかかるだろう。

「…………はぁ」

ため息が漏れる。もう隠居したい気分だった。

セレンはできることはやっていた。いつだって、できることはやっていたのだ。

と、その時、魔力の気配が爆発的に膨れ上がった。大きな術を使うつもりだ。

魔導師同士の戦いは術の撃ち合いだ。小さな術を打ち合い決着がつかなければ徐々に大きな術の撃ち合いに移行する。

いつの間にか場には静寂が戻っていた。

大きな術には溜めが生じる。これは大きな術と術の間――束の間の静寂だ。

空気中の魔力がうねり、奔流となって左右に分かれる。強力な魔導師は世界に満ちる魔力さえ支配する。勝負は次の一撃で決まるだろう。

天秤は当然、フィニスの側に傾くと思っていたが、予想よりもルシアの力が強い。強すぎるくらいだ。そちらを見ると、いつの間にかルシアの頭から動物の耳と尻尾が生えていた。

その尾から異常な魔力が感じられた。世界樹の近辺を縄張りにしている魔獣達をも遙かに超える強大な力だ。

濁流の如く流れ込む力を、ルシア・ロジェが体内で浄化し自らの魔力に変換していた。

なるほど…………あれが切り札か。だが、どれほど大量の魔力を持っていたとしても、ニンゲンが扱える術の威力には限りがあるはずだ。

守護精霊の力を超えられるとは思えない。フィニスの力はセレンが一番よく知っていた。

もう一度、深々とため息をつき、互いの手札を確認する。

ルシア・ロジェはどうやら精霊の力を借りて、竜巻の魔法で迎え撃つつもりのようだ。

恐らく、得意な魔法なのだろう。これまで放っていた攻撃魔法も決して洗練されていないわけではなかったが、今まさに放とうとしている術には淀みなく、構築に一切の無駄がない。

竜巻を構成する渦の規模から流れる方向まで非常に緻密に指定しているようだ。水の精霊の力を完全に使いこなしている。

一方で幻影はとにかく威力を重視しているようだった。

フィニスの枯渇の力は主に広範囲を対象としており、ピンポイントで敵を狙うのには向いていないという弱点があった。だが、幻影の魔導師はその力を収束する事でその問題に対応したようだ。

精霊はそれ単体でも十分な脅威だが、魔導師が使役する事でさらなる力を発揮する。精霊が力を、魔導師がコントロールを担当する事で膨大な力で精密な術を発動させる事ができるのだ。

無数の枯渇の力が集められた漆黒の槍が、ルシアと《星の聖雷》のメンバー達を狙っていた。矢や槍を生み出す攻撃魔法は一般的だが、フィニスの力で槍を生成できたのはフィニスを使役しているからこそ。

枯渇の力は生命を吸い取り、万象に終焉を与える。果たしてルシアは収束したその滅びの力にどれだけ対抗できるだろうか?

そして、今、セレンにできる事はなんだろうか?

膨大な魔力と魔力、力と力が解き放たれる時を待っている。セレンは膝に頭を押し付け数秒瞼を閉じると、覚悟を決めて頭をあげ、今可能な限り大きな声で叫んだ。

「フィニス……正気に戻りなさい。それ以上の攻撃はユグドラの皇女が許しません」

出たのは自分でも意外なほど小さな声だった。きっと、緊張がすべて快適で上書きされてしまっているのだろうと、もう一人の自分が囁いていた。

脅威を実感できなければそれに対抗する意志が湧くことはない。今のセレンは思考こそ冷静だが、行動を起こすだけの熱が失われていた。

恐らく、あのニンゲンも今のセレンには呆れ返っているだろう。

快適になり、冷静になった結果、全てを諦めている。ルシアへの助力は疎か、こんなやる気のない声しかあげられないのだから。

いくら静寂でも、このような小さな声で止められる者がいるわけがない。

顔を伏せため息をついたところで、セレンはふと視線を感じた。

顔を上げる。距離を置いて対峙するルシアと宙に浮かぶフィニス。

ルシアの目の前に発生した水流の竜巻はみるみるその大きさを増し、幻影の背後、空中に生えたフィニスの力を圧縮して生み出された無数の長い黒槍は発射される時を待っている。

この撃ち合いに相殺はない。数十秒後に決着がつくそんな緊迫した状況で、セレンを見ている者――それは、ルシアでもフィニスでもなかった。

幻影だ。フィニスの下。仮面を被った幻影の魔導師が、セレンをじっと見ていた。

強力な魔術を使うには緻密な魔力操作が――集中が不可欠だ。それはニンゲンも精霊人も幻影も変わらない。

魔導師の戦闘力はその時のコンディションに大きく影響される。故に、一流と呼ばれる魔導師は常に万全の状況で術を操るため、精神統一を欠かさないのだ。

だが、先程までは一切の感情を窺えなかった幻影の魔力に今、明らかな乱れが生じていた。

原因はわからない。仮面には目がなかったが、視線と視線が交わった気がした。そこには殺意はなかった。あったのは――驚愕だ。

そして、それは、あまりにも大きすぎる隙だった。

魔力に多少の乱れが生じたところで術式は止まらない。だが、発生した隙を見逃す程ルシア・ロジェは甘くなかった。

幾度となく繰り返したのであろう術式の構築。ほぼ完璧に近いコントロールで、水の精霊の力を借りた魔法が解放される。

「ヘイルストーム・リバー!!」

力が解放される。集められた水が一気にその質量を増し、流れる水が陽の光を吸い込みキラキラ輝く。

余計な音はなかった。高速で回転する水で構成された竜巻はその規模とは裏腹に一切の無駄がなく、驚くほど静かに、幻影に迫る。

そこに、ヘイルストームという術の究極があった。水の一滴一滴に込められた膨大な魔力。その力の流れは不必要なまでに完璧に術者にコントロールされている。極度に練り上げられた術は安定し、あらゆる存在を寄せ付けない。

触れれば抵抗すら許されず水流に巻き込まれずたずたに引き裂かれる事だろう。

迫りくるヘイルストームに対し、幻影の魔導師が術を解き放つ。動揺の中放たれた精彩を欠いた枯渇の矢はしかし、十分な速度を以て射出された。

最上級の守護精霊――フィニスの力は理性を失って尚、健在だ。その枯渇の権能は万象を侵食し滅びを与える。周りの自然への影響が大きすぎる故にほとんど行使されなかった力が今、無数の槍という形を与えられ、輝く竜巻に突き刺さる。

動揺のためか、コントロールはかなり甘いが、迫りくる巨大な竜巻など外しようがない。

槍を受けた竜巻が黒に染まる。枯渇の権能は術を相手にしても有効だ。どれほど強大で安定した術でも、その力の前に長く耐えられはしない。

受ける事すら許されない。

フィニスを相手にするなどどだい無理な話だったのだ。

眉を顰めたその時、ルシアが杖を振り、咆哮した。

「わかってますッ! 受けられないならッ! 跳ね返せばいいんでしょおおおおおおッ!!」

「!?」

竜巻に突き刺さり侵食していた無数の槍。その全てが竜巻の中、水の流れのままに大きく捻じ曲げられ、反転する。反転した槍は、そのままの勢いで竜巻から排出された。

そこで、ようやくセレンは、ルシアのヘイルストームが完璧にコントロールされていた理由を理解した。

そもそも、竜巻をぶつけて対象を破壊するだけならばそこまで完璧なコントロールなど不要だ。むしろ、コントロールに割くリソースを破壊力に割り振った方がいい。

精密にコントロールされた水流により追い出された槍が幻影の方に撃ち出される。

心臓が一度、強く打った。宝具の与えてくれる快適を上書きする程の衝撃。水際立った魔力操作。幻影の放った槍の角度、速度、威力の全てを計算して放たれたそのヘイルストームはセレンの長い人生の中でも間違いなく五指に入る魔法だった。もはや芸術のようなものだ。

それでも、もしかしたら幻影の魔術が完璧だったら、水の流れに巻き込まれる事は避けられなくても、跳ね返される事は回避できたかもしれない。だが、既にその枯渇の槍はコントロールを失っていた。

十本以上放たれた漆黒の槍が、幻影の魔導師を、そしてその後ろで浮かんでいたフィニスを、正確に刺し貫く。

音はなかった。その槍が齎すのはただの破壊ではない。頑強な肉体も、強力な障壁も意味をなさない。

世界が震える。フィニスの悲鳴だろうか。その身体が一気に縮み、そのまま消失する。

槍を受けた幻影の身体に罅が入る。罅は槍が突き刺さるごとに広がり、そのまま顔を覆っていた仮面まで奔った。

幻影が崩れ落ちる。その身に秘めた力が一気に減少し、仮面が弾け飛ぶ。

勝った…………?

相手の動揺の隙をついたとはいえ、まさかニンゲンがフィニスを使役するほどの魔導師を倒すなんて――。

近くで見ていたリィズが口笛を吹いた。

「ひゅー、ルシアちゃん、やるう!」

「はぁ、はぁ…………まだ、消えてませんッ!」

マナ・マテリアルから成る幻影は存在を保てない程のダメージを受ければ消失する。

この近辺はマナ・マテリアルが濃いため、消失まで時間がかかる事も多いが、それはとどめを刺したように見えても油断できない事を示していた。

フィニスの方も姿は消したが、まだ消滅はしていないはずだ。

「大丈夫だって、完璧だったから。なんなら私がトドメ、さしてあげるッ!」

リィズがくるりとその手のひらの中で 対魔金属鋼(アンチマナメタル) の棒を回転させ駆け出すと、崩れ落ちた幻影の身体を片手で軽々と掴み持ち上げる。

そして、その幻影の顔を見て目をパチパチと瞬かせた。

「あれ………………? この幻影………………幻影じゃない?」

砕け散った仮面。あらわになったその顔に、セレンは快適を忘れて凍りついた。

透き通るような白い肌にすっと通った目鼻立ち。陽の光を吸い込んだような蜂蜜色の髪。少し気の強そうな容貌は、セレンがよく知る、フィニスと共に宝物殿に挑んだ仲間のものだった。