軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

332 解呪②

世界樹に発生する宝物殿――【源神殿】。その宝物殿はこの星のマナ・マテリアルが飽和と呼べる程高まった時に現れる存在らしい。

詳細は不明。どのような戦いが起こったのかも記録されていないのは、余りにも古い出来事だという事もあるが、戦いに参加した者が全滅したからなのだろう。

マナ・マテリアルの中心地が本当に世界樹だとすると、そこに顕現する宝物殿は探索者協会の認定レベルで言うレベル10に値する代物である事は疑う余地はない。

過去、隆盛を誇っていた高度な文明を滅ぼしたのが本当にその宝物殿に発生した神だとするのならば、その力が如何ほどのものになるのか、僕にはとても想像がつかなかった。

だが、そういった事件を防ぐのは僕の役割ではない。そういうのはレベル10ハンターとかアークとかその辺の実力者に任せておけばいいのだ。

僕は自分の実力を理解している。サボっているわけではない、余計なことに首をつっこんで取り返しの付かない事態に発展したらやばいというただそれだけの事なのだ。

無能は罪だ。解呪だけして次の優秀なメンバーにバトンを繋ぐ。それが――最善。

もう何度目かになる浮遊感。暗かった視界が光に包まれ、外の世界に移動する。

エリザがみみっくんから取り出してくれたのだろう。現れた僕の姿を見て、クリュスが目を丸くした。

「ヨワニンゲン…………お前……その装備は一体何なんだ、です?」

「まぁ、今回の目的は解呪だけど、一応武装くらいはしておかないとね……こんな事もあろうかと一通り揃えておいたんだ」

大切なのは大義名分だ。いくらバトンを繋ぐとか言っても、今回はリィズ達も参加できそうにないわけで、最初からやる気のない様子をセレンに見せるわけにはいかない。

セレンは(頼んだわけではないとはいえ)僕のために秘薬を使っているわけだし、今回の事件は僕にとっては遠い未来だが、彼女たちにとってすぐそこに迫った大事なのだ。

クリュス同様、セレンが戸惑ったようにおずおずと確認してくる。

「それは…………もしかして、外の世界のハンターはここ一番でそういう格好をするのでしょうか?」

「そんなわけないだろ、です。ヨワニンゲンだけだ、です」

「こう見えても全部宝具なんだよ。僕はこれでも生粋の宝具コレクターでね」

「なるほど……宝具、ですか」

セレンが僕の足元から頭まで何度も何度も往復し、感心したような吐息を漏らす。

一方、僕の行動に慣れているクリュスやラピスは少しだけ呆れ顔だ。

「……それにしたってもうちょっと強そうな格好をしろ、です。それに、ルシアさん達はどうした、です」

「宝具の見た目は選べないからね。ルシア達は……事情があって来られない事になった。まぁ、《星の聖雷》もいるし、大丈夫だろう」

マナ・マテリアル酔いじゃあしょうがないよね。状況的に延期するわけにもいかないし……。

ハンターパーティのリーダーの役割の一つはどれほどのアクシデントが起ころうと落ち着いてどっしり構える事だ。

クリュス達は互いに顔を見合わせていたが、自信満々の僕に気圧されたのか、小さくため息をつくに留まった。

最近気づいたのだが、何かとこういう反応になるのは僕が神算鬼謀の評判を持っているかららしい。勝手に何か策があるのだと考えているのだ。

それがいい事かどうかはわからないが……。

「…………わかった。何か事情があるんだな、です。後で詳細は聞かせて貰うとして――なんで剣を四本も持ってるんだ、です」

今の僕は持ってきた宝具で全身を武装していた。

如何なる状況でも快適性を保ってくれる柄シャツ、『完璧な休暇』に、持ち物を軽くしてくれる『 静寂の星(サイレント・エアー) 』。

そして、光が差し込む『天上の星』に、小雨を呼ぶ『怪刀・小雨』。とにかく立派な見た目のナマクラ、『英雄、弱者を虐げず』。日干ししたいと思っていた剣のセットだ。

もちろん、結界指も万端である。仮に戦闘が発生しても僕には何もできないが、これらの宝具を使えば目を惹く事くらいできるはずだ。

後は、何かあったらみみっくんの中に逃げ込もう。

アストルが、僕の背にある『英雄、弱者を虐げず』を見て言う。

「宝具の剣を四振りだなんて、信じられない。しかも、特にこの剣――信じられないくらいの業物だな……ニンゲン。まさか、ニンゲンは剣士だったのか?」

まぁ、この剣の能力、立派ってことだけだから。ルークが振るってもかすり傷一つつけられない剣はこれだけだ。皆怖がるから持たせてないけど。

「いーや、本分は剣士じゃないよ。でも…………この剣はただの剣じゃない」

『 静寂の星(サイレント・エアー) 』の力で軽くなった、見ているだけで圧倒されるような大振りの剣――『英雄、弱者を虐げず』を片手で掲げる。それと同時に、背負った『天上の星』と、腰に帯びた『怪刀・小雨』を発動した。

これこそ宝具コレクターの真骨頂だ。

『英雄、弱者を虐げず』がきらりと輝き、『怪刀・小雨』の力で晴れていたはずの空にうっすら雨雲がかかる。ぽつぽつと気づくか気づかないかといった量の雨が降る中、『天上の星』の力で雨雲を割くように降ってきた光が僕を照らした。

――そこには、無駄の極みがあった。

差し込む光にも降り注ぐ僅かな雨にも、そして如何にも業物の剣にさえ――何の意味もない。

だが目立つ。とにかく目立つ。海千山千で癖の強い一流ハンター達の中に混じっても十分やっていける派手さだ。

ラピス達も目を凝らしきらきら小雨と光の降り注ぐ僕を見ている。この無駄な感じがいいんだよ。くだらない宝具、大好き。

そして、この目立つという特性が今回は役に立つはずだ。結界指のある限り、僕は壁として有能である。

ラピス達は魔導師だし、万が一時間を稼ぐ必要が出たら、僕が前に出なければならないだろう。まぁ、出なくても狙われると思うけど……いつもそうだし。

セレンは僕の突然の芸に、虚を突かれたような表情をしていた。小雨と差し込む光、どちらか片方ならばともかく、この屋外で両方同時に浴びるなど、ユグドラの長い歴史の中でも僕が最初の一人のはずだ。

笑みを浮かべ感想を待っていると、セレンがぽつりと言った。

「かつて…………ユグドラの予言者は、言いました。災厄を止め得る者、嵐と雷を纏いやってくる、と」

「え………………? はぁ……」

ユグドラにも予言者がいたんだね……しかし、予言にはいい思い出がない。割とそのせいで騒動に巻き込まれている。

帝都で呪い関連の予言を下した者もそうなんだけど、予言者とか占い師って、どいつもこいつも適当な事言い過ぎじゃないだろうか? 僕もハンターをやめたらそういう仕事につきたいよ。

セレンは怪刀・小雨による、うっすらとした雨雲と、『天上の星』により差し込む光を見て、微妙な表情で戸惑いがちにいった。

「…………も、もしかしたら…………貴方が、その災厄を止め得る者、なのかも……しれません?」

「…………自分でも確信持ててないじゃないか、です」

クリュスがつっこみを入れる。相手は皇女のはずなのにその言葉には一切の遠慮がない。

だが、クリュスの言う通りだ。どう考えてもこの黒雲と小雨は嵐ではないし、差し込む光も雷じゃない。そしてもちろん、僕には災厄を止める力などない。

セレンが雨雲を見上げながらぶつぶつと言う。

「…………し、しかし……この一致は……………………もしかしたら…………」

悪かったよ。変なことしてごめんよ…………いくら世界の危機を前に切羽詰まっているとはいえ、解釈が無理やり過ぎる。

いくらなんでもこれを嵐と言い張るのは嵐に失礼だ。

と、そこまで考えたところで、僕に天啓が舞い降りた。

いや、待てよ? もしかしてその予言とやら、アークの来訪を示しているのではないだろうか?

アーク・ロダンは《銀星万雷》の二つ名を得る程雷を操る術に長けているし、言うまでもなく超一流の実力を持つハンターだ。

ついでに、彼は神を倒した勇者の家系である。その予言は僕がこの事件を解決するためにアークを呼びつけるという事を示しているのでは?

嵐を纏うという部分はちょっとわからないが、まぁ雷を使えるんだから嵐を纏う事もあるだろう。多分。

この解釈ならば僕がアークを呼ぶために帝都に戻るのも自然だ。全ては世界を救うために――今日の僕は、冴えてる。

笑みを浮かべ、目を白黒させているセレンに言う。

「まぁまぁ、落ち着いてよ。セレンの解釈は多分誤りだけど、僕には心当たりがある。ずっと考えてはいたんだけど、今のセレンの話で確信に変わった」

「え? 心、当たり、とは? 災厄の神をどうにかする方法があるのですか?」

あるんだよ。この時代にはアーク・ロダンという救世の英雄がいるんだ。そして、何を隠そう僕はアークの友達……いや、もはや親友である。

セレンはユグドラに引き篭もっていたから、その存在を知らないのだろう。知っていたら雷と聞いた時点でぴんときたはずだ。

口を開きその事を教えてあげようとしたその時、ラピスが鼻を鳴らして口を挟んだ。

「ふん………………知れたこと。《千変万化》、貴様が連れてきた、我々のパーティの名前を教えてやれ」

「え? 《星の聖雷》だけど…………って――」

え? マジで?

セレンが目を見開き、ラピスを見る。ラピスは腕を組むと、さも当然のように言う。

「その予言とやらで伝わっている『雷』というのは、我々の事だろう。我々《星の聖雷》は自然を操る術――中でも、雷を操る術に長けている」

「……でもラピス、纏っているとはどういう意味だ、です」

「…………クリュス、貴様はよく《千変万化》に纏わりついているだろう。それだ」

「!? ま、纏わりついてなんかない、です! なぁ、ヨワニンゲン??」

クリュスが顔を真っ赤にして同意を求めてくるが、なるほど……そう言われてみれば纏わりついているような気も――って、予言ってそんなんでいいの?

前々から薄々気づいていた事だが、ラピスもけっこう適当だ。

そもそも、《星の聖雷》は確かに優秀だが、格は流石にアークの方が上である。どうせ頼むのならばそっちの雷に頼みたい。

そっと視線だけ《星の聖雷》の面々に向ける。《星の聖雷》の面々はラピスの突然の宣言に動揺を隠せていなかった。

そりゃそうだ。百歩譲って雷が雷を自在に操る術者を指すという事はよしとするにしても、どこの世界に纏わりついてくるクリュスを指して嵐を纏いと表現する者がいようか?

だが、アークがいるのが帝都で、《星の聖雷》はすぐ目の前にいる。おまけに、《星の聖雷》にはこれから協力してもらう手はずになっている。

ここで余計な事を言うのは悪手だ。言い争いしていても時間の無駄だし、どちらにせよやってもらう事は変わらない。ダメだったらその時はその時考えよう。

ため息をつき、ぷるぷる震えているクリュスを見る。

「…………まぁ、とりあえずこっちの雷から試してみようかな」

「!?」

まぁそもそも今日は別に災厄を止める予定はないのだが……。

§

エリザの先導で世界樹に向かって進む。思えば、リィズ達抜きにエリザと一緒に宝物殿に向かうなど初めてかもしれない。

メンバーはエリザ・ベックに《星の聖雷》、セレンに、僕。そして、みみっくん。カーくんは残念ながら言うことを聞かなかったので置いて来ざるをえなかった。といってもみみっくんの中だけど、完全にティノになついている。

作戦は単純だ。エリザが先行し、幻影の数を確認。その数によって《星の聖雷》とエリザが協力して誘導・足止め・殲滅を行う。

僕の担当はセレンと共にルークの解呪を行う事だ。僕に何ができるのかという問題はあるが、一応セレンの近くで護衛するという役割も兼ねている。メインの戦闘を担当する《星の聖雷》もいるわけだし、何かあった時にセレンがみみっくんに逃げ込むまでの時間稼ぎくらいはできるだろう。

世界樹までの道はただの森の小道だったが、近づくにつれ少しずつ大きくなっていく世界樹はとにかくインパクトがあった。

その根本に危険な宝物殿ができているのは知っているのに、余りにも雄大な光景に心臓が波打つ。帝都で大騒ぎを起こした『黒き世界樹』とは比べ物にならない。

「ところで、セレン。ユグドラの魔導師は他にはいないのか? ユグドラは強力な精霊が複数守護していると聞いていたが――」

「…………はい。もちろんいますが、既に、全員、出ているのです。もともとユグドラにはミレスと同格の精霊が後二柱いました。既にユグドラの戦士の主だった者は神の卵を破壊するために【源神殿】に挑み、誰一人として帰らなかった。私が直々に皆様を迎えに行くことになったのは、残されたミレスがユグドラの皇族にしか従わない精霊だったからです」

初耳だが、それもそうだ。神殿型宝物殿はボスさえ倒せば崩壊するのだ。

宝物殿を破壊するのに一番手っ取り早いのは神になる前の存在を破壊してしまう事だし、世界樹に異変が起きても留まった責任感の強いセレン含むユグドラの民達が世界樹の異常に対して行動を起こさないわけがない。

不安材料が増えてしまったが宝物殿の中に深く入らなければさすがに問題ないだろう、多分。…………なんでそういう情報先に言わないの?

「ユグドラの戦士達は神の前身を倒すために宝物殿の最奥を目指していました。ですが、生きて戻っていない以上、そして守護精霊も戻ってきていない以上、恐らく彼等は志半ばで倒れてしまったのでしょう。できれば彼等もユグドラに帰してあげたいのですが…………わかっています。今は解呪と、神の復活を止めるのが先です」

「…………うんうん、そうだね」

アークを呼ぶ気満々の僕だが、別に何もするつもりがないわけではない。うちのメンバーは強いし、マナ・マテリアル酔いもすぐに治まるだろう。そして、元気になったらリィズ達はきっとアーク達と一緒に宝物殿に挑みたがるはずだ。

もしかしたら予言の嵐と雷の嵐の方ってうちのメンバーなんじゃ――。

そんな事を考えていると、エリザがその場に立ち止まった。

「そろそろ宝物殿につく。ここから先は私の指示に従う事」

風に吹かれ、空から青々とした葉がひらひらと何枚も落ちてくる。手のひら大のみずみずしい葉は僕がこれまで見たことのある如何なる植物のものとも異なっていた。

世界樹の葉だ。

数十メートル先から、落ちる葉の密度が尋常なものではなくなっていた。そこから先が世界樹の下という事だろう。葉がまるで絨毯のように分厚く敷き詰められている。

セレンが囁くような声で言う。

「以前は…………枯れかけた葉しか落ちていなかったのです。蓄積されたマナ・マテリアルが世界樹を変えています。古い記録ではこれが、終わりの始まりだ、と」

快適なはずの僕でも心がざわめいた。《星の聖雷》のメンバー達が緊張したように杖を握りしめる。

ラピスもいつもより緊張しているようだ。

「このプレッシャー…………ふん。《絶影》は人の身で毎日これを偵察していたのか」

「私が訪れた宝物殿の中でも間違いなくトップ。精霊人じゃないと、長くは耐えられない。クーは大丈夫?」

「あぁ、ありがとう。平気だよ。僕は普通の人間とはちょっと違うからね」

これでも僕は最初の数年は《嘆きの亡霊》のメンバーと同じ宝物殿を探索してきたのだ。それなのに、ほとんど力が向上しなかった。

ルーク達に卓越したマナ・マテリアル関係の才能があったのは間違いないが、それ以上に僕の能力が上がらなかったのは、僕の才能がなさすぎたからだ。

《嘆きの亡霊》と共に冒険していれば、才能がなくても優秀なハンターになれるはずだった。

僕は一般人より尚――遥かな低みにいる。

マナ・マテリアル酔いはマナ・マテリアルの取り込み過ぎで発生するのだから、ほとんど取り込めない僕のような人間がマナ・マテリアルの影響を受けるわけがない。

【迷い宿】でもほとんど影響なかったし、逆に一度くらい酔いたいよ。

大きく深呼吸をして、肺いっぱいにマナ・マテリアルを吸い込む。

目を瞑り、ぴょこぴょこ耳を動かして気配を探っていたエリザが、目を開けて大きく頷く。

「やはり、今がチャンス…………だと、思う。幻影がほとんどいない。この数ならば全て引きつけられる……はず。私が引きつけるから、《星の聖雷》は攻撃で援護を」

全て引きつけられるのか…………いつもは僕と同じくらいぼーっとしているのに、本当にやる時はやる子だ。

それじゃ、ルークを助けに行こうじゃないか。