軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262 勝者と敗者③

「ますたああああああッ! 目が覚めたんですね!」

「また、とんでもない事やりやがって……」

探索者協会クリート支部の近くの建物に、《始まりの足跡》のメンバーが集まっていた。

ティノがテンション高く駆け寄ろうとして、横から出てきたシトリーに阻まれる。スヴェンが片眉を歪め、呆れているような顔を顰めているような絶妙な表情で大きなため息をついた。

僕が気絶している間、観客席にいたトレジャーハンター達も八面六臂の大活躍を見せたらしい。

ガークさんと《深淵火滅》を筆頭に、魔導師陣は『大地の鍵』の破壊を抑え込み、それらに寄与できなかった者も会場の破壊から一般人を守ったり避難誘導したりと、大忙しだったそうだ。

悪気はなかったとはいえ、宝具発動のきっかけを作ってしまった僕としてはもう恥じ入るばかりである。

頭を掻き、少しでも申し訳ない気持ちを込めて言葉を出す。

「まったく、酷い目に巻き込まれたよ」

「…………巻き込まれた?」

《始まりの足跡》との繋ぎを担当し、あちこち走り回っていたらしいエヴァが眼鏡を持ち上げ、ジト目でこちらを見つめてくる。

重圧すら感じさせる疑り深い視線――これは、さては僕がうっかり転んだ事がバレてるな?

僕の言葉に、灯火が肩を竦めて見せた。

「気にすることはない。武帝祭は中止になってしまったが、宣伝活動は十分できた」

さすが、大人である。武人としての誉である武帝祭に出られなくなった事も既に納得しているらしい。

まぁ、灯火は名誉よりも金派だろうし、余り気にしていないのかもしれないな……。

営業中なのか、灯火騎士団のメンバーの姿は見えない。混乱は傭兵組織に近い灯火騎士団にとって書き入れ時なのだろう。

「………………踊る?」

「? 何を言っている、マスター。頭でも打ったか?」

夢の中の灯火が一瞬脳裏に過り、変な事を言う僕に、灯火が冷ややかな目を向ける。

ハードボイルドな表情をして誤魔化す僕に、シトリーバリアを乗り越えて(というか、引っかからないようにゆっくりと)近づいて来たティノが心配そうな表情で聞いてきた。

「ますたぁ、お身体の方はもう大丈夫なのですか?」

「平気だよ、ちょっと疲れただけだ」

「はぁ……疲れただけって、あそこまで大きな力を抑えておいて、適当な事を言うんじゃない、です! 皆、心配していたんだぞ、です!」

クリュスが普段どおりの強い語気で偉そうに言う。だが、周りを取り囲んだクランメンバー達の表情には僕を心配していたような様子は見られない。

僕を心配していたのは幼馴染を除けばティノとクリュス、エヴァくらいのようだ。

一応、気を失ったのだからもっと心配されてもいいのではないだろうか?

と、そこで僕はクリュスの言葉に奇妙な文言が入っていたのに気づいた。

「あそこまで大きな力を抑えて…………あれ? 僕、抑えられていた?」

「はぁ? ヨワニンゲン、何言ってるんだ、です。魔力を見る 精霊人(ノウブル) の目は誤魔化せない。私の目算では――三割……いや、三割五分は抑え込んでいたぞ、です」

三割……三割?

あいにく僕にはあの大地の鍵の出力が膨大だという事くらいしかわからないので、それがどれほどの偉業なのかわからない。

一人テーブルで腕を組み、アンニュイな表情で黙り込んでいた《星の聖雷》のリーダー、ラピスが小さくため息をつくと、立ち上がった。

至近距離まで来て、感情の見えない透明な瞳でこちらを見下ろす。

「ふん……まさしく人間離れした力量、よ。一体その身のどこにそれほどの力が眠っていたのか……こうして近くで見ても魔力の片鱗も見えん。貴様の妹のルシアは大河を思わせる膨大な魔力が見えたが、それとも違う」

「……………………はぁぁぁぁぁ」

ラピスの品評に、隣にいたルシアが頭痛を抑えるかのように頭を押さえ、長い長いため息をつく。

なるほど……確かに僕は大地の鍵の力の抑制を試みた。失敗したと思っていたが、気づかなかっただけでどうやら成功していたらしい。やればできる男かな?

「そっか、抑えられていたか……実は完全に止めようと思ったんだけどね。手に負えなかった、僕もまだまだ未熟だな」

「……どうやら、元気みたいだな、です。ヨワニンゲン、ほんとお前、身体どうなってんだ、ですか? あそこまで力をぶつけてこんなにピンピンしてるなんて、精霊人の常識から考えてもありえないぞ、です」

目を瞬かせ、クリュスが自然な動きで伸ばしてきた手を、シトリーがぺしりと叩き落とした。

きょとんとするクリュスに、シトリーが笑顔のまま言う。

「お触り禁止です」

「…………ちょっとくらいいいだろ、です」

「駄目です。《星の聖雷》にはルシアちゃんの引き抜き交渉許可は出しましたがクライさんに触る許可は出していません」

「…………」

凝りずに伸ばされる手を、シトリーが即座に叩き落とす。錬金術師にあるまじき鉄壁のガードだ。君たち、意外に仲いいね……。

ぺしぺしやりあっているシトリー達から視線を外し、ぐるりと集められたメンバー達を見る。

どうやら今回の騒動は堪えたようで、皆疲れているようだ。

ただ武帝祭を観戦するだけのつもりだったのに崩壊する闘技場で人命救助させられたのだから、それもそうだろう。観戦するつもりだったのに出場させられた僕には痛い程わかる。

と、そこでティノの顔が目に止まり、ふと思い出した。

「そういえば、賭けってどうなったの? 全財産賭けたんでしょ?」

「それは――――いや、そんな事どうでもいいのです、ますたぁ!」

「おう、そうだ。クライ、お前にあったら今回ばかりは言わせて貰おうと、皆で話していたんだ」

そんな事はどうでもいい? いや、よくはないと思うけど――。

スヴェンの言葉に、他のメンバー達が真剣な顔でうんうん頷く。

あぁ? と、眉を歪め前に踏み出しかけるリィズを幼馴染特有の気づきで止める。そういうところだよ、協調性のなさ。

相手は敵ではなくクランのメンバーだ、話を聞くのはクランマスターの責務の内だろう。

スヴェンは僕の目と目を合わせると、真剣な声で言った。

「クライ、なにかでかいことをしでかす時は、ちゃんと事前に話を通してくれ。今回は俺たちだけじゃねえ、一般人にも被害が及ぶところだったんだぞ!? 情報漏洩を気にしたのかもしれないが、やり方なんていくらでもあるだろ。いきなりのアレはいくらなんでも心臓に悪い」

「…………」

仲間達がうんうん頷きスヴェンの言葉に同意を示している。クリュスもシトリーとの応酬の手を止め、僕を見ている。

僕は腕を組みハードボイルドに数度頷くと、首を傾げた。

…………ん?

「一体何を言ってるのか全然わからないんだけど……僕にとっても今回の件は全く予想外だよ」

「…………………はぁぁぁ」

ルシアがこれ見よがしとため息をつく。スヴェンが目尻を下げ、情けのない表情をした。

いや、だって――今回の件、予想できる人、いる?

《千変万化》の二つ名に神算鬼謀のと言う修飾がつくことは知っているが、いくらなんでも限度がある。まぁ、僕は前すら余りよく見えていないけどな。

情けなさ過ぎて少し躊躇うが、僕も今回ばかりははっきり言っておかねばなるまい。

「言っておくけど、僕は目を覚まして話を聞くまで、あの狐面の事を狐面愛好会の偉い人だと思っていた」

「何言ってんだ、お前」

「そもそも、以前も言ったけど、本来なら僕は武帝祭に出場するつもりはなかったんだよ。一流の戦闘を観戦できると楽しみにしていたのに、あんな事になるなんて全く予想外だ。事前にわかっていたら僕は――スヴェンを身代わりにしていた」

「はぁ!? や、やめろッ!」

スヴェンが本気で嫌そうな声をあげる。

僕という男はどうやら静かに戦いを観戦することすら許されないらしい。これは危ない所に行くなという神のお告げなのだろうか?

でも、いくら運が悪いからってこんなに酷い目に遭う人っている? 全く笑えない。

互いに顔を見合わせる《足跡》の頼りになるメンバー達。眉を寄せて難しい表情を作る灯火に、興味なさげな表情をしているラピス。

青ざめるスヴェンの隣で、難しそうな顔で話を聞いていたマリエッタが恐る恐る言った。

「つまり……マスターはこう言っているの? 本来あのクラヒ・アンドリッヒでどうにかできるはずだったのに予想以上に弱かったせいで大地の鍵が使われてしまった、と?」

「…………え?」

…………そんな事言ってないじゃん。君、《黒金十字》のブレインでしょ。一体どういう思考回路を経たらそんな結論が出るんだよ。

《始まりの足跡》有数のパーティメンバーが出した結論に、他のメンバーが怯えていた。引きつった表情をこちらに向けている者もいる。

とんでも理論だよ、信じるなよ。いくら僕のカリスマがないからといって、いくらマリエッタが美人だからといって、そんな馬鹿げた話を信じる事はないだろ!

「そうか、今回は――クラヒに擦り付けるつもりだったのか……」

「つまり、私たちは――バックアップだったって、事?」

「た、確かに、あの試合開始前の偽物宣言には驚かされたが――」

「ちょっと待って――マスターが負傷するのって初めてじゃない!?」

ざわつき好き勝手声を上げるメンバー達。

その中に聞き捨てならない言葉が混じっているのに気づき、僕は目を丸くした。

偽物宣言!? 偽物宣言って何?

…………どうやら僕の代わりに出ていた妹狐は好き放題やっていたようだな。

僕は空気を変えるべく、力いっぱい手を叩くと、笑みを浮かべ努めて明るい声で言った。

「とりあえず、皆お疲れ! せっかくの武帝祭も台無しになってしまったし、苦労もかけた。そうだ、良いことを思いついた! せっかく集まってるんだし、皆でどこかぱーっと旅行にでも行こうか!」

「もうやめてくれッ!」

僕の提案に、ライルが悲鳴のような声をあげた。