軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212 評価

帝都よ…………僕は生きて帰ってきた!

トアイザントとは違った洗練された町並み。人混みや走る馬車に不思議と強い郷愁を感じる。僕の出身地は帝都ではないのだが、僕もこの都に愛着を抱いていたという事だろうか。

行きが色々あったせいか、帰りは大人数での護衛だった。つつがなく終えた事を思うと、数の力というのは本当に偉大だ。

皇城までの護衛を終え、解放されて大きく伸びをする。これで僕は自由だ。

「いつもより楽だったな……」

「!? お前、本気か、ですッ!」

クリュスが頬を引きつらせて言う。キルナイトは黙っている。

護衛系任務ではいつも散々な目に逢う。今回も色々あったが僕の負担は最低限であった。

やったことも一言で言うなら、人に振っただけだ。持つべきものは頼りになる友人だ。その事を考えれば楽だったと言って差し支えないだろう。

おまけに、絨毯にスマホまで手に入れてしまった。珍しい宝具というのは一期一会だ、苦労の割には報酬が素晴らしい。

隣に立った絨毯の肩をぱんぱんと叩くと、こちらにチョップしてくる。そろそろ上に乗せてちゃんと飛んで欲しいと思うのは贅沢だろうか。

クランハウスまでやってきて、大変お世話になったクリュスと別れる。

戦闘という意味でも、精神的な支えという意味でも、そして宝具のチャージという意味でも、彼女はMVPだ。

「ふん……全く散々だった、です。もう安易に呼ぶんじゃないぞ、ヨワニンゲン」

「……打ち上げでもする?」

「ラピスに報告がある、です。大体、打ち上げって私とヨワニンゲンとキルナイトしかいないだろ、ですッ! こいつ一体何だったんだ、です。ほとんど喋らなかった、ですッ!」

自分の事を話されているのに、真っ赤な鎧のキルナイトは僕の隣で直立したままだった。シトリーが取りに来るまではこのままだろう。

「さぁ…………でも頼りにはなったよ?」

「よ、よくもまあそんな事言えたもんだな、ヨワニンゲン。そこは素直に感心しておく、です」

「狐のメンバーをもう一人入れるよりはマシでしょ」

「…………」

いざという時には役に立たなかったが、シトリー達に言葉が伝わる仕組みが施されていたようだし、キルナイトがいなければああもタイミングよくシトリー達を呼びつける事はできなかっただろう。

寡黙なキルナイトの甲冑をばんばん叩く。寡黙な点も護衛という観点からは決して欠点とは言い切れない。思ったより邪魔にならないしずっと連れ回してもいいくらいだ。その時は食事の生肉を忘れないようにしなくては……。

フレンドリーな態度を取る僕に対して、キルナイトがぴくりと震える。

まるで機械のような力強い動作で腕を動かすと、ゆっくり甲を持ち上げる。

クリュスが目を見開き、フリーズしている。現れたのは――顔ではなく、穴が二つ空いた紙袋だった。

「キルキル……」

まるで挨拶のように一言あげると、キルナイトはそのまま無言でクランハウスに入っていった。様々な魔物と戦い慣れている《足跡》のハンター達が道を譲っている。

そのままキルナイトは階段を上り(おそらく)三階にあるシトリーの研究室に消えていった。

「…………実は、キルキル君でした」

マジかぁ……そういえばシトリー、サラッと言ってたような……。

なまじいつものインパクトが強いせいか、全身鎧で特徴を全部隠すと本当にわからないものだ。

心の底から感心している僕に、クリュスがぼそっと言った。

「…………私が優しくなかったらぶん殴ってたぞ、です」

「さすがクリュス、優しい!」

「お前、絶対私の事、馬鹿にしてるだろ、ですッ!」

クリュスが小突いてくる。こうして、僕の護衛の旅は終わりを迎えるのであった。

§

久しぶりに『完璧な休暇』を脱ぎ、いつもの格好で座り心地のいいクランマスター室の椅子に身を預ける。

ようやく人心地がついた気がした。

『完璧な休暇』はかなり便利な宝具だが、快適すぎるという欠点があった。噂では他の『完璧な休暇』愛好家の中には、余りにも着すぎて他の服を着られなくなった者までいるらしい。僕が平気なのは通常時と快適時の差が余りないからだろう。仕事も余りしていないし。

やはり僕にはこの場所でだらだらやっているのが性に合っている。

エヴァがいつも通りお茶を入れてくれる。日常って最高だ。そして、クラン関係の仕事を全部やらせている上にお茶まで入れてもらうとか、自分の事ながら最低である。

エヴァが毎回の恒例で確認してくる。

「クライさん。護衛依頼は如何でしたか? 噂は耳に入ってきますが……」

「三十点くらいかな。大事なかった?」

「概ね問題ありませんでした。変わった事と言えば――《 灯火騎士団(トーチナイツ) 》が遠征から戻ってきましたよ。もう発ちましたが」

「へー、タイミング悪いな」

「彼らは傭兵なので……他のパーティもほとんど不在だったので、リーダーの灯火さんも残念がってました」

珍しい名前を聞いた。

《 灯火騎士団(トーチナイツ) 》は《足跡》で最も多くの人数を擁するパーティである。

メンバーの練度も高く、まるで軍隊のような秩序ある立ち回りを得意としているが、戦場を求めて常に世界中を回っているので滅多に帝都に戻ってこない。多分、あのパーティの中では帝都が拠点という認識もないだろう。

ちなみに、《 灯火騎士団(トーチナイツ) 》はクラン設立パーティの一つでもあるのだが、そんなクランに入る意味が薄いパーティが協力してくれたのはシトリーが高いポーションをプレゼントしたからだったりする。

つまり、金である。パーティリーダーの灯火の座右の銘は『金で命は買える』、だ。シトリーと相性がすこぶるいい。

灯火騎士団がいたら皇帝護衛も丸投げできたのにな……。

だが、既に終わったことだ。どんな面倒な依頼でも、終わった依頼はいい依頼だ。絨毯とスマホを手に入れたのだから、良いではないか。

大きく欠伸をすると、僕は脚を投げ出し、懐から最新のスマホを取り出した。

「そういえば、トアイザントで念願の植林が成功したらしいですね」

相変わらず耳が早いな。

「ああ、大騒ぎしてたよ。僕は関係ないけどね」

幻影も役に立つ時は役に立つものだ。フランツさんが言っていたのだが、会合もトアイザントの首長が大興奮していてそれどころじゃなかったらしい。

だが、僕は関係ないの一点張りで押し通した。どこで噂を聞いたのか、お礼を言いに大勢が押しかけてきたが全部知らないで帰した。贈り物も受け取らなかった。やったのは妹狐なんだから礼はそっちに言えよ。

しかしあれが植林と呼べるのだろうか……噂では一日で森ができたらしい。そんな植林あるか!

エヴァが目をパチパチ瞬かせる。

「浮かない顔ですね。何か懸念でも?」

「まぁね。僕にも悩みくらいある。いや、もうできることは全部やったんだけどね」

今思えば、妹狐の押し付けはいくらなんでも無責任だった気もする。話が通じそうだったし、存在があまりにも重すぎたせいで思わず預けてしまったが、折を見て帰るよう説得を試みるべきかもしれない。今の僕にはスマホもあるので遠距離からの連絡もらくらくだ。らくらくなのだ。

「悩みがあるなら、私でよければ乗りますが……」

「ああ、頼りにしてるよ」

ああ、やっぱりエヴァだ。次の護衛には絶対についてきてもらおう。

心に決めた丁度その時、部屋の扉が開いた。

入って来たのは一抱えもある大きな箱を抱えたシトリーだった。

そういえば、皇女殿下の訓練を頼んだ後に詳しい話を聞いていなかった。随分ごたごたしていたせいだ。

無事、殿下はお返ししたし、シトリーも何も言っていなかったので問題はなかったのだろうが、今後話を振られた時のために、行った訓練の内容とか聞いておいた方がいいかもしれない。

シトリーは近づいてくると、僕が何か言う前に頬を染めて言った。

「見てください、クライさんッ!」

あ、この態度……さてはシトリー……褒めて欲しいんだな?

いいだろう。褒めてあげよう。よしよし、偉い偉い。

シトリーが意気揚々と木箱を開ける。箱の中にはガラス瓶が整然と並んでいた。

その中の一本をつまみ、慎重に持ち上げる。中に入っていたのは赤黒い液体だった。透明度は低く、一見して血のようだ。

随分不気味なポーションだな……。さて、どう褒めたものか。

にこにこしながら解説を待つ僕に、シトリーちゃんは自信満々に言った。

「ご報告が遅れましたが……ご覧ください、クライさん」

「よしよし、さすがシトリーだ。偉い偉い」

「ミュリーナ殿下の血です、約束通り、血液検査でこんなに採れましたッ!」

???????

満面の笑みのシトリーと、随分たくさん並んだガラス瓶を確認する。そう言えばミュリーナ殿下……随分フラフラしていたな。

明らかに瓶の数は異常だった。人間一人の血を全部抜き取ってもこの数にはならないだろう。ましてやミュリーナ殿下は小柄だ。

エヴァに視線を向ける。

「エヴァ、さっそくだけど悩みを相談してもいいかな?」

「………………すいません、ちょっと気分が悪くて……席を外します」

「王室の血ですよ、保存状態も完璧にしています、まず手に入りませんッ! 研究のしがいが――」

エヴァが蒼白の表情で、ミュリーナ殿下と同じくらいふらふらとした足取りで席を外す。

僕は仕方ないので、恐る恐るシトリーに確認した。

「……生きてるの?」

「強力な増血ポーションを投与したので……負担はかなりあったようですが、生命には異常ありません!」

シトリー、生命に異常がなければいいってものじゃないんだよ………………僕、訓練って言ったよね?

ど、どうしよう、これ。帰還時は何も言ってこなかったが、バレたら死罪ではないだろうか。

§

そして、僕はその翌日、早速、王室から呼び出しを受けた。もうダメかもしれないな。