軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話・自分も務めを果たしますので

俺の前世の祖父母の家に浄化槽があり、浄化後用水路に流していた。用水路に水をちょろちょろと出す配管の傍にある、ブルブル震えているこれは何かと祖父に聞き、話が広がって色々な話を聞いた。それから改めて観察してみると、そこかしこに浄化槽があった。公園の公衆便所の近くにもそれを見つけては祖父に報告していた幼少期を思い出す。

そう、浄化槽は埋まっている。下にあるのだ。

浄化槽の設計は、基本はただの落とし穴だ。

そもそもただいま計画中の排水は自然勾配を使って流すだけ。ただ坂に沿って流れる用水路に蓋をするだけの仕組みだ。そうなると、浄化槽の設置個所は当然低所になる。そして低所にスライムが水を浄化できる設備を作るとなるとさらに低くなる。低所に落とし穴を作るような感じだ。

この低所を探すのは簡単だ。村を流れている川を下れば良い。村から近く、村全体より低所で、浄化槽設置に相応しい場所。これを探すのに手間を取った。

シンシアが野盗の管理に回っている、クリスティーナは家の事をお願いしている、という状況ではサーシャが居ないと森の中を探索出来ない。

この森に居る魔獣の多くには俺1人でも勝てるだろうが、だからと言って「油断して不意打ちされて死にました」が許される立場では無い事は重々承知している。なので、ドズゥが野盗の教育を務めてくれるというのは本当に助かった。おかげで、サーシャが殆どフリーとなった(本当ならばサーシャの立場は護衛兼 メ(・) イ(・) ド(・) なので、俺の妻であるクリスティーナに家事をやらせたままというのは、よろしい状況では無い。だから実質フリーでは無い)。

基本は川沿いに進み、その付近で低所を探す。

普段森の中を歩く時は気にしないのだが、こういう水の流れを追う、みたいな作業をしていると、セルト村が実は結構な高所にあったのだと実感した。

「このあたり、条件一致」

とサーシャが言う。

確かに悪くない。生い茂る木々の根のおかげで辛うじて地面の形を保つ。それが故に大きく窪んだ土地。

「確かに低所なんだけど、ちょっと木々への影響が怖いかな。浄化槽設置の際は伐採しても良いのだけれど……候補その3くらいって事で」

「……その2は?」

「いつか出てくるさ、たぶん」

「アルメル、テキトー」

「適当が大切な場面は往々にしてあるものだよ、サーシャくん」

久しぶりにサーシャと2人っきりの状況。他愛ない会話と業務を交わしながら設置個所の選定および『実験場』の選定を進める。

これは、正直あくまでクオリティーの問題で、妥協すれば無限に妥協できるテーマなので、重要性は高くない。しかし、最低限の条件を満たす土地は確実に見つけなければならないので、重要な仕事である。

「じゃあ、まだまだ探そうか、良い立地を」

そう言いながら歩を進めるが、ふと、サーシャが言った。

「アルメル、野盗連中への執着、異常。なんで?」

それは、唐突に投げつけるにはあまりにも確信を得ているし、難しい問いだった。可能なら、質疑書を事前に提出し、しかるべきタイミングで聞いて欲しい案件である。

野盗連中、すなわちオヌシ達に執着している、というのは正確ではない。だが、言わんとするところは解る。今まで俺が他人に示してきた熱量に対し、オヌシ達への執着は、確かに、普通ではない。

前世社会は人間関係の入れ替わりが激しかったせいで、俺はすっかり、出会い別れのプロフェッショナルとなってしまった。そのせいで、出会い別れに対し、無頓着でもあったと思う。

卒業式で泣いている女子を、横目に冷笑するような、そういう所は、確かにあった。

だがこの世界に来て、少しずつ思った事がある。

人間関係は、貴重だと。

「俺がこの歳までオヌシ達みたいな連中と出会わなかったのって、実は、俺の人間関係が全て、お父様の庇護下にあったからなんだ」

俺は、ただの事実として、その言葉を選ぶ。

アルメルライト開発の頃も、サングラスとカツラ作りの時も、全ての人間関係はお父様の紹介や伝手によるものだ。食料事情改善の時も、俺が頼ったのは、ギルドと教会。土地を治める貴族たるファラン家とは、当然、忖度の関係にあるような繋がりがある組織ばかり。

俺の今までの人生は、すなわち、全てがお父様を介しているのだ。

それで言うなら、このセルト村だって、実はお父様の伝手だ。サングラス開発を成し遂げた褒美として頂戴した土地。お父様が選んだ村。

本当に、俺が生きた今までと、あらゆる人間関係には、全て、お父様の痕跡がある。

「オヌシ達が、多分俺の人生で初めて、胸を張って『お父様に頼らず出会った人』って言える存在だと思うんだ」

サーシャと2人で歩きながら、話は続く。

「すごく言い方が難しいんだけど、誰かの支援を受けられるっていうのもその人の実力なんだけど、でも、やっぱり自分的に一番大切な、自分という人間がどこまでやれるのか? っていうのは、誰からの支援も受けていない状態じゃないと、ちゃんとは分析出来ないっていうか……ごめんサーシャ、上手く説明出来ないかも」

元営業マンとして恥ずべき事だ。取り繕い、話を完結させたほうが説得力を得られる。なのに、ことサーシャに関しては、説得力など要らないと解っているから、その点の警戒心を無しにして喋れる。

「アルメル自身の力、試したかった?」

そう指摘され、しっくり来る。

「そう! それが一番大きいと思う。いや、オヌシの潜在能力に期待してるってのもあるし……いや、違うな、やっぱり一番なのは別だ。サーシャの意見は、2番目くらい」

話している途中に方向修正する。

確かに、自分がどこまでやれるかを知りたかったというのは、ある。

だが、そんな事よりも重要な案件が、俺達には、ある。

「サーシャ、よく聞くんだ。……このたった数日、家事を全部お願いしているせいで、クリスティーナの機嫌が日を追う毎に悪くなっている」

「!!!!」

サーシャも珍しく目を見開いて驚く。その驚愕は、そんなまさか! ではない。やっぱりそうだよね! のリアクションである。そうこれは、すなわちある種の叙述トリックです。実は、あまりにもあんまりすぎて描写したくなくて、クリスティーナ周りの詳細な描写、わざと避けてました。クリスティーナ、この数日、超怖い。

いや普通に、なるべくしてなっているのだ。あの広さの家を1人で管理するの、この時代的にはあり得ない重労働なのである。だって洗濯機も掃除機も無いよ? 光も魔法灯を使わないなら蝋燭だし、調理だってコンロをカチン、じゃなくて窯よ? 重労働も重労働。

「絶対的に人手が足りない。なんとしてでも確保しなければいけない。――そこに、オヌシだ。少々癖は強いが、管理職適性はあると、俺は思っている。今はシンシアに教育させているが、ゆくゆくはシンシアのサポートにも当たらせたい。とにかく今は、人手が欲しい。その上で、オヌシの潜在能力は、手放すわけには惜しい。それに……」

まだ理由はある。理由はあるが、答えるべきか否かに迷い、止まる。

だが、その続きはサーシャが言った。

「――罪悪感、消えない?」

その通りだった。否定しようがなく、それが全てだった。

多分サーシャは、口喧嘩の事を言っていたんじゃないかと思う。でも、俺はそれとは違う罪悪感も覚えていた。その事を自覚する。

そして、自覚してしまえば、否定のしようがない。

そう、俺は、オヌシの地雷を踏み、本当にどうしようもなく、傷付けてしまったらしいという事実を、受け入れられない。……それ以外にも、

「ああ、その通りだ」

目を細めて、辛うじて感情にブレーキをかけながら、俺は答える。

「俺は、 あ(・) い(・) つ(・) ら(・) に、罪悪感を抱いている」