軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話・前世の血が騒ぐようで(前編)

上水設備の開発はひとまず完了。便器に関してはミリアムとドズゥに任せ、定量の水を使用する仕組みについて考えつつ、排水設備の研究・開発に本腰を入れ始めた。

排水設備の研究・開発。その心臓部はやはり、浄化槽だ。排水路の作成は土魔法ですぐに作れる。だから、浄化槽こそが心臓であり、浄化槽だけが課題だ。

ひとまずは、スライムを用いて汚水の浄化が可能か否かを実験する必要がある。

そして、実験のためには、

「ボケ散らかしてんじゃねぇぞボケガキ」

額に欠陥を浮かべてキレている野盗の頭との話し合いが必要になる。

野盗の拠点である洞窟にまで足を運ぶついでに、食糧やその他諸々の差し入れを持ってきた。その場でそのまま依頼を伝えた結果、野盗の頭がキレたという流れだ。つまり、今のが顔合わせ次第の第一声である。

因みに名前は教えて貰えていないので、俺は彼の、そしてその部下達の名前も知らない。

「ボケてないよ、スライムが10体。これが、最低でも必要な数だ」

「ボケてんじゃねぇかよ、カス。スライム10体の生け捕りなんちゅう難易度の課題を、成功するかどうかも解らねぇのにやれってか。1体捕まえりゃあ可能か否か解るだろうが」

おお、悪くない罵倒と悪くない提言だ。確かに、普通に、表面的に考えれば、1体捕まえれば、スライムにそういう機能があるか否かを判断出来ると思うだろう。

だが、その判断には穴がある。

「その1体が、正常な個体だと、どうして解る?」

と、俺は問う。

「あ?」

左右でアンバランスな表情を浮かべる野盗の頭。……野盗の頭、じゃ味気ないないし、ちょっと不自由があるな。教えてくれない事は確定しているので、仕方ない、冗談のつもりだったけど、こいつにあだ名を付けてしまおう。

「オヌシって呼んでいい?」

念のため確認をすると、

「ダメに決まってんだろ。呼ぶんじゃねぇ」

「君の呼称は呼ばないさ。俺の故郷に、オヌシっていう、方言? みたいなのがあるんだよ。君、お前、あなた、みたいな意味の言葉だ」

「テメェ、とか、ぼけなす、みてぇなもんか?」

「? え、ああ、まぁ、そういうところだ。……いや、ぼけなすは2人称じゃないと思うけど……」

「とにかく、てめぇは俺を呼ぶなカス」

うーん、ガードが堅い。まぁ、この辺りはいずれ、心を開いてもらうしかないだろう。

「オヌシはさ、例えば、魚のメスを釣り上げてくれって頼んだら、何匹目でメスを釣れる?」

「決まってんだろボケ。オスかメスかの2択がある以上は運任せだ。4匹も釣れば1匹はメスになるんじゃねぇのか」

「その通り!」

この時代感でその感覚を持っているのはとても嬉しい。素敵な誤算に、自然とテンションが上がった。

そう、釣り上げる魚がオスかメスか。これは、基本的には二分の一の確立と言える。

なら、2回釣れば、確実にメスが釣れるか?

応えはNOだ。

釣った魚がオスかメスかは、オスとメスが同数であると仮定した場合、初回は50%の確率となる。これでメスを釣れれば、話は終わり。

しかし、2回目だから100%の確率でメスになるわけが無い。2回目もまた、同じように、50%の運ゲーが行われる。

そういう都合で、

1回しか釣りをせずにメスが釣れてる確率は50%。

2回ほど釣りをしたらメスが釣れてる確率は75%。

で。

4回ほど釣りをすればメスが釣れてる確率は93.65%。

となり、4回も釣りをすればまぁまぁ相当に運が悪くない限りはメスの魚は連れているであろう確率と言える。これを解っているオヌシ、悪くない地頭だ。

「そう。で、今回の開発においては、運が悪くて成立しなかった。……これは絶対に無しにしたい」

俺はオヌシに強い口調で語りかける。

「スライムが実験に使えたなら、それでいい。問題なのは、使えなかったと判断した時だ。5%でも、2%でも、1%でも、その意味は変わらない。スライムは今回の開発に使えたはずなのに、そのくだらない 運(・) ひ(・) と(・) つ(・) で、本当なら出来ていた事が出来なくなる。その可能性を潰したい。だから、スライムは10体だ。大変だと思うが、これは譲れない」

オヌシはしばし考える。その間に諸々をぶつくさと呟いていた。

そのリアクションの最初の呟きは、間違いなく「運次第……?」だった。運に関して、何か思うところがあるのかもしれない。

好感触である。

と、思っていたのに、回答はこうだった。

「そんなくだらねぇ自己満足のために、俺達に命を賭けろって言ってんのか? このクソッタレのお貴族様は」

冷静で、冷徹な回答。

そう、スライム確保は危険を伴う。オヌシの発言は正しい。

正しくて、鋭くて、なんというか――すごい! 楽しい!

専門知識を持たないケイシーみたいな感覚だろうか。俺の産まれが貴族で、お父様も兄さま達も、思慮深い人ばかりが回りに居た。多少思慮深さに欠けた場合でも、俺達の立場を忖度する事は出来る言い分に収める人ばかりと話していた。

はっきり言おう。退屈であると。

いや、俺が生粋のアルメル・オース・ファランなら、この忖度が当たり前になって、何も感じなかったのだと思う。

でも、前世の記憶持ちで、営業職を経験していた俺からすると、今の俺の立場って所謂『優越的地位』ってやつになるのよね。ようは、俺が偉すぎて相手が逆らえないので、俺の成否を問わず、相手が従うしかない状態だったわけだ。

前世の営業職の頃に散々反発・反論されてきていたから、ぶっちゃけちょっと物足りなかったんだよね、今までの交渉。

ああ、楽しくなってきた。

さて、考えろ。

――そんなくだらねぇ自己満足のために、俺達に命を賭けろって言ってんのか? このクソッタレのお貴族様は。

この言葉への最適解。スライムを10体生捕りにする、という依頼をオヌシに引き受けてもらうための交渉に、何が必要だ?