軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編・奪われた晩餐会5

「さしあたって君達に依頼したい仕事があるのだけど」

どこか興奮気味に話を続けるアルメル。これは計算によるリズムというよりも、感情のままに、という雰囲気だ。

「待て、話を進めんじゃねぇ」

野盗の頭も困惑している。

「待たない。進めるね」

強引なアルメルに、味方側であるはずの私にも困惑が生じる。

「アルメル、少し待ってあげましょう。同意が取れていないんじゃなくて、着いてこれていないんじゃないかしら」

私が言うと、アルメルはきょとんとした様子で私を見て、きょとんとしたまま上を見てから「ああ、そうか」と呟く。

そして少し、考えているのか待っているのか解らない間を置いてから、手揉みしながらこう言うのだ。

「ようするに人手が足りないんだよ。俺達は、金はあるけど人が居ない。君達は、人は居るけど金が無い。無い者同士、奪い合うのではなく、手を取り合おう、という話」

一方的な善意でも、搾取でも無い事を伝える。交渉において大切な工程だ。ここを飛ばしていたから強引に感じてしまったのだと思う。

野盗の頭は言う。

「アホ抜かしてんじゃねぇよ。こちとら村を襲ってんだぞ。村人の理解を得られるわけねぇだろ、常識で考えろや」

それはそうだ。その言い分は一理ある。

後ろでサーシャが「村襲った奴が、常識語ってる」とシンシアに囁いて、シンシアは吹き出しながら「村襲った連中を勧誘してるアルメル様の非常識さと比べたら、多少はね?」と笑っている。少し面白かったので私も混ざりたかったので、笑いごとでは無いので、人差し指で唇に当てて、ジェスチャーで談笑をやめさせる。

「知らない常識だなぁ」アルメルはすっとぼけた口調で言う。「人手が足りない時に人手が転がり込んできたんだよ? その手が多少血塗られていることがどうした。村人からの信頼についても心配は要らない。まずは、このシンシアの部下として村の外で手伝いをしてもらう。信頼を獲得出来ると判断した者を数人、こっちのサーシャの部下として俺の手伝いをしてもらおうかな」

そこで、アルメルの話が終わる。

野盗の頭は仲間達のほうを見た。全員が小難しそうに首を傾げている。そもそも話の流れを解っていない様子だった。

「その契約期間中に俺達が悪さしたらどうすんだアホ」

と、頭が言う。それを聞くあたり、既に悪さはしなさそうにも思うけれど、アルメルはすっぱりと答えた。

「処分するに決まっているだろう? 君達が信頼に値するまでの間、つまり村に入れるまでの間は、つまり試用期間だ。その間、俺は、君達を野盗と知らずに売買していたという事にさせてもらう。君が野盗だと解ったら、領地を治める者として、処分しないわけにはいかないんだよ」

その発言に、その場が凍り付く。

パラノメールという城郭都市を管理するファラン家。王国の盾と呼ばれ、国境付近を任されている、重要な貴族。野盗の存在など言語道断だろう。しかしアルメルは転生者なので、心も生粋のファラン家というわけでは無い。だからこそ裏取引も出来る。

なるほど、と納得した。だからアルメルは、この交渉を『悪巧み』と言っていたのだ。

そして、アルメルは最後にこう付け足す。

「――ところで、略奪したと思わしき物資はこの拠点には見当たらないのだけど、まさか君達、野盗なんてことはないよね?」

後ろでサーシャとシンシアが噴き出して笑う。私も笑いそうになったのをこらえる。

野盗の頭は悔しそうに唸り「誰のせいで失敗したと思ってやがんだクソガキがぁ……」と小さく呟いてから、ひとつ深呼吸して答える。

「ああ、違ぇよ。街で仕事に炙れて野宿してただけの、貧乏人だ。……これで満足かよ」

野盗の頭とは対照的に、アルメルは満面の笑みを浮かべた。

「上出来だ。というわけで早速なんだけど、君達には――スライムの捕獲をお願いしたいんだよね。生きたまま」

「…………」

再び、その場が凍り付く、野盗達の顔が雄弁に語る。「無理だろ」と。

「捕獲出来たら嬉しい素材も後日シンシアに届けさせる。シンシアの稽古を受けて強くなりつつ、その素材回収で生計を立てつつ、メインミッションとしてスライムの生け捕りを目指して欲しい」

野盗達のリアクションを無視して話を進め、そして終わらせたアルメル。普段はバランスが取れた思考回路をしていると思うのだけれど、いざ労働に関する話になると、とても偏った考え方になるのよね。前世で何かあったのかしら。

「やるだけはやるが、期待はすんなよ」

野盗の頭は言う。

アルメルは目を瞑って答える。

「やれる限りをやってくれればいいさ」

これにて、交渉終了だ。流石というには、リスクがある選択だと思う。だから手放しで称賛する事は無いけれど、野盗を雇う、なんて、常識では、少なくとも私には、あまり考えられない。

じゃあ、俺達は帰ろうか、と、私達は野盗に背を向けて歩き出す。でも、先頭を切って歩き出したアルメル本人が「ああ」と何かを思い出して、立ち止まる。

「そういえば、君の名前は?」

振り向いて、最後の質問。

野盗の頭は嫌味いっぱいの歪んだ笑みを浮かべて答えた。

「教えたら絆になるんだろ、なら言わねぇよ。てめぇらが俺らを村に入れる条件が信頼だっつうんなら、こっちも同じだ。てめぇを信頼したら教えてやる。ボケ」

これは、道のりは長そうだ。

―――――(◇◆◇◆◇)―――――

「みんな、お疲れ様」

村人達に状況の説明を終え、歓迎といくつかのお礼を受け取り、帰宅したところで、アルメルが言う。

「いやぁ、本当、皆流石だったよ! 俺の出番ゼロ! 安心感が違うね!」

「最後の最後でとんでもない事をしたくせに、何を言っているのかしら」

露骨な社交辞令を述べるアルメルの額を軽く小突く。痛くはしていないはずなのに、アルメルはふざけて「いて」と言って舌を出した。

「いやぁ、こう言っちゃなんですが、良い運動になったっすね。似たような動きしかしない魔獣ばっか相手だと、カンが鈍っちまうもんで。たまにはパラノメールに戻って騎士達と稽古しようかな」

武装を解除しながら楽しそうに言うシンシア。

「シンシア、スレイン、戦う」

茶化すように悪戯っぽく言うサーシャ。

「あれは無理っ! 数年前だったら戦えたけど、今じゃもう成長し過ぎて次元が違う!」

私も少し考える。

「私とシンシアで組んだらどうかしら?」

今度はシンシアが少し考える。

「魔眼有りなら、障害物も欲しいっすね。市街戦で姫様と俺タッグならワンチャン。いや……魔法使い1人と、近接はタンクとアタッカーが欲しいんで、この4人対1人で互角って感じじゃないっすか?」

「それはシンシア自身を過小評価し過ぎじゃないかしら」

「いやぁ、あの人がエグイんすよ」

それは本当にその通りだと思う。

と、盛り上がっているのは、勝利後で興奮しているからだろう。眠れる気がしない。

ふと、話にアルメルが混じっていない事に気付く。

「アルメル?」

最初に察したのはサーシャだった。アルメルはこちらに背中を向けて、村人からの感謝の品を抱きかかえている。感謝された事に感激しているのかしら? と思っていたら、いくつかの品を残して床に落としてしまった。

「だああああああああ!! 我慢出来るかあああああああ!!」

唐突な絶叫。早足でロビーから食堂へ向かう。

食堂に い(・) く(・) つ(・) か(・) の(・) 品(・) を置いて、何かに取りつかれたようにキッチンへ向かう。

そしてキッチンからもいくつかの品を持ち出し、食堂に置く。パン、チーズ、干し肉、ハム、果物、調理の要らない、しょっぱい系にやや偏りがある食べ物ばかり。

「サーシャ、お腹すいたって言ってたよね……」

一心不乱な内心を押しとどめて、辛うじて理性をもって喋ろうとするアルメル。

「超すいた」

と答えるサーシャ。

「シンシア、戦いに勝利したら、勝利したチームは、本来何をする……?」

血走り始めるアルメルの目。その目はどこか、俺の望んだ答えを述べよ、と言うような圧力がある。

「……アルメル様、ま、ままま、まさか」

ごくり、と唾を飲むシンシア。

「クリスティーナ、僕達、もう、大人、だよね……?」

そう問われ、ハッとする。

ハッとしたので、私は答える。

「ええ……。ええ! 私達は、大人よ!」

その答えを聞いて、アルメルは私達3人と順番に目を合わせ、そして言った。

「今から、晩餐会を開く」

と。

「きたぁああああああああ!!」と、最も派手に反応を示したのは、酒好きのシンシア。

「手料理……アルメルの手料理は……?」とワナワナと震えるサーシャは、「簡単なので良ければ、飲みながらなんか焼くよ!」というアルメルの返答に、小躍りしていた。

アルメルは興奮気味に言う。

「これから4人で、祝勝記念だあああああ!」

と、盛り上げようとするアルメルだが、私には見えていた。

「いいえ、アルメル、それは出来ないわ」

「え」

唐突な落差。私の言葉に、アルメルが勢いを失う。

「だって、ほら」

言っているうちに、ロビーのほうから金属のノックが聞こえた。扉に設置してある、家内の誰かを呼ぶようの鐘だ。

「えー、今から良いとこなのに~」

と、唇を尖らせるアルメル。

「いいえ、良いところだから、来たのよ、アルメル」

背中を叩き、一緒に玄関へ向かう。勿論、カツラをちゃんと付け直す。

扉を開けた先に居たのは、村長や自警団率いる、村人達だった。

アルメルは目を丸くしながら訪ねた。

「えっと、皆さん? 危機は去りましたので、安心して眠って大丈夫ですよ? どうされましたか?」

などと無粋な事を言うアルメル。皆、気持ちは同じだと言うのに。

村長が言う。

「危機が去って、安心して眠れるから来たんですじゃ。皆、アルメル様一行への感謝と……なにより野盗の襲撃を受けて被害ゼロという状況に、浮かれてしまいましてな」

村長がそこまで言うと、次に身を乗り出して来たのは自警団の若者だ。

「焚火の準備もしてあります。皆と話し合って、アルメル様の許可が降りたら村の倉庫を開放しちまおうって。食い物と酒とジュース、村人に振舞おうって!」

そう、すなわち。

別の若者が、喜々として言う。

「宴! やりましょう!」

それはもう、提案ではなく、脅迫みたいなテンションの高さだった。

誰もが笑顔で、興奮していて、水を差す事など出来ない。

「良いね! やろう! これで食糧不足になろうものなら、俺が私財でパラノメールから調達する! それくらい盛大に! やろう!」

それは本当に良いのかしらー、と不安もよぎりつつ、この流れはもう止められない。苦笑して、アルメルの背中を叩く。

ああ、理想と違った。

本当はアルメルと2人で、しっぽりとした晩餐会でお酒デビューするつもりだったのだけれど、それは野盗に奪われた。

その代わりに訪れた私のお酒デビューは、村全体を巻き込む、盛大な晩餐会だった。

酔っぱらった私とサーシャがアルメルをもみくちゃにしたのは、また別の話だ。