軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話・血筋には抗えないようで

「おおおお、これはこれは、随分と色男じゃのぉ」

それが、その男の第一声だった。

おじいちゃん、というから腰が曲がったよぼよぼしてる感じの人を想像していたのだが、家に戻って顔を突き合わせてみると、驚いた。50歳くらいの熊のような大男と、20歳くらいの高身長な女性。どちらもアスリート然とした体格とピンと伸びた背筋。ハッシュバルの家系は皆こうなのだろうか……。

「来てくださってありがとうございます、アルメル・オース・ファランです」

そう挨拶をして、まずはドズゥ・ハッシュバル氏に握手をしようとするが、すんでのところでその手を引く。ドズゥ氏は、どうやら右腕が無い。右目も眼帯をしているし、その眼帯では隠し切れない大きな傷跡が、右半分を占めていた。

「がっはっは! 賢い判断、良い男じゃのう。ワシはただの保護者じゃ。こっちが、派遣された職人。ほれ、名乗りぃ」

そうドズゥ氏に進められ、ミリアム氏が前に出る。

ケイシーやジャンと同じ遺伝子だと解る体格の良さ。気の強そうな鋭い目。男勝りに短く切られた髪。

その外見から、

「ミリアム。…… 母(・) の代わりとか全然無理だけど、やれって言われたから来た感じ。……期待しないで。雑魚だから」

溌剌と喋るもんだから立派な前口上かのように聞こえたけど、なんかネガティブな事言ってなかった?

しかしその顔は自信に満ちた鋭い面持ちのまま。

「…………」

思わず周りを見た。この顔、この出で立ち、この表情から、あんなナヨナヨした声が出てくるわけが無い。腹話術に違いなので、喋った本人を探す。

その反応に、ドズゥ氏が豪快に笑う。

「がっはっは! 喋ったのはそいつじゃぞ!」

「えっ!?」

嘘でしょ?

信じられず、もう一度ミリアム氏を見る。20歳くらいのお姉さんで、身長は170cmくらいはあって、まだスレンダーの域だが引き締まっている筋肉の筋が手首などからちらほら見えて、視線は鋭くて背筋は伸びていて、真っすぐに俺を見つめたまま、自信のある人がやりがちな腰に手を当てたポーズでもって、

「修行になるから行けって。だから来た。実力は無いから迷惑しかかけないと思うけど、よろしく」

え、態度と内容が乖離し過ぎてて理解出来ない。

念のためドズゥ氏に視線を送ると、ドズゥ氏は肩をすくめて悪戯な表情を浮かべる。

「歳の割には実力者じゃぞ。比較対象がアレじゃから、こうなってしまってるんじゃわ」

それを聞いて安心した。まぁ、確かに、 姉(・) の代わりに来たはいいが、姉があのレベルだと、中々自信を持てないのは仕方がないだろう。いやでもこうはならないだろ。

「ケイシーの紹介である以上、きっと問題無いですよ。ミリアムさんも、姉妹で比較しても仕方がない事です。ここで、ケイシーが驚く開発を一緒にしていきましょう」

慰めにはならないがそんな励ましと共に握手を差し出すと、しかし、ミリアムは眉をひそめて首を傾げ、ドズゥ氏は後ろで噴き出すのをこらえていた。だから、今度は俺が眉を顰め、首を傾げる。

「がっはっはっは! この反応はいつ見ても愉快じゃわい! ミリアム、自己紹介してやるといい」

促されたミリアムが、俺を置いてけぼりのまま、俺に向け、自己紹介をする。

どう見ても20歳くらいで、身長は170はありそうで、体格も良くて、筋肉も付いていて、背筋もピンと伸びた大人然とした彼女は言う。

「ケイシー・ハッシュバルの娘、ミリアム・ハッシュバルだ。更けて見えるのは仕方ないけど、これでも悲しい事にまだ11歳のガキだから。よろしく」

と。

「…………へ」

固まったのは俺だけでは無い。後ろに控えていたクリスティーナも、シンシアもサーシャも、一言も発しない。因みに、サーシャ、クリスティーナは両名とも髪と目を隠す変身モードである。

聞き間違いか? ケイシーの、娘? いやいや、ケイシーは30代くらいのはずだ。それで20歳くらいの娘が居るというのは、少し早すぎるというかなんというか、何かが間違っている気がしたのだが間違っているのは俺の思考の遅さだった。

「じゅ、じゅういっさい!?」

思わず大きな声が出た。そしてもう1回ミリアムを見る。

170センチはありそうな身長。筋肉も身に着いたスレンダーな身体。ピンと伸びた背筋、鋭い瞳。

どう見ても20歳だって!!

どこからどう見ても、11歳の身体では無い。裾や袖等からはみ出る素肌の筋肉の筋、首回りだって結構鍛えられているように思う。少なくとも筋肉量はサーシャ以上だ。それに11歳とは思えない特徴が他にも――と思っていた所で、俺の視界が閉ざされた。

真っ暗で何も見えない。え、なんだこれ、何が起きている!?

「少女の身体を見過ぎよ、アルメル。……ごめんなさいね、ミリアムちゃん、うちの旦那が失礼を」

どうやら俺は今、クリスティーナの能力によって目を閉ざされたらしい。

「え、なにを!」

クリスティーナによる肉体操作は魔眼と併用しないと使えないはずだ。という事は、今クリスティーナは目を開け、突然変異の目を晒しているという事だ。

案の定クリスティーナの目を見たらしいドズゥが感心したように言う。

「ほお、突然変異か。つうことは、あんたがサーシャって子じゃな?」

と。

「え」「え」

俺とクリスティーナの声が揃う。

「サーシャ、私」

後ろからサーシャの名乗りが聞こえる。

ドズゥは言う。

「へ。って事は、あんたも突然変異だが、そっちの嬢ちゃんも突然変異かい。あー、いや、確か双子とか言うとったかのう」

ぶつくさと考え事をしているのか、俺達に伝えているのか解らない調子で喋るドズゥに、念のため、クリスティーナが訂正する。

「私はクリスティーナ・ルーサー・ファラン。ルーサー公爵家からアルメルの元に嫁ぎに来た身で、サーシャと血の繋がりはありませんわ」

「ぅえ? なんじゃ複雑じゃのう。サーシャには双子の姉妹が居て、2人とも突然変異で、嫁も突然変異で……ルーサー公爵じゃと!? 公爵!? ファラン男爵家に!?」

ドズゥ氏も大層混乱しているようだが俺達も大混乱中だ。

「なんじゃなんじゃ、どうなっとる!? 突然変異が3人居て、全員ファラン家の関係者になっていて、1人は公爵家から来てて、公爵家から男爵家に嫁入り。しかも三男の嫁。どうなっとるんじゃこれ!?」

いやほんとだよ、どうなってるんだよそれ。

どこから情報が漏れてたのかとかもだしファラン家が突然変異を匿ってる事を知りつつルーサー公爵家とご縁があった事は知らないという情報の偏りにもビビるし、誰かこの状況を整えられる人居ないの!?

と、焦っていたら、

「おじいちゃん、うるさい」

「ぐぼ!」

ミリアムがドズゥをビンタした。

そしてドズゥが黙ると、ミリアムはこちらを向き、何故か一通りの事を把握して、説明する。

「いや、私の観察した結果だから、間違ってるとこ絶対あると思うんだけど、そりゃ、こんな無能の意見、あんま聞きたくないかもだけど、何事にも深く関わらせてもらえない雑魚ポジションだから見える客観的な事もあるっていうか。だから、半信半疑で聞いてもらっていいし、それくらいが適正なんだけど」「前置きが長くない?」「お母さんは、ファラン家が突然変異の双子を預かって、突然変異を隠せる開発をしたって、気付いてたんだ」

自信満々に溌剌とネガティブ発言してくるから何が来るかと思っていたら、とんでもない爆弾をぶち込まれた。ケイシーは、サーシャとリーシャが突然変異だと気付いていたらしい。まぁ、あのサングラス開発の環境を思い返せば、そうなっても不思議では無い。

「突然変異の人が居るから失礼の無いようにって言われてたから、突然変異の人が居るってうちらは知ってたわけ。嫌だよね、ごめんねこんな図体ばっかデカい女に正体知られてんの怖いよね、でも安心して、うち、雑魚だから。で話戻すけど」

「その途中途中のネガティブ発言はなんとかならないかなぁ!!」

11歳に対して本当に申し訳ないんだけどちょっとウザい!!

「うちみたいなネガティブ人間が保身のための前置き無しに喋れるわけないでしょ。常識的に考えてよ」

「すごく自信満々にネガティブ発言するね!?」

「うちなんかとの会話は程ほどにしたほうが良いからさ、手短に話戻すけど、おじいちゃん、事前に知らされてた情報と食い違いがあってビックリしたみたい。多分だけど。いや、うちの未熟な観察の結果だから勘違いがあるかもしれないけど、多分そんな感じ。うるさくしてごめんね」

「せっかく本文を手短に纏めてくれたのに、余分が長い」

「うちみたいなネガティブ人間が保身のための前置き無しに喋れるわけないでしょ。常識的に考えてよ」

「なんでそこだけ自信満々!?」

「で、まぁそっちは、いやこれ妄想の域を出ない仮説の話なんだけど、多分、その双子を匿った実績を求めて、るーさー? 公爵家が、あるめるさん? の所に来たって感じだったりするんじゃないかな。って、思ってみたりするんだけど、いや、妄想だから全然違ってたりしたら指摘してもらってかまわ」

「合ってる合ってる、大正解だからその卑屈やめよ? ね?」

ケイシーさんもかなり賢い人で、その血を継いでミリアムもかなり賢いみたいだ。その上でこの体格。ハッシュバル家、普通に貴族にしたほうが良いんじゃない? ってくらい血筋としてチートじゃね?

ってくらいぶっ壊れなのに、

「うちみたいなネガティブ人間が保身のための前置き無しに喋れるわけないでしょ。常識的に考えてよ」

「なんでそこだけ自信満々なの!!」

かなーり個性的な人、いや、子が来てしまったようだ。