軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話・七転び八起きするようで

一緒に過ごした期間はひと月も無い少女と両想いになり、政略結婚ではない婚約をしてしまった、翌日。

先日と同じ条件で実験するために皆の体調を整えてもらって、こっちはこっちで実験のための改造をして、元気いっぱいな昼上がり。

「さぁ皆、今日もいつも通りよろしくね! それじゃあさっそくシンシアは……なんかよろしく!」

「は、はぁ」

「サーシャも今日も頼りにしてるよ! よろしくね!」

「? ……了解?」

「2人とも、いつもより元気が無いんじゃないかな!? はりきっていこう!」

「いやぁ、アルメル様が元気過ぎるんすよ」と苦笑するシンシア。

「元気というか、ちょっとうざい」とあきれ顔のサーシャ。

「うざいなんて言われたって俺の心はノーダメージさ! なにせ俺は今、世界で一番幸せなんだから!」

「なんか良い事あったんすか?」

シンシアに聞かれ、ようやくか! とはりきり、隣でニコニコしていたクリスティーナを抱き寄せ、答えた。

「実は俺達……婚約したんだ」

と。

シンシアとサーシャはしばしの沈黙の後、

「いや、知ってるっすけど……」「じゃなきゃクリス、ここに居ない」

どうやら鈍い反応。

「違う違う、政略結婚としての結婚じゃなくて、両想いになりましたよって意思表示をして、婚約したんだ!」

改めて説明するが、2人はまたも鈍い反応。

そして俺達に背を向けて、ひそひそと話し出す。

「先日の冒険で吊り橋効果かもしれん、どうする」「どうしようもない。もう事後」「まぁどうせ結婚するんだし、どうせなら吊り橋効果だろうとこのままのほうが」「間違いない。この事は隠す」

いや全部聞こえてるからね?

「アルメル、急に抱き寄せるのは紳士的じゃないわ」

「ご、ごめんクリスティーナ!」

と、胸元のクリスティーナが言うので、慌てて彼女を解放し、顔を見ながら謝罪をすると、彼女は瞳や髪と同じくらい頬もピンクに染めながらこう言った。

「私にも心の準備が必要なのよ?」

かわいいいいいいいい!!

「クリスティーナ、照れ顔もそんなに可愛いなんて、反則だよ」

両手を握り心からの言葉を伝える。

「いつもは賢くて素敵だけど、ちょっと馬鹿っぽいアルメルも可愛くて素敵よ」

クリスティーナからの愛の言葉が返ってきて「馬鹿っぽい……?」なんか言われた気がしたが、クリスティーナが「気のせいよ」と微笑んで、この可愛い微笑みに裏があるはずが無いので気のせいなのだろう。

「こほん、まぁ幸せそうで良かったっす。アルメル様の正妻になる事が確定したって事は、正式に俺の護衛対象にもなるって事でいいんすかね」

「勿論! なんなら俺よりしっかり守って!」

「はっはっは! いやぁ、戦闘力ならアルメル様より姫様のほうが高いんで、そうする必要は無いっすよ!」

「そりゃそうだ! はっはっは!」

「アルメル、そのノリ、ちょっとうざい」

「ひえ!」

サーシャの淡々と事実だけを伝える調子が俺を正気に戻す。

でも、その後に珍しく、いつも無表情のサーシャが少しだけ口角を上げた。

「でも、おめでとう。よかったね、アルメル、クリス」

「うん、ありがとう!」

さて、幸せ自慢も終了! 仕事に戻ろう!

「時間を取ってしまってすまない。それじゃあ早速これからやる事なんだけど、見てもらった通り準備は事前に済ませてある」

「オンオフの切り替えが11歳のそれじゃないんすよ」「いつものアルメル。それがいい」

土魔法を使い、事前に用意していた、昨日と同じ土の壁。そのうちの2枚の真ん中に窪みを作っておいた。エレメントのコアを差し込むためだ。

「ここにエレメントのコアを差しこんで……。それじゃあみんな、配置について」

サーシャとクリスティーナが俺の隣に並ぶ。シンシアは有事の際の救出係として外で待機する。

俺は土の壁を動かして、昨日と同じ箱を作った。

全面を土の壁で覆う。そのうちの2枚の中心には、エレメントのコアが差し込まれている。

もしも俺の読みが正しければ、この空間内には下記のような作用が働く。

・エレメントのコアが近くの魔力を吸収する。

↓↓↓

・魔力は空気と同じで、より魔力が少ないところへ流れる特性を持つため、吸収範囲外の魔力も自然とエレメントのコアがあるほうへと流される。

↓↓↓

・魔法で作った土の壁は魔力を貫通させないため、どこかに穴が無い限り、外から魔力が補給される事は無い。

↓↓↓

・空間内の魔力は枯渇する。

↓↓↓

・内部で、空気中の魔力を用いる妖精魔法が使えなくなる。

勿論、エレメントのコアがどれだけの速さで魔力を吸収するか解らない。理論上は放置でも内部の魔力は失われるが、今は実験なので、昨日と同じように魔法を使う。これでどれだけ短くなったかが、エレメントのコアの魔力吸収速度と言えるためだ。

昨日は2時間だったから、仮に1時間30分ほどの作業と仮定し、少しばかりの雑談をしながら、魔力が使えなくなる時を待つ。

その作業が2時間を超え始めて、違和感が口数を減らす。

1時間ほどで切れてしまう魔法灯に、3回目の魔力補充が必要になった。3時間。昨日よりも長い。空間内は沈黙していた。

どうする、もうすぐで魔力が切れるかもしれない。元々は2時間以下で終わるはずの作業。何故終わらない?

「はぁ……はぁ……」

魔法を使っているわけでは無いはずのクリスティーナの呼吸が浅くなる。心無しか、少し顔色が悪い。

「クリス、平気?」

とサーシャが問う。

「……ええ、平気よ。なんだが運動した後みたいな疲労感が……少し息苦しくて」

その言葉に、俺は重大な失念を思い出す。

確かに、この時代のこの世界にはその概念は無い。その現象は呪いの類と呼ばれていた。

だが、俺は知っていて、事前に気付かなければならない基本中の基本。

「作業を中止。すぐに壁を開けるよ」

「?」「アルメル? 私は平気よ? 少し走ったあと程度の息切れだもの」

困惑するサーシャとクリスティーナ。でも俺は、問答無用で壁をひとつ外す。

「さぁクリスティーナ、外へ出て、深呼吸を」

「ふうー、はぁー、なんだか空気が冷たくて、美味しく感じるわね」

「ガゼボまで歩ける? 芝の上でも良ければ、すぐに腰を下ろして」

「大丈夫、歩けるわ」

「無理しないでね。サーシャ、クリスティーナに肩を貸してあげて。ガゼボで休んでもらおう。俺は少し、状況を調べる」

「了解」

そこまでのやり取りを終えたところで、クリスティーナ、サーシャと入れ替わるようにしてシンシアがこちらへ来る。

「中で何があったんすか?」

その質問に、俺は少し考える。

「何があったというより、なくなった、だね。密閉空間で、3人で何時間も過ごした結果、中の空気が無くなって、息苦しくなったんだ」

酸欠というやつだ。酸素という言葉すら誕生していない時代では正確な説明は出来ないので、それっぽいが少し違う説明になってしまった。

「それより、魔力切れが起きなかったんだ。昨日より減りやすい条件だったはずなのに。どこかに魔力が侵入出来る綻びがあるかもしれない。シンシア、一緒に探してくれるかな」

「了解」

土の壁の調査を開始する。シンシアは接続部や粗が無いかを探してくれた。俺はエレメントのコア付近を調査する。

そして、結果はすぐに解った。

魔法で固めて作ったはずの壁が、触れただけで容易く崩れ、エレメントのコアが落下しそうになった。

慌てて拾う仕草が間にあったので、コアには傷ひとつ付いていない。

コアを少し離れた場所へ置き、開いた穴を見つめる。

「どうしたんすか」

と、シンシアが俺の隣に並ぶ。

俺は考えながら、穴が開いた場所から少し離れた場所を、軽く叩く。びくともしない。土魔法で固めた土は、攻撃魔法にも転用できるほど硬くなるのだ。これくらいなんともないのが、普通だ。

しかし、エレメントのコアをはめ込んでいた場所付近をもう一度軽くつつくと、ずぼりと指が差し込めてしまった。この感触は間違いなく、ただの土だ。少し圧縮された程度の、土である。

「…………」

簡単に崩れてしまう範囲を特定する。穴を少しずつ拡大すると、直径1メートル程度の綺麗な円形の穴が出来上がる。

「土魔法が解除されたんすかね」

「そう、多分、魔力が吸収されたからだ。魔力によって操った物質内に込められた魔力も、エレメントの吸収対象内だったんだろう。魔法で作った土の壁が魔力を通さないのは、魔力が通れないほど、中に魔力が満ちているから。でも、エレメントのコアによって魔力を失った土は、魔力を通す。ここから魔力が内部に補充され続けていたんだ」

どうりで、魔力切れが永遠に起きないわけだ。

結構自信があったので、振出に戻る結果となり、残念。

「まぁ、仕方ない。対策を考え」

言いかけたところで、円形にくり抜かれた土の壁が強度の限界を迎える。

硬い物が裂ける音がしたと気付くのとほぼ同時に、土の部屋が俺に向かって倒れてきた。

あ、これ、まずいやつだ。

目前に迫る土の壁。10歳の身体には重いだろう。無事では済まない。逃げなきゃ。いや、間に合わない。いや、足がすくんで動けない。これは本当に、無事では済まない!

「よっと」

無事で済んだ。

当たり前のように俺を抱えて1歩のジャンプで衝撃の範囲外へ移動してみせたのはシンシアだ。

「…………」

少しの間呆然とする。

「流石にくり抜いた後だとまずかったみたいっすね。でもまぁあれくらいの落下速度なら3人が中に居た状態でもアルメル様と姫様は俺とサーシャで守れてたんで、別段気にする必要は……アルメル様?」

何の気無さそうなシンシアだが、正直、ちびりそうである。

本当に、シンシアを雇っていてよかった。