軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話・前世で培ったスキルなので

「な、なにをしているんですか、フレイヤさん……」

スレイン兄は引きつっている。なんでだよ、可愛かっただろ。まだ13歳の子供には解らないか、この可愛さは。 フレイヤは俺のほうを見て無表情のまま言った。

「スレイン様の集中を解きたければ、30歳手前の次期メイド長候補が、30歳手前とは思えないほど子供じみた行動をする、という非現実的な事を目の当たりにする、くらいの強烈さが無ければ出来ません。次からは水バケツを持参する事を推奨いたします」

「はい! そうします!」

推しの指示なので元気に挨拶をする。

「そうしないでいただけると助かるのだけれど……アルメル、どうしたんだい?」

フレイヤに渡されたハンカチで汗を拭うスレイン兄。

「はい、実はスレイン兄さまにどうしても欲しい物がありまして……」

もじもじしながら伝えると、スレイン兄さまは微笑む。

「欲しい物? 人形かい? それともお古の木剣かい? なんでも言ってごらん」

俺は意気揚々と告げる。

「――魔獣の死体が欲しいのです!!」

「――なんでもと言っても限度はあるよ?」

ダメだった。

「そこをなんとかなりませんか。お父様から狩り用の剣を頂いていらい、狩っているのでしょう? その死体を一部、融通して頂きたいのです」

「ならないよ。狩った魔物は城下町のギルドに寄付しているんだ。その素材は武器屋や防具屋に買い取られ、 兵(・) 士(・) や(・) 冒(・) 険(・) 者(・) を(・) 守(・) る(・) 装(・) 備(・) に(・) 変(・) わ(・) る(・) 。だから、ひとつだって無駄には出来ないんだよ」

やはり簡単にはいかない。ちょうど渡せない理由として告げられた事こそ、俺が魔物の死体が欲しい理由だ。

思い出すのは先日の夜の事。アルフレッド兄に色々聞いた時の事だ。

―――――(◇◆◇◆◇)―――――

「モンスターとは、いったいなんなのでしょう」

「どうしたんだ、アルメル。モンスターがこの光の研究に何か関係あるのか?」

「はい。その……武器等の装備にモンスターの素材を使うと、ただ鍛冶師が鍛錬しただけの時とは違う効果が付与されるじゃないですか。あれって、なんでなんですか?」

名のある武器ではマンティコラの甲殻を使用した盾は魔法を弾くし、イフリートの角を散りばめた剣は鞘から抜くと燃え続けているなどがある。便利の原石がそこにあるはずなのだ。素人目に考えて、だ。イフリートの角なんて、武器に加工すれば常に燃えて鞘に戻せば炎が消えるなら、超便利な調理器具が一瞬で作れるのに、誰か試した事は無いのだろうか。

そんな事を考えての質問だった。

アルフレッド兄は答える。

「この世界にはモンスターが居る。そしてモンスターには種類がある。魔人・魔物・魔獣だ。基本的に、何かが魔力の影響で突然変異した種族をモンスターと称している。」

そう言って三本の指を立てた。

「魔人は人が突然変異した種と言われている。エルフやドワーフがそうだという説がある。魔物は物が突然変異した種と言われている。トレントは木で、アルラウネは花だという説がある。魔獣は獣が突然変異した種と言われている。ワーウルフはオオカミで、ハーピーは鳥という説がある。こんな具合だ」

しかし、とアルフレッド兄は注釈する。その起源は所説あり、解明されていない物が殆どだ。あくまで仮定の話。今でも魔法学の一部が研究中らしいが、ともかくモンスターは魔力によってその身体に特殊な加工が施されている。との事。

「そのモンスターが魔力の影響を受けて突然変異した部位っていうのは、死んでもその効果を残す。そういう部品だからな。だから、武器に加工しても使えるんだ」

となると、やはり使える。

因みにアルフレッド兄に聞いたのは、これが現在アルフレッド兄が勉強している最中の事だからだ。

アルフレッド兄は12歳を目標に魔法学への進学を目指している。モンスターについては魔法学の一環なのだ。この辺りは所説有りな項目が多すぎるせいで独学で勉強するのは難しいと感じていた所なので、簡単に説明してくれる人が居るのは助かる。

「入学前にそんなところまで勉強するのですね」

「はは、魔法が好きだからな。それにやっぱり、在学中ずっとトップを走る事で、ファランの家名に恥じないようにしなきゃいけない」

10歳の台詞じゃないだろこれ……と、前の世界を知る俺は驚嘆してしまう。

「流石ですね、アルフレッド兄さま」

素直な言葉だった。

この世界では14歳で大人扱いされるようになる。現代日本とは全く違う。

寿命は50歳から60歳と短く、危険な獣のみならずモンスターまで居る始末。人間同士の戦争があるかと思えば魔人との戦争だってあるらしい。敵はあまりにも多い。現代日本と比べるとどうしても、生き急ぐ必要があるようだ。

―――――(◇◆◇◆◇)―――――

「いいかい、アルメル。ギルドで働く冒険者や騎士達は民草を守る大切な存在。彼らに、より満足な武器が回るように気を配るのも貴族の義務なんだ。モンスターの死体を何に使うか解らないけど、貴族の道楽で浪費して良い玩具じゃない、民草を守る素材なんだ。頼みを聞けなくて申し訳ないのだけれど、理解して欲しい」

ぐうの音も出ない正論である。その言葉の全てが正しく、13歳とは思えない公平さ、誠実さ、思いやり。どれをとっても素敵な子供だ。これくらい褒めないと、本当は精神年齢が30を超えている俺が論破されてしまった事実に向き合えない。

それに、これからムキになるという事実にも向き合えない。

「玩具ではありません!」

これは……光源作りは……俺がなんとしても成さなければならない、天命だ! 一生暗い夜を過ごすなんて絶対に耐えられない!

「シャーリー!」

「は、はい!」

合図を出すと、シャーリーは土くれのフィラメントを麻袋から取り出し、事前打ち合わせの通りに光魔法で光らせた。

「な!?」

スレイン兄が驚愕する。隣に居たフレイヤも目をまん丸にして驚いていた。かわいい。

「シャーリーにこれほどの光魔法を行使出来る魔力は無かったはずです。こ、これはもしや、魔力増幅器でございますか……? そんな高級品をどうして……」

と、フレイヤが言う。知らない単語だ。

「魔力増幅器?」

呟くと、説明してくれたのはシャーリーだ。

「え、えと、その、魔石とか、い、いい、一部の宝石が、使われた装備……です。魔力を増幅させるとか……そんな感じ、です」

「へぇ、そんなのもあるんだ。高そうだけど、いつか使いたいね。――それより、フレイヤ、これはその魔力増幅器という高級品じゃない。アルフレッド兄さまが作ってくださったものさ」

その言葉に、フレイヤは「なんと」と口元を手で覆う。

「ならそれはなんだい、アルメル」

前のめりになって問うスレイン兄。俺は答えた。

「 魔(・) 法(・) 灯(・) です、スレイン兄様。俺はこれで、夜を明るく照らせる装置を作りたいのです」

スレイン兄は少し考えた。すぐに頷かないのは解っていた。ここまでならば誰でもその気になれば出来た交渉。ここからが営業で培ってきた本領だろう。

「確かにその光を町に普及出来たら良いかもしれない。それでもダメだよ。臣民の命と明かりひとつ。天秤は明確に人の命なんだ。貴重なモンスターの素材は装備に回す」

やはり、スレイン兄は間違えない。だからこそ逆に、こちらもそれを理解していれば、持ち掛けたい話に持っていきやすい。

営業で大切なことは色々あるが、そのうちのひとつは相手への思いやり――という名の、相手が欲しいと思う物を察する能力。

そして、相手が欲しいと思う物と自分が売りたい物の関係性を証明するプレゼン能力だ。

「スレイン兄さまは、月灯りの無い夜の暗さを知っていますか?」

「? 夜の建物内や新月の頃にはそうなるよね」

「それは高所にある屋敷だから言える事です。山の麓にある町や村は、常に新月の暗さ。この不安が解りますか。きっと、屋敷に住む俺達では想像もつかない不安でしょう。夜目が利く魔獣や野盗に襲われても、気付く事さえ出来ずに殺されるのを待つのみです」

「それは……でも、闇夜が野盗や獣に都合良いと言うけれど、それは光だって同じだよ? ここに人が居ますと、獣や野盗に教えるようなものじゃないかな」

「それでも不安は消え、対処が出来ます。それに相手は闇夜を襲う野盗ですよ? 明るい内に場所など特定している。夜が明るい事は、野党にとってのアドバンテージにはならない」

「……一理あるかもしれない」

「そうでしょう!?」

止めとばかりに俺は続けた。

「スレイン兄さまは、炭鉱や 海炭(かいたん) でどれだけの人が亡くなっているか知っていますか。――数えきれないほどの人が命を落とします。その要因の多くは崩落や魔物……そして、火です」

海炭とは、露天掘りする炭鉱の事だ。少なくとも俺が把握しているこの世界のこの時代では海炭が主で、海炭とは露天掘りをする炭鉱の事である。現代日本とは異なるかもしれない。一部が浅い坑道を作る程度。炭鉱を専門の生業とする人も近年ようやく出て来たくらいで、安全意識の知識も低いだろう。

「…………火?」

「そうです。よく燃える石炭を探して、暗い場所を照らすために火を使うのです。間違えれば爆発も起きます」

本当はもっと有毒ガスとかの危険もあるのだが、その辺りはどうなんだろう。専門知識過ぎて、この世界で酸素濃度や硫化水素、メタンガスや二酸化炭素などの知識がどこまであるのか確認出来ていない。でも、多分この説明で十分。これ以上は蛇足だからだ。

「そうか……そういう事も当然あるか」

スレイン兄は理解した。

だから俺はここで言う。

「魔法灯ならその事故は起こりません。燃やさないからです」

「!?」

単純明快。シンプルイズベストとはこういう事だ。

「スレイン兄さま、信じてください。そして協力をお願いします。魔法灯は間違いなく、民草の命を守り、尚且つ生活を豊かにする発明。魔獣の素材をどうか、少しばかり融通して頂きたい」

スレイン兄は考え、何度か苦悶の表情を変え、唸り、そして最後にはひねり出した微笑みで答えた。

「解かった。少しだけだからね」

第二関門への足掛かり、ゲットだ。