軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話・敵は身内の中に居るようで

「エレメントのコアですが、現在は品切れとなっております」

翌日、早速冒険者ギルドに赴きカウンターで受付嬢に尋ねると、在庫確認すらせずにそう言われてしまった。先日俺達を接待した人とは違う、30歳くらいの女性だろうか。

「まじすか」

「まじです」

苦笑する受付嬢。

「エレメントってそんなに貴重なの?」

そんなイメージが無かったというか、シンシアとサーシャの話によると出没頻度は高いとの事なので、ついつい在庫のひとつやふたつ程度残っているかと思ったのだが、アテが外れてしまった。

受付嬢は答える。

「いえ、小まめに入荷しますよ。でも、出荷も早いです。エレメントのコアは、持っていると魔法が妨害されるので多くの冒険者が嫌いますが、魔獣避けの効果もあります。冒険者や騎士等の守り手が自警団のみの村なんかでは重宝されているのです」

との事。貴重品でこそ無いが、需要が多いため残らない、と。

「どうしようか」

と、後ろに居たシンシアと、茶髪のカツラとサングラスで目と髪を隠しているサーシャに問う。

「エレメント程度なら、この2人でそれなりに狩れますよ」

とシンシア。

「余裕」

とサーシャ。

懐かしい。そういえばワーウルフの毛皮の時はスレイン兄に頼んでいたっけ。あの役目を今度はこの2人にする事になるのか。

「何人かの冒険者にも依頼をするか」

と提案するが、シンシアが首を横に振る。

「イディムの森はそんなに強い魔獣は出ないんで、基本『このパーティー』で戦力過多っすね」

と、ここに居る面々を手のひらで示す。

俺、シンシア、サーシャ、そして――クリスティーナ。

金髪のカツラで髪を隠し、目を閉じて杖をついて立っているクリスティーナもこの場に居るのだ。

公爵家の令嬢であるクリスティーナが、である。

「いやいやいやいやいやいやいやいや、流石にクリスティーナの立場上、森に連れて行くなんて危険な真似は『絶対にさせたい、どこまでも一緒だよ』なんて言ってないよクリスティーナ、その強制腹話術やめて!」

俺が主張をし始めたらクリスティーナが俯いたのでどうしたのかなとは思ったのだが、俯いて回りの人から目を見えなくさせた上で目を開き、魔眼の力を解放したのだ。そして魔眼の力で俺の喉と舌の筋肉を勝手に操って好きな発言をさせる事が可能。

言わずもがなのチート性能なのである。でも人が喋っている最中にいきなり正反対の発言をさせるのはやめて欲しい。俺が情緒不安定な人だと思われてしまう。

クリスティーナはどこか病的にニヤニヤしながら言った。

「でもアルメル、私、今までずっと屋敷の中でだけ生活してたの。やっと外に出れるようになったでしょ? こうやって街も歩けるでしょ? ……もう行けるとこまで行きたいわ、っていう気持ちを抑えられないの! 絶対に役に立つわ! だから私を見捨てないで!」

「ちょっと! 言い方気をつけて!? その最後の言葉だと俺がなんか酷い男みたいになっちゃうから!」

「なんのために父上を騙して、結婚前からこっちに来れるようにしたと思ってるの!?」

「公爵閣下を騙してこっちに住み込み来たの!? いやそれはホントになんで!!?」

「ちょちょちょちょちょ!!」

受付嬢のお姉さんが割って入ってきた。

そしてカウンターから身を乗り出して俺達にだけ聞こえるようにこう言う。

「あまり外で身分を明かすのは……。冒険者ギルドには、情報を求めてくる傭兵や、稀に野盗なんかも居ます。ご自愛ください」

とのこと。なるほど、道理だ。

話が途切れさせられたおかげで、良いタイミングだ。ギルドに依頼出来ないとなれば、このカウンターを占有し続ける必要も無い。さっさと横に捌けるとしよう、と思ったところで、

「アルメル、エレメンタル以外の素材、どうする」

と、サーシャが聞いてきた。

「ああ、自分達でエレメンタルのコアを確保しに森に入るなら、当然他の魔獣の素材なんかも手に入るのか。……ギルドに売るんじゃだめなの?」

「そうなると」と、シンシアがサーシャに変わって言った。「アルメル様も冒険者登録しといたほうが良いかもしれないっすね。ついでにサーシャもすると良い。ギルドと取引出来るのは、依頼者か冒険者だけっすから」

と。

それは道理だ。相手の立場も解らない相手と商売をするのは危険だ。名刺も出せない人間とは取引などするわけが無い。営業職じゃなくても常識だ。

そこで、受付嬢が追加で説明してくれた。

「冒険者ではない人が集めた素材を、代理人の冒険者を立ててギルドに売る事は可能ですよ。なので、アルメル様とそちらの少女が冒険者登録しなくても、貴方が居ればギルドに素材を売る事は可能ですよ」

その言葉と共に向けられた視線は、シンシアに向けられていた。

「え」

と、俺がシンシアを見る。

「え」

と、サーシャがシンシアを見る。

「え」

と、クリスティーナがシンシアを見る。いや、クリスティーナの反応は確実に悪ノリである。俺とサーシャがそうしたから真似しただけ。

俺とサーシャが驚いた理由はひとつ。

まず前提として、受付嬢の発言内容から察するに、シンシアは冒険者として登録済みなのだ。だから、シンシアを経由すればギルドとの取引が可能。

だが、もうひとつ大前提として、シンシアは元傭兵だ。元傭兵が冒険者になれるの?? なんというか、そもそも戦争自体が忌むべきものという価値観で育った俺からすると、戦争代理人である傭兵、という言葉は、社会的信頼を持たないのではないかと思う。

世間からの人気がある故に依頼が殺到するという商売スタイルの冒険者ギルドというシステムとしては、悪者であり冒険者であるという状況はリスクが高いはずだ。どんなに優秀な経歴を持っていても、資格を持っていても、コンプラ違反しそうな人間は御免こうむりたいのが大企業というもの。

冒険者ギルドが、傭兵と契約を結んでいた事が既に驚きなのに、受付嬢のお姉さんはさらに予想外な事に、照れて顔を真っ赤にしながらこう、早口で、激烈な熱量で、語ってみせた。

「ディーゼル傭兵団は、この街の防衛に関心が高い人間からすると、領主ダグラス様の盟友であった事は確実と言えるほど、この地、パラノメール防衛に役立ってくれた傭兵団ですよ。ファラン家のお墨付きだったんです。かくいう私も、冒険者業に携わりたいと思ったのは20年近く前の話です。18年くらい前なのかな。敵国がけしかけてきたブラックドラゴン。これを討つために組まれたパラノメール騎士団&冒険者連合&傭兵団連合。この作戦において、ダグラス様のお父様であるケニー様が全軍指揮を執り、その直属として両翼を成したのが、当時騎士団長だったダグラス様率いる騎士団と、ディーゼル傭兵団だったのです。あの戦い、見事でした。あれほど強大な敵を前にして、あれほどの奮闘。まだ幼かった私ですが、あの時の高揚が忘れられません。私達にとってディーゼル傭兵団とはつまり」

ああ、これ終わらんやつだ。

酒の場で過去の偉業を語りだした上司レベルで、多分止まらない流れだ。どうしよう、と困っていたところに、動いたのはシンシアだった。

「ああ、俺も参加した戦いだ。傭兵団が壊滅して以降こっちには顔を出してなかったけど、それでも俺の顔を覚えてくれてたってことは、もしかしてその戦いの時になんかあったりすんのかね」

そう言って身を乗り出して受付嬢の手を握り、恋人みたいな距離感でキメ顔をしながら、さらに俺達に、ほら、行け、とばかりにハンドサインで離脱を勧めてきた。

いやぁ、ほんと気が利くなぁ、シンシアは。

勧められるがままに離脱する俺とサーシャとクリスティーナ。熱弁から解放されて助かったはいいが……

しばし、遠巻きに見届ける。多分、俺は今、生まれつきジト目のサーシャと同じレベルのジト目でシンシアの顛末を見守っている。

そこから先は時間はそんなにかからなかった。

シンシアが受付嬢から何かを受け取って、こちらへ戻ってきて、

「話はついたんで、さっそく行きましょうか。なんなら、掲示板の依頼見て、ついでにこなせる依頼があったら一緒に片づけても良いかもしれないっす」

いけしゃあしゃあと、何事も無かったかのようにシンシアは言っているが、残念。シンシアは演技が上手くても、相手もそうとは限らない。

受付嬢の姉ちゃんが、恍惚な面持ちで、頬を赤らめて、シンシアの背中を見送っているのを、俺は見てしまった。

俺の右腕であるシンシア。この男。この短時間で、ギルドの受付嬢をナンパしやがった可能性がある。

もしかしたら、リア充という名の敵かもしれない。