軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

余話6・姉弟喧嘩は茶飯事なようで①

サングラスを完成させる、少し前の事だった。

下で職人達が鉄を叩く音を聞きながら、目の前に広がる森を、監視塔の屋上から眺めていた。最初こそ、現代日本の高層ビルに慣れてしまった俺からすると、こんな低い塔で森なんか見張れるのかよ、と思ったが、驚いた事に、木々より少し高いというだけでそれなりに見張れる。

ただ森を眺めるだけの数時間。退屈かとも思ったが、案外行けていた。森、楽しい。

しかし、

「なんか少し……揺れてる……?」

木々が揺れている箇所があるように見える。少し先の事だ。その木々の揺れが少しずつこちらに近付いてきているような気がした。リーシャ、サーシャ、アルフレッド兄に知らせるべきか、と考えているところに、草原のほうから別の影が接近してくるのが見えた。馬に乗った騎士が3人。24時間体勢で稼働するこの工場を守る、騎士の交代要員だ。因みに昼のこの時間は、休日を除きリーシャ、サーシャ、アルフレッド兄となっている。基本的にリーシャとサーシャだけでなんとかなって、たまにアルフレッド兄が土魔法で狙撃するくらいでやりくりしていた。

「…………ジャン?」

真ん中に一際身体が大きい騎士が居たので、すぐにジャンだと解った。いつもは下っ端~中堅の騎士しか来ないのだが、今回は何故か、騎士団長自らが来てくれたらしい。ところで全身鎧の重装備したジャンを乗せて、よく走れるよね、馬。

ジャン達は監視塔に到着するや否や、まずは外で青空教室をしていたアルフレッド兄達に挨拶をした。そして、騎士の1人が監視塔の上に居るのが俺だと気付くと、それをジャンに教える。ジャンは俺のほうを見て顔を確認すると、ギョッとして、慌てた様子で騎士に何か指示した。俺の後ろに何かあるのかな? と空を仰ぎ見るが、何も無い。下に目を向けると、騎士の1人がダッシュで監視塔の中に入って行ったのが見えた。

残った騎士とジャンはこちらへ会釈すると、乗って来た馬を馬小屋のほうへ移動させる。ジャンが2頭の手綱を引いていた。そうだよね、1人ダッシュで建物に入ってきたもんね。

「アルメル様!」

「ひえ!!」

いきなり後ろから声を掛けられ、一瞬落ちそうになる。まぁ流石にそんな危ない所には立っていないので落ちはしないが、ヒヤっとした。

振り返ると、さっきダッシュで監視塔に入って来た騎士が居た。

騎士は言う。

「監視塔からの見張り、ご苦労様です。代わりますので、お休みください」

との事。

ああ、なるほど。さっきの下でのやり取りは、つまりこういうわけだ。

『あの、ジャン部長。監視塔の監視員の役目、依頼主が代行してくれてるみたいなんですけど』

『なに? そんな事をする依頼主がいったいどこに――ガチで居るじゃねぇか! 馬鹿野郎、客に仕事手伝わす会社がどこにあんだ! おいお前、急いで代わって来い!」

『でもジャン部長、馬が……』

『俺が連れてく! あー、謝罪が必要そうなら俺からしとくから、お前はとりあえず、労うだけでいいからな』

『はい、わかりました』

『ダッシュ!!』

『はいぃ!!』

的な。はは、懐かしい。

「ありがとう、じゃああとよろしくね」

謎の懐かしさに嬉しくなって、ニコやかに言って後を任せ、下へ向かう。やりたい事は特に無いが、そうしなきゃジャンともう1人の騎士も不必要に俺に挨拶するために上がってくると思ったからだ。無駄な体力を使わせないため、少し急ぐ。

作業するケイシー達を通りすぎ、出入口から外に出ると、

「アルメル様」

思った通り、ジャンが駆け足でこちらへ向かっていた。その後ろで、もう1人の騎士が右往左往しながら3頭の馬を同時に繋ごうとしている。

「騎士の仕事である見張りを、まさかアルメル様が変わりにしてくださっていたとは、ありがたいです。でも」

「ああ、いい、いいからそういうの。自分も仕事してないと落ち着かないんだよね。それより、ほら、騎士さん、3頭同時は流石に大変そうだよ」

苦笑しながらそう言うと、ジャンはひとつ謝罪を残して、馬のほうへと駆け足で引き返していった。

「アルメル様? 今の声は」

中からウェインもひょこっと顔を出す。

因みに、監視塔での任務でいつもウェインが付いて来るのは、ウェインがアルフレッド兄のお付きのメイドだからだ。それだけの理由だったりする。

「ああ、見張りの交代要員が来てくれたんだ。職人達の交代要員も揃ったら、帰ろう」

俺がそういうと、ウェインは馬小屋のほうへ目をやる。

そして馬小屋で作業をする後ろ姿を見て呟く。

「…………副団長?」

と。

「……副団長?」

謎の言葉を、俺は繰り返して尋ねる。ジャンは騎士団長だ。

「あ、いえ、そうでございました。お忘れください」

取り繕うウェインに、少しの違和感を覚える。

ところで、このメイド、ウェインだが、ひとつ謎がある。

例えば少し前まで俺のお付きメイドだったシャーリーだが、メイド歴は退職時で4~5年以下だろうが、光魔法が使える・教会の敬虔な信徒であるという事情で出世ブーストが掛かり、ファラン家三男のお付きのメイドと相成った。

例えば長男であるスレイン兄お付きのメイドであるフレイヤだが、30手前かそろそろ30になる年齢にしてファラン家のメイド歴が16年。13か14の頃にファラン家のメイドになっているというのだ。で、肝心のスレイン兄お付きのメイドになった理由は、フレイヤが お(・) 母(・) 様(・) が(・) 自(・) 分(・) の(・) 屋(・) 敷(・) か(・) ら(・) 連(・) れ(・) て(・) 来(・) た(・) メ(・) イ(・) ド(・) だからだ。

ヘンリー・ルイス・オース。

オース男爵家の長女にして、ファラン子爵家に嫁いだお母様は、お気に入りの使用人を数人 誘(・) 拐(・) してきた、みたいな話を、お父様あたりから聞いた覚えがある。今のファラン家の料理長もそうだとか。そう、つまりフレイヤはお母様お気に入りのメイドなのだ。長男のお付きにするのは、まぁ自然だろう。

で、そこに来て次男のお付きのメイドがウェインだ。

この世界・この時代の貴族の常識までは俺は知らないが、少なくとも前世の世界観における中世ヨーロッパ前後の時代において、貴族で最も重要なのは長男だった。何故なら家督を継ぐ事が前提であるためだ。そこからは大差無いが、弟達は、長男がダメだった時の予備品という要素を孕んでいた点は否定出来ない。

こう文章にすると酷い話だが、実際現状に当てはめると面白い。

俺とアルフレッド兄は、なんとスレイン兄の予備品なのである。

いやまぁアルフレッド兄なら行けそうだなとは思うけれど、少なくとも俺は思う。予備品が勤まるわけが無いのだだと。何故? 相手がスレイン兄だからだ。あの人、15歳であれとか現代基準でも人間性が出来過ぎてて恐ろしいんだよな。

いや、もしかしたら、技術が未発達な世界故に、その苦労故に、精神年齢の上昇は、現代より中世や古代のほうが早かったのかもしれない。

で、そのスレイン兄の予備品である、アルフレッド兄と俺のメイド。

スレイン兄のメイドは『入社16年目、前職の数年のメイド歴を持ち、ヘンリー様にヘッドハンティングされて来ました』であり、

俺のメイドは、いわば『入社4~5年目、光魔法という特殊技能持ちで、前職はありませんが、ボランティア活動に取り組んできました!』である。

対して、ウェインだが『入社3~4年目、特殊技能不明、前職不明』なのだ。

不明なのだ。不明なのである。

そうこう考えているうちに、

「あ」

ジャンが作業を終えてこちらを振り返り、すぐにウェインの存在に気付き、動きを止める。

手下のはずの騎士が気付かず先行して歩いていて、それが少し面白い光景だった。

「あ……えっと……」

ウェインがジャンを見て動揺し、俺と目を合わせて何かを確認し、すぐにジャンのほうへ向き直り、苦笑を浮かべて手招きをした。

対するジャンは、もはや俺の事など眼中に無さそうだった。いや、勿論礼節としては俺を視界の中心にしながらこちらへ歩み寄っているのだが、どうしてもその視線が何度もウェインのほうへ泳ぐ。

「………………」

え、なにここ、離婚調停の裁判所?

気まずい気まずい。気まずいよその空気、ちょっとやめて? バンドメンバー同士で交際してる人が居たけど破局して気まずくなってバンドにも影響が出て解散、みたいなの、俺の学生時代、友達がやってたから。マジでやめてその気まずさ!

ジャン達がこちらへ歩みよる。

前世では踏み込めなかった。だが、この世界・この時代にハラスメントという価値観は無い。だからこそ、今後の俺の采配のため、遠慮なく聞かせてもらう事にした。

空気読めない。仕方ない。だって俺、6歳だもん!!

「ジャンとウェイン、話せる範囲で良いから、事情を教えてもらえるかな。確実に知り合いで、間違いなく気まずそうだよね。個別にしたいなら個別面談に切り替えて今から始めるけど……ごめん、君は席を外してもらえるかな」

気付かなかったので、途中で慌てて、もう1人の騎士には建物の中に入ってもらう。

そして改めて、俺と、ウェンリーとジャンだけの空間になったのだが、

「ごめんね、2人とも解ってるみたいだからこの場で言うけど、2人が気まずそうだったからさ。鉢合わせが嫌ならそうならないようにするし、そのためにも、話せる範囲で事情を教えて欲しいんだ。相手が居たら話せないという事なら個別面談で聞くけど、この3者面談で説明出来る事はある?」

そう聞くと、ウェインとジャンはお互いに顔を合わせて、お互いに会釈して、お互いに首を傾げて、少し苦笑して、まずはウェインが言った。

「後ろめたく思わなくていいからね?」

と。

その言葉にジャンは数秒だけ俯き、自分の頬を両手で叩いた。

そして言う。

「すみません、アルメル様。ウェインさんは、俺の元上司、元騎士団長の妻だったんです」

と。

それでまずは合点が行った点、ひとつ。ウェインはなんの実績も無しの3~4年目のメイドでは無く、ファラン家に努める騎士団長の奥様であり、騎士団長亡き後、メイドとしてファラン家に入ったという経緯故に、アルフレッド兄のお付きのメイドになったのかもしれない。

ファラン家に準じた元騎士団長の妻を、ないがしろになどして良いはずが無いのだ。

ジャンは続ける。

「俺は、あの、その……前の騎士団長が殉職したから騎士団長になった身です。シンバ……えっと、ウェインさんの元旦那さんである元騎士団長? が殉職したから出世してしまった俺としては、その…………ウェインさんには、合わせる顔が無いし……ビンタの数発は貰いたいくらいの気分では……あります」

と。