軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

余話4・兄弟喧嘩は盛大なようで②

「リーシャは奇襲の際、もう少し足音を消すように心掛けて。音で丸わかりだ。アルフレッドは教科書通り過ぎるね。そんな戦術じゃ雑魚しか倒せないよ」

「なっ!」「……屈辱……っ!」

スレイン兄の言葉は、明確な挑発だった。戦闘の途中にアドバイスなど言語道断な上に、それでは自分は倒せないよと暗に伝える。煽り行動。現代のバスケットボールならファールを取られていた事だろう。

だからこそ効果的。

背後を取ったと判断したリーシャが、おそらく足音を立てないためだろう、一歩で飛び、切り掛かった。正直、普通の人間ではあまり考えられない跳躍だった。突然変異の身体能力と、少女の軽さがあって初めて成立する奇襲。これは断じて教科書通りでは無いし、音すら無いはずなのに、

「ほら」

スレイン兄は、音が無いはずのその奇襲に対し、振り向きざまに、確実に、そこにリーシャが居ると解って、ロングソードを振った。

急ぎ防御に回ったリーシャの反射神経と、土魔法でスレイン兄の足元を揺らして体勢を崩させたアルフレッド兄の機転で、リーシャは辛うじて攻撃の直撃を免れる。

客席がざわついている。

「なんで」「後ろに目がある?」「意味解らないくらいすげぇ」「スレイン様かっけえっす……」

俺も同じ気持ちだ。何故今の奇襲に気付けた?

疑問に答えたのは、ジャンだ。客席や対戦相手に聞こえないよう、俺にだけ耳打ちした。

「多分、皆の、特にアルフレッド様の目線ですよ。全員か、多くの人の目線が同時に動いたから、その視線の先にリーシャが居ると判断したんです」

「まじすか……」

「まじです」

「スレイン兄様って、この世界的にどうなんですか、強さ的に」

「今の年齢、体格を考慮しないなら、めちゃくちゃ強いほうですね。普通に冒険者やってたらA級パーティー入りできます。今の年齢と体格を考慮すると、ちょっと信じられないレベルの天才です。今の成長速度が続けば、20歳頃には王国最強でしょうね」

「……チート乙……」

「ちーとーつ?」

「いえ、外国の感嘆符みたいなものです。オーマイゴッドみたいな」

「? なるほど?」

勝負は続く。

アルフレッド兄とリーシャの奇襲は2回連続で失敗。スレイン兄は未だ、一度も攻勢に回っていない。

「さて、次はどうくる」

と、スレイン兄が問う。いや、問いでは無い。これも挑発だ。今の2回で「お前達の奇襲は通用せんぞ」と証明してみせた後だからこその挑発。

「どうも何も」

アルフレッド兄が、挑発に乗った。

「――そんなに上から目線がお好きなら、高い所へどうぞ!」

ステッキを下から上へ振るう。すると、スレイン兄の足元がまるまる盛り上がり、柱となってスレイン兄を上へ持ち上げる。2メートルほど持ち上げた所で、魔法を解除し、その土の柱を崩壊させる。

当然、2メートルの高さまで持ち上げられてから足場を失ったスレイン兄に出来る事は、落ちる事だけだ。

落下しようとしているスレイン兄に突撃するリーシャ。

落ちる事しか出来ないスレイン兄に回避は不可能だ。不可能なはずだ。

常人の考えでは。

スレイン兄は身を翻し、自分より下にある土くれ達を、ロングソードの側面で、ゴルフボールのように、リーシャ目掛けて弾き飛ばす。

一瞬だけ防御に回るリーシャ。その隙を見逃さない。スレイン兄は着地の直前に隣で落下していた石を掴み、軽くリーシャのほうへと投げた。

軽く、というのは外から見たから判断出来た事。投げつけられたリーシャからすれば恐ろしい投石攻撃だ。全霊で防御姿勢に移り変わる。

「解っているのか?」

スレイン兄が何かを呟く。

「リーシャ! 離れろ!」

アルフレッド兄が叫ぶ。

そして、スレイン兄が、何かを呟く。

「――奇襲を仕掛けた人間が、我が身可愛さで防御に徹してなんになる?」

そこから、刹那の間、何が起きたのかを理解する事は、俺には出来なかった。

爆発のような何かが起きた。それだけしか情報が無い。

ただ、各々が吹き飛び、距離を取った状態で三角形に配置されている事。先ほどまでリーシャとスレイン兄が居た場所には、小さなクレーターが出来ていた。そして何より、

「はぁっ……はぁっ……、ぐっ」

アルフレッド兄が疲弊していた。

「ねぇ、ねぇ、何があったの今!」

近くに備えてくれているジャンに聞くと、ジャンは答えた。

「アルフレッド様に身体を浮かせられたスレイン様に対し、リーシャが特攻をかけました。しかし、土くれを弾く等の投擲攻撃で、スレイン様はリーシャの奇襲を抑止した。さらに反撃がてら、スレイン様がリーシャを制圧しようと攻勢に転じかけたため、おそらくアルフレッド様が、土魔法であの場を弾くようにして、全員の距離を取った。という流れです」

皆すごすぎいいいい!!

スレイン兄もアルフレッド兄もリーシャもすごいし今の一瞬を判別できたジャンもすごい!

「さて、どうしようかな……」

距離を取らされたスレイン兄が、つま先で地面を叩きながら呟く。

アルフレッド兄とリーシャは、無言のまま全力で集中し、迎え撃つ準備をしている。

その光景を見て、

「だから」

スレイン兄が、

「 その選択肢(防御に徹する) など、君達には無いと教えたが?」

敵意を示した。

おかしい。そう思った。

何が?

そう、離れていたはずの3人の距離。リーシャと、アルフレッド兄と、スレイン兄の距離。その中で、アルフレッド兄とスレイン兄の距離だけ、いつの間にか無くなっていた事が、どう考えても、おかしかった。

それは、きっと何らかの技術なのだろう。技能なのだろう。傍から見ている俺ですら接近に気付けなかったのだから、当事者たるアルフレッド兄が察知出来るわけが無い。

その接近をもって、きっとアルフレッド兄は敗れる。そう確信するに足る、一歩。

だが、

「おれだって!!」

アルフレッド兄が、叫んだ。

それは、大学生の頃にバンドをしていた友達に呼ばれた素人バンドのライブハウスに似ていた。

ただただドラムの音が大きくて、ほら、この重低音が心臓の音だぜ、と言わんばかりに、鼓動を支配しようとする大音量のドラム。その衝撃に似た何かが、アルフレッド兄から放たれた。

その正体不明の衝撃に弾き返されたスレイン兄。

「ふーっ……はぁ、ふーっ……」

呼吸を整えるアルフレッド兄。

駆けつけ、その2人の間に入り、スレイン兄の次の行動に警戒するリーシャ。

「……今のは……いや、説明は不要だ。すごい、すごいよ、アルフレッド。僕は今、高揚している」

心からの感動どころか、現代日本なら危険人物認定されそうな熱量で、スレイン兄は言った。

「ああ、こんなに成長して……僕の可愛い弟よ……大好きだ……成長してくれるほどに愛おしい……。無論、無理強いをする事は断じて無い。だが、ああ、アルフレッド。アルメル。こんなにも誇らしい弟達に恵まれ、僕は何を対価に支払えばいい? 2人のために、何を成せば、長男として胸を張り、天国へ行ける?」

待て待て待て、と、待てとしか言えない状況だった。

アルフレッド兄にも困惑の色が見える。

「まずいかもしれません。普通に 入(・) る(・) つ(・) も(・) り(・) で(・) す(・) よ、これ」

と、ジャンが言った。

「止めますか!?」

と、シンシアがお父様に問う。

だが、

「続けろ」

静かに、お父様は断じた。

「ああ、アルフレッド……アルフレッド! 僕の最愛の弟達よ!!」

狂乱するように歓喜し、絶唱し、賛美するスレイン兄は、しかし。

「――本気で行くぞ」

言葉を発すると共に、全てが変わった。

本当に全てだ。

いや、周りの景色とか、群衆とかは変わっていない。だが、『集中』を始めたスレイン兄の、その、凄まじいという言葉では生ぬるい集中力で、そこにあるのは、そのステージにあるのは別次元の話であると、観客に告げていた。

努力し、努力し、努力し、努力して、届いた者だけが身を置ける領域。

すなわち、天才の領域。

スレイン兄の目は――死んだ魚のような目だった。

「え! なんでそれ!?」

自分で突っ込んでしまう。

あまりにも恐ろしい、世界が変わったかと錯覚するほどの眼力が『死んだ魚の目』なんていうのは、流石に自分でも納得できない。

だけど、その意味をすぐに理解する。

死んだ魚の目=何も考えていない目。である事に。

だから、すなわち、スレイン兄は今――戦闘の為。それ以外を一切考えていない目なのだ。

現代日本に、この状況を示す言葉がひとつある。 ゾ(・) ー(・) ン(・) だ。

ジャンは言う。

「まずいですね。あの状態のスレイン様は、体格差を無視して俺と普通にやり合います。多分、常人では勝ち目がないですよ」

熊のように恵まれた身体のジャンが言うのだ。そうなのだろう。ジャンとスレイン兄では体格が違い過ぎる。

では、その体格が違い過ぎるジャンと対等に渡り合えるスレイン兄を前にして、アルフレッド兄に、何が出来る?