軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話・ロードマップが出来たので2

食堂に戻って来た俺達は、また先ほどの配置に着く。紅茶は既に片付けられていたが、メイドではなくシェフがコップに水を入れて持ってきてくれた。そうか、当たり前だが、メイドは今お風呂中なのだ。

「おやつかなにか作りますか?」

「簡単なものをこの3人にもらえるか?」

「はいよ」

そう言って奥の部屋へと戻るシェフ。オヤツか。普段はあまり縁が無い。ファラン家はお父様、スレイン兄、アルフレッド兄ともに三度の飯より……いや、この世界は二度の飯より自分の研鑽という人なので、オヤツを嗜む時間的余裕は少ない。かくいう俺も、この世界水準のおやつを食べるくらいならこの世界の勉強をしていたほうが楽しかった。だから、おやつを食べるのは久しぶりだ。

お父様は話し始めた。

「まずはアルメルに説明が必要だろう。……アルメル、あの双子をどう思った」

「すごく可愛かったです!」

「好意的なのは良いんだがそれはそれで困るな……」

本音を答えるとお父様は苦笑する。

「いいか、アルメル」

代わりに説明を続けたのはアルフレッド兄だった。

「結論から言うと、突然変異の個体は差別を受けている」

「え! あんな可愛いのに!?」

「健気に可愛いと思えるお前が偉すぎるんだ」

そう言って俺の頭をぐいぐいと回すアルフレッド兄は、優しく微笑んでから続けた。

「魔人、魔獣、魔物については以前説明しただろう? 魔力の影響を受けて、魔人は人が突然変異をしたもの、魔獣は獣が突然変異したもの、魔物は物が突然変異したもの。魔人はエルフやドワーフなんかの印象があるから、多くの人は突然変異の人間を 魔(・) 獣(・) に位置付けるんだ」

「はぁあ??」

「聞いた事が無い声が出て来たな」

当然だ。その理屈で言えば突然変異の人間はせめて魔人だろう。魔獣とするなんて、悪意しか無い。人間扱いはしないという意思表示にしかならない。

しかし、そうか、だから少し前に、アルフレッド兄はこう言ったのか。お兄ちゃんと約束してくれ、彼女達は人間だ、と。

「そうでなくても、突然変異の人間は 魔(・) 力(・) の(・) 影(・) 響(・) を(・) 受(・) け(・) て(・) い(・) る(・) 。魔力の影響を受けて突然変異した存在は、ほとんどの場合が能力が付与されている。それは人間も同じで、特殊な力を持っている事が多い。身体能力が高い、とかな」

なるほど、と納得した。訓練場での身体能力の高さには種があったわけだ。

俺は少し不満があったので口を挟む。

「魔獣と同じだからって魔獣扱いは最低ですね。許せません」

鼻を鳴らして遺憾の意を示す。

だが、話はそれで終わらない。

「それでも、多くの人は突然変異の人間を魔獣扱いする。石を投げ、暴言を吐き、暴力を振るい、虐げる。化け物だ、魔獣の仲間だ、人類の敵だ、と。だから、突然変異を産んでしまった親や基本的に、その子供を隠す」

「 基(・) 本(・) 的(・) に(・) 、ですか?」

「そう、基本的に、だ。例外がある」

アルフレッド兄はそこで一息ついて、スレイン兄を見て、お父様を見た。

お父様が言う。

「年齢的にはまだ早い話な気はするが、アルメルならば大丈夫だろう。アルフレッド。お前がこれから学んでいく分野だ。お前が語りなさい」

「はい、お父様」

なるほど、と、気を引き締める。差別やイジメよりも重い話がこれから始まるようだ。

アルフレッド兄は言った。

「突然変異の子供は、多くが、売られるか、誘拐されるんだ。子供を生涯隠し切れなかった場合、つまり基本的な道を進めなかった場合、そうなる。売られるか、誘拐される」

そこで話は終わっても良かったのだろう。アルフレッド兄はそこで口を閉ざす。

だが、俺は気になって仕方が無かった。だから聞いた。

「売る人が居るということは、買う人が居るんですね。用途は?」

気付いてしまったか、というような表情で嘆息し、アルフレッド兄は答えた。

「様々だ。一通り全ての嫌な想像は当たっていると思っていい」

考える。考えるまでも無い事を考える。

人権は無いので、何をしても社会的には許される以上、本当に全ての嫌な想像は当てはまるだろう。

この世界の、という前置きは要らない。倫理観とは、成熟した社会の上で、成熟した社会で様々な意見に触れ、異なる価値観の相手とぶつかり合って、少しずつ作っていくものだ。現代日本は世界中のことを知れて、歴史を知れて、SNSで色んな人の意見を知れて、倫理観を育てられる。

しかし、世界の事も知らず、歴史も知らず、多くの人と話す機会が少ないこの時代において、倫理観などたかが知れている。その未発達な倫理観が、時に驚くほど残酷な事を平然と行う事は、前世の歴史が証明している。

「ああ、だから『そういう意図は無いと誓って頂けますか』になるんですね。性癖は様々ですから。俺の『綺麗、可愛い』という反応に複雑な反応を示していたのもそういう事ですか」

言うと、アルフレッド兄が驚く。いや、スレイン兄もお父様もだ。

そして

「本当にどうなってるんだこの子は」

と、アルフレッド兄は苦笑する。

「そうだ。突然変異の人間にひどい事はしないと、約束してくれるか?」

「勿論です。というか――」

「給仕。する」「掃除。しない」

風呂上りロリのリーシャとサーシャが出入り口の扉を豪快に開けて入って来た。やっぱり掃除は嫌いなのね。

「申し訳ございません、旦那様。こら、2人とも、行儀よくしましょ。じゃないとメイド長を騙せませんよ、こら」

そう言って双子に続いて入ってきたのは――天使だった。

暗めの茶髪が水に濡れて艶やかさを増している。温まって上気した頬はチークのようで、普段無表情なその顔が照れているようにも見えた。

え、ちょっと待って、フレイヤは単体でもどう足掻いても可愛いんだけど、無表情系クール美人のフレイヤがジト目系双子ロリを追いかけている姿――母性だ。その絵面にはあまりにも尊い母性があった。現れた瞬間は天使かと思ったけど、全体像で見るとまるで違う。そうか、フレイヤこそが聖女だったんだ。

「なんか……フレイヤが居るうちはアルメルが悪い事はしなそうだな」

アルフレッド兄が俺のほうを見ながら苦笑していた。

「アルメルはフレイヤが大好きだからね」

スレイン兄が微笑む。こら、俺がフレイヤに寄せる好きは「人として」とかじゃなくガチ恋だ。本人の前で言うのはNGだ。

まぁ誰も6歳が20後半にガチ恋するなんて思わないだろうか良いんだけど。倫理観が乏しいこの社会でもそれが倫理的にアウトである事は明確。

ただし前世の年齢からの加算を考えると俺は30中旬なので、6~7歳くらい年下の子にベタ惚れしている中年男性という構図になりいや待ってこれはこれでアウトなのかもしれない。もしかして、普通にフレイヤに下心抱くのも微妙なのでは?

両者合意の元で歩み寄りあうとか、年下側からアプローチするなら許されそうだが、年上から攻める場合はちょっと意見が別れそうな感じだ。

「どうした、フレイヤ。言う事を聞かない――というわけでは無さそうだが」

燭台に蝋燭を立てて行くリーシャとサーシャ。俺達を無視してテーブルを拭き、椅子を拭き、その所作は素早く、まさに従順なメイドだ。

フレイヤは答えた。

「なんと言いますか、2人とも、掃除を極端に嫌がるのです。掃除というよりも片付けですね。なので試しに準備と言い直してみたら、そう言い直せる物なら出来るみたいです」

よく解らない拘りでもあるのか、あるいは10歳の子供とは得てしてそういうものかもしれない。宿題ひとつやらせるにしたって、言い方が違うだけで全く変わるよと先輩社員が言っていた記憶を思い出す。

「お待たせしました、コンフィーオンワッフルです」

得意げな面持ちでおやつ……いや、これはおやつの範疇なのだろうか。おそらく煮たのであろう甘そうなリンゴ、ベリー等が乗せられたワッフルだった。食前にしては気合が入りすぎなデザートだ。

「おい、もうすぐ夕餉のはずだが……?」

お父様が諫めると、シェフは苦笑して頭をかいた。

「すみません、俺がリンゴのコンフィーだけにしようとしたら、他の連中がベリーも入れろだのワッフルに乗せたら豪華だの、気合入れちまったもんで。オヤツ作るなんて久しぶりだったから、皆関わりたかったみたいですよ。調理場の気持ちだと思って、食べてやってくれませんか。出来れば、旦那様も」

「?」

俺は首を傾げる。なにやら少し空気が重い。重いというか、なんだろう、不思議な空気だった。

しかし、お父様がどこか満たされたように笑う。

「そうか……そうだな、思えば久しぶりだな、娯楽のための食事というのは。せっかくだ。いただこう。アルメル、そんな量を1人で食べたら夕餉が入らなくなる。一口くれないか」

「? ええ、食べきれないので、一口と言わず半分以上食べて下さると助か――」

言いかけたところで、スレイン兄がぴしゃりと言った。

「サーシャ、リーシャ、おいで。食べたいだろう。先の決闘が楽しかった礼と思って、食べるといい」

「!」「!」

双子が揃って驚愕する。

しかし、続いたのはアルフレッド兄だ。

「お待ちくださいスレイン兄さま! それでは、俺の護衛を務める者に、俺が与えたい! どちらか1人には俺から与えさせて欲しいです!」

「はは、そんなに声を荒げるまでも無い。では、片方は僕から半分、もう片方はアルフレッドから半分貰うといい」

「ちょ、いけませんわ皆さま、そんな特別待遇、他のメイドが嫉妬します。ダメですわ」

流石は俺のフレイヤは冷静に流されない。そうなると……俺は急いで立ち上がった。

「では、フレイヤの口止め料は俺から支払います! フレイヤ、俺のを半分食べたくない? フレイヤも食べるといい!」

「ええええ!?」

「フレイヤ、解っていると思うけど、こういう奢りは断るほうが失礼な時もあるからね?」

「紳士的な事をしようとしているのに微塵も紳士さを感じない誘い方ですね! ダメですよアルメル様! そういう露悪的な言い方は、紳士的ではありません。『あなたと一緒に食べたいんだ』ですわ。さぁ、言い直してみましょう。そのほうが社交界で爆モテする紳士的振る舞いですわ」

「社交界でのモテなんて要らない。フレイヤと一緒に食べたいんだ」

「……っくうう……ヘンリー様のご子息……流石の人たらし……6歳が持って良いスキルじゃありません!」

そのやり取りを見て、

「はっはっはっはっは!!」

お父様が豪快に笑った。

「そうか、そういう見方もあったか。そうだな、間違いない。人たらしだな」

そう言って、お父様は愛しそうに俺達を見回した。

食べ方を丁寧に教えてサーシャに食べさせようとするスレイン兄。

切って、フォークに差して、リーシャにフォークを渡すアルフレッド兄。

欲望にまみれて「あーん」をフレイヤにしようとしている俺。

少しばかり面白おかしい時間が流れて、おやつの時間を終える。

次のご飯のための準備だよ! とフレイヤが言った事で、食べ終えたデザートを双子が片付ける。フレイヤは双子が足りなかったのであろうテーブル拭きをして、テーブルの上の魔法灯のフィラメントを丁寧に掃除する。

蝋燭を立ててくれてた双子には悪いけど、この屋敷で蝋燭の出番はもう、少なくとも部屋の中には無い。ギルバート商会からの試作品で殆どの部屋は魔法灯で満たされているし、俺が補充可能なので、この屋敷で蝋燭の出番は多く無い。

「それで、なんの話でしたっけ」

脱線し過ぎて解らなくなった。だが、アルフレッド兄が答える。

「少なくとも、突然変異の差別については一通り説明を終えたと思う」

ああ、そうだ、フレイヤの可愛さで記憶が飛んでいた。正直今もドキドキしてる。

「であれば、後は単純だ」

と、お父様が言った。重苦しい空気だが、先ほどの一幕のおかげで気が楽になったのだろう、力強く言い切った。

「その話を聞いた上で――アルメル・オース・ファランよ。ダグラス・オース・ファランより依頼する。あの子達の力になれる何かを、開発してくれな__」

「承知しました。必ずや、期待に応えてみせましょう」

「「「…………」」」

お父様が言い切るのを待たず返事をした。それに返ってきたのは何故か沈黙だった。え、なんで? 期待に応えるって言ったじゃん。

「お前なぁ、何を頼まれたか解っているのか?」

と、アルフレッド兄。外見で差別された子達を助ける方法だよね?

「流石のアルメルでも、考えなしに解決できる問題では無いからね?」

と、スレイン兄。残念ながら解決へのロードマップは既に完成している。

「その……言っておいてなんだが、本当に大丈夫なのか? あの子達の未来を託すような依頼だ。もう何年か考えてからでも、答えは遅くない」

と、お父様。言われるまでも無い。あんなに可愛い個性の子達が、どこの色がどうのだの、クソ程くだらない理由で差別されているというなら、何も言われずとも俺は行動していた。現代日本の倫理観を持ち、会社で嫌というほどハラスメントやらなにやらを叩きこまれた俺にとって、この差別の倫理観は断じて認められるものでは無い。この世にあるというだけで唾棄すべき最悪の気分になる。

だからこそ、俺は、ぶっちゃけ内心にあったこの世界への怒りをなんとか抑えながら、笑って答える。

「―― 大(・) 丈(・) 夫(・) で(・) す(・) 。(・) 必(・) ず(・) や(・) 、(・) あ(・) の(・) 子(・) 達(・) を(・) 守(・) り(・) 抜(・) い(・) て(・) み(・) せ(・) ま(・) し(・) ょ(・) う(・) 」