軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95 ベリスカス 2

デスクリムゾン!

じゃない、キング・クリムゾン!

私達は今、借家、いや、契約した貸店舗にいる。

お金さえ前払いすれば、面倒な証明書類とか保証人とかが無くても借りられるのは、ありがたい。

ここは王都ではなく国の端っこなので、そこそこの街だけど賃料はそれ程高くない。なので、店舗部分はそれ程広くはないけれど、居住部分はそこそこの広さのものを借りた。何しろ、今回はエミール達だけでなく、ロランドとフランセットも一緒に住むのだから。

エミールとベルが一部屋、ロランドとフランセットが一部屋、と思ったら、フランセットが真っ赤な顔をして大反対した。

「な、ななななな! 結婚前の男女が同じ部屋だなどと、何を言ってるんですかっっ!!」

え? えええええ?

「ま、まさか……」

驚いてロランドの方を見ると、そっと視線を外された。

あ~、この世界は、貴族以外は貞操観念が緩いと思っていたのに……、って、フランセットも今は貴族じゃん! しかも、一度も男性と付き合ったことがないって言ってたし。

え? 今まで、宿も別室で?

「宿屋は、路銀の節約や、ロランド様の護衛の任がありますから。あれは、仕事ですので!」

なる程、騎士としての仕事なら問題ないが、野営や宿屋ではなく『同居』となると話は別、というわけか……。

面倒くせ~!

一方、エミール達の方は、別々の部屋などあり得ない、という感じだったので、そのまま同室に。私とレイエットちゃんは、勿論同室。

そして、この店舗で何をするかというと……。

「「「「「 便利な店(こんびに) ?」」」」」

そう、『 便利な店(こんびに) 』である。

営業時間は、朝1の鐘(午前6時)から朝2の鐘(午前9時)、そして昼2の鐘(午後3時)から夜1の鐘(午後6時)頃までである。

みんなが仕事に出る時間帯と、仕事から帰る時間帯のみの営業。

お金に困っているわけじゃないから、無駄に働かない。そんな時間があれば、婚活に使った方がいいからだ。

そして、取り扱う商品は……。

アイテムボックスから『レイエットのアトリエ』で使っていた棚や展示台を出して、売り場に並べる。そしてそこへ、厳選した商品を置く。

堅パン、干し肉、固形スープの素、乾燥野菜、ドライフルーツ。

そう、食べ物は、保存が利くもののみ。更に、水筒、ナイフ、マントに帽子と、急に旅に出る人、出発直前に不足するものに気付いた人等のための品々を並べてゆく。

勿論それだけではなく、調味料、ハーブの類いから、下着に使い切り用の化粧品。それらの緊急用の品々を、少しずつ、広範囲に亘って。

……どうして下着や化粧品が緊急用の品物なのか?

それは、ベルやレイエットちゃんがいない時に話そうね、フランセット。

* *

この街に着いてすぐ、私達は、まずは宿を取った。そして宿の人や暇そうな宿泊客に色々と話を聞いて情報収集をしたのである。情報は、値千金、戦略の基本である。

それによると、どうやらこの国では商人の権限がかなり認められているらしく、商人の組合、つまり商業ギルドがあり、税もそこが取り纏めて国に納めているらしかった。なので、店を開くなら、まずは商業ギルドに登録する必要があるらしい。

どうせ、店を借りるためにはどこかで紹介、というか、仲介して貰う必要があるから、とりあえずギルドへ行って聞くのが間違いない。そう考えて、翌朝すぐに、ギルドへ向かった。ロランドとフランセットを連れて。

いや、ここでは未成年の子供に見られる私がひとりで行くより、大人が付いていた方が、絶対に話がスムーズに進むだろう。フランセットは15~16歳くらいにしか見えないから、いくら成人年齢とはいえ、ちょっと弱い。なので、やむなくロランドも連れていったわけである。

ロランドは、誰が見ても、上流階級のボンボンにしか見えない。そして、剣を佩き、なかなか強そうに見える。これならば、立派な後ろ盾がある、というか、店の実権はロランドが握り、私とフランセットに店番を任せ、形式上の店主役をやらせるだけ、と思われるだろう。

それで充分だ。変に『子供店長』とかの噂が広まると、変な連中にちょっかいを出される可能性があるから。どこの世界でも、弱者から奪い取ろうとする連中はいるからね。揉め事が起きると、悲惨なことになりそうだから。……主に、相手側が。

いざとなれば身分を明かせばどうとでもなるロランドは、私やフランセットの危機に自重するとは思えない。そしてフランセット、エミール、ベルの3人が、私に危害を加えようとする者に対して、手加減するとでも?

更に、私はレイエットちゃんに手出しする者は許さない。絶対に!

……とにかく、揉め事の種は少ない方がいい。そういうことだ。

「すみません、新規に店を始めたいのですが……」

宿で道順を聞き、辿り着いた商業ギルドの受付で、若い受付嬢にそう聞いた。

「あ、……は、はい!」

うむ、背の低い私の頭越しに、ロランドの顔を見ているな、この受付嬢は……。

まぁ、ロランドは、一応は『元、王子様』で、それらしい外見を備えている。これで、盛装して白馬にでも乗れば、それなりなのである。地方都市の受付嬢がイチコロであっても、仕方ない。

「……で、な、何の御用でしょうか?」

こ、コイツ、ロランドに見とれて、私の言葉を聞いていなかったな!

というか、ロランドって、そんなにモテるのか? 王族だという肩書き抜きで?

フランセットの方を見ると、肩を竦めている。

……そうか、いつものことなのか……。

「店を! 新規に! 始めたいの! ですがッッ!!」

「そんなに怒鳴らなくても聞こえますよ!」

うるさいわ!

私はOL時代、インフルエンザで受付要員が全滅した時に、応援に駆り出されたことがあるんだ。何故か、初日でお役御免になったけど……。

とにかく、受付というのは、会社の顔なんだよ! それが適当な仕事をしていたら……。

ぱぁん!

「失礼致しました。詳しく御説明致しますので、こちらへどうぞ」

最初の受付嬢より少し年配の女性が、にこやかにそう言って個別の相談室らしき方を手で指し示した。

「酷いですよ、先輩! そのイケメ……お客さんは、私の担当です、横から掻っ攫おうったって……、あ、何を! やめて下さい、私はあのイケメン男性を担当せねば……」

書類挟みで叩かれた頭を抑えながらそう抗議する受付嬢は、他の受付嬢や事務方の人達に腕を掴まれて、どこかへ連れ去られていった。いつものことなのか、やけに手際が良かった。

そして、おかしなのに担当されなくてよかった。本当に……。

「では、私、イリーヌが皆様の担当をさせて戴きます。新規開店ということですので、店の所在地、店名、取り扱い商品か業務形態、そして事業規模を申告して戴きます。それによって、税額とギルドの会費額が決まりますので……。なお、税額を安くしようとして虚偽の申告をなさいますと、後々困ったことに……」

説明が始まったけれど、困ったことに、まだこっちはその段階じゃない。

「すみません、実は、まだ店舗が決まっていないんです。その相談に乗って戴きたいと思って、とりあえずここに来ました……」

「あ、そうですか。いえ、そういう方は結構おられますから、問題ありませんよ。こちらも不動産屋に恩を売れますし、彼らもうちのギルドの一員ですからね」

怒られるかな、と思ったけれど、そんなことはなかった。

そして、不動産屋を紹介して貰い、店舗を確保し、改めてギルドのお世話になったのである。

正式に登録した後、気になっていたことを聞いてしまった。

「あの、最初にお話しした受付の人は……」

「ああ、あの子、領主様の子守メイドだった人の孫なんですよ。だから、何があってもクビにはなりません。悪い子じゃないんですけど、素直というか、純真というか、己の欲望に忠実というか、傍若無人というか……」

いや、それ、充分『悪い子』やん!

そして提出した書類には、こう書いた。

店の所在地 : 商業区3番通り

取り扱い商品: 何でも

事業規模 : 従業員3名

店 名 : ベル

そう、前回と同じ店名だとアレだから、変えてみた。

従業員は、私、ベル、そしてフランセットの3人。

ベルは、エミールと一緒に、またハンターとして修行して貰うけれど、たまには手伝って貰うだろうし、過少報告で脱税、とか言われると困るから、念の為に。別にお金に困っているわけじゃないし、従業員ふたりも3人も、税額は大して変わらないらしいから。

看板は『便利な店 ベル』にする予定。『便利な店』に、『こんびに』とルビを振ったりはしない。そんなことをすれば、日本からの転生者が来た時、すぐにこっちに転生者がいるとバレてしまう。そうなると、先手を打たれてしまう可能性が……、って、私は何と戦っているんだ、いったい!

まぁ、そういうわけで、UFO撃退の、じゃない、開店の、準備はできた!

後は、看板を発注するのみ!

店名を変えちゃったから、前のが流用できないのだ。

……その前に、商品を並べて、みんなに店のことを説明しなきゃならないけど。