軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89 海辺の町 1

やってきました、海辺の町!

ここで魚料理を満喫して、それから海岸沿いに東進、次の国を目指そう。

いや、別に先を急ぐ旅じゃないし、この国に滞在してもいいんだけど、やっぱりあれだけやらかしてしまった以上、さっさと他国に移動した方がいいような気がするんだよねぇ。噂を聞いて、隣国のブランコット王国からあの王太子とやらが来ると嫌だし。隣接国ならともかく、間に他の国が挟まれば、さすがにフェル何とかいう王太子も手出しできないだろう。

それに、伴侶を見つけてどこかに定住する前に、この世界を見て廻りたい、という思いもある。旦那様と子供ができたら、大陸中を旅して、なんかできなくなるからね。

……そういえば、フランとロランドはどうするんだろう。

エミールとベルは孤児だし、まだまだ若いから、数年間旅をして修行と見聞を広め、最終的にはどこかに定住するか、バルモア王国の王都に戻って『女神の眼』のみんなと一緒に暮らすのもいいだろう。その頃にはハンターとしてやっていけるだけの実力も身に付いているだろうし、私が内緒で『護衛の報酬』としてアイテムボックスの中の『エミールとベル用貯金箱』に積み立てているお金で何かの店を開くこともできるだろうし。

まぁ、そのあたりは、ふたりの自由意志に任せよう。

……何か、『定住されたカオル様のお隣に住んで、一生お護り致します!』とか言い出しそうで怖いけど、それはそれで、ふたりの選択肢のひとつだ。私が文句を言う筋合いじゃない。人間誰も、他人の人生の責任は取れないんだから。

問題は、フランとロランドだ。

あのふたりは、天涯孤独の根無し草、ってわけじゃない。国元に家族や親戚がいるし、そもそもロランドは王族だろうが! このまま国を捨てられるはずがないし、子供でもできた日にゃあ、王様である弟さんに子供ができない限り、こっちに王位継承権が廻って来るんだよね? 王様に子供ができた後も、第2とか第3とかの継承権が……。

そんなのに、他国をふらふらされちゃあ 堪(たま) んないだろうが! 母国も、うろつかれる方の国も……。

ううむ、このふたりは、いつまで私について来るつもりなんだろうか……。

エミールとベルはいいんだけど、このふたりは、何か『お目付役』みたいでやりにくいんだよなぁ……。

そしてフランとロランドは、ここ数日の間は中佐さんが突っ込み役だったために出番がなくて、少し機嫌が悪かった。

知らんがな!

「まずは、宿を取ろう。そして、魚料理を思い切り食べるよ!」

町の手前で 馬車(チャリ) をアイテムボックスに収納し、皆にそう宣言した。

うん、転生してから、干物や塩漬けじゃない、まともな魚料理は食べていないんだ……。元日本人として、それはちょっとキツいだろう。

まぁ、保存方法や輸送のことを考えると、内陸部に住んでいる者には仕方のないことだとは分かっているんだけど。

一度だけ、海辺の町へ行ったことはある。しかしその時は、アリゴ帝国の新造船が初めてバルモア王国の港に寄港するというイベントで、しかもその本当の目的は『完成した船を カオル様(わたし) に見せて、褒めて貰う』というものだったため、建造に関わった技術者が大勢乗り込んでおり、パーティーやら技術検討会やらで食べ歩きどころじゃなかった。

そして海辺の町だから、『魚は安い』、『高級料理は肉料理』って先入観があり、出てくる料理は全部肉料理! 魚どころか、野菜すら出てこねぇ!

海辺の町で、魚出さずに肉ばっかり出してどうすんだよ!!

はぁはぁはぁ……。

まぁ、日本みたいに、『高級な肉は、サシがはいったものでなきゃ駄目』とか言い張る者はいないので、赤身の美味しい肉だったけど、それはどこの町でも食べられる。海辺なんだから、素直に新鮮な魚を喰わせろよっっ!

はぁはぁはぁ……。

まぁ、そういうわけで、せっかくのチャンスを無駄にしたわけだ。

でも、今回は違う! 自由にできる今回は、魚料理を喰いまくる!

焼き魚や煮魚も悪くはないけれど、せっかく海辺の町に来たのだから、まずは刺身だ。ここは、刺身一択! 今日は刺身三昧で、明日は焼き魚、明後日は煮魚三昧といくか!

そして、町にはいって最初に目に入った、少し高級そうなお店に突入した。

エド達を馬留めに繋ぐのももどかしく、皆を 急(せ) かして店に入り、席についた。

「刺身盛り合わせ、お任せで!」

私は、席に置かれた お品書き(メニュー) を見ることもなく、店員さんに向かって叫んだ。他の者はまだお品書きに手を伸ばそうとしている段階であるが、そんなの構わない! 別に、一度に全部注文しなきゃならないという決まりがあるわけじゃない!

よし、数年振りのお刺身だ!!

私のテンションは、MAXだった。

「…………サシミ?」

不思議そうな顔の、店員さんの返事を聞くまでは……。

「サシミって、何ですか?」

「……え?」

翻訳機能がうまく働いていない? ……って、そんなわけあるか!

「あ、あの、生の魚を切って食べるやつで……」

私は、かなり動揺していた。

「な、生の魚を食べるうぅ?」

私の説明に驚いた店員が思いきり大きな声で叫び、店内の視線が集中した。

え? 刺身を食べる習慣、無いの?

いや、確かに、王都を始めとする今まで私が立ち寄ったことのある街では、魚料理は干物か塩漬けくらいしかなかったけれど、それは内陸だから、輸送と保存の問題だと思っていた。海辺の町なら、生や、それに近い食べ方、つまりタタキやカルパッチョ、なめろう等の料理法はあると思っていたのだ。

だって、漁師が釣ったばかりの魚を舟の上で簡単に捌いて、指で内臓を取って、海水ですすいで食べる、とか、昔から何処でもやってるんじゃあ……。

なのに、どうして店中の人達が『信じられない!』というような顔で私を見つめているのか……。

「おい、兄ちゃん、ちゃんと教えておいてやんな。火をしっかり通していない魚なんか喰ったら、虫にやられて 腹痛(はらいた) で転げ回るハメになるってな。

ま、生魚なんか喰わねぇ内陸部の 者(もん) じゃ、知らねぇのも無理はねぇけど、女の子なんだから、下手に自分で料理しようなんて考えられたら、あんたら全員、薬師の世話になる羽目になっちまうぜ」

見た目は荒くれ者っぽいけど、笑いながらも親切に忠告してくれる、客のひとりである 強面(こわもて) のおっさん。漁師さんかな?

「……寄生虫か!」

「ありゃ、知ってたのか?」

意外そうな顔のおっさん、いやいや、『おじさま』。

……この世界に来てから言葉遣いが悪くなったから、気を付けないと。またお兄ちゃんから、『お前は目付きが悪いんだから、口まで悪くなったら取り返しが……』って、うるさいわ!

日本じゃ『川魚の生食はヤバいけど、海魚は大丈夫』って言われてるけど、あれって、海魚の多くは流通の段階で冷凍処理して寄生虫を殺している、という情報が知れ渡っているから、そう言われているだけだ。川魚はほとんどそういう処理をしていない。

それに、海魚は人間の生活圏から離れているから、その寄生虫は人間を宿主として想定した進化をしていない。つまり、人間の体内にはいった海魚の寄生虫は、その大半が人体では長期間生存できず、せいぜいが一時的な激痛をもたらす程度で、命に関わるような重篤な症状となることは少ない。

……いや、激痛だけで、充分嫌だっつーの!

それに対して、川や沼は陸地の一部だ。それらは陸上動物の生活圏に含まれるため、川魚の寄生虫は、陸上動物の体内でも生存できるものが多い。……つまり、かなり危険なものがある、ってことだ。そのあたりが、『川魚の生食は危険』ということの、本当の意味なんだろうな。

つまり、別に海魚は寄生虫がいないというわけじゃない。冷凍処理をせず、魚屋さんが調理の際に確認して取り除いたものでなければ、普通にいる。人間の体内で激痛を起こさせるヤツとかが。

それくらいは知っていたけれど、自分はポーションさえあれば毒素も細菌も寄生虫も怖くないから、気にしていなかった。

……でも、気にするよねぇ、料理人さんは。いくら私が『構わないから、生で出してくれ』って言っても、出してくれるわけがない。店の客から病人を出したとなると、お店の信用問題だもんねぇ……。

「……焼き魚と煮魚、ひと皿ずつ、お任せで……」

失意の余り、お品書きも見ずに適当に注文した。そしてそれに続いて次々と注文するフランセット達。ちゃんとお品書きを見て選んだらしい。

そしてフランセットの注文が、延々と続く。

そう、フランセットは、あの身体能力を支えるためか、やけに燃費が悪いのだ。なので馬鹿食いするが、……太らない。くそ!

そして私は、失意のまま、出てきた料理を食べた。

……旨かったよ、チキショー!