軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85 御使い様再び 4

翌朝、私達は村の猟師の案内で谷へ向けて出発した。

「中佐さんは、もう王都へ帰ってもいいですよ。案内の役目は終わったんだし……」

「ここまできて、今更帰れるか! ちゃんと最後まで見届けないと、陛下に怒られるわ!」

「あ~、そういうもんか……」

そういうわけで、私達と中佐さん、そして案内役の猟師さんの、総勢8名で、ぞろぞろと森へと分け入る。まぁ、分け入る、とはいっても、ちゃんと踏み固められた小道があるんだけどね。

まだ谷までは距離があるけれど、このあたりから装着しておこう。

うん、昨夜考えた、眼鏡形の目標物探知機だ。

左眼側のレンズがPPIスコープ(Plan Position Indicator scope:平面座標指示画面)になっており、右目側のレンズが視界内にある目標物の位置を矢印や光点で示すようになっている。

あ、いや、訂正しよう。『眼鏡形の目標物探知機形のポーション容器』だ。ちゃんと、顔に固定する部分の中にポーションがはいっている。

そして、これを着けた状態でも、ちゃんと前方は見える。そりゃ、ちょっとは見づらいけど。

捜索に使う物だから、これを『サーチャー』と命名した。別に相手の戦闘力を表示したりはできないので、あの名前はやめた。

昨夜のうちにお披露目は済ませているので、皆は別に驚いたりはしない。今が初見である猟師さんも、昨日の『バッグから無限に出てくるポーション』と、その効き目を見た後では、今更驚くようなことでもないのだろう。

そして勿論、この探知機の目標は『この病気の、病原体』に設定してある。

今は探知がなくても、急ぐことはない。問題の谷に着いてから、そこを中心にしてレンジを拡大すればいい。今は、通過する時に大事なものを見落とさない、というだけで充分だ。

……と思っていたら、何だコレ?

左眼のPPIスコープに、たくさんの光点が映っている。そして、近接レンジのため、それらの光点が動いているのがはっきりと分かる。

細菌の移動速度にしては速過ぎる。風に乗って飛んでいるにしては、移動方向や移動速度がバラバラだ。そして、光点が大きい。

これ、感染した動物だ!

まずい、動物を介して感染が広がるなら、薬を飲んだこの村と王都の者以外がいつ感染するか分からない。そして、感染者を元に、再びどこかの街で拡散し……。

それに、そもそも、この村や近隣の村々の猟師が狩った獲物は、商人に売られる。そしてそれは、王都だけではなく、あちこちの街へと運ばれ、売られる。それが、もし細菌が完全に死滅するだけの加熱が行われずに食べられたら……。

とにかく、谷へ向かおう。

そして、しばらくして、谷に到着。綺麗な水の小川が流れている。多分、このあたりの動物達の水場なんだろう。だから、猟師もこのあたりで狩りをしている、と。

そして、水場だからか、探知機の光点がかなり増えている。しかし、目に付くような動物の姿はない。……ネズミとかの小動物か?

よし、レンジを拡大して……、って、何じゃ、こりゃあ!

近接レンジだと規則性のない動きにしか見えなかったけれど、レンジを大きくすると、全体像がはっきりと分かった。細かい動きが見えなくなって、全体的な動き、全体的な流れというものが、PPIスコープ上にはっきりと現れている。

ある1点を中心として、そこから離れるほど薄まる光点の密度。放射線状に広がるその形状。

これが原因の発生源以外の何だというのか。サーチャー、便利過ぎる!

「原因らしき場所に行くよ。何があるか分からないから、みんな、気を付けて! ロランドはレイエットちゃんから目を離さないで。その他の者は、全周警戒!」

レイエットちゃんと、一応王族であるロランドは護らなきゃならない。ベルとエミールは、もう一人前のハンターだ、自分の身は守れるだろう。猟師さんも、プロなんだから、自分が狩られる側になるようなヘマはしでかさないだろう。

まぁ、そんなに危険はないだろうとは思う。今まで、村の人達が病気の感染以外の危険には遭っていないのだから。でも、用心するに越したことはない。温厚な動物が、病気に冒されておかしくなり、凶暴になっている可能性が無いわけでもない。

注意しながら、光点の中心部、一番密度が濃い方へと近付くと……。

「何じゃ、こりゃ!」

何だか、よく分からないものがあった。

直径3~4メートルの、ぐにゃりとしたもの。

……もの? いや、何か物があるわけじゃない。何か、空間自体が、 捻(ねじ) れ、うねうねと 蠢(うごめ) いているような……。そしてそこから、 瘴気(しょうき) というか、何か嫌な気配が漏れ出て、時たまネズミのような小動物の姿が現れる。

「これだあぁ!」

そう叫んでみたものの、これが何だか、見当もつかない。

剣で斬れそうな感じでもないし、触ると大変なことになりそうな気がする。これ、絶対に触っちゃ駄目なやつだ。そう、『触らぬ神に祟りなし』ってやつ。

「カオルちゃん、な、何ですか、この、何やら歪んだようなものは……」

あ。

フランセットの言葉に、これの正体の見当がついた。

これ、人間の担当じゃないや。人間にどうこうできるようなものじゃない。

じゃあ、どうすればいい?

そう、担当者を呼べばいいんだ。

「あの水晶球形の容器にはいったポーション、出ろ!」

そして、合わせた私の掌の中に現れる、ひとつの水晶球。

「作動せよ、緊急呼び出し装置!」

次の瞬間、水晶球が眩い光を放ち、その直後、上空に光の球が現れた。

そしてその光の球はしだいに形を変え、遂にはひとりの美しい少女の姿となった。

そう、女神セレスティーヌの降臨である。

「歪みはどこですか!」

そして、4年前と全く同じ、セレスの台詞。

「あれ、カオルちゃん? 何だ、歪みじゃないのね。何か用?」

「そこ」

「え?」

セレスは、ぽかんとしている。多分、私が何か別の用でセレスを呼んだだけだと思っているのだろう。あの、緊急用の水晶のパチモンを使って。

だがしかし。

「そこ。それ、セレスが監視している『歪み』なんじゃないかと思って……」

「え? ええ? えええええええ! って、本当だ、歪み、歪みですううぅっっ!!」

驚愕の叫び声を上げるセレス。そして、それ以上に驚いて、口を開けたまま呆然と立ち尽くすみんな。いや、フランセットとロランドは、4年前にも見たよね、セレスの降臨……。

「離れて! もっと離れて下さいっ!」

焦ったセレスの叫び声にも、みんな全く反応しない。

「逃げるよ! 身体がバラバラになって死にたくなかったら、ついてきて!!」

歪みを散らすのに巻き込まれてバラバラ死体になるのは、1回だけで充分だ!

レイエットちゃんを抱えて逃げ出す私に、ようやくみんなも正気に戻ったのか、慌てて私に続いた。何しろ、女神様とか御使い様とかが焦りまくっているのだ、そのヤバさ具合に気付いたのだろう。

……しかし、セレス。それって、そんなに急いでやらなきゃ駄目なの?

それができてから今まで、既にかなりの時間が経ってると思うんだけど、あとほんの数分くらい待ってもよかったんじゃないの? そう、私達が充分離れるまでの間くらい……。

いや、言っても詮無きことだ。『セレスだから』。そう、『セレスだから』。チキショーめ!!

ロランドが、私を追い越しざまに、私の腕の中からレイエットちゃんを引ったくった。さすが王族、動転していても、そのあたりは尊敬に値する。……私は置いてけぼりにして、さっさと駆け去っていったが。

いや、いいんだけどね! 共倒れになるよりは、レイエットちゃんだけでも助けてくれれば。

エミールは、ベルの手を引いて、……私の後ろにぴったりとついている。多分、自分達の身体を盾にして、危険から私の身を護るつもりなんだろう。簡単に私を追い抜けるくせに……。本当にもう、この大馬鹿者めが……。

そしてそのふたりの後ろを、フランセットが護っている。ああ、もう、馬鹿ばっか!

中佐さんと猟師さん? 遥か前方だよ! どうやら、天界の揉め事には関わり合いたくないらしい。うん、それが普通だよね!

いかん、運動不足が 祟(たた) って、限界が……。

あ、足が 縺(もつ) れたああっ!

びった~ん、と地面に倒れ込んだ。そして。

ぐえっ、ぐえっ!

背中にかかる、2度の衝撃。

私に釣られて、ベルとエミールも転んだ?

いや、違う! 私を護るために、自分の身体を盾とするために私に覆い被さったんだ! この、この、馬鹿共めがっ!

「来ます!」

ぐえっ!

フランセットの声と共に、再度衝撃が。

うん、フランセットがベル達に覆い被さったんだ。……知ってた。

そして、激しい衝撃が私達を襲った。