軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47 新天地

闇夜を進む、5頭の馬。

そしてその前方を照らす、怪しい青い光。

そう、言わずと知れた、私達の一行である。

あのまま町に泊まると、またまたあの男爵様の使いがやって来そうな気がして仕方なかったので、そのまま深夜の出発としたのである。

朝まで進み続けるつもりはない。男爵領を出てしばらくすれば、街道を外れて少し林の中へはいり、そこで野営をするつもりである。領地を出てしまえば男爵には何の大義名分もないし、力尽く、というのは、お話にもならない。

武勇の誉れ高い、王兄ロランド。救国の大英雄、鬼神フラン、神剣付きバージョン。女神様のためなら命も惜しまぬ狂信者ふたり、神剣と神ナイフ付き。……そして、女神様。

男爵領の領軍全てを差し向けたところで、数分も保たないだろう。

青い光は、アレである。あの、サイリュームとかに代表される、ケミカルライト。あれの、強力版。それに反射板を付けて、前方を照らしている。別に早駆けするわけではないので、普通に街道をぽこぽこ歩かせるだけなら、充分な明かりとなる。

最初は、世界背景に合わせようと思って、アセチレンランプ(カーバイドランプ)を使おうとしたんだけど、エド達の抗議により、断念した。

『あち、あちちちち! 嬢ちゃん、何しやがる!』

5頭全員から青筋を立てて怒られたのでは、仕方なかった。

アセチレンランプは、容器に炭化カルシウムと水を入れて、滴下する水の量と、発生したガスの噴出量を調整するバルブがあれば良く、小型で明るく、長期間保ち、製造に要する技術力が低くて済む。

丁度良いと思ったのだけど、うまく行かないものである。ウマだけに。

電灯に似た形の、炎の部分にカバーが付いたタイプじゃなく、漁労式の炎部分剥き出しのタイプだったのがマズかったか……。

でも、私のイメージだと、アセチレンランプっていうのは、アレなんだけどなぁ。夜に、射出用のゴムが付いたヤスを右手に、アセチレンランプを左手に持って、川の中を歩きながらの夜突き。今では禁止されているところが多いみたいだけど、この世界なら……。

よし、今度、どこかの川でやってみよう! 川辺で野営した時とか。

しかし、ケイビングや漁労には最適なんだけどなぁ、アセチレンランプ……。

まぁ、薬品とその容器を作り出す、という能力からすれば、どちらもその能力にふさわしい品物だから、アセチレンランプだろうがケミカルライトだろうが、どっちでもいいんだけどね。あまり強引なこじつけじゃないし。

そうこうしている間に男爵領を抜け、更に1時間くらい進んだ後、適当なところで道から逸れて野営した。

お腹はいっぱいなので、みんなで回復ポーションを飲んで、エド達の身体の手入れをしてあげて、虫除けを撒いて、ベッドを出して、ベルと一緒に睡眠。いや、もう何年も役に立ってくれているよね、このベッド。

勿論、マットレスとかシーツは、天日で干したり、洗濯したり、交換したりしている。

あ、そういえば、5年振りくらいの里帰りだね、このベッド! 今度は、あの時とは逆方向への逃亡だけど、末永く、よろしくね。

え、フランと男達?

そこらの草の上で丸まってるでしょ。アイテムボックスから出した毛布を渡したんだから、戦士たる者、常在戦場、それで充分だ。

そして数日後。

無事国境を越えて、私達はブランコット王国から見て内陸側、北東部に接した隣国、ドリスザートに入国した。国境線に、検問等はなし。検問は、この先、最初に到着する街にあるらしい。壁に囲まれた街、いわゆる城郭都市、というやつだ。

別にブランコット王国との関係が悪いわけじゃないけれど、他国との境目なので、ある程度の軍の駐留と、そして交易のための中継地の役目を担った街、城郭都市セリナス。

今まで野営が多かったし、初めての国なので、その街に数日滞在して、この国について少し勉強しよう。情報を制する者は世界を制す、って言うからね。ロランドやフランも、自国の周囲4カ国についてはかなり詳しかったけれど、それ以外の国についてはあまり詳しくないらしいし。

まぁ、無理もないか。一応、政情とかについては知っていても、直接行ったことなんかないだろうし、そうそう生の情報がはいってくるような関係でもないだろうしね。

でも、それは向こうも同じ。

ロランドは、自国や隣接した周辺国では結構有名だけど、この国にとっては、ただの「あまり縁のない他国の王兄」に過ぎない。王宮や上位貴族、そして軍の上層部あたりは名前くらいは知っているかも知れないが、その他の者は、名も顔も知らないだろう。まだ、「女神様の守護騎士、聖騎士フラン」の方が遥かに有名だ。

しかし、フランセットの実年齢や、アリゴ帝国絶対防衛戦からの経過年月からして、若く見える今のフランセットを見て、あの「鬼神フラン」だと思う者がいるとは思えない。言っちゃ悪いけど、ありふれた名前だしね、「フランセット」というのは。

私にしても、時間経過から考えて、明らかに外見年齢が噂話と合わない。隣接国あたりならば、その辺も理解しているんだけど。

そして、私の名前は、バリエーションが多い。

セレスティーヌの名が、セレスティヌス、セレスティア、等の色々なバージョンがあるのと同様に、伝達の過程で歪み、私にはキャオル、コァル、魔眼、処刑人、等の、色々な呼び名がある。伝言ゲームの成果である。

……って、ちょっと待て、後ろのふたつ!

それに、ここ4年、私と同じ名を付けられた女の子も多い。

女神様と同じ名前を付けるのは畏れ多いけど、女神様が気に入って贔屓にしている人間の少女と同じ名をつけるのは問題ない。それで少しでも女神様の御加護のお 零(こぼ) れに 与(あずか) れれば、ということなのだろう。

そういうわけで、今では、カオル、キャオル、コァル、その他の似たような発音の名前は珍しくなく、普通のありふれた女性名、という認識になっていた。

……さすがに、自分の娘に「魔眼」や「処刑人」という名を付ける親はいなかった。

また、私のことは、名前ではなく、「御使い様」、「女神様の御友人」等の呼び方で伝わることが多く、固有名詞はそれほど広まっていなかった。

長々と、何を言いたいかというと。

つまり私達は、以後、偽名を使う必要はない、ということだ。

私が国を出た、ということはある程度広まるかも知れないけれど、王兄や鬼神が一緒に行動している、という話までは、遠国には伝わらないだろう。元々、ロランドは弟である国王セルジュを立てるため、あまり表に出ないようにしていたし、王国最大の戦力である「鬼神フラン」が不在であることを、国がわざわざ触れて回るわけがない。

考えてみれば、私の素性を隠すには、12歳前後の少女のひとり旅、という不自然な形より、貴族の兄妹プラスアルファの5人での、物見遊山のぶらり旅、という方が、目立たなくて、却って良かったのかも。護衛がいないのも、5人中3人が剣を装備していて、その内ふたりが騎士風となれば、全然おかしくないだろう。

よし、女神様と御使い様は、しばらく休業だ。

バルモア王国のちりめん問屋、じゃない、下級貴族の、世間知らずの 我(わ) が 儘(まま) 娘として、色々と見聞きして、勉強しよう。ついでに、お金儲けも。

いや、ポーションでかなり稼いだけど、お金は、あって邪魔になるものじゃない。容量無限のアイテムボックスを持っていたりすると、特に。

お金が余ったら、アリゴ帝国の海運業に投資したり、自分で船会社を 興(おこ) すのなんかも、いいかも知れない。

あ、子供の頃、「越後のちりめん問屋」って、ちりめんじゃこを売っている店なんだと思っていたよ。織物の 縮緬(ちりめん) 、って知ったのは、中学生になってから。

あああ、思い出したくない、暗黒歴史だ……。

いや、まぁ、とにかく、思い出したくない過去は捨てて、新たなる旅立ち、だ!

しだいに、遠くに見え始める、壁のようなもの。

あれが、城郭都市セリナス、か。

転生……、生まれ変わったわけじゃないけど、身体は完全に別物だし、若返ったのだから、転移じゃなくて転生だよね、その転生後においての、みっつめの国。

その、最初の街、セリナス。

さぁ、頑張って、行きまっしょい!