軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

433 御用聞き 7

ここの夫人が料理人を呼びに行っている間に、少年の方を確認しておくか……。

今のうちに聞いておかないと、平民の料理人より後にすると、 角(カド) が立つかもしれないからね。

「……あなたは?」

父親ではなく、少年に直接聞いた。

少女とは違い、しっかりした様子だし、利発そうに見えたから……。

「クレツール伯爵家長子、エムフィルと申します……」

怪訝そうな様子だけど、きちんと答えてくれた。

あ~、これは多分、私のことを教えられていないな……。

秘密保持のためか、期待させておいて駄目だった場合に落胆させるのが忍びなかったからか。

まあ、そのこと自体は、理解できる。仕方ないよね、そりゃ……。

それで、この子は私が平民っぽいのに国王を始めとする偉い人達が丁重に扱っているから、疑問に思いながらも、空気を読んで周りに合わせているのだろう。

子供なのに、しっかりしているよね。

「手を怪我しているのかな?」

「…………」

そう。この子は、右手の手首から先を布で巻いて固定している。

これじゃ、食事もトイレも不自由だし、羽根ペンも持てないから勉強もしづらく、そして勿論、剣を持つこともできないだろう。

さっき長子だと言っていたけれど、貴族家の長子がこれだと、後継者としてはマズいんじゃないかな……、って、だから今日、ここに連れてきたわけか。

「……馬の 蹄(ひづめ) で踏まれまして……」

本人が喋る様子がないからか、父親が教えてくれた。

「うわぁ……」

あ、イカン、思わず口に出しちゃった……。

いや、馬のあの体重で、蹄鉄で手の平を踏まれちゃ大変だろう。

骨が粉砕されて、指とか……、って、だからこの状態か……。

将来のことを考えれば、そりゃ初対面の平民なんかに話したいことじゃないだろう。

何せ、まだ12~13歳の子供なんだからねぇ……。

でも、こんな状況でも気丈に振る舞っているし、平民っぽい私にも、見下すことなくちゃんと対応してくれている。貴族の子供としては、立派な部類に入るだろう。

さっき私の質問に答えなかったのは、私が平民だからとかじゃなく、自分の現状が辛くて話せなかっただけだろうからね。

精一杯頑張っているのは、父親に恥ずかしいところを見せたくないからか、それとも他家の者に弱味を見せてはならないと教えられているからか、あるいは自分より年下の少女の前では格好を付けねばならないと考えたからか……。

そのいずれであったとしても、子供ながらのその矜持と痩せ我慢、 天晴(あっぱ) れなり!!

お姉さん、そういう子は嫌いじゃないよ。

それに、私があれだけハッタリをカマしておいた王様が選んだ相手なんだ。この子も両親も、まともな人に決まってる。

少女の方も、『お料理をしてみたい』と言って調理場に入り込むような子だ、悪役令嬢みたいな子じゃないだろう。元気で活発な子だったに違いない。

それが、一度の事故で人生を台無しにするのは、見るに忍びない。

……まあ、そういう不幸を消し飛ばすために、今、私がここに存在するわけだ。

少女保護3原則、第1条。

可愛い少女に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって危害を加えてはならない。

だから、この少女が不幸な人生を歩むことになるという『危険』を、排除する。

女神の御寵愛を受けし御使い様としては、当然の行動だよね、うん!

……あ、メイドさんが、火傷した料理人さんを連れてきてくれた。

右頬から首筋にかけて、かなり酷い火傷の傷がある。

その先は衣服で見えないけれど、あの様子だと、胸や背中にもかなり広がっているだろう。

この人がどんな人かは知らないけれど、少女を庇って火傷をしたのだから、それを帳消しにするくらいの補填措置はあってもいいだろう。あと、オマケとして、持病や古傷を完治させるくらいの褒美とかも……。

よし、やるか!

「料理人さん、こちらへ」

お嬢様が横たわるベッドの側へと誘導し……。

「女神よ、幼き少女の傷を癒やし、元気な姿を取り戻し 給(たま) え……。

そして、少女を護らんとし我が身を盾とした者に、救いを与え給え……。

かしこみかしこみ、 申(もう) ~す〜〜……」

ふたりの胃の中に、治癒ポーション生成!

火傷の部位の体表面に、治癒ポーションの薄膜を生成!

体表面の方には、5秒間の発光効果付き!!

ぴか~!

「「「「「「おおおおおおおっ!!」」」」」」

「「……え……」」

驚きの声を上げる、少女の両親と、その他の人達。

王様と宰相様は、もう慣れたのか、あまり驚いた様子はないな……。

当事者であるお嬢様と料理人さんは、ぽかんとした顔で、あまり反応がない。

……と思っていたら、首筋やら顔やらの、火傷していた部分を手で触っている。

「はい、どうぞ」

ポーション容器として創り出したふたつの手鏡を、肩に掛けているポシェットから取り出した振りをして、ふたりにそれぞれ渡した。

そして、自分の顔や首筋、そして衣服を少し捲って、火傷していた部分を確認し……。

「ない……」

「火傷の痕が……」

「「ない……」」

そう言ったきり、口を半開きにしたまま、固まっているふたり。

嬉しくて泣き出すかな、と思っていたけれど、そういう感情さえ湧き出さないくらい、驚いているみたいだな……。

あ、コラ!

ベッドから身体を起こして、寝着の肩をはだけるんじゃない!!

いくら子供だとは言え、男性が大勢いるところで、貴族のお嬢様がソレはマズいだろ!

そりゃ、本当に火傷が全部、完全に治ったか確かめたいのは分かるけど……。

ほら、少年がガン見してるだろ! 男の子には、目の毒……、って、あれはそういう目じゃないな……。

ああ、これなら自分の手も治るかも、という期待と、女神の 御業(みわざ) に対する畏怖の念か……。

じゃあ、説明やら感謝の言葉やらで二度手間にならないように、一度に済ませちゃうか。

「女神よ、前途ありし少年がその 途(みち) を断たれることなく、領民と国のために尽くせるよう、その慈悲によりて途を開き給え……。

かしこみかしこみ、申~す〜〜……」

ぴか~!

今度は、驚きの声は上がらなかった。

皆、しゃがみ、床に片膝をついて 頭(こうべ) を垂れている。……治癒された本人を除いて。

向きは、私じゃなくて、怪我人だった人達の方。

まぁ、今、感謝する相手は私じゃなくて女神様だから、私に向かって、というのはちょっと違うからね。これが当然のことだろう。

男の子が、右手に巻かれた布を外している。

中から出て来た手は、それぞれの指に副木を当てて固定され、更にそれを全体的に 包(くる) んであったみたいだけれど、それらを乱暴に剥がして……。

「……動く……。曲がる……。痛くない……。

ち、父上……。父上……、うっ、うああ……、うああああああ〜〜っっ!!」

跪(ひざまず) いている父親に、横から抱き付いている少年。

……まあ、台無しになったはずの自分の人生が、再びその手に戻ってきたんだ、そりゃ嬉しいだろう。

そして、これから決して女神を裏切ることなく、領民と国のために尽くす、立派な貴族、そして立派な領主になってくれるだろう。

……巫女エディスの危機には全力で助けてくれる、立派な権力者に、ね……。

レイコは平然とした普通の表情だけど、ファルセットは、凄いドヤ顔をしてるなぁ……。

そんなに嬉しいのかな、私の信仰心集めムーブが……。

ああ、まぁ、嬉しいのだろうなぁ……。