軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

421 バージョンアップ 5

「では、ごちそうさまでした!」

商会主さんとお嬢ちゃんと、色々話した。

大半はどうでもいいような話だったけれど、中には重要なこともあった。

ふたりが『このことは、決して誰にも喋りません!』とか言ってきた時には、『いえ、女神の慈悲を本当に必要としていて、口が堅くて信用できる人であれば、話しても構いませんよ』と言ったり……。

それを聞いたふたりは、『え?』というような顔をしていたけれど、話が全く広まらないと、今日の 仕込み(・・・) の意味がない。

超真面目そうなこのふたりは、このままだと本当に誰にも喋らないだろうけど、それじゃ困るんだよ……。

なので、不用意に情報を拡散したりすることのない、厳選した相手であれば話してもいい、と言ったわけだ。

……それはつまり、『お前達が選んだ者であれば、女神の慈悲を与えても良い。但し、おかしな相手を選ぶでないぞ!』ということだ。

自分が、女神の慈悲を受けるべき相手を選別する。

救われるべき者と救われない者とを、自分が決める。

それは、人間にとってはかなりの重圧だろう。

だから、ダルセンさんにはその任を与えなかったんだよね。

あの人は、商人としてはまともなんだけど、人として、そして女神を信仰するひとりの信徒としては、人が 好(よ) すぎる。

困っている者を見たら、すぐ助けようとしちゃいそうだからね、相手の悪意の有無を見極める前に……。

でも、ダルセンさんの話と『女神の眼』の連中による調査結果から、この商会主さんはそのあたりはシビアに判断できる人だと思ったのだ。

たとえ怪我人や病人が幼い子供であっても、状況が怪しい場合や関係者に信用できない者が含まれていた場合には、平気で知らぬ振りをできる。

冷たい人間のように思えるかもしれないけれど、情に流されて愚かな判断をした場合、女神を裏切ることになって、結果的には助かるべき多くの人々の救済のチャンスを潰すことになる。

そういう、最悪の事態を避けるために己の心を律することのできる人物だということだ。

そして、私が『厳選した相手には喋ってもいい』と言った意味を理解したらしく、一瞬浮かんだ疑問の表情をすぐに消した、商会主さん。

うん、今回はたまたまダルセンさんルートで商会主さんのことを知り、その周囲に怪我人や病人がいないか調べさせたから、姪御さんに辿り着いたんだ。

なぜ私がこの子の治療……救済を申し出たのか、商会主さんは多分察しているだろう。

私には、自分を必要としている者を探し出す能力が不足しているのだろう、と……。

そして、もうひとつ。

市井(しせい) に噂が流れている、『御使い様』の活動と、神薬『女神の涙』。

それらと私との関係を、どう考えているか……。

この遣り手の商会主が、御使い様関連の情報を掴んでいないはずがない。

そして、何十年も現れなかった御使い様の活動開始と 私(エディス) の登場がほぼ同時であり、しかもそれが同じ国に現れる……。

これで、関連性を疑わなきゃ、馬鹿だ。

だけど、それを私に直接聞くことはできない。

だって、明らかに私が『ふたりは別人』として振る舞っているからね。

誰も自分から接触することができず、奇跡の神薬『女神の涙』を賜る、御使い様。

……そして、そこまでの効果はないけれど、自分から接触することができるルートがあり、そこそこの効果がある治癒の加護持ちの、自由巫女。

そりゃ、下手に嗅ぎ回ってその両方を逃す……他国へ移動するとかの……危険を冒そうとする者は、いないか。

儲け損なうどころか、自分や家族が救済される可能性を潰し、……そしてそんな事態を招いた元凶たる自分が、貴族や王族、そして一般の人々から何をされるか、分かったもんじゃない。

なので、そこは何も触れずに、そっとしておくに決まっている。

自分が、万一の時に頼れるルートを知っている、という幸運を、女神に感謝しつつ……。

この商会主さんは、おそらく姪御さんには『このことは、絶対に誰にも喋ってはならない。もし話したい相手があれば、まず私に相談しなさい』とか言って口止めしてくれるだろうから、あとは商会主さん任せだ。

……よし、撤収!

* *

「お疲れ~。ずっと私ひとりで喋っていて、ごめんね」

「いや、私達は護衛役だから、カオル……エディスと先方との話に口出しするのは明らかにおかしいでしょ。だから、当たり前のことよ」

レイコの言葉に、ファルセットもこくこくと頷いている。

ま、そりゃそうなんだけど、やはり『ただ自分の用事に付き合わさせただけ』みたいで、申し訳ないという感じがするんだよね……。

お店に戻り、お茶を飲みながらレイコとファルセットにそんな話をしていると……。

「次は、私も行くよ!」

「「え……」」

恭ちゃんの爆弾発言に愕然とする、私とレイコ。

楽しそうだと思われたか? それとも、自分だけ仲間外れで置いてけぼり、というのが気に 障(さわ) ったのか?

……それは、マズい。

今回は、温厚で話の分かる相手だった。

だけど、いつもまともな相手だとは限らない。

勿論、事前調査をして、心正しき者にしか会いに行かない。

でも、相手も人間だ。目の前で奇跡の力を、お金になったり権力者に取り入る武器になったりする力を見せられたら、魔が差すこともあるかもしれない。

そして、もし。

もし相手側から、恭ちゃんが不愉快に思うような発言があれば。

……せかいがはめつする……。

「い、いや、レイコとファルセットは、私の護衛だから!

もし恭ちゃんが一緒だと、護衛対象が私と恭ちゃんのふたりになって、難度が増すから!」

私が必死にそう言って、恭ちゃんを思い止まらせようとしたけれど……。

「私、複数の武術で段位取ってるよ? 母艦製の隠し武器も持ってるし……。

だから私も、香の護衛ができるよ?」

「あ……」

そうなのだ。

レイコも恭ちゃんも、複数の武術で、段位を取っているのだ……。

そりゃ、準備期間が70年以上あったんだ。それくらいの準備はしているだろう。

そして、 武道(・・) ではなく、 武術(・・) の方なのだ。

礼節や精神修養を重んじる方じゃなくて、実用的な戦闘能力を重視する方。

見た目が中学生の頃と同じだから、ついあの頃と同じように考えちゃうけれど、あれから色々な技術や知識を身に付けているんだよなあ、レイコも恭ちゃんも……。

しかも、母艦製の隠し武器も身に着けているし……。

……いや! いやいやいやいやいや!!

実力には関係なく、恭ちゃんを『不愉快な話題が出る可能性があるところ』に連れていくわけにはいかないよっ!!

「い、いや、レイコとファルセットは、ハンターギルドで正式に雇った、私の護衛じゃないの。

だから、エディスとして行動する時には、連れていないと不自然だよね。

でも、恭ちゃんはサラエットとして商店主役なんだから、私の自由巫女としての活動についてくるのはおかしいじゃん!」

「あ……。それもそうか……」

よし、行ける!

「論理的整合性のない、不自然な行動は駄目よ。ここの文明レベルは低くても、それは人々の頭の 良(よ) し 悪(あ) しとは別よ。

恭子、あなた、文明レベルが低い時代の人だからといって、アルキメデスやレオナルド・ダ・ヴィンチより自分の方が頭が良いって断言できる? 不自然なことをすると、この世界の人達にもすぐに怪しまれるわよ」

「恭子様が一緒だと、明らかに疑問を抱かれるでしょうね、さすがに……」

レイコに続いて、ファルセットからも掩護射撃が!

恭ちゃんについて、その危険性を詳しく説明しておいた甲斐があったよ!!

「う~ん、やっぱり、みんなそう思うのかぁ……。

適材適所、か。仕方ない、『御使い様劇場』は、みんなに任せるよ……」

セエェ~フ! セエェ〜〜フウゥ~!!