作品タイトル不明
395 敵 地 3
「じゃあ、とりあえず、適当な商店に行ってみるよ」
「はい!」
問題の商店に関しては、『女神の眼』の連中に任せた。
なので、私達はまだ、そこには関わらない。
プロが色々とやっているところに素人が横から手出しすると、邪魔になっちゃうからね。
そういうわけで、ここの商人達の認識というか常識というか、……商売人としての倫理感の基準を知りたいと思ったのだ。
他の商会の商隊を襲撃するということが、ここの商人達にとっては当然の行為であり、 バレなければいい(・・・・・・・・) 、という考えなのか、それとも、それは決してやってはならない凶悪犯罪だと認識しているのか……。
それによって、周りに被害が出ないように配慮するか、そんなのどうでもいい、と考えて反撃するかが、変わる。
いや、周りにバレないようにこっそりと対処したら、その後、そういう事象に気付かなかった他の商人やら貴族やらが次々と 集(たか) ってきた、ってことになると、面倒じゃん。
だから、アレだ。恭ちゃんがよく使うフレーズ……。
『臭い匂いは元から絶たなきゃダメ!』
うん、まぁ、そういうことだ……。
* *
「とりあえず、この店に入ってみようか。
大店っぽいし、色々なものを扱ってるみたいだし、如何にも『王都の一流店でござい!』って店構えだからね」
今日は、私はお金持ちのお嬢様風、ファルセットはその護衛騎士風……というか、いつもの騎士装備のままだ。
いや、ファルセットもお嬢様風に、と考えなかったわけじゃない。
でも、ファルセットが私の護衛として武器を手放すわけにはいかない、と強く主張したんだよね。
まあ、その気持ちは分かる。
それに、カギを掛けた宿屋の自室とかであればともかく、いつ襲われるか分からない場所で私の護衛を務める時には、ファルセットの目が殺気立っているんだ。
……悪役令嬢の目付きとかが、お話にならないくらい……。
でも、私の眼付きよりはマシ……、って、うるさいわっ!
とにかく、お嬢様の恰好をしていて、そんな殺気立った目で剣を佩いていたら、間違いなく警備兵を呼ばれてしまう。盗賊の下見か、隙を衝いて商会主に斬り掛かろうと考えている暗殺者か、と思われて……。
フランセットは、そのあたり、もっと余裕があって、 飄々(ひょうひょう) としていたのだけどなぁ。
何かあれば、一瞬でモードが切り替わっていたけれど。
ファルセットは、そのあたりまだ、若さ故の経験不足か……。実力はあるのだろうけどね。
とにかく、そういうわけで、ファルセットは普通に、私の護衛役。
若い護衛であれば、自分の命に代えてもお嬢様を護らねば、と入れ込んで、過剰に殺気を飛ばしていても、苦笑いされるだけで済む。
……それに、そんな『安全ピンを抜いた手榴弾』みたいな危険な護衛に近付こうとする者はいないだろうから、チンピラ避けになっていい……かな?
ま、興奮した猛犬に近寄ろうとする者はいないだろう。
それに、いざとなれば、ファルセットのことを『護衛のために雇った、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) だ』と言えば、全てが解決する。
ファルセットの一族、『 女神の守護騎士(エインヘリヤル) 』も、みんなが裕福だというわけじゃないらしいのだ。
そりゃ、頑健で長命とあらば、どんどん増殖するよね。
で、貴族の爵位を受け継げるのは、子供の中でひとりだけ。
他は、平民同然で 市井(しせい) に下る。
そりゃ、中には貧乏になる者もいるよね。
……でも、大丈夫!
護衛や傭兵として、『 女神の守護騎士(エインヘリヤル) 』はかなりの高給で雇われるとか。
他国からの引き抜きには頑として応じない……というか、応じたら一族全てを敵に回す……けれど、生活費稼ぎに自国の者に雇われるのであれば、犯罪に荷担するのではなく、正義側である限り、問題はないらしい。
なので、私の護衛が『 女神の守護騎士(エインヘリヤル) 』であると明かした時点で、相手側は、私が『 女神の守護騎士(エインヘリヤル) 』を雇える程の金持ちか権力者であり、この護衛が人間離れした戦闘力を持っており、……そして私達に犯罪行為を行った場合、 何を敵に回すか(・・・・・・・) ということを知るわけだ。
うんうん、皆さん、丁重に扱ってくれそうだな。
いや、そう簡単にファルセットの正体を明かしたりはしないよ。仕方のない時だけだ。
普通は、相手をぶっ飛ばして終わりだ。
店に乗り付けたのは、お金持ちのお嬢様らしさが引き立つ、華奢で可愛い感じの小型馬車、『ペネロープ号』。御者は、ファルセット。
馬と馬車は丁稚に預けて、ふたりで店内へ。
大店だから、馬車の管理はしっかりとやってくれるだろうし、もし何かあっても、ハングとバッドに手酷い反撃を喰らうだろう。
ふはは、まさか馬自身が馬車の護衛役だとは思うまい!
私は、お嬢様服に 高価(たか) そうなアクセサリー、左肩にお洒落なバッグ。
ファルセットは、手ぶら。
ファルセットは、私が少し重そうな荷物を持っていても、決してそれを持とうとはしない。
手が塞がっていると、チンピラに絡まれる程度なら問題ないけれど、飛んできた矢を剣で叩き落とすにはちょっと邪魔、ってことらしい。
……『ちょっと』かい!
まあ、ファルセットは荷物持ちじゃなく、私の護衛だ。
いくら私のことを崇拝していても、そのあたりをはき違えるようなことはないのだろう。
フランセットも、そのあたりはきちんと区別していたし……。
そんな私達を、警備員も止めたり 誰何(すいか) したりはしない。
そして店の商品を見て廻っていても、別に店員が纏わり付いてきたり、うるさく商品を勧めてきたりもしない。
そういうのは逆効果なので、店員達は皆、私達の方を見たりはせず、完全にスルー……の振りをしているけれど、視界の端にはしっかりと捉えていて、もし私が商品のどれかに興味を持ったり、店員に何か尋ねたそうな素振りをした途端、シュババババ、とシュバってくるのだ。
* *
店内の商品を見て廻り、店員に色々と話を聞いて、この辺りでの品揃えや価格の相場を確認。
小娘相手でも馬鹿にすることなく、丁寧に応対してくれた。
そして目的を終え、撤収。
その後、同じようなことを5~6店で繰り返した。
但し、服装を田舎の村娘風にして徒歩で行ったり、野良巫女の恰好で行ったりと、色々なパターンで試してみた。
やはり、サンプル調査は様々な条件で行わないとね。
* *
「何じゃと! 巫女様が護衛のひとりと共に姿を消され、他国から来ている要警戒指定の連中が動いたり、ざわついたりしているだと!!
いったい、どうなっておる!
大陸の危機だ、全力で事実確認に努めよ!
……軍は動かすな。全ての間諜と、事情を知っている近衛を全員、投入せよ。
王宮の護りが多少薄くなっても構わん。今は、王族の安全よりも、大陸全土の安全の方がずっと大事だ!」
「は、ははっ!!」
自らの安全より、大義を優先する。
誇るべき、自らが仕える王からの命令に、頭を下げる宰相であった……。