作品タイトル不明
368 来た来た…… 2
「……ふむ、噂通り、店主も店員も小娘か……」
私とレイコはお手伝いで、店員じゃないけどね。
そしてファルセットは、お手伝いですらない。
あ、さすがに店員を雇わないと無理があるか。立ち入るのは1階だけで、2階と3階には絶対入らせない、ってことで、2~3人、雇おうかな。
仕入れや帳簿関係には一切関わらせず、お客さんの相手とお会計のみ。
置いてある商品に関する知識さえあれば、商人としての専門知識は必要ない。あとは、最低限の計算能力と常識、そして誠実さがあればいい……。
このお店の営業のために、私達全員がずっと日中の時間を拘束されちゃあ 堪(たま) んないからねぇ。
……私達の不在時に備えて、警備員が要るか。高額商品を扱っているのだから……。
ハンターギルドに依頼するか、魔物相手じゃなく対人戦闘に限定されるから、傭兵ギルドの方に依頼すべきか……。
でも、相手が金持ちだろうが警備兵だろうが貴族だろうが、お金や商品、仕入れルートとかを要求してきた場合は断固拒否、向こうが実力行使に出たなら正当防衛で武力行使しろ、って指示、守ってもらえるのだろうか。
人間、誰だって我が身が可愛いし、お金や権力の前に屈するとか、尻尾を振るとか、ありそうだよなぁ……。知らないハンターや傭兵を信じられるか?
あ、イカンイカン、今は客への対応に集中しなきゃ……。
「経営者は誰だ?」
うん、まあ、そうだよねえ。
まさか、小娘が経営しているとは思わないよねえ。
話題性を狙って、店員も店長も護衛も少女で固めているだけで、経営者はどこかの商人。
それも事前に情報が掴めなかったということは、大店ではなく比較的小さな商会、日本で言うところの、ベンチャー企業に相当するものだとでも考えたのかな?
確かに、珍しい商品を仕入れるルートを開拓した新興商家であれば、その定義に該当するかもしれないな。
「はい、私です!」
恭ちゃんが、にこやかにそう答えたけれど……。
「お飾りの雇われ店長のことではない! この店の持ち主のことだ! 経営者は誰だ!」
「はい、私です!」
態度のデカいおっさんが質問を繰り返し、そして恭ちゃんが同じ返答を繰り返した。
……うん、本当はこの店は私達3人の共同出資なんだけど、そんな余計なことを教える必要はないから、対外的には『このお店は恭ちゃん……商人サラエットのもの』ということになっている。
「う……、あ、ああ、そうか……」
おや、おっさんが困惑しているぞ。どうしたのかな?
……ああ! イメージ作りのためのお飾りである、ただの雇われの『子供店長』……じゃない、『美少女店長』だと思っていたら、本当にこの店の持ち主。
ということは、普通に考えると、どんな我が儘も許される、親に溺愛されている貴族の娘か、大金持ちの娘である。
娘が喜び楽しんでくれるなら、店のひとつくらい、作ろうが潰そうがどうでもいい。
そういう身分、そういう立場の娘であろう、と……。
因縁を付けて、仕入れルートやら何やらを奪ってやろうと乗り込んだら、どうやらマズい相手かもしれないということが判明したわけだ。
……そりゃ、困惑するよねぇ……。
「ど、どこかの大店か貴族家の者なのか?」
そこを確認しようとしたおっさんに、恭ちゃん……サラエットが、にこやかに答えた。
「いえ、うちはここが本店ですし、私は生まれたときからずっと平民で、両親はいません。
別に親が大金を残してくれたわけでもありませんし……。
そして貴族の方の知り合いは、お店の商売相手、売り手と買い手としての関係以外の方はおられませんよ」
「む……、そ、そうか……」
あ、強いバックはいないと知って、持ち直したみたいだな。
ここでこっちが嘘を吐いても、後で調べられればすぐにバレるだろうし、そもそもそんな嘘を吐く理由も必要性もない。
この店は、正直商売、いつもニコニコ現金払い、だ。
嘘を吐いて誤魔化し秘密にするのは、私達の正体と、商品の入手の仕方だけだ。
さて、このおっさん、どう考えているかな……。
ありもしない後ろ盾を『ある』と偽るのには、メリットがある。
しかし、その逆には何のメリットもないし、そんな嘘はすぐにバレるから、店の信用を落とすだけだ。商売人がそんな馬鹿な真似をするはずがない。
ならば、僅かな蓄えと借金で、何とかぎりぎりの資金で店を持った小娘、とでも考えているか……。
そして、もしそう考えたなら……。
「私は、ここ、王都でマフト商会という商家を営んでおる。この 度(たび) 、新たな商店ができたと聞いて、先輩として指導してやろうかと思ってな……」
うん、後輩に指導してやろうという優しい先輩なら、数人のチンピラを連れてきたりはしないよねぇ……。
いや、まあ、『チンピラ』とはいっても、本当にそこらの裏路地にいるチンピラというわけじゃなくて、子飼いの護衛兼威嚇要員なのだろうけどね。
ちゃんとした傭兵やハンターというわけじゃなくて、安く雇った、ただの馬鹿な無法者に過ぎない……、って、それ、やっぱりただのチンピラじゃん!
大店や、きちんとした商会の人達は絶対に雇わないやつ!!
まさか、自分の店の警備員としてこんな連中を店先に置いておくような馬鹿はいないだろうから、そっちにはちゃんと見た目も考えた人員を配置して、不法な脅しに使うのはこの連中、ってわけか。
よし! 貴族じゃない、王族じゃない、官憲じゃない、神殿関係者じゃない、……そして、あまり大きな商家、いわゆる『大店』ではなく、中規模商家みたいだな。
揉めても、『新規開店の商店にチンピラを連れて押し掛け、若い女性を脅して無茶な要求を強要した連中』として警備隊に泣き付けば、罪のない美少女対悪党達、ということで、何も問題はない。
それどころか、以後、同類達を牽制できて、メリットがある。
……で、恭ちゃんは……。
「あ、それはどうも、ありがとうございます!
……でも、私は 他の国(・・・) でお店を経営していましたし、この国でも、本店を 王都(ここ) に移す前は他の町でお店をやっていましたし……。
それに、 王都(ここ) では、困ったことや相談事は商業ギルドに相談するように、と担当してくださった方からお聞きしていますから。
商売は、お店によって、そして人によって方針ややり方が違うから、安易に誰かに教わったり真似をしたりしてはいけない、と……。
そして、教わる時には相手は自分で選べ、向こうから寄ってくる者の言うことは、絶対に信用するな、相手にするな、と……」
「ぐっ……」
言葉に詰まったおっさんに対して、くすくす、と笑い声を漏らす他のお客さん達。
いや、あれだけインパクトのあるイベントをやったんだ。いくら開店から数日経っている上にお客さんが少ない時間帯だとはいえ、他のお客さんがゼロ、ってことはないよ。
そしてうちのお客さんには、商人が多い。
だから、恭ちゃんが何の悪気もなく正直に言った言葉がツボったのだろうな、多分……。
「この小娘が! 旦那様がお優しく下手に出ていれば、調子に乗りやがって……」
うむ、雇い主が舌戦で形勢不利になった時には、即座に恫喝と暴力に切り替える手筈になっているのか……。
そうすれば、雇い主がそれ以上恥を晒さずに済むから、とかかな?
そして、チンピラが足を踏み出して恭ちゃんに近寄り、襟首を掴もうとして右手を突き出し……。
ごとん!
「「「「「「……え?」」」」」」
手首から先がない右手を突き出したまま、ぽかんとした顔の、チンピラ。
そして、あまりにも自然に、違和感なく手首が床に落ち、ただ驚いてぽかんとしているだけであり痛がる様子もないチンピラの姿に、呆然とした様子の商会主と、他のチンピラ達。
……うん、まぁ、いくら 私(カオル) じゃないとはいっても、私のお友達である女神の一柱に対する、とんでもない不敬行為だ。
しかも、私の目の前で。
女神の守護騎士(エインヘリヤル) が、見過ごすわけがないよねぇ……。