軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

356 伯爵家 5

「カオル……」

「カオルちゃん……」

「カオル様……」

「いや、みんなだって気付かなかったじゃん! 私ひとりのせい?」

……そうなのだ。

メチャクチャ焦っていたから、エディスになってから仮面を着けて、というのを、完全に忘れてしまっていたのだ……。

いや、だって、全てを知っていて変装する必要のないメンバーである、私達KKRの3人と、ファルセット。それと、『女神の眼』の関係者。

このメンバー以外の者がおらず、家の中にいる時には、そりゃ変装は解除するだろう。

親友達と暮らすのに、ずっと変装した顔で、ってのは、さすがにないよね。

急な来客があっても、ブレスレットによる光学的な偽装は一瞬だし、念の為のポーションによる髪と眼、肌色を実際に変えるのも、アイテムボックスから取りだした薬瓶のキャップを開けて飲むだけだ。ほんの2〜3秒もあればいい。

……勿論、レイコと恭ちゃんにも、変身……変色薬と解除薬はたくさん渡してある。

そして、エディスの護衛であるはずのふたりが、素顔のままでカオルのままの私に同行したわけだ。

ファルセットは元々常に素顔だけど、レイコは、『ハンター、キャン』じゃなく、『レイコ』のままだよ!

……いや、マズいよ! これはマズすぎるよ!!

エディスの護衛依頼を受けているはずのファルセットが、他の者達と一緒に行動していた。

そして『御使い様』は、エディスとは別人であり、今まで噂になっていた御使い様とは髪の色が違う。

うむむむむ……。

まあ、ファルセットはエディスともキャンとも違うふたりと行動していたわけだから、エディスとキャンとしての私達は今回の件とは無関係、と判断されるだろう。

なら、大きな問題はないのか?

ファルセットが『エインヘリヤル』だと知っているであろうギルド上層部から見れば、ファルセットが普段は王都から離れずに済む街中での護衛依頼で生活費を稼ぎ、いざという時には御使い様の許へと馳せ参じる、というふうに思えなくもないよね。

まさか、髪や眼の色だけでなく、容貌そのものを変えられるなんてことは思いもしないだろうからね、まともな魔法がない、この世界じゃあ……。

よし、問題、ないない!

まあ、夜道では人に出会わなかったし、この世界には写真もない。

伯爵家の人達はエディスの顔なんか知らないだろうし、そもそもエディスと御使い様が同一人物だという噂を流すのは、もっと先の予定だ。

それに、室内も現代日本のように明るいわけじゃない。

燭台のロウソクや、油の節約のために火の大きさを絞られたオイルランプによる側方からの照明。

光源との位置関係からも、顔の陰影があやふやになっていた可能性はある。

……そう、まだ、慌てるような時間じゃない。

ビー・クール、ビー・クール……。

とにかく、今回のことは事故、単発のイレギュラーだ。

情報が拡散することなく、伯爵家の中だけに留まることを期待しよう。

元々、『御使い様劇場』のことはあまり口外しないように、ということになっているからね。

本当に広がらなければ宣伝にならないから、『絶対に信用できる者で、相手から聞かれた場合はOK』という特例措置を設けているわけだけど、今回の関係者は、御使い様を騙した上に尾行を付けて襲わせた(ということになっている)悪党と、『女神の涙』は売買できるようなものではないと知っていながら高額での買い取り依頼を出した貴族家だ。どちらも、自ら進んでそのことを公表したい者達じゃないだろう。

……うん、何とかなりそうな気がする……。

「とにかく、家に戻って、今回の反省と対処を考えよう。リーダーさんも来て」

普通ならば『女神の眼』のリーダーとはここで別れるところだけど、今回のことで他に何か見落としや危険事項がないかを話し合うには、諜報部員の意見も聞いた方がいいだろう。

……あ〜、女神トリオの身内の話し合いに招かれたのが余程嬉しいのか、ぶんぶん振られる尻尾が幻視できるよ……。

* *

「……と、私としては今回のミスによる危険度はあまり高くないと思うんだけど……。

みんなは、どう思う?」

「「「「…………」」」」

私が自分の考え……危険度の見積もり……を話したところ、みんな、黙ったままだ。

考え込んでいるのか、呆れて言葉もないのか……。

今のメンバーは、私達KKRの3人、ファルセット、『女神の眼』のリーダーの、5人。

隠し事をする必要がなく、何でも本音で話せるメンバーだ。

なので、遠慮のない意見を期待しているのだけど……。

「……それは、ちょっと楽観し過ぎでは……」

「状況を自分に都合良く判断するのは、一番やっちゃいけないコト……」

「世の中を舐め過ぎですね……」

「もう、グダグダだよ……」

テメーら、遠慮がなさ過ぎだろうが!!

「まあ、やっちゃったコトは、もう仕方ないわね。

あとは、どんな情報がどの程度流れるかを監視して、都合が悪いモノは潰すか、それに上書きするような情報を流してコントロールするか……」

レイコのその発言に、にっこりと、心底嬉しそうな顔の、『女神の眼』リーダー。

……うん、まぁ、自分達の得意分野だもんねぇ、それって……。

自分達が懸命に磨き続けてきた専門技術が、信仰する女神様のお役に立ち、お助けできる。

信徒として、これ以上幸せなことって、そうそうないよねぇ。

もう、幸福の絶頂なんじゃなかろうか。激しく振られる尻尾が幻視できそうだ。

これが犬なら、 嬉(うれ) ションしてるぞ、多分……。

「頼める? 目、耳、……そして口に……」

「……頼めるか、ではなく、やれ、とお命じください!」

あ〜、やっぱり、そう来るか……。

「よし、カオルが命じる。……流れる情報を把握し、それらを我らの都合が良いように改変せよ!」

「ははっ! 神命、慎んでお受け致します! 我らの命に懸けて!!」

「……いや、命は懸けないで。うまく行かなきゃ、河岸を変えれば済むことだからね。

マズいことになれば、今度はまた、この大陸の北端とか南端とか、もしくは他の大陸に行けば済むことだしね」

他の大陸にも人が住んでいて、この大陸とさほど変わらない文明レベルだということは、私達と合流する前にあちこち廻った恭ちゃんから聞いている。

……いや、それ以前に、昔、セレスから聞いていたな。

言語の壁という問題がない私達は、どこへでも行ける。

あ、子供達は……、って、マリアルに飲ませたやつの『人間語バージョン』があるか。

それに、恭ちゃんの母艦には睡眠学習装置くらいあるだろう。

「…………」

でも、リーダー、絶対にそんなことは許容できない、って顔をしてるなぁ……。

まぁ、北端や南端ならばともかく、他の大陸となれば、『女神の眼』の連中は私達と接触することができなくなるからなぁ。

そりゃ、全力で阻止しようとするか……。

帝国の奴らは、最新鋭の大型商船で追って来そうな気がするなぁ……。

「……目、耳、口、って、何?」

あ〜、恭ちゃんは知らなかったか……。

いや、『女神の眼』の連中が諜報的なことをやってるのは勿論知ってるけど、そういう隠語的な言い回しには詳しくないんだよねぇ、恭ちゃん……。

あとで説明しとくか。

とにかく、これでしばらくは様子見、かな。

今回の事が広まらないように祈っておこう。

なむなむ……。