軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

283 クルト商会 4

「……すまん。今回の件は、勤務時間外の私的な行動によるものであるため、公務遂行における負傷とは認められない。なので、公務傷害としての救済措置や給付金、見舞金、負傷退職者に対する再就職優遇支援とかの適用も対象外だ……」

上官の、本当に申し訳なさそうな顔での謝罪に、慌てて無事な方の手を横に振る兵士。

「いえ、それは当然のことです。勤務規約くらいちゃんと読んでいますから。非番なのを承知で、自分の意志でやったことですから……。

でも、商人さんを無事守れて、よかった……。

あ、ごめん、ジーナ。これじゃ、結婚はできなくなっちゃうね。ジーナのお父さんが結婚を許してくれたのは、僕が警備隊の兵士になれたから、だから、これじゃまた反対されちゃうよね。

……まぁ、その方がジーナのためにはいいか……」

そんなことを言い出した若い兵士を、女性が平手打ちした。

オイオイ、平手とはいえ、怪我人を叩くか……。

見た目は清楚な感じなのに……。

みんな、ドン引きだよ。

「この、馬鹿!」

「ごめん、馬鹿なことしちゃって……」

「違うわよ、この間抜け野郎がっ!!」

あ~、確かに、馬鹿で間抜け野郎だ。

女性の気持ちが全然分かってないよ、コイツ……。

……本当に、馬鹿だ。

そんな馬鹿には、それなりの報いを与えてやらなきゃね……。

「……ジーナさん。この馬鹿のために、自分の将来を捧げるつもり、ある?」

「勿論!」

うん、いい返事だ。

見た目から、おとなしい娘さんかと思っていたら、結構肝の据わった娘さんだったよ……。

「ジ、ジーナ……」

感動で眼をうるうるさせた怪我人が何か言ってるけど、無視だ、無視!

「では、神殿勢力とは全く関係のない、野良巫女による祈祷を行います」

うん、神殿への信仰に繋がったりしないように、女神の奇跡は神殿とは無関係であることを強調しておかなきゃならない。

「……野良ネコ?」

「『野良巫女』です、ノ、ラ、ミ、コ!!」

ネコと和解せよ……、って、うるさいわっ! 棒線が2~3本足りとらんわ!!

……とにかく、空気を読まないボケにそう返し、『祈祷』に関する説明をば……。

「私は、村々で慈善活動を行っている、ただの普通の巫女に過ぎません。……ちょっと女神様にコネがあるだけの……」

「「「「「「女神様にコネがあったら、『ただの普通の巫女』であるもんかああっ!!」」」」」」

あ、何か、懐かしい響きのフレーズだなぁ……。昔を思い出して、じんわり来そう……。

「それでまぁ、お祈りをすると、ごくたまに女神様が願いを聞き届けてくださる場合があるのです。

……但しそれは、その願いが叶えるに値するものであり、本人だけではなく他の者も心からそれを願い、なおかつその者が心正しき者であり、更に女神様の気が向いた場合のみという、とても確率の低いものなのですが……。

また、私には何の力もなく、ただ単に女神様に『こういう件があるんですけど、何とかなりませんか?』というメッセージを送るだけであり、私自身が治癒の力を持っているとかいうわけではありません。私自身は、ごく普通の人間ですから……」

「「「「「「だから、女神様にメッセージを送れるヤツが、ごく普通の人間であるものかああああぁっっ!!」」」」」」

え?

御使い様とか大聖女とかじゃなくて、ごく普通だよね、それって……。

いや、まぁ、神殿が抱えている『自称、聖女』とかも、別に本当に女神から託宣を 賜(たまわ) るわけじゃないからね。……昔、セレスが『あの連中、勝手に託宣を 捏造(ねつぞう) してる』って怒ってた。

だから、私が言ってることも、あくまでも『自称』であり、気休めのプラシーボ効果くらいのものだと受け取られて、軽く流されると思っていたのだけど……。

何か、随分食い付くなぁ……。

まぁ、苦しい時の神頼み、ってやつかな。もう、他に頼れる手段がないから……。

とにかく、外野はどうでもいい。今は、ジーナさんとの話を進めよう。

「では、ジーナさん、この方がいかに誠実な方であるかということ、そして是非女神様にお助けいただきたいということを、強く願ってください。

繰り返しますが、私には何の力もありません。あくまでも奇跡を願うのはジーナさん自身であり、それを聞き届け実現させるのは女神様です。いいですね?」

「……は、はい!」

おそらく、本当に信じているわけではないだろう。

でも、溺れる者は藁をも掴む。駄目で元々。どうせ 無料(ただ) なのだから、祈っておいても損はない。

そもそも、この世界では女神は実在するわけだから、女神の名を騙った詐欺とかは存在しない。

おまけに、私は聖職者っぽい恰好をしているからね。効果の有無はともかくとして、私に悪意がないということだけは、ここにいる誰もが理解してくれているだろう。

そして、両手を合わせて眼を 瞑(つむ) り、祈り始めるジーナさん。

よし、私も……。

「女神様、どうかこの 敬虔(けいけん) なるしもべの言葉をお聞きください……」

祈りの言葉に、セレスティーヌ、という名は付けない。もしたまたまセレスが覗いていたら、自分が呼ばれたと思って出てくる可能性がゼロじゃないからだ。

もしそんなことになれば、大騒ぎになっちゃう。だから、わざと名前を呼ばないことで、『こういう芝居をやっているだけで、別に本当に呼んでるわけじゃないからね!』という意思表示をしているわけだ。

私は、本当に呼ぶ時や面と向かって話す時には『セレス』って呼ぶからね、お友達モードで。

その方が、喜んでくれるからね、セレス……。

そして、兵士さんの胃の中に、ポーションを作製。

……あんまり強力じゃないやつ。目立たないようにね。

でも、ちゃんと治るということをはっきりさせないと、この人が警備隊を首になってしまう。

だから、『腱は繋がって治るけれど、皮膚は裂けたままで、血は止まる』というような、微妙な効果にした。皮膚の裂傷くらいであれば後遺症が残ることはないだろうし、警備隊の兵士にとっては日常茶飯事の、よくある怪我に過ぎないだろう。

傷痕が残っても、それはこういう人達にとっては勲章であり、何の問題もないだろうと思う。

そして、外見が普通の傷痕のままならば、ここにいる者以外には奇跡の存在を確認することはできない。

元々、腱は切れていなかった。

……つまり、最初の診察結果が間違っていた、……誤診だったと思われるだけだ。

誰も、奇跡が起こったことなんか信じないだろう。

もし万一信じたとしても、それは敬虔なカップルの愛によるものであり、噂が伝わるうちに野良巫女の存在は省略され、消え去る。

奇跡の存在を広めたいわけではない私にとっては、その方が都合がいい。

「ん……」

何だか左腕がムズムズするらしく、おかしな顔をする兵士さん。

うん、多分、腱がもぞもぞと動いて繋がろうとしているのだろう。

……そりゃ、気持ち悪いわっ!

兵士さんの様子を見て、医師が左腕を触診し、驚愕に顔を引き攣らせ、そして再び何度も兵士さんの腕をさすったり指でなぞったりと色々調べている。

あ、私からもちゃんとフォローしなきゃ!

「おお、今回は女神様が願いを受け付けてくださったようですね。運がいい……。

勿論これは、ジーナさんと兵士さんの祈りの力と日頃の行いのおかげです。私はただの仲介者、取次ぎ役に過ぎないので、何の能力もありません。ただの、普通の『流しの野良巫女』に過ぎませんので……」

よし、これだけ念を押しておけば、大丈夫だろう。

今回の女神の御助力は、清く正しい兵士と、その兵士の恋人の『愛の力』によるものだ。

その方が、話として面白いからね。

噂というものは、事実ではなく、面白くてセンセーショナルなネタが広まるものなのだ。

「「「「「「……いや。いやいやいやいやいや!!」」」」」」

……え?

みんなの視線が、奇跡のカップルではなく私に集中している……。

何か、マズいことでも?

……どうして、医師が私の服の裾を掴んでいる?

どうして兵士の上官さんが、スッとドアの前に移動して出入り口を塞いでいる?

どうして……。